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Eyes2 戦闘方法

2016年9月9日改編完了

5月16日



早朝、朝日が上ってすぐ、秀一の脳内で緊急性を伝えるエラー音が鳴り響く。心地いい風がほほを撫でる揺りかごを荒々しく動かした。



Emergency!Emergency call!


《特別招集》 緊急時に付き、速やかに第三研究所まで出頭せよ


ES第三研究所所長 榊原あかり




「んーっ…………っ!?」


(はっ?えっ?な、なにこれ!?と、特別招集!?出頭!?)


絵文字もなんの色もない弩直球(どちょっきゅう)の文面、昨日のアクセサリーの時の冗談めいた顔文字とは全くの別物。


たったそれだけの事で榊原を疑う心を失ってしまっていた。


それに秀一でなくとも驚くのも無理はない……榊原が使用したのは、地震や津波等の大規模災害時にしか使われることがない、ただの民間人が、決して使用することが出来ない類いの緊急避難用メッセージだったからだ。


一個人が私用で使っていいようなシロモノでは決してない。


ツッコミどころはかなりあるが、秀一は寝惚けた頭をフル回転させ、昨日渡された個人を特定できる()()()()()()ことなく、大急ぎで榊原に回線を繋いだ。


「先生!!状況は!?こんな朝早くに何があったんですか!?」


『あ~~♪……やっぱり、良い反応ね♪最高~~♪あ、涎が……じゅるっ♪』


(……あぁ、もう!!そ、そうか……これは冗談だったんだ……この人に常識は通用しない、どこまでも非常識な上に……こんな事、言いたくはないが変態だ!!)


加えて、これが寝起きじゃなくて、更に、ここに来て二日目でなければ、榊原の本気の冗談という事実にすぐに気付けたはずだ。


「……はぁ~~っ……冗談ですかぁ~……」と寝起き+昨日から続くイレギュラーで、いつもは絶対に出さないため息とあきれ声が漏れてしまった。


理由はわからないが、心の中でいくら糾弾しようとも、榊原の事をどうしても言葉に出して、攻めきることが出来ない。この人のやることだから、仕方無いかと言う考えに何故か行き着いてしまう。


『えぇ、そうよ♪驚いた?ごめんね♪』と謝罪をしてはいるものの、悪びれる様子は全くなく、笑顔で切り返してきた。


このやり取りをただただ楽しんでいる様だ。


先程の発言を一切無視して、この笑顔だけを切り取ってみると、やり口は別として、好きな男の子にちょっかいを出している幼い女の子に見えなくもない。


起こした行動と発言は『非常識なくらいヤバい』その一言に尽きる……


「はぁ~~っ」二度目の吐きたくもないため息……


「……もういいです……それで、一般人には使用できない災害時にしか使われない緊急メッセージなんか送ってきて、本当に何か緊急の用事でもあったんですか?」


『そうそう、しゅういちくんさ、戦闘方法を勉強するようにって、昨日言われなかった?』


「……あっ、えぇ、確かに言われましたね」


確かに、大林からそう言われた記憶がある、これからどうするかを大林に質問をしようと考えていた事も事実ではある。


事実ではあるが、この件に関して、何故、榊原が心配し秀一に声をかけてくるのか、その理由に思い当たる節が全くない。


しかも、緊急メッセージまで送ってくる……そこまでする必要性が本当にあったのかも、秀一には理解することができなかった。


『じゃあ、私のところに来なさい。間近での観戦はできないけど、以前の戦闘データを見させてあげるから……ねっ♪』


続けざまに放たれた言葉に秀一は背中にゾクッとした寒気を感じ、返す言葉を考え(あぐ)ねいていた。


(唐突に何を言い出すんだろう……思い付きにしても、行動が大胆すぎる。でも……スゴく楽しそうだ)


(仲良くするのはいい……正直な話、色々と教えてもらえるのは、スゴくありがたい、でも、おもちゃにされて(もてあそ)ばれるのは、あまりいい気分はしない……けど、これぐらいの事は簡単にできるって伝えたかったのかな?)


