遺跡に行こう4
追記 4/6 修正
「見えたわね」
出発から4日目、時刻にして昼前、ナトゥーアはテンション上がり目であたり一面がただの草原を指すのだが、ハチヤにはどこになにが見えているのか分からず、ただひたすらに困惑する。
「あと一息だし、がんばろー」
「お~?」
仲間の反応を気にせず発したナトゥーアの号令に、疑問符だらけで男3人が応えると、迷わず進む彼女の後を追う。そんな男共を見ながらユウはため息をついて、彼らの背中に無言で付いていく。
「お、お、お、見えた。これかー。ツタまみれで全然わかんなかったぜ。遺跡とか言うからもっとでかい建物だと思ってたしな」
「先入観というのは怖いね。ハチヤと同じだ。大きな建物を想像していたよ」
ハチヤは地下に潜る階段と、その周囲を覆う石壁にびっしりと生えた植物を見ながら感嘆する。その様子を横目にカリローが呟き、カピィールもそれに同意する。
「…ナト、ここを知っている人は他にいる?」
「いいえ、あたしが見つけた遺跡で、誰かから買った情報じゃないけど?」
「では、闖入者がいる。足跡を見る限り裸足ではない」
ユウは片ひざを付いて階段手前の茂みを指差しながらナトゥーアに確認。彼女もそれを見て検分、ユウと同じ結論に達したのかユウの顔をみて頷いた。
「なんだ、先客がいるのか?」
ハチヤがユウの頭に手を置いて二人が見つめている茂みを覗き見る。彼の目には足跡などどこにも映らない。特殊な訓練を受けると分かるようになるのかと首をひねる。
「いつごろ入っていったか分かりはしないのか?」
「茂みに足跡が残るのは相手の重量がよほどか、それほど時間が経っていないかよ」
「分かった、相手がどう出るか分からないが、念頭においておこう。ひとまずここで装備を改めてくれ」
カリローの質問にナトゥーアが二択で答えると、彼は即座に判断、既に遺跡に誰かいるものとして考え各自に戦闘用の装備に着替えるよう指示をした。
■
30分ほど時間をかけてパーティはフル装備になった。
以前と異なるのはユウがナックルガードの下に皮手袋をつけている位で、その理由も恐らくは鉄と火薬の時代の戦利品が金属を含むことを想定して、あらかじめ金属アレルギーの対策を練ったのだろう、相変わらずおへそはむき出しのままで露出度は高い。
ナトゥーアはレザーアーマーを装着、豊かな胸を押しつぶすように上半身を窮屈に押さえる。下半身はデニム製のズボンと編み上げ靴を履き腰にはガンベルトが二つ巻かれている。そしてその収納された拳銃の先には銃剣がセットされ近接攻撃も考慮に入れた装備となっている。
「地下は狭いが斧槍は不便ではないのか?」
「振り回す分には問題があるが、距離を置いて突く分には問題ない。前線に立ち辛い分、ハチヤとナトゥーアに頑張ってもらうことになるな」
地下へ降りる階段と斧槍の丈を気にして見比べていたカピィールにカリローが声をかけると、うんざりだと表情に浮かべた。
「ユウは不意打ちに備えて後方待機。ナトゥーアは先頭で索敵を頼んだ。ハチヤは…パーティの盾といったところか。攻撃には期待しない、相手の進路の邪魔をするのが主な役目だな。隊列はナトゥーアを戦闘にハチヤ、カピィール、僕、ユウの順番としよう。後詰めは任せたよ」
「…いいように扱われてる気がする」
「君の実績を買ってるんだよ。喜ぶがいいさ」
カリローの提案どおりに順に降りていく仲間の後姿を見ながらユウが不満を口にすると、カリローが頭をぽんぽんと撫でて先に階段を降りていく。
「ヘルハウンドだっけ。炎対策どうするの?」
「慌てるな、既に、水の精霊の精霊魔法で火耐性を付与してある。ただ、20分ほどしか効果がないからさっさと障害物を片付けよう」
