Eyes28 二人の想い
少し掲載が遅れてしまいました。申し訳ありません。
今回は少し短めです。
打ち合わせ通りGVG……すなわち、ギルドVSギルドを取り行う事となった。今は日程の都合上、許可申請が通るかどうか、フィアーユからの連絡待ちの状態となっていた。
皆が集合したあの日から二日たったものの、今だ秀一が目を覚ます気配はなかった。
各々の時間があいてはいるものの、ギルドメンバーはほぼ全員が見舞いに来ると言うイレギュラー……秀一はほんの数日の間にも関わらず、ギルドでは大きな存在となり、信頼を勝ち取っていたようだ。
雫も衛生上、風呂には入らなければならないし、食事も取らなければならない。それ以外の時は終始、秀一の手を握りしめている雫だったが、少しずつ少しずつ、雫の心にも陰りが見え始め、焦燥感が心を塗りつぶしていった。
コンコンと病室のドアから乾いた音が鳴り響く。
「……はい、どうぞ」
こんな辺鄙な場所に来るのは、ギルドのメンバーか看護用ヒューマノイド、それに加えて、一条先生以外には現れようはずもない。
『失礼するわね』
開いたドアの先に居たのは、榊原だった。
「……なっ!?今まで何をしていたんですか!」
『……っ!ごめんなさい、返す言葉もないわ。本当にごめんなさい』
ここにいる大人は本当に腰が低い。自分の非礼に関して、年下の者を前にし、頭を下げることになんの抵抗も持っていないのだ。もしかすると、榊原と一条がイレギュラーなだけかもしれないのだが……
「……そ、それで、先生、秀くんは元に戻るんですか?」
榊原は口をつぐみ、語りにくそうに重い口を開く。
『………………言いにくい事だけど、秀一くんが元に戻ることは決してないわ』
その言葉に愕然とし、紡ごうとした言葉が全く出てこなくなってしまい、頭を垂れてしまう。
『雫ちゃん、悲観的にならないで聞いてちょうだい。』
その言葉に顔を上げずに耳だけを傾けた。
『元に戻ることはないけど、前よりも安定した状態になるための前段階と思ってくれればいいわ』
はっとして顔を上げるがいっている意味が良く理解できなかった。
「それは一体どう言うことですか?この状態は最悪な状況ではないとでも言うんですか?」
『ええ、もちろんよ。彼を圧迫していた記憶領域を整理したと言えばいいのかしら……正直ね、秀一くんはパンク寸前だったのよ』
パンク寸前?状況が良くわからない。
「……一体、何が秀くんの記憶領域を圧迫していたんですか?ここに来てからずっと一緒にいましたけど、そんなそぶりは一度としてみたことはありませんでした」
『それは当然だと思う。異常に気がつける人間なんていやしないのよ。気づけたらそれこそ奇跡だわ』
(奇跡ってそこまでのものなの?秀くんのことに誰も気がつくことが出来ないって表現したけど、何故、榊原先生はそれに気付くことが出来たんだろう?)
