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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
10/63

遺跡に行こう3

追記 4/6 修正

「ねぇ、交代。起きて」


 ハチヤは肩を揺さぶられる感覚を感じてうっすらと目を開けた。

 金髪碧眼の美女が映っていて欲求不満かなぁと自覚しなおし、とりあえずこんな都合のいい展開は夢だと確信すると再び眠りに落ちようとした。


「起きないと、指へし折るわよ~。3、2…」

「っ!」


 小指に嫌な痛みを感じて上半身を跳ね起こすと、ニコニコと笑みを浮かべるナトゥーアの姿があった。


「交代、起きて」


 何か言い返そうと口を開く直前にナトゥーアに人差し指で口を押さえられる。そして小さな声で言って視線を焚き火の方に向ける。ハチヤが釣られて視線を向けると眠そうにあくびをしているカリローの姿があった。


「わりぃな。次はもうちょっとマシに起きる」

「頼むわ。クエスト中に指、全部折るなんてしたくないから」


 ハチヤはナトゥーアからテントを出入りするタイミングで嫌な台詞を返されゲンナリしながら焚き火の方へ近づいた。カリローはハチヤに気付くとマグカップを手渡してくる。赤ワインのような香味が鼻をくすぐる。一口含むと、ワインではない苦味が口に広がる。


「ん、いい香りだけどなんだこれ?」

「コーヒーというものらしい。ナトゥーアが入れてくれた。僕も飲むのは初めてだが不思議な味だな、なんでも眠気覚ましにいいらしい」


 ほーと相づちを打ちながらハチヤは焚き火をはさんでカリローの対面に座ると、傍にある焚き木を放り投げながらしばらくはコーヒーをすすって時間を過ごした。

 そして10分も経たないうちにテントの方からカピィールのいびきが聞こえ始めた。


「なぁ、カリロー。ユウのことどう思う?」


「…どうとは?」


 ハチヤは一度テントをみてから、少し声をひそめてカリローに訊ねると逆に質問で返された。


「レベル0って本当だと思うか? 神聖魔法が通じない爪弾きツイストって体質だっけ。それのせいで神の瞳ウジャトも無効化されてるだけなんじゃないかって思うんだけど、俺は」


 マグカップの中身を飲み干すと、ハチヤは自分の中で考えていた疑念をカリローに思い切ってぶつける。

 ハチヤ自身もやや暴論である自覚があるのか語尾には疑問符が浮かぶようなしゃべり方だった。


「つまり、本当のレベルはあるがその計測方法がないため、レベル0と表現されているだけだと言いたい訳だな」

「そそ、そんでもってあいつレベル40以上あるんじゃね? 昼間もナトが気付かないような奇襲を察したわけだし、森から突進しながら出てきた豚野郎の鼻っ面にかかと落とし決めるなんざ、正直達人クラスでも不可能な気がするぜ」


 カリローの要約した内容に頷くと、昼間の出来事を思い返しながら、いわば出来すぎたユウの成果に自分達など足元にも及ばないような高レベルではないかとカリローに問いかける。 


「僅か16歳でレベル30はまだしも40以上となるとほぼ英雄クラスの逸材だな」

「…そいや、ユウはまだ16歳か。そうだよなぁ、俺が16の時はレベル20とかそんなんだったな。一応こんなでも貴族出身だから、ガキの頃からそれなりに剣術の稽古とか神聖魔法や教養をびっしり仕込まれてコレだしな。レベル40はありえねーし、レベル30でも出来すぎか」


 カリローの冷静な分析にハチヤは自分の考えを改めなおし「忘れてくれ」と言いながらヘラヘラと笑った。


「レベルか。ひとつ面白い話をしてやろう。『もょもと』という英傑の話だ。そいつは子供の頃からずっとレベルに対してひとならぬ情熱を持っていたそうだ。僅か10歳でレベル20に到達したとさえ言われる」


 カリローはハチヤが多少落ち込んでいるのを見て取ると、元気付けがてらに逸話を持ち出す。


「10歳でレベル20かよ。早熟にも程があるな、だいたい一般人がレベル20くらいまでは年齢=レベルだろ? 倍とか変態かよ」

「転生説等もあったようだ。普通は幼少からそこまで貪欲に己を鍛える精神を持ち合わせるはずがないからな。まぁ普通ではないからこそ英傑と呼ばれ、語り継がれているのだろうが…」


 ハチヤが話に食いつくと、もったいぶるようにカリローが考察を始めだしたので、ハチヤがかるく咳払いをする。それに気付いたカリローは片眉を上げハチヤのほうを見て僅かに笑うと話を再開した。