先に進むナトゥーアが振り返り疑念を口にすると、恩着せがましい口調でカリローが答えので、そっけなく目線だけ交錯させ、再び階段を降り始めた。
遺跡の中は埃っぽく、どこか乾いた感じの空気が漂っていた。
ハチヤの持つ松明の明かりを元に周囲を照らすが、今のところ魔物の気配はない。というか、ヘルハウンドの死骸が見つかる有様だった。
遺体は必要意以上に荒らされておらず、ユウとナトゥーアで牙などの精霊魔法の触媒になりそうなものを剥ぎ取り、一旦カリローに預ける。
「先に入った輩はそれなりの実力者だな。少なくともナトゥーアよりは」
「あ、あたしは初見だったから対処出来なかっただけだし」
カリローの嫌味にナトゥーアが慌てて言い訳をし始めると、ハチヤとユウがそれぞれへ仲裁という名の暴力を振るい黙らせる。そして周辺に脅威がないと判断した一行は各々で松明を持つと、個別に周囲の探索をし始めた。
「アル、こっちの部屋に何かあった。厳重に保管されてた分、劣化はない」
奥の方からユウが現れ、円筒状の小さな金属をカリローに預ける。
「電池だな。雷の精霊の触媒になる。大抵のものは放電されて使い物にならないがこれはまだまだ使えそうだな。金額にして200Gくらいか」
「…うーむ、先に入った奴は物への執着は無い様だな。これだけのお宝を無視して先に進んでいるようだし」
カピィールが二人のやり取りを見ながら首をひねる。そしてヘルハウンドの剥ぎ取りも行わずに先に進む理由が、この遺跡にあるのかと妄想し始める。
「ここは洋服店か? どれも使い物になりそうにはないな」
「貴金属はこっちにあるわ、宝石とか金銀のアクセサリーよ。売れば300Gは固いっぽい」
糸くずやボロキレを見下ろしながらカリローが呟くのを他所に、反対側の部屋を調べていたナトゥーアの喚起の声が遺跡に響いた。
「ユウ、なにか書いているのか?」
「…地図」
松明を小脇に抱えて手元を動かしていたユウを見とめてハチヤがたずねると、少し思案してからユウが答えを返す。ハチヤがその返答を聞いてユウの手元を覗くと、確かにこの遺跡の概要が分かりやすく几帳面な文字と図で描かれていた。
「そんなのに価値が出るかね?」
「今までの旅で書いてきた地図は売れたよ?」
「そんな特技があるとはな。筆写士として文献の写しなどはよくやっているが、生憎絵心は無くてね。少しうらやましいな、うんよく出来ている」
カリローは洋服店を後にして二人の会話に加わる。ユウはこれまでの道のりを描いた地図もポーチから取り出して二人に見せると、ハチヤはその価値に首をひねり、カリローはその精度に驚いた。
探索をある程度終えると、一旦集まって遺跡の奥を目指すと土砂崩れで埋まった土壁が一行を迎えた。
「ふむ、行き止まりだな」
「えー、もう何も残ってないの?」
あっけない幕切れに、思わずナトゥーアが不満の声をあげる。
「先に入ったって言う奴は? 誰か見たか?」
「見てないな。隠し通路のようなものがあったのかも知れんが…」
ハチヤの疑問に皆が顔を見合わせ首を横に振った。
「案外、この先行けたりするんじゃね? 遺跡自体はここで行き止まりって構造でもないよな、ユウ?」
「…建物の構造ならカピィールの方が詳しい?」
ユウは書きかけだった遺跡内の地図をカピィールに手渡すと、カピィールはあごひげを撫でながら一度思案した後、ハチヤの言うとおりだと首肯する。
「じゃ、ちょっと皆でここいら調べてみようぜ」
ハチヤの提案で土砂を全員で調べるべく再び散らばる。
全員がまばらに土の壁を眺めている中、ナトゥーアだけがある一点を凝視してしばらく観察するが、自分の手では負えないと判断した。
「カリローさん、ここ一見土砂で通れないようだけど他と雰囲気が違う。何か分からないかしら?」