(それに……さっきの言葉からは……スゴく危険な香りがする)


本来の立場は全くの逆のはず、身の危険……貞操の危機を感じるのは、男である秀一の役ではない。女性である榊原のはずだが、コレが肉食系女子というやつだろう。


だが、ここまで露骨に関わってくると言う行為そのものが、ただの冗談ではないと言うことぐらいは、秀一にも理解できていた。


だとしたら、何故?と言う堂々巡りになりかけた思考を回避する術は考えないようにする事しか、秀一には選択肢が用意されていなかった。


もし、榊原が秀一に好意を持っているのだとしたら、13歳の少年に対するアプローチを間違えているとしか言いようがない。


いや、コレが秀一でなければ、秀一と言う人間でなければ、間違いではなかったかも知れない。


「あ、あの……」


それに被せるように『あっ、あと、雫ちゃんも一緒に連れてきてね。二人とも施設とか集団部屋で生活してないんでしょ?それだと、誰も教えてくれないわよ』


(よく知っている……研究所所長であって管理者ではないはず……だよね?)


疑念を浮かべても、その疑問は今する質問としては正しくない。専行すべきは別にある。


「……え?雫さんも一緒にですか?」


『そうよ~、雫ちゃんも絶対に知らなきゃならないことだから、都合がいいと思うわ』


「……わかりました。けど、一度、本人に確認してみます。少し待って頂けますか?…………あ、あと、雫さんには絶対、悪戯(いたずら)しないでくださいよ」


新しい議題に塗り潰されしまい、先程の疑問は霧散してしまった。


(…………雫さんをおもちゃにされてはかなわないからな)


『大丈夫よ、そう言う意味で女の子には興味ないからね』と笑いながら言い放った。


その言葉の奥には指名するものがあるのだが、榊原はあえてそれを口には出さない、いや口に出すことはまだ許されていない。


(男子ならいいのか!?)


激しく問いただしたかったが、あえて声に出さないのは、無闇に絡んでしまっては、話が進まないと判断したからに他ならない。


心の中に押し留めてしまう秀一は根っからの苦労性と言える。


「……では、折り返し連絡します」と丁重に通信を切ると、ふとなにかを忘れていることに気が付いたが、なんのことだったか全く思い出せない。


まぁ、すぐに思い出せないなら、そこまで重要なことでもないだろう…思い出さなきゃならないことなら、またいつか思い出すはずだ……と、自室でまだ寝ているであろう雫に声を掛けることにした。


リビングからすぐの雫の部屋をノックしながら声をかける。コンコンと渇いた音が木霊(こだま)する。


「雫さん……雫さん、起きてますか?」


『………ん~~?………あと、一時間…………』


コンコンコンとドアを再度ノックし「雫さん、朝です、少し早いですけど、起きてくださ~い」と反応を待つ。


確かに、後一時間寝ていても、なんの問題もないのだが、雫に確認を取ると言った手前、確認を取らずに、榊原を放置にしておくのは、流石に気が引ける。


『……んぅ………………すぅ~~……』


寝言と思われる生返事しか聞こえてこない……起きる気はまだないらしい。


そこまで、時間が切迫しているわけではないので、そこまで焦る必要性はなかったのだが、榊原を待たせている手前、あまりのんびりもしていられない。


かといって、秀一自身が彼女の部屋を開けることに対して、かなり気が引けていた。ドアノブに手を掛けた所で「ダメだ」とやはりその手を引っ込めてしまう。


例え、雫がすぐそばにいる事がわかっていても、中に入ったら最後……トラブルになるのが目に見えている。


(仕方ない。あれをやるか……)


榊原と似たような行動になってしまうが、緊急パスを開く腹積もりでいた……


一つ思い違いをしてはならない、この緊急パスはお互いが承認して、初めて使用可能になる今で言う電話のようなものを相手の受信許可の有無にかかわらず、強制的に回線を繋ぐ事ができる。


そう考えると、無闇矢鱈(むやみやたら)にこの緊急パスの許可を出すことは、出来ないはずだ。相手の都合などのプライバシーを完全に度外視して相手にコネクトするのだから、当たり前と言えば当たり前だ。


