Eyes17 信頼を取り戻せ
気が付くとベットの上にいた。極度の空腹感で僕は目を冷ました。
ここは何処だろう?
身体を起こし、ふとあたりを見渡してみるが、病院…じゃない?と首を傾げていた。
内装の一部は、以前来た研究所を彷彿とさせており、ベッドが白を基調としていない。何故か知らないがどピンクだ……
服装は病衣ではなく、普段着なのも気になるところ……昨日着ていたものではないし、僕が所有しているものでもないので、ここで着せかえられた事はわかる。
僕は生きていた。脳が焼き切れるかと思う程の激痛……今、現状痛みと呼ばれるモノはまったくといっていい程感じることはない
何故、僕は生きているのだろうとまた首を捻る。
それに今の時間は、一体何時なんだろうか。
5月25日 午後1時!?
丸一日が経過していた。昨日何があったかを思い出してみる。
空矢さんと共に戦闘を行い、辛くも勝利を収めることができた。
そのあと、緊急通達が来て、理由はよくわからないが女性(?)と闘った。
一撃加え、激痛を感じた後の記憶がすっぽりない。
セルフサクリファイス……何であの時は、意識が飛ぶまで自分がダメージを背負うことになったのだろうか?
何が以前の2回と違ったのかと検証してみる。
相手の力量の違いがまず一点だろうか?
青玉と翠玉を比較してみると翠玉を攻撃した時の方が身体にダメージが蓄積していた。
その二つと今回の暴走(?)を比較してみると、攻撃の際にフィールド壁を叩いている様な感覚があった。
つまり、相手の防御力の高さに跳ね返ってくるダメージも比例するってことなのかな?
それにオリジンスキル発動時にベーススキルが解除されていた。この現象もよくわからない。
逆にセルフサクリファイス使用後にベーススキルを発動したらどうなるのか、検証してみる必要性もありそうだ。
もうひとつわかったことは、この僕のオリジンスキルは、敵の強さに比例して攻撃力が増すってことだ。
もし、青玉に対して、暴走のときの攻撃力が発動したのなら、生きてはいないだろう。
おそらく、一撃必殺ではなく、一撃必倒の攻撃が繰り出されるように調整されているようだ。
僕の方に返って来るダメージは、僕の攻撃力にも比例しているとも考えられないだろうか?
とにもかくにも、現状下位ランクである僕が上位ランクに勝つことが可能であることはわかった。
しかし、これは諸刃の剣であることは明らか、自分の命と引き換えになるかもしれないことを考慮に入れなければならない。
ガチャっとノックもなく、ドアが開いた。
『あっ、秀くん起きたんだね。』
「えぇ、おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしました。」
??と雫さんが首をかしげている。何か変な事を言ったかな?いつもの態度すぎる感が否めない。そこまで僕の傷は深くなかったのだろうか?
『何度も言わなくても大丈夫だよ。秀くんさえ無事なら、私はそれでいいんだから……』
えっ?何度も言わなくても大丈夫?どういうことだ?
再び、ノックもなくドアが開かれる。
『あっ、起きてるみたいね。秀一くん寝てる間に検査のは済んでるから……って、ん?どうしたの?鳩に豆鉄砲食らったような顔して……』
「いえ、何でもありません。お気にせず……所で検査って何です?」
恐らく、寝ぼけて雫さんに何か言ったのだろう……と思い有耶無耶にしてしまった。
この疑問を明らかにしなかった事を誰が責める事ができただろうか?後にとんでもないことが起きるとも知らずに……
『まだ、意識が混濁してるかな?君はね、一度心肺が停止したんだよ。雫ちゃんのスキルに助けられたって聞いてるけど?』
「心肺停止!?そんなにダメージを負って、何で僕は生きているんですか!?」
『それがねぇ~……私たちにもよくわからないのよ。雫ちゃんがスキルを使えれば、わかると思ってさっき試してみたんだけど、雫ちゃんの思ったようにスキルが発動できなかったのよ。』
雫さんのスキル?そんなものが存在するのか?僕はその現象を見ていないので、それがどんなものなのかはわからないが、雫さんが僕を助けてくれたことは確かだ。
「改めて御礼を言います。雫さん本当にありがとうございました。」
雫さんに向き直り、深々と一礼する。命を救ってくれた恩人である。守ろうと必死になっていた人に助けられてしまった。頭を下げずにはいられなかった。
『そんな頭なんか下げないでよ。私は当たり前のことをしただけだよ。私にあんなことができるなんて思わなかったけど……』