「……先生、聞いてもいいですか?」
首を傾げ、頭には?が浮かんんでいる『何かしら……』と聞き返すがそのそぶりに違和感はない。
「何で先生は秀くんの変調に気が付く事ができたんですか?」
至極当然の質問に即答する。
『雫ちゃん、他言無用よ。あなたには話しておくわ……彼は一人じゃなかったからよ』
「え?」
突然訳のわからないことを言われて、自分が思っていたよりも度を越えていた為、返答に困ってしまった。
少し思案してみるが、やはりよくわからない「……それはどういう意味ですか?」と聞くがこの質問で本当にあっているのかも見当が付かない。
『これ以上詳しくはまだ話せないのよ。あの子から直接話を聞いてちょうだい。けど、今すぐには会えないのが問題ね』
またもや不可思議な事を言う。
「あの子って言うのは一体誰の事です?」
『ごめんなさい。それも秘密なの』
榊原は雫に全て話してくれているわけではなかったが、ここまで秘密主義だっただろうか?そこまでひた隠しにしなければならない理由がある。聞きたい衝動はあるものの、榊原の事である…教えてくれるわけもない。
「詳しく教えてはもらえないんですね……」
『ごめんなさい…こればっかりは私の口から話す事は出来ないのよ。一つ言える事はまだあの子も体調が万全じゃなくて、別の病院にいるのよ。数日中には直接秀一くんの所に行くはずだけど、連絡を送るタイミングが合わないかも……』
これ以上は聞く事は出来なかった。質問するのは簡単だが、ソレを出来るほど無頓着ではなかった。
「……わかりました。これ以上は聞きません。すいませんでした……」
自分が別段悪い事をしたわけではないのだが、何か許されていないのではという衝動に駆られ、頭を垂れた。
『わわっ!…雫ちゃん、頭を上げてよ。そんなことされるとおねぇさん困っちゃうよ……』
雫が頭を下げることなんて、滅多にしないし、下げてくるなんて思いもよらなかった。榊原が困惑の表情を露わにするのも無理もない。
「いえ、秀くんの為にやってくれている事を否定してしまうところでした。先生が秀くんにする事に間違いなんてないのに申し訳ありませんでした」
榊原が見せる秀一に対する視線や表情を雫はよく知っていた。雫が秀一に対するものと何ら変わらなかったからだ。そんな人間が自分の好きな相手に対して、間違った行動を取るはずがない。いや取れるはずもない。
そう心に決めて、榊原への直接的に秀一に関係する追求を雫は控える事とした。
「……話は変わりますけど、一条先生は何でここで仕事をする事になったんですか?」
『ああ、それはね、私の権限で引っ張ったのよ♪』
素っ頓狂な顔をしつつ「はぁ?」と口走ってしまった。
『まぁ、当然の反応よね。本当はね、本土の方であの人の力を十全に発揮してほしかったんだけど、秀くんがこういう事態に陥る可能性をゼロに出来なかったから呼んだのよ……呼び寄せたのは正解だったみたいだけどね』
「こうなるってことがわかってたって事ですか?」
『うん。こうなる予感はずっと前からね………』
「そうだったんですね……秀くんは何に責任を感じていたんですか?」
『秀一くんの昔話って聞いたことある?』
ふとそう言われ、思考を巡らせるが昔話を聞いた事など一度としてなかった。
聞こうとしなかったわけではなかったが、誰にでも秘密にしたい事の一つや二つはあるもの、無理やり聞きだすのは気が引けるし、私も聞こうともしなかった。暇がなかったというのもある。
『そっか……なら、これも私が話していいような内容の話じゃないわね』
さて、ここで読者の方々に問答だ…………
この隔離施設において、個人情報に関しては、プライバシーという保護という概念が存在してはいない。個々人の裁量によって今現状プライバシーは保護されているというある意味で綱渡り状態。
そもそも、あらゆる面でここは治外法権、日本の法律と言ったモノが碌に適応されない。全てがここで生活している者達の裁量で動いてしまう。
本来であれば、統括管理している日本政府がしゃしゃり出てきても何ら問題がない。管理するものがいなければ……いや、管理するという概念が存在していなければ、秩序は簡単に崩れ去ってしまうと言うことが分からないわけではないのだろうが、ここにはそんな明確なルールは存在していない。
なら、秩序は一体どう保たれているというのだろうか?よく考えていただきたい。
そもそも、ルールと言うのは人間同士が諍いを起さないようにする為に生れて来たモノで、そもそも理性や人格と言うモノが存在しなければ、そんなものは必要とされない。
それに法と言うものは管理する側の人間が優位に立つ為に作られており、もし、その管理者が不在であればその限りではない。
そこに君臨するものがいなければ、秩序はある意味で不要といっても過言ではない。
しかし、よく考えればわかりそうなものなのだが、ここに収監されている者達はGE、AEといったeyes syndromeを背負った者達だ。その者達に対して、果たしてそれが通用するだろうか?