昨日の時点で緊急時パスはお互いに開いてある。一緒に住んでいるからと言って、始終一緒に行動出来るわけではない。何か困ったときにお互いに直で繋がるパスは必要という話をしたからだ。


個人間のやり取りを行うパスなどを一切必要とせず、なおかつ強制力のあるものとして、先程、榊原が秀一に送りつけた政府などから強制的に送られてくる災害時通達メッセージが例外であげられるだろう。






「雫さ~ん…………雫さ~~ん、朝ですよ~~。大切なお話がありますから、起きてくださ~~い」


『……ん~~っ!?……んぅ??……』


回線を強制的に開かれた為に、雫は起きざるをえない。


『……おはよ~……ん~、おはなしってなに?』


まだ、寝惚け(まなこ)を擦っている感じがするが、とりあえず起きてはくれたようだ。


「とりあえず、出てきてもらえますか?」言葉が足りなかった事にあとで後悔するが、何を言っても後の祭りだ。


『……ん、解った』


ガチャっと扉が開き、今度は、起きているはずの秀一が目を醒まされることとなる。


しっかりとした服装で……と言わなかった事をこれほど後悔したことは未だかつてない。


「な、な、な、何をしているんですか!?ふ、ふ、ふく、服を着てください!!」


(……っ!!何で!!着てない!?やっぱりこうなるのか!)


体を180度急反転させ、視界を遮るために手で瞳を覆い隠くさずにはいられない。


『……ん~?……大丈夫、下着は着けてるよ?』


(いやいやいやいや、そういう問題じゃないんですよ、雫さん!)


昨夜着ていたパジャマは恐らく、部屋の床に転がってる事だろう。青少年が冷静さを保ち続けるのには、流石に無理があった。


(ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ!!雫さんの行動はそう言う意味じゃない!)


昨夜、恐れていたことが、まさか次の日の朝に起きてしまうとは、雫本人以外誰にも予想できなかった事だろう。


「と、とにかく、服を上下着てきてください!!」


『ん~ぅ…………解った』


何が悪かったのか全く納得行かない様子で、渋々と部屋へ戻っていく。


部屋の構造上、仕方無いことではあるのだが、雫にとっては、ダイニングと雫の部屋が直通しているため、自分の部屋の一部だと勘違いしている節があった。


(ふぅ……本当に心臓に悪いったらありゃしない)


秀一が一息ついて、まもなく、それほど時間を掛けずに安心できる格好で出てきてくれた。


『……ぉ、お待たせ、こ、これでいい?』ほとんど裸同然の状態よりも恥ずかしそうなのはなぜだろうか?


Tシャツにスパッツと言う、かなりラフな格好で出てきた。部屋に幾つか服も用意されていたので、今は秀一も上下ジャージ姿と言う格好になっている。


この後、外着に着替えて、外に出ることを考慮に入れた上での選択肢だったのだろうが、早朝から秀一の心はやじろべえの如く、二人の女性に左右から揺さぶられていた。


健康的な素足がばっちり見えているからと言うのが大きな理由……


もちろん、先程のような扇情的な姿では目のやり場に困ってしまうだけだが、服を着ている以上、目を背けるのが不自然で面と向かうことが自然な状態を作り上げられてしまった。


秀一にとって、雫のこの格好は男女二人だけのこの空間で、精神的に優しい格好とは決して言えなかった。


普通の男子なら役得・眼福とでも思ったのかも知れないが、秀一が雫と共にこの家で生活する以上、秀一自身がこの家の家主であり、紳士であり続けなければならないと考えていた。


「え、えぇ、大丈夫ですよ、これからはこんなことが二度とないようにしてくださいね」と念押しをしながら、軽く噛みながらも何とか平静を装う。


落ち着いて先程の榊原の話をしてみると、一緒についてくるつもりらしい。


やはり一人は、多少不安なのかもしれないと秀一はなるべく最初のうちは雫と一緒にいようと心に決めた。


榊原にその旨を返信すると、移動手段を用意してくれるらしい。ここは素直に甘えておくのが無難と判断した。


(時間の指定は、2時間半後か……なるべくやれることはやってから出たいな)


