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Eyes13 相談、目覚め

2016年9月9日改編完了

待ち合わせに指定された場所は病院から出て、すぐの場所にあり、数分と経たずしてシックなデザインのカフェに到着した。


ガラス越しに中を確認してみると、すでに3~4グループ…総勢15~6名ほどがそこにいて、御目当ての空矢が一体どこにいるのか、発見することが出来ずにいると不意に後ろから声を掛けられた。


『ん?なんだ?入んねぇのか?』


自分より少し年上の青年が立っていた。画像データで確認が取れているのだが「いえ、待ち合わせをしてますので、お先にどうぞ」と敢えて道を譲った。


『見知らねぇ顔だな……ってこたぁ、やっぱおめぇが雪村秀一か?』


175cm位だろうか。秀一より背が高いため、少し見上げる状態になってしまう。


ややツリ目で外の世界でお会いしたら、出来れば避けたくなる人もいる眼光の鋭い眼つきをしていた。秀一から好戦的な表情や態度をとる事はせず、無難な対応を返す。


「はい……では、あなたが空矢さんですね」


『その通りだが…バラちゃんに聞いてた通りの固ってぇ性格だなぁ』


(バラちゃん……バラちゃん?誰の事だろう?)


誰の事かわからず、怪訝な顔をしてしまう。いや、思案顔と言った方が正しいだろう。


『あぁ、わりぃな……榊原の原をとってバラちゃんだ。先生って言った方がわかりやすいか?俺たちが呼んでるあだ名みてぇなもんだ。気にしねぇでくれ』と答えてくれた。


「なるほど、そういうことでしたか……不躾(ぶしつけ)な態度を取り、申し訳ありませんでした」


といつもの通り一礼をする。


『やっぱ、ホントに固ってぇなぁ……正直にやりづれぇ……まぁ、その、なんだ……明日はパートナーだ、もうちっと気楽にいこうぜ。そうだな…シュウって呼んでも構わねぇか?』


手を振りながら、一見投げやりのようにも聞こえるが、その言葉には優しさが(まと)われていた。人を見掛けで判断してはならないとはまさにこの事だった。


「呼び方はそれで結構です。ですが、明日は背中を預ける先輩です。あまり砕けすぎてしまうのも問題ですし、申し訳ありませんが、ある意味でこれが僕の自然体ですので……」


申し訳なさそうな顔をしてはいるが、否定の意思は固かった。


『その歳で、それが自然体かよ……これ以上追求しねぇ方がよさそうだな。まぁいいか、明日はよろしく頼むぜ、シュウ』


と握手を求めてきた。笑顔で握り返す。


「こちらこそ、よろしくお願いします。このまま入口で話していると、迷惑になりそうですし、中に入って話しませんか?」


『おぉ…そうすっか』と空矢を先頭にしてカフェの中に入る。


代わる代わるではあるが、視線が突き刺さるのを秀一は肌で感じ取った。


席に着くと、ウエイトレス(ガイノイド)がお冷とおしぼりを持って来る。


『注文はお決まりでしょうか?……お後の方がよろしければ、そちらの呼び鈴でお呼びいただけますか?』


『俺は、コーヒーでだけいい、シュウ、おめえはどうする?』


「……僕も同じものでお願いします」


メニューに伸ばしかけた手を引っ込める。


『じゃあ、コーヒー二つ』


『かしこまりました。それでは、少々お待ち下さい』とカウンターへと下がっていった。


『さて、ほとんど必要ねぇが、自己紹介しとくか。バラちゃんからデータを貰ってだろうから分かっているたぁ思うが、空矢惣一、ランクは翠玉だ』


「改めて……初めまして、雪村秀一です。ランクは青玉、入りたての新人です。まだここにきて、一週間ほどしか経っていません。ご迷惑をお掛けする事を承知で、よろしくお願いします」


頭を下げ、反応を待っていると、目を瞑り、両手を広げ、首を振っていた。


『翠だぁ、青だなんて事は気にすんなよ。とりあえず、明日はパートナーだ……バラちゃんからある程度聞いてっけど、誰かを助けてやりてぇんだろ?』


と先程のおちゃらけた様な態度とは違い、真剣な眼差しをこちらへと向ける。


言葉を発さずに、頷き返す。


『だったら、俺が手伝うのには、十分すぎる理由だ』


軽く秀一が首を傾げる。


「それは、どういうこ……」


『失礼します。お待たせいたしました。当店のブレンドコーヒーです。以上でご注文はよろしかったでしょうか?』


秀一が話を聞き出そうとする前に注文していたコーヒーが席へ配膳された。


「あ……はい、僕は大丈夫です」


『俺も、大丈夫だ』


『では、何か御用がありましたら、何なりとお申し付けください』とカウンターへと下がっていった。


お互いに一口、コーヒーを流し込む。朝はブラックに限る……とは13歳の味覚ではそれは言い難い。


しかし、眠気覚ましには、丁度良かった。口いっぱいに広がる苦みと酸味が脳を再度活性化させてくれていた。少し顔をしかめるが、空矢がいるためいつもの表情に何とか整える。