顔を真っ赤にしながら、雫さんが申し訳なさそうにしている。過剰にこちらからへりくだるのは、間違いなのだろう。同い年の同室の人間に頭を下げられ続けるのは、あまり気分のいいものではないのかもしれない。顔を上げよう。
『ほんとに雫ちゃん様々ね。でも秀一くんがいなかったら、どれだけ被害が大きくなったかわかったものじゃないわ。怪我人は出たけど、死者が出なかったのは、秀一くんが時間稼ぎをしてくれたおかげね。でも無茶はしちゃダメよ、あなたが使ったスキルは、あなたの身体の無事なんて考えてくれるような代物じゃないんだから……』
「無闇やたらにスキルを使用することはなるべく避けます……時間稼ぎしかできなかったってことは、あの一撃であの人を打倒することはできなかったんですね?」
『あのね秀一くん、そもそも秀一くんのランクで一撃を加えられるほうがおかしいのよ。それに攻撃をよけることすらできないはずなのよ。それができたきみはイレギュラーなのよ。』
「多分ですけど、僕があのオリジンスキルを所持していなかったら無理だったと思います。僕のセルフサクリファイスと暴走が同系統のスキルであったからできたことですよ。」
『そぅ………』
榊原先生は顎に手を当てて、何か考え始めてしまった。思考を停止させるのも気が引けるので、雫さんに話を聞こう。
「雫さん、わかる範囲で結構なんで教えていただきたいのですが、ここは一体どこですか?榊原先生がいるって事はもしかしてCEエリアですか?」
『ぅん……よくわかんないんだけど、あの女の人と一緒に検査するからって秀くんと私も検査にここに連れて来られたみたい。』
「雫さんも検査ですか?」
『ぅん、オリジンスキルの確認って言われた。秀くんの方のスキルは使っちゃうと身体に負荷が掛かりすぎちゃうから、身体に異常がないかどうかをチェックしただけみたい、致命傷みたいなものはなかったって言ってたけど念のためポッドの中に入ったみたい。私はスキルの発動すらできなかったけど……発動条件がハッキリしてないから、かな?』
「わかりました。あっ、あと僕が闘った女性は無事ですか?」
『詳しいことはわからないけど、身体の方は問題ないみたい。検査が終わったら、皆の所に帰るとかなんとか、言ってたかな?』
ホッっと胸を撫で下ろす。とりあえず向こう側に致命的な障害等を与えることにはなっていないようだ。
『秀一くん』
唐突に榊原先生がこちらの会話に割り込んできた。少し雫さんがむすっとした顔をしていた。
「はい、なんでしょうか?」
『さっきの話を詳しく聞かせてもらえるかしら?きみのスキルと暴走が似ているって話……』
「えぇ、構いませんが直感的な部分が大きいので、正確ではありませんがよろしいですか?」
『問題ないわ。暴走について、少しでもわかるなら、対応が出来やすくなるかもしれない。』
まずは、自分のスキルについての説明をした。
以前、行った人形に対する攻撃実験
それとスキルを使用した青玉・翠玉に対するスキル使用。
そして、今回の暴走者に対してのスキル使用についてだ。
セルフサクリファイス……言葉通り自己犠牲。自分の身体を犠牲にして相手を打倒する必倒攻撃
この技には、確認できるか否か微妙な溜めの動作がある。そこから繰り出される攻撃が僕の放てる現在の最大出力だ。
一方、暴走状態の敵は攻撃の際に僕のスキルと同様に多少の溜めの動作がある。
しかし、威力自体は相手の方が上、一撃必殺。僕の必倒攻撃よりも一段階上。
もしかすると、ランクが上がって防御力が上がっていけば、防げないことはないのかもしれない。
僕が青玉だから無理だと思っただけかもしれないと付け加えておいた。
『溜め動作から攻撃予測かぁ……そんなにうまくいくものかしら?』
「恐らく何ですが、僕の動体視力が一時的に上昇したのも、攻撃をよけられた理由のひとつだと思います。」
『動体視力の上昇……初動の感知……なかなか厳しいわね。やっぱり上位ランカーじゃなきゃ無理ね。時間の変更をやっぱりした方がいいかしら』
「時間の変更ですか?」
『今現状ではね、ここに収容されている人数かなり多いし、地下フィールドと地上フィールドとあるでしょう?下位ランクの子達と上位ランクの子達が同時間に闘ってたから、今回戦闘が早く終わった秀一くんと空矢くんが、戦場に到着することになっちゃったのよ。それに、地上で戦ってる下位ランクの子達じゃ役にまったく立たないのよ。緊急通達を出した人間も馬鹿じゃないかしら、上位ランクの人間を集めなきゃいけなかったのに。暴走なんて最近ほとんど起こって事もなかったから、気が緩んでたのかもね……』