食事、片付け、着替え等のある程度の身支度を整え、施錠を確認し、家の外に出る……


それを待ってましたとばかりに秀一達の前へ、黒塗りのセダンがタイミング良く停まった。


フルスモーク……外の世界であれば、あまり相手にしたくない感じがする車だ。


ウインドウが降り『乗って乗って~~♪』と中から榊原の声のみが聞こえてきた。


かと言って、榊原がその車に乗っている訳ではない。指示を出す人間がいない?これはどういう事だろうか?


格差の問題と言えばわかりやすい、ハイヤーやタクシーなどに搭乗すれば、すぐに理解できるのだが、秀一は一般家庭の子、それに加え、そう言ったものを利用する機会がなかった為に、誰も乗っていないことに違和感を覚えたに過ぎない。


(昨日言っていた、移動手段は、これか…)


自走する車は良く見ているし、秀一自身も家族が所有しているため、利用する機会は少なくはないのだが、誰も乗っていない物を見たことがなかった為、秀一が少し頭を捻っていると、無警戒に雫が車に乗り込んだ。


彼女にとってみると、誰も乗っていない車両に乗り込むことは当たり前のことなのだろう。


何も警戒しないのはまずいはずなんだけどなぁ……と言いかけた言葉は秀一の心にだけ押し留められた。


「ま、待ってください、僕も乗りますから」


と少し慌てて席に座ると、座り心地は抜群だった。秀一がいつも乗っている自家用車とはグレードが明らかに違っていた。見た目からも判断できたが内装もそれ相応でやはり高級車だった。


『準備オーケーかなぁ?出発するよ~~』と眠気を誘う声が聞こえる。


「よろしくお願いします」『……お願いします』と声の主である榊原に届いているか不安はあったが、一応声をかけておいた。


正直、一体どこで待ち合わせをしているのか、打ち合わせもしていないので全くわかっていない。


出発して数分後、住居区画を通過して街並が見えてきた。


昨日は、雫との会話に集中しすぎて、あまり周囲の様子を確認していなかった秀一……軽く目に入ってきてはいたのだが、昨日の第一目標は、家に到着することと食事の準備、余裕があれば、家財道具の準備だった。


今になって思い返すと、家に着くなり、雫と一緒に住むって話になってるし、家財道具はもちろんの事、食事についても全く困ることがなかったため、昨日の時点で街に戻ってくるという選択肢はなかったのだ。


あまり時間も早かったわけではなかったため、雫との家でのルール決めというのもあり、家から出るのが少し億劫になったというのもある。


車の外の景色に目線を戻す。高すぎるビルは、余り存在しないが、商業施設が建ち並び、ショッピングモール的な感じがする。


それを確認したからか、大人しかった雫が唐突に話し始めた。


『……ね、ねぇ、秀くん、帰りにこの辺りで何か買っていかない?』


「そうですね、買い足さなきゃならないものも幾つかありますし、お互い無事に帰ってきたら、散策してみましょうか」


『う、うん。そうしよっ』


「因みに雫さんは何かほしいものとかってあるんですか?」


『……んー、なにかって言われちゃうと少し考えちゃうかな?まだここに来て二日目だし……自分で何かを買った事とかないから……』


自分でではなく『自分の意思で』と言う言葉が正解だった。故に雫は下を向いていたのだ。


「別に責めてる訳じゃないですよ。素朴な疑問ですからあまり重く受け止めないで……ね」


『そ、そう?』「はい、大丈夫ですよ」


『なら、良かった』と安堵の吐息を漏らす。


街並みが途切れ、ある程度の間隔で建物の様相が変化してきた。


ヨーロピアンな感じかと思えば、純日本風、アメリカン等々、しっかり区画毎に別れていてはいるのだが、早々と車で通過すると、異質な感じが否めない。


だが、高級感は溢れている。重厚感もある、簡素に作られているように見える部分も、一切手抜きを感じられない作りは、匠の手によるものだろう。


ある意味、資料館的な観光地にすれば、かなりの集客力があるかもしれない、それほどに違和感を感じる街並みだった。


ふと目線を別方向へ移すと、この隔離施設のちょうど中央に位置する昨日聞いた闘技エリアの真ん中辺りに、巨大な塔のようなものが確認できた。


何のための施設なのかは、皆目見当がつかない。


(榊原さんに聞いたら教えてくれるかな?)