ナトゥーアが松明をぶんぶん振りながら、別の場所を熱心に調べていたカリローを呼び止める。
「…ふむ、マナの残滓とでも言っておけばいいかな。精霊魔法が行使された後があるようだ」
「例の闖入者かしら、このフロアですれ違ってないって言うことはこの奥にいる?」
「お宝の匂いがしてきたな、夢の金満生活!」
カリローがナトゥーアの指摘した場所を調べて結果を口にすると、ナトゥーアとハチヤが口々に好き勝手な憶測を語る。
「つくづく俗物だな」
「うるせーよ、豆のスープだけの生活はもう嫌なだけだ」
ハチヤの即物的な考えにカピィールが肩をすくめるので、目を血ばらせながら割と切実にな口調で言葉を返した。
「それよりも掘り返して大丈夫かしら? 周囲も同じように土砂で埋もれてるし、バランスを崩して生き埋めになったりしないわよね?」
ナトゥーアが試しに土壁をひっかくと、まったく関係のない場所から石ころが落ちる音が遺跡内に響き、苦笑いを浮かべざるえなかった。
「うーん、土の精霊の力に頼ろうか。相手も似たような方法でここを閉じたのだと思う」
カリローは4人を後ろに下がらせると、片ひざをついて右手を壁に手を当て僅かに目を瞑る。カリローの正面の土壁が僅かな燐光を発し始める。
「おー、カリローやるじゃん」
土が下から上へと駆け上るようにして動き始め、やがて2m程の正方形の穴が生まれると、ハチヤがその様子に思わず感嘆の声を漏らす。
「はぁ、油断するなよ。相手は僕らの侵入こそ気付いていないが、確実にいるのだからな?」
再び隊列を戻し、先頭に立ったナトゥーアが次のフロアに一歩踏み入れたところで一旦足を止める。
「奥から物音。隠すつもりはないみたい」
「闖入者ではなく魔物か何かか。警戒しながら進もう」
ナトゥーアが振り返って状況を報告すると、カリローは陰鬱な雰囲気のする次のフロアを見据えながら素早く頭の中で状況を整理し、対象を魔物と断定し不意打ちの懸念も視野に入れて先に進むよう指示した。
ナトゥーアは指示通り周囲を松明で照らしながら奥へと進んでいくと、何かに追い立てられるようにこちらに向かってくるズリズリという物音を聞き取りその方向へ持っていた松明を放り投げる。
「み、ミミズ?」
「アシッドワーム。レベルは33だが厄介な特性を持っている、気をつけろ」
ハチヤが松明に照らされた全長2mほどの土色をしたミミズの姿に、思わず声を上げた。
カリローは相手の特徴を見て早口でまくし立てるように正体を4人に急ぎ伝える。既にこちらへの敵愾心を持っているのか自身に襲ってくるのは明白だった。
「っと! アシッドとか、ひょっとして金属溶けるんじゃ?」
「溶かしはするが、それなりに時間かけてだ。それに適切な処置を取れば修復不可能になりはしない」
ハチヤが飛び掛るミミズをナトゥーアからかばうように盾で受け止め、力ずくで強引に引き剥がすと盾に付着した粘液を見ながら軽口を叩いた。カリローは思ったよりは落ち着いていたハチヤに感心しながら、懸念を払拭するように簡潔に問題ないと言葉を返す。
「まぁ、飛び道具で攻撃する分には関係ないんだけどね」
ナトゥーアは腰に巻いたガンベルトから拳銃を引き抜くとタタタッと音を立ててミミズを打ち抜く。多少怯みはするものの大きなダメージにはならなかったらしく、再び体を縮めて襲い掛かろうとしたところにハチヤの剣が銃弾の痕をに上手く沿って切り裂き見事にミミズを真っ二つに切り裂いた。
「まだ2匹!」
止めを刺して安堵したハチヤの背後から襲い掛かるものを、カピィールの斧槍が旋回し吹き飛ばす。ユウは闇に隠れたもう一匹の場所を指差して、珍しく声を上げた。
ハチヤは指示された方向に足元に転がしていた松明を蹴り飛ばすと、それに反応するようにさらにもう一匹のミミズが闇の中から飛び掛ってくる。