ルールの存在しないこの世界は過ごしやすいのだろうか?
断じて否だ。
だとすれば、誰かを上にしようとしているようにも捉えられなくはない。
なぜそんなややこしいことをするのかと言われても、皆目見当がつかない。
脱線してしまった。さて、話をもとに戻そう。
「…………最近やけに先生、秘密が多いですね」
『うわぁ……痛いところを突いてくるね。私だって好きで秘密にしたい訳じゃないんだよ……話していいことと話しちゃ悪いことを精査しなくちゃならないのはどこの世界でも一緒……』
確かにその通りだ。すべての情報が開示された世界など怖くて仕方がない。
『雫ちゃんもわかっているとは思うけど、世界は万人に優しくなんて出来てないのよ……それを望んで、苦しんで、痛い目を見てきたからこそ、あなた達はGEなんていう厄介な立場に立たされているのよ……』
「…………確かにそうですね……でも!だからこそ、私には秀くんが必要なんです!」
『私だってそうよ。秀一くんが居なかったら、今の私はここには存在してない……私には秀一くんを助ける義務と責任があるわ…………好きという気持ちを全て度外視にしてもね』
義務と責任……そこまで言わせる存在なのだと、初めて雫は痛感させられる。
榊原のなか……深層意識の奥底に好き以上の感情が渦巻いているように感じられた。
二人の間に沈黙が流れる。
また乾いた音がドアから部屋中に木霊する。
『失礼するぞ。いつまでも待っておれん……』
と一条が頭を掻きながら、部屋へと入ってきた。
『あ、長々とごめんなさいね、一条くん』
『痴話喧嘩は聞いてるこっちまで辛くなる。あかりくんもその辺にしておきたまえ……気持ちはわからなくもないが、伝えなければならないことがあるのに、そんな問答をしていても、仕方なかろう?実用的な話を伝えに来たのではなかったのか?』
『すいません』と少し顔を赤らめる榊原の姿は珍しくもあった。
一条という男は、秀一を除いて、唯一榊原と対等に渡り合える相手……ハッとした顔をして雫に対してまたも頭を下げ、申し訳なさそうにしていた。
『私も気持ちに余り余裕がなかったみたい、ごめんなさいね……』
「……いえ、こちらこそすいません」
お互いが頭を下げ、握手を交わし、この場は丸く収まった。
『なら、本題に入るわね。雫ちゃん、少し長くなるけど、大事な事だから、聞いてちょうだい。とりあえず、ギルド戦の許可申請は通ったわ』
「はい、わかりました」
話の開始と共に一条は秀一の診察へと意識を切り替えた。
話を要約すると、本来は参加できる人間ではない雫と秀一がフィアーユというイレギュラーによって参加できるという事
そして、予定通りキングには秀一を据え、秀一を護り抜き、相手のキングを撃破することが目的である。
人数の多さに関係なく、二人以上の戦闘は、負ければ二敗、勝利で二勝がつくことになる。
少し違う点は、手元に入ってくるPTの量の多さだろうか……
今回は最高位がフィアーユのため、金額の設定はフィアーユの紅玉ランクが基本ベースとなる。
参加するだけでもかなりのメリットがあるが、敗北数2というリスクを背負うことを忘れてはならない。
うまくいけば、勝者にあっては即昇格、最悪敗者にあっては即降格。低ランクの者に取ってみると、ハイリスクハイリターンの大勝負。
確定の勝利にするために現状ギルドメンバー総出でしかも他ギルドのメンバーも加わって、訓練を手伝ってくれているそうだ。
こんな事になるとは誰が予想しただろうか?
秀一と言う一人の少年を中心に本人が預かり知らぬ所で人々の輪が広がっているのだった。
いつもお付き合い戴き誠にありがとうございます。
手さぐり状態から中々抜け出せず、遅筆が早くならず申し訳ありません。
いつもの通りですが、公開時間に関しては、08時か20時のどちらかになります。
公開日に関しては、一週間から二週間を目安に考えております。のでよろしくお願いいたします。