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Eyes12 自主訓練

2016年9月9日改編完了

雫が収容された夜、秀一は病院近郊の訓練所に一人向かっていた。


その目的は自身の固有スキルであるオリジンスキルを試す事……側にいてあげた方がいいとは思ったのだが、()いてはこれが雫の為になると考え、それを優先したからだ。


それに、もし深夜、彼女が目を覚ましたとしても、すでに覚醒まで長い時間を要している為、様々な検査を受けなければならない事も明らかで、秀一の時とは違い、対面までの時間が先延ばしにされることが、明らかだったのも理由の一つだ。


『起きた時、すぐ近くにいたほうがいい』榊原にそう言われたのを思い出しながらも、歩を進める速度は緩めない。


雫の事がかなり気掛かりではあったが、あの場所で彼が彼女にしてあげられる事はほとんどない。断腸の想いで病院から出発した。


それにこの訓練は、雫との共闘で足を引っ張らないようにするというのが、大多数を占める理由であったからだ。


それがもし、秀一自身の為だけだったら、この状況で雫を放っておくなんて事は絶対にしないし、そんな事は出来るはずがない。


今よりも強い力がなければ、敗戦続きの秀一が肩を並べ、雫を守り、勝利を得ることなど到底できないのだから……


そんな理由で、普通の中学生なら寝ている時間の深夜に、すぐ近くの訓練所へと足早に歩を進めた。雫の容体が心配で就寝する事が容易ではなかったのも、一つの原因ではあるのだが……


病院から歩いて10分程度の場所にソレはあった。


「なんだこれ?」と静まり返った場所で迂闊にも独り言を発してしまう。静寂の中に秀一の声だけが響いていた。口を塞ぎ、周りを確認してみるが、やはり深夜の為か人っ子一人いない。


データで確認してみるが、位置情報はここで間違いない。


「本当にこれが訓練所?」と思いたくなるような作りであまりにも日本には似つかわしくない神殿(?)の様なモノだった。


(なんでこんな建物がここにあるんだろう?)


想像してもらえると分かりやすいだろうか。どこにも綻びがない○ル○ノン神殿の高さを多少低くしたそんな感じの建物だ。



入口に差し掛かり「夜分遅くにすいません。どなたかいらっしゃいますか?」返事がない。ここで本当にあっているのか秀一は凄く不安に駆られる。


(やっぱり思うけど、この収監施設、変な建物が多いような気がする……気のせいだろうか?)




ビクビクしながら、中を覗き、声をかける「お邪魔しま~すっ………」返答がなく、仕方なく、侵入してみると、内部は無人状態で電気だけが煌々と照らしていた。そう考えるとここが使用できる場所であることは一目瞭然だった。


まぁ、当たり前なのだが、初めての人間が何も教えられず、訓練の為に一人でここを来る事は、まずありえない。


カウンターがあるので、近づいてみるとセンサーとチェッカーが置かれている事にすぐ気が付いた。


(……なんだろこれ?これに触れろってことなんだろうか?)


センサーに手をかざしてみると、内部の個室への案内と料金の支払い表がブワンと浮かび上がる。


時間ごととフロア使用範囲の二つに区分けされており、一番低い金額が500PT、一番高い金額が全フロアを長時間使用する10000PTだった。


全フロアを使用する場合は、事前予約が必要である。


長居する訳にもいかないので、急いでチェッカーに500PTを振り込み、一番小さい個室番号を指定する。


個室と言っても目に見えるように区分けされている訳ではなく、指定された場所に行くと自動的にフィールドが作成され、個室のような作りになる。


覚悟は出来ていたので、特に驚きはせず、自分のやりたい事やるべき事をこなす。


「ふぅ~っ…………セルフ、サクリファイス!」


今回、試したかったのは、自分のスキルの確認と有用性・使用時間・使用した際の副作用についてだ。


スペルから確認できる事、意味を調べて見たが「自己犠牲」だった。


先の戦闘を想像してみる。こちらの攻撃が一発ヒットしただけで相手が昏倒したという事実。


そして、攻撃をくらったわけでもないのに全身に走った激痛。


とりあえず、何もせずにスキルを解除してみる。


「Turn Off the Specific Skills」


ん~~?変化は……何もない?あれ?痛みは?と不思議に思いながらも、入口にあったボタンで攻撃専用の人形を発生させて、スキルが発生していないと思い込み、再度発動を試みる。


「セルフ、サクリファイスっ!!!」


あまり変わり映えのしない状況に首を傾げながらも、攻撃を仕掛けて見る。バキッという音と共に対衝撃特化の人形が壊れる。


攻撃をして確かに人形は壊れたのだけれど、拳に残る感覚としては、ベーススキルさえ使用しない通常の攻撃に毛が生えた程度の力しか出す事が出来ていなかった。


(力が多少なりとも増したというけど、これでスキルは発動されているのかな?だけど、それにしては、雫さんを助けた時のような力の強さは全くないような……)


再度スキルを切った。身体を動かした為か、少しだけチクリと身体が痛むがあの時のような衝撃は全くない。


(僕は何かを勘違いしているんじゃないだろうか?細かい発動条件がある?何だろう?先の戦闘と今の現状では何が違うんだろうか?思い出せ。隅々までしっかりと思い出せ……)





今までの戦闘と違うところは一体何だろう?現状と異なる点は?と自問自答する。


人ではないが、敵がいるというのはいつもの事だ。ベーススキルを使えば、攻撃力は増すだろう。自分が傷ついていない?いや、あの時確かに傷を負ってはいたが、それが理由ではないように思える。攻撃後、かなり軽いが痛みが走った。


ということは、スキル自体は発動されているということだ。


護るべき仲間がいた?それとも、人に対してでなければ、ほとんど効果がない?それしか思いつかないが、何とも曖昧すぎやしないだろうか?


