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ファーストコンタクト

遅くなって申し訳ない

五歳になった。


「さあゼロ、そこで一気に…ひっくり返す!」

「ほっ」


上手くひっくり返された生地が甘い匂いを出して焼ける。焼き終わったそれを手早く皿に移し、また新しい生地を鉄板に載せる。それに母であるサラが生クリームと果物でトッピングをする。そしてその上にもう一枚。その上にもクリームで花を模したトッピングをし、さらにイチゴを数個載せる。これがこの世界伝統のケーキだ。クリームもバタークリームなので、いつかホイップクリームを作ってやると俺は決心している。


「うん、これでいつ領主様達がいらっしゃっても問題ないわ。流石ね、ゼロ」

「ありがとうございます、母様」


自分の隣にいる母親に例を言うと、わずかに困ったような笑みを向けられた。


「もう、まだ五歳なんだからそんな言葉遣いしなくても良いのに」

「将来のためですから」


そう。俺が生まれたのは代々の従者一家。ということは俺もいずれ未だ見ぬ誰かを主として生きなければならなくなるだろう。その時に敬語が使えなくなっているとか悲しすぎる。


「私の主はどんな方なのでしょうか…」

「ああ、ゼロはまだ会った事が無いものね?」


そう。クロック家にはとある決まりがある。


それは、従者として生きるものは一人前となる前の未熟な自分を主の目に映してはいけないというものだ。


これはクロック家が代々ヒーロ家に使えると決められているからこそ可能なことであり、他にこんなことをしている家は少ない。そもそも従者というのは平民がなるものであり、さらに言うと一生同じ相手に使えるなどなかなかあるものではない。


「ならせめて特徴だけでも教えていただけませんか」

「そうね、可愛いわ」

「漠然としすぎです」


それでは男か女かもわからない。まあ可愛いのならば恐らく女の子だろう。


「そうねぇ、じゃあ大ヒント!女の子よ!」

「可愛いと言われた時点でわかります。それになんのヒントですか?私の知っている人では無いのでしょう?」

「うぅ…冷静なツッコミね、さすがは私の息子よ」


果たして母さんが冷静なツッコミなどしたことがあっただろうか?


……無い気がする。


「……な、何よその目は…」

「いえ、母様のそのフワフワしたキャラクターで冷静なツッコミをした場合どれだけの人間が取り乱すだろうかと演算していただけです」

「ゼロ…貴方そんなこと外で言っちゃダメよ…?」

「身内にしか言いませんよこんな馬鹿話」


母さんと俺がジリジリと火花を散らしているその時に、カツーン、カツーン、と玄関のノッカーが鳴った。


「あら!来たわ!来たわよゼロ!ううう、緊張する…」

「母様が緊張してどうするんですか。行きますよ。この家にとって一番大事なお客様です。お待たせするわけにはいきません」

「うう、五歳の息子が私よりもしっかりしてる…」

「もうそこは諦めた方が良いのでは?…ほら、私が開けてもよろしいのですか?」

「ダメに決まってるでしょう!私が開けるんだからぁ!」

「じゃあさっさと開けてくださいませんか」

「分かってるわよ!でもぉ…」

「なんですかあんたら!二人して漫才が面白すぎですよ!もう私が出ますからね!出ますよ!」

「あっこらエミー…!」

「エミー!ハウス!」

「私ゃ犬か!じゃあ開けますよ!らっしゃーせーっ!」

「嘘でしょっ!?」

「あっ馬鹿その挨拶は酒場……っ!!」




sideリタ・ヒーロ


生まれて二度目の馬車は、一度目と違ってとっても緊張しました。


「リタ、不安かい?」

「あ、おとうさま…」


少し震えていた私の頭が、お父様の大きい手で撫でられます。それがとっても気持ち良いので、私のお気に入りです。


「大丈夫だぞリタ!もしもろくでもない従者なら俺がぶっ飛ばしてやるから!」

「おにいさま…ぶっとばすのはちょっと…」


私たちの会話を聞いていたお父様とお母様がくつくつと笑っています。何かおかしかったでしょうか?