「それで……空矢さん、何故、協力してくれる気になったんですか?空矢さんにとって、僕に協力する事って、何の利益にもならないんじゃないですか?」


『それこそ、愚問だぜ……俺たちは何を欲してここに来たんだ?』


(唐突に何を言い出すんだろう。何を欲してここに来た?……どういう意味だろう……僕らはここに連れてこられたんじゃなのか?他の人達に危害を加えるかもしれない異質であり異物である脅威の存在として……)


『質問を変えるぜ、俺たちは何故、GE発症者なんていう存在になっちまったんだ?』


「……僕らが被害者で、加害者がいたからでしょうか?」


『そりゃあ事の始まりだろ。そうじゃねぇ……』


『誰かに助けて欲しかったから、誰かに知って欲しくて、GEになっちまったんじゃねえのか?』


繰り返すように絞り出すように「誰かに知ってほしくて、助けて欲しかったから………」自分に確認するようにそう呟いた。


(ホントにそうか?そんな事を僕は願ったのか?……思い出せない)


『そうだ。絶望の中で手を伸ばしたんだ。けど、その手を誰も握ってはくれなかった……そうだろ?違うのか?』


「………寧ろ、僕は手を伸ばそうとすらしなかったはずです。それでは意味がなかったから……」


『やっぱり、おめえは珍しいな。手を伸ばしたら意味がねぇか……バラちゃんが目を掛けているだけあるってことなのか…』


『まぁ、とにかく、GEになったことでそんな状況下から俺たちは解放された……今、現状で苦痛を感じているか?』


「苦痛は全く感じていません。今は、この生活に慣れる事ややらなきゃならない事が色々ありすぎて、手に余ってるから忘れているって感じもしますけど……」


『そっか……それでもお前は、そういう救って欲しいってもがき苦しんでる手があったら、その手を引っ張り上げてやるんだろ?』


少し下を向いて考える。


(自分の言った通り色んな事がありすぎて、自分から手を広げられる様なそんな状況ではない、ないけど……)


「……助けて欲しいと苦しんでいるのを、ただ見過ごすだけなんて、僕には到底出来ません」


『それが今、俺達がここに存在する理由だと俺は思ってる』


「救いたいという心がですか?」


『それでも、ここにいるGEのやつら全員、万人が万人同じ事を思っているわけじゃねぇ……例え苦しみから解放されたって、このふざけた世界に絶望してここにいる奴がほとんどだ。恨みや妬み、色んなもんを抱えてここに来た』


『1週間に一度は闘わなきゃいけねぇなんてルールのせいで、そんな妄執もいつしか忘れちまう。そんな奴らに存在価値があるとすれば、救って欲しかったという心を、自分が誰かを救いてぇって気持ちに変えて闘う事なんじゃねぇかって俺は思う』


『もちろん、自分の為に闘って生き続ける事…それも悪い事じゃねぇ。ただ、漫然と生きてぇならそれでもいいんだぜ。別に誰かが困るわけじゃねぇ。それでお前が満足ならそれは間違いじゃねぇさ』


(確かに思うところはある。僕らGEの存在価値って何だろうか?それよりも僕の存在価値か……)


「僕は……」とつぶやく事しかできなかった。


『まぁ、これぐらいにしとこうぜ。それより明日の共闘の話だろ』切り替えるように同意を求めてきた。


「そうですね。明日はよろしくお願いします。具体的にどのように動けばいいのかを教えていただけますか?」


『特にこれといった決まりはねぇ……相手を倒すか降参させれば勝ち……この辺のルールは変わんねぇ。2対2だ。それにお前はランクが一つ下、明日相手にする奴らは、恐らく二人とも翠かその上だ』