「二十歳でレベル45になると、様々な貴族や皇族、王族が彼を食客として迎え入れようとしたが彼はすべて断った。そしてレベルへのこだわりは幼少期から衰えることのないどころか更に増したとも聞く。それが証拠に人類未踏の領域の踏破や各地の伝説と詠われた魔物を退治して回ったそうだ。己を捨てて、ただレベル上げのためだけに人生を費やした彼は25歳でレベル48。そして30歳を迎えるころにはレベル50に達した」


「…人族レベル50限界説ってやつだな」

「うむ、彼はその後50歳になるまで遠征や討伐、彼自身の言葉を用いればレベル上げか。それを繰り返したそうだが結局レベル50を超えることなく人の世を去った。竜討伐を行った際の出来事だったかな」


 ハチヤが「50かー」などと一人愚痴っているのを見ながらカリローはさらに話を続ける。


「史実に残る最もレベルの高い人族として今も称えられているし神の瞳ウジャトの普及を後押しした立役者でもある。レベルというものを身近なものにしたのも彼の功績だな」


「でも神話の時代とか英雄の時代の人族ってレベル100オーバーの人間ガンガンでてくるよな?」

「言い伝えでしかないからな。その辺は尾ひれといわず背びれや腹びれ胸びれまで付いた結果だろうさ」


 カリローが英傑の話はこれでおしまいとばかりに再び考察を披露し始めるので、ハチヤがふと胸に抱いた疑問を口にする。それに応答したカリローは軽く笑うと肩をすくめてハチヤを見やる。


「まぁ、僕が何をいいたいかというと、あくまで僕目線でしかないが彼女はよくてレベル30前半の人間さ。くぐってきた修羅場の数は僕らとは比較できないだろうけどね。あの判断力には正直舌を巻くよ」

「時々、間抜けなこというけどな」

「それこそ歳相応という奴だ。可愛らしくていいじゃないか」


 何もないまま夜は深けユウに交代した後、翌朝ユウに再び起こされるまでハチヤとカリローは寝て過ごした。


   ■



 翌日、一行は朝食を済ませると野営の後片付けを済ませて遺跡へとさらに歩く。

 昨日の遅れを取り戻そうと若干ハイペースになったせいか、昼の休憩を挟んで9時間歩いた結果、カリローが陽が沈む前にノックアウトされ、二日目の野営も街道沿いで行うハメになった。


 原因となったカリローが倒れたまま野営の準備が粛々と行われたのだが、朝昼と味気のない携帯食であったことと、ハチヤからの強い希望もあって夕餉は再びユウが取ってきた山菜や魚なども交えた料理となった。


「カリローさん、体力ないねー」


 夕食後の茶を楽しみながら、ナトゥーアがカリローをけらけらとからかう。


「ペース指示したのはカリローだからな、オレ達は悪くない。むしろ止めてやったのに」

「カピー、お前が言ったら逆効果だって釘刺しといただろ?」


 ゴスンと音を立ててハチヤがカピィールの頭を殴るがたいして痛くもないらしく、カリローの無様な姿をニヤニヤ笑いながらカピィールは茶をすする。


「…とりあえず、明日に残らないようにマッサージ? 足出して?」

「くぅ…済まない」


 うっすらと涙を浮かべながら本気でへこんでいるカリローを労わるように、ユウが彼の足を揉み解す。


「夜番どうしようか? カリローさん抜きで5時間の2交代制?」


 無理させてもしょうがないと判断したナトゥーアが提案、カリロー以外は支持。

 反対するカリローにハチヤが駄目もとで眠りに誘う神聖魔法を行使すると、あっさりと寝てしまった。行使した本人を含め3人で驚いている間に、ユウが慣れた手つきで彼を担ぎ上げるとテントへと連れて行った。