「暴走が発動した原因って何かあるんですか?」
『基本的にはトラウマが原因って言われてるわ。だけど、暴走しない子の方がほとんどなのよ。暴走適正みたいなものがあるのかどうかわかってないのだけど、あの子の場合、単独でAE発症者の男性と会う、これだけで暴走しちゃうのよ。』
ヤレヤレと首を振っていた。どうしていいものやらと悩んでいるように見えるのは、僕の気のせいではない。
『あの子のバトルフィールドは、周囲5Km圏内にGE・AE含めて男性は配置していなかったはずなのよ。あの場に何故、男性がいたのか原因を調べてる所よ。』
空矢さんがしくじったな、みたいな事を言っていたが原因がわからないということは、管理側の失策というわけでもなさそうだった。
『今は、あの子だけで済んでるし、基本的にはギルドの子達があの子を見ててくれてるから安心してたんだけど、今回は本当に皆に悪いことをしたわ。』
意図的に誰かが準備した?そうは考えられないだろうか?いやそれはわかっていることだろう。ならば、誰がこんなことをしたのかということだ。
「暴走を引き起こすことで得をする人物がいるってことですね。」
『何が目的なのかハッキリしないけど、AE発症者であることは間違いないわ。調べてはいるけど、全記録を洗い出すのは、かなり時間が掛かるわ。』
「僕らに何か出来ることはありますか?」
『秀一くんなら、そういうと思ったわ。けど、やめて頂戴。これ以上きみに無理をさせるのは、私が私を許せなくなっちゃう。』
堂々巡りになりそうだな。問題ないならここは退散させてもらおうか。
「ところで、榊原さん。僕と雫さんのチェックはもう大丈夫ですか?」
『えっ、えぇ、問題ないわ。』
「なら今日のところは、帰らさせてもらってもよろしいでしょうか?」
少しポカンとしていたが、こちらの意を汲み取ってくれたのか、大きく頷いてくれた。
『そうね。検査も聞きたいこともある程度聞けたし、今日は帰ってもらっても大丈夫よ。でも何かあったらすぐに連絡してね。』
「わかりました。雫さんも大丈夫なら一緒に行きましょうか。」
ただ聞き役に徹していた雫さんも頷いて『一緒に帰ろ』と手を握ってきた。
今度は榊原先生がむすっとした顔をしている。日向さんが言っていたことはあながち冗談じゃないらしい。こんなやつの一体どこがいいんだか……
そこでふと聞きたいことを思い出した。
「あっ、そうだ。聞きたいことがあったんです。失礼な質問だとは思いますが、聞いてもよろしいでしょうか?」
『失礼?何かな?』と首を傾げる。
「榊原さん、御歳は御幾つでしょうか?」かなり畏まった言い方になってしまった。逆にこれも失礼だろうか?まぁいい、もう手遅れだ。
『18だけど……』
「えっ!?研究所の所長なんですよね?ごまかしてないですか?」
ぷくぅっと顔が膨れ上がった。不味い、非常にマズイ。
『嘘言ってないもん。そんなに言うならデータを確認してみてよ。』
「データを確認してみろって……あぁ、データリストそこまで詳細に載ってるんですね。」
以前渡されたデータを開示してみる。榊原あかり、榊原あかりっと
……ほんとに18歳だ!生年月日までご丁寧に記載されていた。
別に僕に隠す必要性は特にないし、嘘も別段ついているようには見えない。でもどこをどうやったら、その歳で研究所の所長なんて役職に就けるんだろう?
職については納得するに至らないが、この若さは本当に年齢からくるものだったんだと違和感が凄い……
とりあえず、謝罪はしなければ「申し訳ありません、誤解をしていました」と頭を垂れる。
『わかってくれればいいよ』と言いつつも全然納得できませんって顔をしている。
言葉にしても、納得はしていただけない様子。仕方ない。
「お詫びが何か出来ればよいのですが……」
目を輝かせながら、にじり寄ってきた。『何でもいいの!?』
何が何でもいいんだろうか?何かがマズイと心の奥底で警鐘が鳴り響く。
「少年が許される範囲でお願いできますか?」
『ちぇ~っ…』しょうがないなぁという表情に何となく何をしたかったのかが想像出来る。
全く何も興味がないと言えば嘘になるが、雫さんの手前こんな話はしたくはないし、されたくもない。
雫さんの目尻がぴくっと競り上がったのが確認できたが、とりあえず起こるそぶりはなさそうで良かった。
「秀一くん、色々あって忘れてるかもしれないけど、今日が何の日か覚えてる?」
何か忘れている気がする。昨日の朝までは覚えていたはずの事……えっと、なんだっけ?