『まぁ、俺が翠だから、それに合わせられるだろうから、その上のランクが来るってことはまず考えにきぃけどな』


「ルールが特に変わらない以上、連携がモノを言うってとこですか?」


『その通り……ここに来る前、何か仲間とかで組んでやった事はあるか?』


「小学校のころに少しサッカーをやってたくらいでしょうか?他のスポーツ系は基本的に陸上のような一人種目がほとんどですね。他にピンと来るものはないです」


『戦闘技能教育……だったか?その成績はどうだったんだ?』


「あまり、誉められた成績ではないです。避けてばかりで、攻撃に関しては、ここに来てから初めてやりました」


『バラちゃんの話だと、バランサータイプのはすだが、回避がメインだとうまくねぇなぁ』


「バランサータイプ?」


『それすらも知らねぇのか……こりゃあ、よわったな』


『まぁ、その話はまた今度だ。しゃーねぇ、今回は俺がフォロー役で立ち回る。おめぇが動きてぇように最初は動け。ターゲットを決めたら、もう一人は俺が引き受けてやる。後、何となくでいいから俺が大体どこにいるのか、肌で感じられるようにしとけ』


「は、肌でですか、何とかしてみます………ところで、空矢さん失礼ですが、オリジンスキルは、持ってらっしゃるんですか?」


は?という顔をしている、何か変な事をきいただろうか?


『何を当たり前のこと聞いてんだ?』


「だって、一番初めの説明でオリジンスキルを持っている人間はあまりいないって……」


『そりゃあ、自衛隊とここを管理している政府のただの勘違いだ。ほとんどが一撃必倒系が多いからな。まぁ、防御を貫通出来なきゃ意味がないもんばっかだしな。それに、何らかの理由で一瞬で戦闘を終わらせてぇかここぞって時しか使わねぇから、なるべく隠しておきてぇってことだ』


「じゃあ…皆、何かしらオリジンスキルを有しているってことですね」


『じゃなきゃ、必中必倒なんて真似できねぇだろうが……あぁ、そうか、お前ら確か集団施設に入ってねぇんだったか。それじゃ、教えてもらえねぇのも無理はねぇ』


『……俺が呼ばれた理由はこれか』と小声でつぶやいた。


『だからってわけじゃねぇが、相手が何らかのオリジンスキルで倒そうとしてくるって頭でいねぇと真っ先にやられるぞ』


「ヒットアンドアウェイを心掛けろってことでしょうか?」


『そればっかじゃねぇ……がその考えは悪かねぇ。暗視投擲スキル持ちも中にいるからな。飛んでくるもんが見えねぇ場合もある。武器使用に当たるが、持っているのもほんの一瞬だし、その辺の石ころとかを投げてくっから、厳密にいえば、武器使用には当たんねぇ。それにオリジンスキルを使わねぇと、最後は締めれねぇケースもあるしな』


「暗視投擲スキルに……一撃必倒系ですか」と自分のスキルについて考えてみる。



(あの時の僕の攻撃は、一撃必倒ではないだろうか?でも、自分では何が起きたのか確証はない)


『因みにだが、俺が知っているオリジンスキルのほとんどが密着系だな。そうじゃねぇのが、さっきの暗視投擲だ。まぁ、GE側にもAE側にも、変わり種みてぇのもあるって話だぜ……』


「空矢さんのスキル、教えてもらえませんか?」


『わりぃけど、それは出来ねぇ……言っただろ、なるべく、皆秘密にしておきてぇんだって。確認してぇなら、余裕がありゃあ、戦闘の最中にでも確認しな』


「そうですよね。分かりました。すいません、無理を言いました」


『俺は、自分を晒すみたいでスキルを使うのも嫌なんだぜ。ありゃあ、素の自分に近ぇもんがあるからな』


(また、おかしなことを言う、素の自分に近い?スキルがか?だとすると、素の僕って何だ?)


『まぁ、てめぇでわかんねぇ事を掘り下げても、仕方ねぇだろ。とにかく要は、相手の弱点を探って、そこを突いて、相手のオリジンスキルに簡単にやられねぇようにする。それが明日のランクの低ぃお前のやることだ。違うか?』


「その通りですね。分かりました」


『現実に引き戻す為にキツイ事言ったな。すまねぇ……話を変えんぞ、次にポジショニングの話だが……………………』











話も一段落し、雫がいる病院へと戻ろうとすると


『俺も、ちっとついていっていいか?』と唐突に言いだした。


「構いませんが、何故?」


『あ、いや、やっぱいい。今の精神状態で突然知らないやつがいたら、気が動転するか……今度、お前のツレと一緒に俺んところに来い。お前とツレ、二人にしっかりとした闘い方ってやつを教えてやる』