先程のメッセージに、彼女が研究所の所長と記載されていたことを考えると、恐らくではあるが、この施設に関して知らないことはあまりないのかもしれない。


商業区を抜け、少しすると、体に違和感を感じた。雫も少しだけ、ぶるっと体を震わせた。


それ自体はほとんど一瞬で、その後は違和感を感じることはなかった。


ここがCEエリアなのだろうか?特に検問等があるわけではなく、丁寧に舗装された道路をかなりのスピードで走って来ただけだ。


ガードが薄くないのだろうか?無駄な心配をよそに、10数分たったあたりで広大な土地の四方と中央に何か機器のようなものが設置された平野が見えた。森林のようなものが多数あれば、樹海にでもなりそうなくらい広大な土地である。


(何の使用目的でつくられた場所なのか、よくわからないな……これも榊原さんに聞いてみよう)


GEエリアからは大体、25~30分ぐらいたっただろうか?その位は掛かっているはずだ。80km/h位の速度だったはず。体感が正しいか、どうかは別として、秀一達の住居から最低でも35km前後は離れているだろう。


流石に研究所には、セキュリティーが張られていた。車が入って来るとゲートがあり、承認を求められた。


とはいえ、身に付けたアクセサリーを勝手に向こうが、入出できるかどうか、許可を得ているかどうかを判断し、不可であれば、排除する防衛機構が立ち並んでいた。


許可が下りていることが確認できたらしく、そのまま、ゲートをスルーして、研究所の地下駐車場へと向かう。


車から降りると、足元に青の光のラインが刻まれていた。『そのまま、足元の線をずっとあるいてくればいいよ~♪』と車の中から聞こえてきた。


不思議に思ったが、かなり信用されているようだ。


(昨日が僕と榊原さん、初対面のはずなのに………)


もしかしたら、何かの目的で、秀一達を信用させ、利用するために行っている行為かもしれないと、秀一は勘ぐっていた。


少し警戒しながら歩を進め、通路を歩いていく。扉の様な物は一切なかった。


エレベーターが途中にあったが、導線はエレベーターには繋がっておらず、終始階段へと続いていた。


部屋と呼べるようなものが存在していないのか、通路の内壁はすべてしっかりとした壁にしか見えない。


地下をどんどん進んでいく。地上に見えていた建物は、もしかしたら外装だけなのかもしれない。恐らくカモフラージュか何かの類だろう。上の階に人の気配を感じることはできなかったのだから。


地下5階部分に当たるのだろうか?しっかりとは解らないまま、暫く歩いていると、ようやく導線が壁に向かって続いている場所へと到着した。


明らかに導線が壁の直前で途切れている。ドアらしきものは確認できない。


頭を捻って壁を触ると自動ドアの如く、横にスライドした。


中には、榊原が背もたれのある革張りの椅子に腰掛け、気軽に声をかけてきた。


『よくきたね、第三研究所へようこそ。しゅういちくん…そっちのお嬢様が、雫ちゃんだね?』


先程の秀一とのやり取りは何処へ行ってしまったのだろう、おそらく雫が一緒にいるから素を出せないだけなのだろうが……


(それにしても、この人は、何でも知っているのかもしれないな。お嬢様って言ってるし……本当に雫さんはお嬢様なんだろう……)


「おはようございます。榊原所長」


ちょっと嫌そうな顔をこちらへ向けた。


『やめてよ、他人行儀に所長なんてさ……あ~、型式張って送ったのが悪かったか……雫ちゃんは初めましてだね、私は榊原あかり、しゅういちくんには出来れば、あかりちゃんて呼んで欲しいけど、榊原さんかあかりさんでも構わないよ……ね、雫ちゃん♪』