ふと、僕自身のスケジュールを検索した。今日は何の日?ふっふぅぅ~♪
っと冗談は置いといて……あっ!榊原先生のところにご飯を作りに行く日だ・・・・・
これはどうすればいいのだろう?え~とどうしよう……いい答えが見つからない。
逡巡していると、榊原先生が雫さんに向き直る。
『雫ちゃん、お願いがあるんだけどいい?』
『……何ですか?』
少し嫌そうな顔をしている。僕に見せる顔ではないので、何となく気持ちを察するが、今声をかける事は出来ない。
『秀一くんを一日、私のところにいさせたいんだけどいいかな?ホント今日は、私のところでご飯を作ってくれるっていう約束だったのよ。』
『むっ……一日中一緒にいて何をする気なの?』
『《・》ナニをする気なの……って言うのは冗談で、ちょっと積もる話を、ねっ……』
と手を合わせながら少し頭を下げていた。
前のセリフは余計だなと思いつつも雫さんの反応を僕は見ていた。
『むぅ~……全然、下心はない?』
『な、ない……とは言い切れないかな?ん~、でもね、この話は、秀一くんに直接関わってくる昔話だから、許可なく話したくないかな……』
ちらりとこちらを見た。やっぱり僕の過去を知ってるのか……
「雫さん、僕からもお願いします」
深々と頭を下げる。
『流石に朝から晩までっていう訳じゃないよ。』
雫さんが真剣な眼差しをぶつけてきた。
『いつか、私に話してくれる?』
そんなに容易な事のようには思えない。榊原先生がこれだけ渋っているのだ。聞きたくもないような内容に違いない。
それでも、雫さんは知りたいと言ってきている。
家族かぁ……………
『その時に私のことも話す。それならいい?と言うよりも知っておいて欲しい』
キズの舐めあいはしたくない。けど、そういう感じじゃない。そこには悲壮感はなく、強い意思が感じ取れた。
「……僕は、ある時期の記憶がありません。思い出したとしても、綺麗な話ではないと思います。聞かせるのも心苦しい内容でも構わないなら……」
『大丈夫っ!』
拳を握りしめながら、いつもはあまり見せない笑顔をくれた。
「全てお話し出来るかは、わかりませんがそれでよければ、雫さん、よろしくお願いします。」
と握手を求めた。少しビックリしていたがその手を握り返してきた。いつものオドオドしたような感情は、雫さんの手からは感じる事は出来ない。
雫さんが納得してくれたようで良かった。その行動を確認し、榊原先生が僕へと…
『そうそう、それとね…私少しの間缶詰め状態になるから、次に合うのは二週間後でもいいかしら?今回の暴走の件の報告書を上げたり、その対応策とか、研究でも詰めなきゃならない事とか出来ちゃったから……』
そう言うと、少し寂しそうな顔をしていた……それほど余裕がないらしい。
お互いに握り合っていた手をどちらからと言わずに離す。
早期にこの話が出来れば、それに越したことはないのだが、僕等には時間があっても、榊原先生にとってはそれほど時間があるわけではない。
僕に対して時間を開けてくれると言ってくれているのだから、それまで待てないとこちらが駄々をこねるのはお門違いもいい所……
「わかりました、では6月8日ですね。バトルスケジュールは調整します。一日開けられるようにはしておくので、時間の指定はよろしくお願いします。」
『その日までに何とかこちらも時間を開けられるように努力するわ。どちらにしても、二人ともあんまり無茶はしないでね…私には、見てることと手助けだけしかできないから………』
直接バトルをする事が榊原先生にはできない。システム面などでフォローをする事は出来ても、最終的には傍観者だ。
「出来るだけ……ということにしておいてください。今回の様な事が毎度毎度のようにあるわけではないでしょうが、助ける事が出来る力を持っているのに、その力を奮い助ける事が出来ないのは僕にとって苦痛でしかないので……」
『まぁ…待っている人間がいる事だけは忘れないでね…話はこれまでにしましょう。』
「そうですね。何かあったら連絡をする事はあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。」
『わかったわ……じゃあ、雫ちゃん後はお願いね……』
その言葉に雫さんは大きく頷き、榊原先生は部屋を出て行った。
特に手荷物はないので、すぐに身支度を終えて、家路へとついた。
いつもお付き合いありがとうございます。
投稿日を一日間違えておりました。その為、一日二話連続投稿になってしまっています。
もしよろしければ、そちらも読んでいただければ幸いです。
次話更新に関して、書き上がればですが、明日9月15日08時にて更新を予定してますのでよろしくお願いします。