「分かりました。為になるのであれば、二人で今度お邪魔させていただきます」


『最後まで、ホント固ぇ野郎だな。まぁいい、ただ……あんま無理は、すんなよ。じゃあまたな』


とだけ言い踵を返し、病院とは逆方向へ歩を進めていた。


「ありがとうございました」と姿が見えなくなるまで一礼をした。




病院へ到着すると、雫の病室が少し慌ただしくなっていた。


「なにかあったんですか!?」と少し声を張り上げてしまった。


『いえ、脳波に動きがあったので、もう間もなく目が覚めると思います。検査、点検等の準備を今している最中です』


「大丈夫なんでしょうか?」


『恐らく問題はないと思いますが、それを確認するための準備ですので……申し訳ありません、まだ準備が途中ですので、少し失礼します』


と頭を下げて、再度資材の準備をし始めていた。


準備の邪魔をしてはいけない。少し離れていようかと思っていたら


『雪村様……』と朝のガイノイドに声を掛けられた。


『丁度戻ってこられるのが確認できたので、連絡は入れませんでした。申し訳ございません……中に入ってお待ちになりますか?』


と言われ「お願いします」と部屋の中へと通された。ヒューマノイドは基本的にスタンドアローンらしい。


細かいチェック項目と言っても意識がはっきりしているかどうかの一問一答形式のものだったり、瞳の色彩チェックなどの脳にしっかりと情報が伝わっているかとかそういう五感を確かめる物だったりする。


別に心電図を取ったり、CTにかけたりとかそういう類の代物ではない。そんなものは、この病院内にいるだけで分かってしまうのだから……


だから、電子機器といった類のものは、それほど運び込まれてはいない。


秀一自身が焦っていても仕方がないのは分かっているのだが、こういう状況下は視野狭窄になりやすい。


彼女を置いて、打ち合わせに出かけはしたが、起きた後に当分、雫の傍を離れない方がいいのであれば、粗方の用事は彼女が目覚める前に済ませておかねばならないのは事実だった。


置いて打ち合わせに行ったことに関して後、悔の念がないといえば嘘になる。


秀一に出来る事があるとすれば、今からだ。


効率、非効率の事ばかり考えているから後悔する、そういう訳ではないが、申し訳なさだけは残っている。


榊原が通信を切る前に残した言葉『あなたの笑顔が雫ちゃんにとって最大の薬よ』これがある意味で尾を引いていた。


雫に一番近い位置にいる。手を握ってみると、握り返してきた。


それが呼び水となったのかは不明だが、雫が身を捩って、うっすらと目を開けた。


「雫さん!」音量は抑えつつも、雫に呼びかける。


『……ん~?秀くん、どうしたの?つらそうな顔してるけど?』


「よかったぁ~……」安堵の声を漏らし、努めて笑顔を作った。


『あれ?ここは?病院?』目が覚めたものの、何故ここにいるのかが理解できていなかったらしい。


『よろしいですか?今、ここは病院の一室です。昨日の戦闘は覚えていらっしゃいますか?』


一問一答形式の質問が始まる。


昨日の出来事から、名前、年齢、生年月日、その他諸々のここに来てから起こったことについて、少しずつ確認していった。


戦闘前後の記憶は多少飛んでいるようにも見受けられる……秀一も隣で聞いているが、そのはっきりとした口調に、戦闘前後の記憶以外、おかしな点は全く見付けられなかった。


『質問事項も他にありませんので、身体に違和感がないかどうか試してみてください』


身体を捩ったりして、自分自身が変でないかどうかを確認すると『問題はないと思う』と安堵の声を漏らしていた。


『では、最後に立ち上がって少し廊下を歩いてみてもらえますか?』と外へ出てに歩くよう催促した。


『……ぅん、やってみるよ』と言って秀一の手を支点にし、危なげなくベッドから降りた。


少し名残惜しそうに手を離すと『……大丈夫そう』とその場で軽く足踏みをして確認している。


何かあっては不味いと思い、自分が支えになれるように雫の前に出る。


『そんなに気にしなくても、大丈夫だよ』と頬を染めながら、微笑を浮かべていた。


スライド式のドアを出て、問題なく歩行出来る事を確認して再度部屋へと戻った。


『問題はなさそうですね。特に異常な数値は見受けられませんが、血液を多く失いました。生成された量は、かなりのものですが、戦闘前よりは少ないでしょう。戦闘を行う事は好ましくない状態ですので、最低でも、あと四日程は様子を見ていただけますか?』


看護師ガイノイドの言葉に雫は、唇を少し噛んでいた。


『わかった……』と小さな声で返事を返していた。





突然、ガイノイドからメッセージが飛んできた。


何だ?目の前にいるのにと少し怪訝な気持ちになったが、雫さんがいる為、表情には出さない。




GYH-8:雫様の容体は、正直な事を言いますと、確実に安定しています。しかし、榊原博士からのお達しがありました。『例え、安定していても、自分の落ち着きを取り戻すために、発症限界の二日前までは様子を見るように』と仰られていました。


秀一:では、普通に生活する事も、戦闘を行う事も別に問題はないということでいいんでしょうか?