雫は、身体をビクっと震わせ、秀一の後ろに隠れてしまった。


「あかりちゃんは、ちょっと無理なんで、僕はあかりさんで……」


しかし、意思は見せなきゃならないと判断したのか、秀一の背中から少し顔を覗かせ、小さく頷きながら発言した。


『……ん……榊原さん……おはようございます、は、はじめまして……く、久遠雫です』


『あらら、警戒されてるなぁ。こりゃあ、信頼を得るためには、もう少し時間がかかりそうだね』


『立ち話もなんだし、ここに座ってくれるかな?』ポンポンとソファー軽く叩き、座るように勧めてくれた。研究室に置かれるには少し違和感がある。応接室に置かれているならまだしも、ここは榊原の研究室だ。


『時間もそこまで余裕ないし、百聞は一見にしかずだよっ、とりあえず、戦闘シーンのダイジェストを見せるね』と言いながら、秀一達の生活には馴染みのないパソコンで動画を見せてくれた。


正直な話をすると、何故パソコンを馴染みのないと表現したのかというと、現在の日本には、こういった機器はあまり存在していないのだ。






~~~~~~





少し道にそれた一世紀ほど前の話をしよう。



秀一達が授業で習った話ではあるが、元々地球全土(発展途上国は別)でパソコンと呼ばれるものが、かなりの割合で日本全土にも普及し流通していた。


しかし、GEの発症起因因子が日本全土を覆うバイオハザードとなった段階で、個人個人が己の肉体で連絡を取れるようになってしまい、日本での連絡手段として、パソコンの利用価値がなくなってしまったのだ。


政府は海外との通信手段を断ち切るために、ほぼ全ての通信機器を日本に住む者達から剥奪したのだ。


今、現在許されているのは、政府が認可した企業の一部と政府の中でもGE対策室・一部研究者のみが通信回線及び機器の使用が許可がされている。


つまり、それ以外の者が通信回線を使用した場合すぐに足がついてしまう。


あまり知られてはいないことだが、未だに地下の共同溝には当時の通信ケーブルが埋め込まれている。通信機器さえあれば、今もなお、外部との連絡も可能である。


だが、以前あった何かしらのケーブルや電波を必要とするインターネットなどというものは、日本には存在しておらず、その存在を詳しくは知る者はほとんどいない。


現在では、自分の脳が知りたいと思ったことを勝手に検索できるようになってしまっている。


サーバーといった大型のデータバンクは、今でもまだ存在している。どんな風にそのデータバンクに人の脳が直結しているのかは、万人に明らかにされているわけではない。しかし、人の脳はデータバンクへと接続している事だけは事実だ。


パソコン・スマートフォン・タブレット等の機器が人体に切り替わっただけのこと(だけと片づけるにはあまりにも不適切だが……)多種多様の様々な情報が集積されたデータバンクサーバーは、今でも必要不可欠なのである。


人間の脳に保存できるデータの上限、並びに害悪をもたらすデータを一つの身に宿すのは、あまり好ましくないということもあり、データバンクという存在は今でもかなり都合のよいものである。


回線とどのようにして繋がっているのかも、秀一達自身、昔から自然に使えてしまっているので別段気にしたこともない。






~~~~~~





動画を見終わって、軽い説明をすると先生が秀一達に確認をとって来た。



『……とこんな感じだけど、しゅういちくん・雫ちゃんわかったかな?』


「スキルっていうのをどうやって使うのか。よくわからなかったですね」


雫もよくわからなかったのか、隣で頷いている。


『そうね……でも、ごめん、私自身さっぱりだわ……だって、私は研究者で戦ったことなんて一度もないもの……だから、戦闘自体を体感したことないから専門外ないのよ。二種類のオリジンスキルとベーススキルがあって、ベーススキルについては大体分かるんだけどね……』


『でも、今日の相手は事前登録しておけば、新人さん同士の戦いになるはずだから、相手もおっかなびっくりのはず』


『ただ、私にわかることっていうのは、闘技エリアで戦闘をお互いが承認すれば、アクセサリーで制限がかかっている君たちES発症者の力が、アクセサリー制御からいったん外れるのよ』