しかし、予見していた通りの相手の行動に、盾を使って強引にいなすと、ナトゥーアの射撃で相手が怯んでいる間に体勢を立て直し、ミミズに追撃を行う。
「これで終わりか?」
現れたミミズの数を頭の中で数えながらハチヤが声に出した瞬間、何の前触れもなく岩の塊で殴られたような音が聞こえ、カピィールが派手に吹き飛んでいた。
カピィールを殴り飛ばしたモノが、彼の取り落とした松明によって闇の中から浮かび上がる。それは所々がメタリックな輝きをもつ人型の巨体で、狭そうに背を丸めたまま、無言でハチヤの前に立ち塞がった。
「…土くれ風情が!」
「こんなものが鉄と火の時代の遺跡にいる訳がない。誰かが召喚したか、作成したかのどちらかだ」
闇の奥からカピィールの憤怒の叫びが聞こえる。
カリローがヒステリー気味に声を荒げる。
あまりの図体に気圧されて、ハチヤの意識が目の前の巨体のみに集中する。
ナトゥーアもまた、音も無く現れたその巨体に困惑している。
ユウだけは、最後尾から仲間達の恐慌状態に下唇を噛む。
この状況を覆すのには手間がかかる。何より意にそぐわない役割を果たそうとする自身を笑わずにいられない。そんな感情とは裏腹に、彼女は冷静に、既に頭の中で組み上げたロジックに従い浮き足立った仲間を戦える状態に戻すべく、まずはこちらの司令塔の再起動を行う。
「アル、敵の詳細は? 知らないとは言わせない」
「…アイアンゴーレム? 違うな色々混ざっている。スクラップゴーレムとでも呼んでやるか。成分によってレベルは異なるがこちらも35程度だろう」
カリローはユウの挑発的な物言いに反射的に答えながら、徐々に冷静さを取り戻していく。
「カピィ、聞いた? 相手は格下みたいだよ?」
「ぬかせ、格下だろうがこっちはオレがメインを張る。ミミズは任せた」
カリローの解説を受けてユウはカピィールに挑発。
カピィールは先程のお返しといわんばかりに水平切りを放ち、胴の3分の1ほどまで深く斧槍を食い込ませる。ゴーレムは怯みこそしないもののカピィールの一撃を評価したのか、脅威度の高いカピィールに矛先を変える。
「弱点とかないのか? まさか動けなくなるまで粉々にしなくちゃなんねーのかよ」
「ハチヤ、悪いがその通りだ」
カピィールの鋭い一撃に我に返ったハチヤは、ゴーレムの意識がカピィールに向かっているのをいいことに自身を鼓舞するように軽口を叩く。カリローも立ち直った彼に安堵しながら毒づいた。
一方で、創造具現化術…ユウは両手と両足に斬属性を付与すると浴びせ蹴りをゴーレムの右肩に叩き込み3分の1ほど肩がえぐりとる。さらに着地と同時にさらに右肩へラッシュ。拳が突き刺さるたびに、切り裂くように肩を削ぎ落とし、しまいには自重で右肩から先が千切れて地面に落ちた。
「アル!」
まだ蠢く右手を睨みながら、ユウは精霊魔法の使い手の名を叫ぶ。
「再生を抑制し、元の土くれに戻せばいいのだろう。土の精霊!」
「ちったぁ役に立てや、耳長族」
カピィールは斧槍を引き抜きゴーレムの下半身から先ほどの切り口の先端まで届く逆袈裟斬り。深々と切り込まれた斧槍を手放すと、超接近。そのまま素手でゴーレムの横っ腹を打ち砕く。
カリローは二人の烈火のごとき連撃で、ゴーレムの本体から離れた土くれを精霊魔法を用いて、地道に魔力の通った土からマナを吸い取り、ただの土へと還していく作業をひたすら繰り返す。
「あっちは大物退治で楽しそうだな」
先に追撃したミミズをさらに切り込み、傷を負わせると、ミミズからは反撃とばかりに腐食液を吐き出されハチヤの盾が僅かに熱を持つ。
「ミミズのヘイトちゃんと稼いでよね。一匹でもあっちに行ったら連携崩れちゃうんだから」