GYH-8:はい、何の問題もありません。以前、ここに来た事のある雪村様なら、お分かり頂けると思いますが、あまり無茶をしすぎると、取り返しのつかないことになる可能性も少なくありません。その点を教えて差し上げて下さい


秀一:分かりました。とにかく戦闘を控えるように言っておきます


GYH-8:私どもの力では、限界がありますのでよろしくお願いします


そのメッセージを境に回線を遮断した。


メッセージを送ると同時に現実でも言葉を続けていた。


『食事の件ですが、何を食べてくださっても結構ですが、出来れば消化のいい物を出していただけるといいと思います』


『こちらでお世話をしても結構ですが、ただ生活をするだけでしたら、問題ありませんので、退院した方がよろしいかと思います。雫様はいかがでしょうか?』


『…ぅん、問題ないなら、あの部屋に秀くんと一緒に帰りたい。ダメかな?』


その言葉を放ち、秀一を潤んだ瞳で見つめている。


(この言葉は、信頼?それとも不安?……まぁ、色々調べても何の問題もないのなら、ここは笑顔で雫さんの言葉に頷こう)


秀一の行動に雫はほんの少し悲しげな笑顔で頷き「では、準備が出来たら、退院しますね」とガイノイドに答えた。


『書面などの退院の手続きは、必要ありませんので、退院する際には、ここにいる職員誰でも結構です、一言退院する旨を伝えていただけますか?』


「そんな簡略でいいんですか?……分かりました」


『では、後はよろしくお願いしますね』


とガイノイドは外へと出て行った。




少し長い沈黙、雫は、ほんの少しだけ俯いて、何から話そうか迷っているようだった。


『……………ごめんなさい。無茶をしちゃった』


バツが悪そうに言った。


「いえ、雫さんが謝る事じゃないですよ。僕が勝てていれば、こんなことにはなっていなかった……」


『……私ばっかりが秀くんに迷惑を掛けてるって思って……少しでも…少しでいいから、秀くんの…役に立ちたかった』


涙声で話す。


「そう…でしたか、でもあんまり無茶はしないでくださいね。凄く心配してしまいますから……」


明日の戦闘の事を考えると、どちらが無茶をしているのかなんて、明白だった。


(それでも僕は今、雫さんを守りたいって思う)


橘も空矢もこう言うだろう『それはわるいことじゃない』って


『……ぅん』と小さい声で言った後、突然秀一に抱きついてきた。


「っっ!?」


(髪を撫でてあげればいいのだろうか?何をすればいいのか分からない。女心は分からない。けど、こんな時、もし逆の立場で、僕が安心できる事をしてあげれば問題ないはずだ)


髪を撫でながら「ゆっくりでもいいから、一緒に歩いていきましょうね」


そう言うと、雫は泣き出してしまった。





ここに来てから、色々と辛かったのではないだろうか?知らない土地で自分が望んだこととはいえ、見ず知らずの人間との二人暮らし。


何とか一緒に住む僕と仲良くしていこう。足手纏いにならないようにしよう……そんな気持ちが先行して、今回の一件に発展してしまった。


僕に責任がないとは言えない。なら僕は雫さんの為に頑張ろう。ここまでしてもらったんだ。


苦しみも、辛さも、分け合えばそんなに大変なもんじゃない。楽しさは分け合えば、なおいっそう楽しくなる。


僕は、みんなを守れるように、みんなの為に強くなろう。全て分かち合えるようになれば、僕らがここにいる理由も分かって来る気がする。


……覚悟を決めろ。僕らGEが涙を流し続けなきゃいけない理由はない。笑顔でいてもいいじゃないか。


そう、少しずつでいいから、一歩ずつでいいから、力強く胸を張って、明日を歩けるように

以前のデータと比べ、1100文字強の追加となっております。


もう一度読み返していただければ幸いです。

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