「スカウト組みは別れてだから、親睦兼ねてナトと夜番するな。ユウにはマッサージ終わったらそのまま寝ていいって伝えといてくれ」

「分かった。時間になったら起こしてくれな」


 カピィールもハチヤの指示を受けると、その場を立ち上がりテントの方へ向かった。


「そいえばハチヤ君、神聖魔法得意なのね」

「んー、いやあれは偶々たまたまというか相手も抵抗大失敗したというか、傷の治癒が精々だよ。俺は」


 沈黙を嫌ったのか、ナトゥーアが開口すると、その内容、自分を褒められることに慣れていないのか、ハチヤは顔を赤くして声を上ずらせながら答える。


「カピィールさんも神聖魔法が使えるって言ってたわね。ただし日常に限るって。戦闘中は頭に血が上って神聖魔法を構築する余裕がなくなるんだってさ」


 ナトゥーアはテントに視線を向けて肩をすくめる。


「わりと狂戦士な気があるからな、カピーは」


 相づちを打ちながらハチヤがうんうんと腕を組んで同意した。


「へー、手先が器用なドワーフで遺失物レリックなんかにも興味を持つ知的な人なのに狂戦士呼ばわりされちゃうとはね。やっぱり見かけどおりなのかしら?」

「1つずつしかものを考えられないタイプっていうのが一番しっくりくるかもなー」

「なるほど。それのほうがドワーフっぽいね」


 ナトゥーアが右ほおに手を当てて首をかしげてると、ハチヤが空に視線を向けて自分の答えを返す。ナトゥーアはそれを受けてなるほどと頷く。


「ナトは冒険者歴長いんだよな。今更どうしてこんな新米パーティに?」


 ハチヤの回答に感心しているナトゥーアに単に口から出ただけの質問をする。


「うん、話すと長いから省略するけど前のパーティとはとある事情でお別れしてね。1年ばかりはソロでやってたんだけど、ソロや急造パーティだとおいしい仕事にありつけなくってねー」


 ナトゥーアは、よよよと泣きまねをしながら冗談めかして答える。


「ソロの方が小さい仕事でコツコツ稼げておいしいイメージあるんだけどな」

「それは新米だったらの話。ある程度経験をつめばそういうのが億劫になってくるのよ。ましてや一度大きな仕事をこなした後だと余計に」

「ほーん、前のパーティはさぞかし優秀だったんだろうなぁ。ナトみたいなのがいるんだから」


 両手を広げたまま上半身を地面に投げ出すナトゥーアの姿を見て、ハチヤは苦笑いしながら感想をいう。


「…ハチヤ君、ひょっとしてあたしのこと口説いてる?」

「口説いては無いけど、ナトのことは好きだぞ?」


 ナトゥーアはがばっと起き上がると、ハチヤの隣にすすっと移動してハチヤの右手を肘でうりうりしながらニヤニヤ笑って尋ねると、ハチヤはナトゥーアの目を見ながら平然と言った。


「身持ちは堅いのね、意外…」


 ナトゥーアは座ったまま一人分くらいの距離をあけてから、あかんべーをしながら毒づいた。


「異性として意識してて、嫌っちゃいないって事なんだけどなぁ。んで、俺らのパーティに声をかけた理由は? というか実績0のパーティに中級冒険者が加わっておいしいとこなんてないだろ?」


 ハチヤは心外だと言わんばかりに答え、ナトゥーアの警戒が解けるといよいよ本題に入る。


「実績0とはご謙遜を、てんちょーから聞いたよ。英雄さんのお話」

「店長、口軽すぎねぇ?」


 これを聞いたらカリローは怒るだろうなと思いながら、ハチヤは冗談めかして答えた。


「まぁまぁ。面白いパーティだなーって思ってさ。ゴブリン6匹にオーガ1匹、それに召異魔法の使い手、さらにはお土産召喚された異世界の魔物、土蜘蛛だっけ? を急造パーティでやっつけたって聞いたら気になるよ。平均レベル35って言われる公国騎士8人でも苦戦しそうなラインナップだし」

「そーか? オーガなんてユウがタイマンで殴り殺してたしなぁ。それにお土産召喚された魔物は弱いってカリローがいってたぞ?」


 急にナトゥーアに持ち上げられて悪くない気分だったが、それでもハチヤは事実を述べてナトゥーアが思っているほど相手が強くなかったことをアピールする。


「正確にはお土産召喚じゃないんだなー。てんちょーに話し聞いてて思ったんだけど、魔物に術者食われたんだよね?」

「あー、確かに。ということは既に召喚自体は成功してたのか」


 ナトゥーアが召異魔法が行使された際の詳細をハチヤに訊ねた際、彼もその内容を噛み砕きながら考え、そして答えにたどり着く。


「しかも術者が制御できないランクの化け物を」


 ナトゥーアは自分の言葉にハチヤの顔が青ざめていくのを見ながらさらに続ける。


「きっとその土蜘蛛、通常の個体じゃなくて特異種だったと思うよ。レベルもそうだなー、特異種だと5は跳ね上がるから、レベル40くらいじゃない?」

「レベル40って…レベル差だけで勝てる気がしねぇ」


 ナトゥーアはハチヤの顔が青から土気色に突入しそうな勢いで血の気が失せていくのを眺めながら、質問を続ける。


「相当クレバーな戦い方に持ち込んだんじゃない? 巨体が入れないような横穴を見つけて、遠距離からちくちく攻撃とかさ?」

「カピーがそういう風にユウが指示したって言ってたな…」


 やや時間を空けて、すこし顔に赤みが戻ったハチヤはテントの方を見ながら呟く。


「そういうの聞いてさ、君たちならきっと凄いパーティになるって確信したんだよ。だからパーティに混ぜてっていったのさ、このヤ=ナトゥーアお姉さんは」


 ナトゥーアはハチヤが向けるテントの先にいる3人のうちの1人を頭に浮かべながら、にんまりと笑った。


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