ナトゥーアはカピィールがなぎ払ったミミズに目がけて3発ほど銃弾を打ち込み挑発。思い通りにミミズが飛び掛ってくるのを両方の拳銃の先に付いた銃剣で撃ち落しハチヤの近くに叩きつける。
「そんときゃ、ユウが何とかするさ」
さっきみたいにと、あえて口にはせず、ミミズにさらに切り込むが縦斬りでは思うようなダメージを与えられず、かといって水平斬りで当てるには標的が小さすぎる。
今まで習ってきた剣術が実践で通じず、歯噛みしながらハチヤはそれでも実直に縦斬りで確実にダメージを重ね、ミミズの息の根を止める。
ハチヤがゴーレムのほうに参戦しようと振り返った時にはゴーレムは既に体のほとんどを失い、僅かに頭部だけが震えるように蠢いているだけだった。
ナトゥーアに振り返ると、彼女が拳を突き出しているのを見て、ハチヤもほうと息を吐きながらその拳に自分の拳を合わせた。
そして戦闘が終われば、いつも通りの剥ぎ取りタイムが始まる。
「魔力がこもった金属くずだな。…売れそうだ、成分の濃いところを持って帰ろう」
カリローは荷物から麻の袋を取り出すと、いまだに蠢く頭部を素手ですくって袋に詰め込んでいく。
ハチヤはカピィールの傷の手当。カピィールは治療を受けながら仲間の武器を手に取り、丹念に整備を行っていく。
「腹の中に金や銀、宝石を溜め込んでた。少し匂うけど」
「ユウちゃんはしっかりしてるのね。アレだけきっちり剥ぎ取る子、初めてだわ」
ミミズの剥ぎ取りを行っていたユウとナトゥーアが戦利品を袋に入れてハチヤのそばに置いた。
ハチヤは確かになんとも言えないすっぱい匂いを嗅ぎながら袋の中身を見ると、思ったよりたくさんの金の欠片や大きめの宝石があり、出所さえ知らなければかなりの価値があるものだと素人目にも分かった。
ナトゥーアは剥ぎ取りに直接手を出していないのか、ユウの徹底振りにひたすら感心しひたすら褒めていた。ハチヤ自身もあのミミズの腹を掻っ捌き価値あるものを見つけ出すユウには思うところがあったのか素直に頷くと感想を述べる。
「手慣れてるよな、でも土蜘蛛は剥ぎ取る気なかったよな。なんでだ?」
「あの子は異世界から来たから、この世界のルールで片付けちゃダメ」
あの時の土蜘蛛は結局完全に炭化していたし、こちらにも剥ぎ取りを行う余裕すらなかったのが真相だが、ユウ自身にも何か線引きを行っているのかハチヤの疑念に釘を刺した。
「うん? よくわかんないけどこだわりがあるんだな。無節操なく剥ぎ取ってく奴かと思ったけど、俺は安心したぜ」
ハチヤがにかりと笑みを浮かべると、ユウも首肯してそれに応えた。
戦闘から一段落して再び調査を始める一行だがフロア全体が一つの部屋であり、仕切りも無いため調査自体は特に苦労も無く終了する。
「ほかに気配はないみたい」
「だだっ広いだけで何もないな。机とかドンブリのマーク…元は食堂みたいなとこだったみたいだな」
「そうなると金目のものは無さそうだな、奥に進もう」
そして再び現れるのは土砂崩れで一面を覆い隠した土の壁だった。
「まーた土砂崩れ」
うんざりしたようにナトゥーアがカリローに不満をもらす。
「分かっている、マナの残滓があるところを探すだけなら僕がやろう」
「ひゅー、カリローやるな」
「しかし、入り口を塞ぎ、ゴーレムまで召喚していったい何を行っているんだ?」
ハチヤの茶化しを無視しながらカリローは自らの懸念を口にする。
仲間には黙っているがゴーレム作成は神聖魔法の分野だ。そして土壁に細工を施すのは精霊魔法の分野。神聖魔法と精霊魔法の両方を使いこなす人物などそうはいない。
ましてや人知れず存在していた遺跡。
嫌がおうにも強敵の存在を連想させられカリローは人知れず下唇を噛み、これから降りかかるであろう己の災難に嘆いた。