「ふふ…そんな心配はしなくてもいいですよ、ダリウス」

「そうだな。クロック家の優秀さは私が保証する。それにしてもまだ五歳なのに従者としての仕込みが終わったとは…ゼオ、一体どんな魔法を使ったのだ?」

「大丈夫ですよあなた。年齢はどうあれ、ゼオ様が太鼓判を押したのですから…ね?ゼオ様?」


お母さんがにこり、と壁に微笑むと、そこにはお父様の執事のゼオ様が立っていました。


「ひうっ…!?」

「おっと…驚かせてしまいましたかな?申し訳ございません。リタお嬢様」

「相変わらずの隠密技術だな。私とて最初にそこにいると言われなければ認識できていたかどうか」

「普段は一切の邪魔をせずに、必要として下さる時だけ期待以上の働きをする。それがクロック家の執事でございます」


壁際に立ったままそういうゼオ様のお姿はなんだか誇らしげでした。


「…そんなお前が推薦するのだから、期待をしても良いのだろう?」

「親の私が言うのもなんですが、あれは子供の領域をすでに超えており、私に追いつこうとする勢いでございます。特にその戦闘技術は既に私を凌駕しております。あれが一人居れば小さな領地なら一日で制圧できるでしょう」

「…ほう、そこまでか…俄かには信じ難いな」

「見ていただければ分かるかと」

「ふっ…そうだな。そろそろか?」


お父様とゼオ様のお話を聞いていたら、いつの間にか目的地が近くなっていたようです。少しだけ草の感じが変わっていました。



そしてそのすぐ後、馬車はすぅっ、と揺れずに止まって、そこから降りた私の目の前にはこじんまりした、可愛らしい家が建っていました。


「ほら、リタ」

「は…はい」


お母さんに背中を押されて、シンプルなドアノッカーを持ち上げます。



カツーン、カツーン、と何度か鳴らすと、ドアの向こうがドタバタとし始めました。


「らっしゃーせーっ!何名様でしょうか!」

「え?え!?」

「五名様ですね!?テーブル席が丁度空いております!奥へどうぞ!」

「黙れこの頓珍漢!」

「ぎゃあっ!!」



綺麗な女の人が大きな声で私に詰め寄って来て、タジタジになっていると、玄関の奥から私よりも少し上くらいの小さな子供と綺麗な女の人が出てきて、あっという間にさっきの女の人を畳んでしまいました。



「ではその生ゴミの処理はお任せしてもよろしいでしょうか、母様」

「任せてちょうだい。灰も残らないように焼却するわ」

「分かりました。では私は此方のお客様を接待致しますので」


任せましたよ。そちらこそ。と、なんかかっこいい感じで拳を合わせた二人はすぐにバネに弾かれるように向きを逆に変えました。


女の人は家の奥に。男の子の方はこちら側に。


「お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません。ヒーロ家の皆様ですね?念の為に指紋で本人確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「…ああ、いいだろう。インクはどこかね?」

「此方でございます」


お父様が羊皮紙に捺した指紋斑を確認する男の子をじっと見つめます。



髪は銀色で、とってもフワフワして柔らかそうです。その下にある瞳は青色で、とても頭が良さそうな感じがします。



身体は細いですが、全く無駄が無い感じがします。ゼオ様に感じるような涼しい風がこの子からも感じられました。



何より、その立ち居振る舞いはとても私と同じくらいの年頃には見えないくらいに完璧でした。


「……お嬢様、私の身体に何か付いているでしょうか?」

「あ…いえっ!な、にゃにも」

「そうですか。何かあれば遠慮無く仰って下さい」

「は、はいぃ…」


では皆様のお部屋にご案内致します、と言って男の子はすぐにあちらを向いてしまいました。


「如何ですか?旦那様」

「……正直、驚いているよ。この家に貴族指斑集なんて無かっただろう?あの子が買えと言ったのか?わざわざ今日のために?」

「少しばかり違いますね…あの子は自分で働いて、その金であれを買ったのです」

「……まだ五歳だろう?」

「盗賊を数団体狩ったと言っておりましたな………そんな実力があるのか、と言う質問は無いのですかな?」

「当たり前だ。私が隙を見つけようとしても全く見当たらなかった。彼は気を張っているわけでも無いのにだ」


やはり旦那様は流石ですね、と言ったゼオ様は、何事かを呟きました。


「…【ニードル】、【ファイア】」


ゼオ様の横から飛び出した火の玉と透明の矢は、綺麗に男の子の首に突き刺さり、その周りを焼き焦がしました。


そして、そのまま倒れた…瞬間、私は自然に悲鳴をあげていました。


でも、その時同時に、私の後ろから声が聞こえて、私はさらに大きな悲鳴をあげてしまいました。


「……父様、いくら腕試しとはいえ、こんな幼い子を怖がらせることはお止め下さい」

「ひぃっ!?」


そんな私を見たお父様とお母様、それにゼオ様はくすくすと小さく笑っていました。


「おや、怖がらせてしまい、申し訳ありません。私の名はゼロ。ゼロ・クロックと申します。どうぞ、お見知り置きを」

「は、はぃ、えっと、リタ、です…」

「よろしくお願い申し上げます。リタお嬢様」


そう言われて、少し微笑まれて、私は立っているだけで精一杯でした。

鬼人伝はもうちょい待って下さい。書いてますから。エタってませんから。

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