『十全にとはいえないかもしれないけど、戦闘が開始してすぐには困らないはずよ。それに戦闘不能で動けない場合は、勝手に回収班が動くからその場でのたれ死ぬことは絶対にないわ。アクセサリーがみんなの現在位置を確認しているからね』


(どちらにしろぶっつけ本番か、いい答えは見つかりそうもないな)


「とにかく戦ってみないとわからないってことですね」


『ごめんなさい……突っ込んだところまでは、私も説明できなかったわ』


「いえいえ、映像を見せていただけただけでも、身になりました」


『そういってくれると助かるわ』


「雫さん、大丈夫ですか?」


ただ見て、話を聞いていただけの彼女も、とにかくやってみるしかないとわかったのかしっかりと頷いていた。


しかし、あまり自信たっぷりという感じではなさそうだ。


とりあえず、新人さんの検索するわねといった榊原が怪訝な顔をしていた。


「あかりさん、難しそうな顔をして、どうかしましたか?」


『今日のバトル、もう二人とも申し込んであるのよね?』


雫と秀一は顔を見合わせて、榊原へと頷いた。


それを確認するやいなや、渋い顔をしはじめる。


『あら~、かなりまずいわね……雫ちゃんは問題なさそうね……エントリーが早かったから、雫ちゃんの相手は、順当に新人さんだわ』


『だけど、しゅういちくんの方は………ある程度のベテランね。上位ランクからの降格者だわ。降格したのは…………昨日の深夜かぁ』


『多分、タイミングが悪くて、人の目処が建たなかったのかも知れないわね。一度、対戦相手が決まると変更できないから……多分、確定だわ』


榊原は手に顎を乗せ、下を向きながら思案しているようだった。


「とりあえず、ベテランの相手が雫さんじゃないことだけ喜んでおきますよ」


『……秀くん、大丈夫?』


と雫がかなり心配そうな顔をこちらへ向けてくる。


「大丈夫です、とは言えないですけど、決まってしまった以上、どんな結果になろうとやるしかないです」


PCとにらめっこしていた榊原が申し訳なさそうな顔を秀一へと向ける。


『しゅういちくん、本当にごめんなさい。初戦闘はある意味、練習のはずなんだけど……こういった戦闘を一回やっちゃうと、システムの都合上、この次の相手も、こういう相手が選択される可能性が高くなるわ』


「……そうですか。あかりさんに文句を言っても仕方ないですよ」


『しゅういちくん、ごめんね……』


「顔を上げてくださいって……()()()()()ですよ」


(……あ、あれ?僕は一体何を口走っているんだ?らしくない?出会ったばかりだぞ?確かにらしくはないとは思うけど……)


戸惑いを隠し、笑顔で言うとほんの少し榊原も表情が柔らかくなる。


『……そうね、四の五の言っててもしょうがないものね。リザイン……敗北宣言も出来るから、あんまり無茶をしないように……お願いね』


「えぇ…わかりました……では、そろそろ、僕らは次の場所へ向かわないと行けませんので……」


まだ時間の余裕はあるが、早く到着しているに越したことはない。別れを切り出す理由はそれだけではないが……


『そう……わかったわ、本当に無理をしないでね……っていうと無責任かな……いってらっしゃい』


「では……」


と部屋を出て、元来た道を戻るとここに来る際に利用した榊原の車が研究所の入り口前で待機していた。


闘技エリアまでこれで運んでくれるらしい。


正直、秀一の初戦に関してだけは、かなり不安が残る形になってしまった。




二人が去った後の研究室……聞こえるはずのない謝罪、絶対に聞かせてはならない謝罪……


『ゴメンね、しゅう()()()……ホントにゴメンね……』


ほほを伝う涙が贖罪(しょくざい)の色を濃くし、誰にも届くはずのない榊原の声が静かに響いていた……

Eyes1に引き続き4500文字強の追加です。


もう一度目を通していただければ幸いです。

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