これでは、発動条件を絞る事が出来ない。行き当たりばったりで本当に使えるのかが心配になる。


とりあえずはオリジンスキルを先に発動してみて、対処が出来ないようであれば、ベーススキルに切り替える。それぐらいしかやりようがない……



発動条件が定かでない以上、オリジンスキルに頼るのは、あまり好ましくない事だけはよく理解できた。


オリジンスキルが発揮できなければ、今回は相方に確実に負担を掛けてしまう。全くもって情けない話だ。


確認できたことは、スキルを発動すると、自分の肉体に大なり小なりある程度ダメージが来るという事……


(これはぶっつけ本番しかないか……)




特に確認する事がなくなってしまった為、早急に雫の元へと戻ることに決めた。


メッセージを確認すると、今回初めての相方になってくれる人の個人データが送られてきていた。


「榊原さん、お手数おかけして申し訳ありません」とだけメッセージを残しておく。


今から通信を行うのは、失礼極まりない時間だ。明日確認をして通信を行おう。


他には、メッセージが残っていないのでまだ、雫は目を覚ましてはいなかったらしい。


病院へと向かい歩きだした。


戻って来ると、看護師であるガイノイドが秀一の姿を発見すると、すかさず彼のもとへ向かってくるのが確認できた。


『失礼ですが、久遠雫様のお付きの方でよろしいでしょうか?』


「えぇ、そうですが……まさか、雫さんに何かあったんですか!?」


少しあわててそう尋ねると『いえ、全て滞りなく、雫様は順調に回復に向かわれています。そうではなくて……本日は、一旦ご帰宅なさいますか?』


「どういうことですか?」


『現状、目を覚ましたとしても、身体に異常がないか、検査を行いますので……秀一様にも、雫様にも真夜中にお帰り頂く訳にはいかないので、仮眠ないし睡眠を取っていただく形になります。昼夜逆転は、御身体にもよろしくないので……』


「……なるほど……わかりました。出来れば、ここからあまり遠くに離れたくないので、こちらで休む事は可能ですか?」


『はい、問題ありません……それでしたら、仮眠室のようなものがありますので、そちらで休んでいかれてはいかがでしょう?』


「では、そうさせてもらいます。場所だけ教えてもらってもいいですか?」


『場所は……』











3Fの東館移動する。雫の病棟は、3F西館に位置する。場所的には、それほど遠くはない。


病院にきて、雫の様子を気にかけることで、今まで考えないようにしていた事が鎌首をもたげる。


それはここに来る前の話……


(…………僕の容態を心配していた父さん、母さん……あの時、どんな気持ちだったのか、今では想像することしか出来ない。ごめんなさい……心が痛まないといえば、嘘になる。もう二度と会えないかもしれない)






この病院は、即日退院が多いため、まとめて病院食を作るという概念がない。


こんな時間でも、中にいるアンドロイドがメンテナンス中でもない限り、オーダーメイドで食事がとれるという、利用する側にとっては、利便性のあるシステムを採用している。


家に帰ってから食事を作ることを想定していたが、雫が心配であるということが彼をここに留まらせていた。


食事を済ませてから仮眠室へ向かう。


だけど、あれ?そういえば……


と物思いに耽ろうとしたら、先客がいることに気が付いた。


「一条先生!!」何故ここに!?と相手が寝ているのにも関わらず、驚きのあまり声を荒げてしまった。


『……ふぁ~あ……あ~ん?』と眠そうな眼を擦りながら声のする方向へと視線を投げた。


「申し訳ありません、誰かがいるとは思いもしませんでした、大きな声を……すいません」


と深々と頭を下げる。


電気が突いたままの室内に誰かがいるなんて思っていなかった。


眼鏡を掛けていなかった為、秀一が何者なのか、声だけでは認識できなかったらしい。


『ちょ、ちょっと待って、眼鏡、眼鏡』とかなり昔に流行った漫才の様に周囲を探していた。


彼を視認できたのを確認し「お久しぶりです」と一礼をし、「一条先生は何故ここに?」と先程の疑問を投げかける。


『あぁ、雪村くんじゃないか……久しぶりと言うほどでもないだろう。私は今日来たばかりで泊まる場所がまだなくてね。以前のパスで認識できたここに飛び込んだというわけだ。それにしても、こんな所で会うなんて奇遇だな……病院にいるってことは、雪村くん…体調の方は大丈夫か?』


「体調の方は、全然大丈夫です。というより僕を覚えてくださっていることに恐縮です」


『あ~、いや……』と少し答えにくそうにし『そ、それより、君の方こそ体調は大丈夫と言うなら、何故ここにいるんだい?ここは、深夜のしかも職員用の仮眠室のはずだが?』と誤魔化す様に言葉を続けた。


解答を準備していたわけではなかったので、少し思案してしまった。


「同居しているルームメイトがかなりのケガを負って、自分一人で帰るのもどうかなと思い、ここに仮宿泊することにしました」


『そうか……ルームメイトの治療は終わったのかい?』


「治療自体は終わりました。脳波に問題はないそうですが、まだ眼を醒まさない状態です」




予断を許さない状況ではなくなったと言われた。幸い、頭への攻撃自体は、それほど多かったわけではなかったらしく、出血が多かった為、脳に影響が出るかもしれないということが問題だったらしい。


実際の精密な検査では脳自体に影響はなく、異常は見受けられないということだったので、起きるまで様子を見ましょうという話だった。





話は変わるが、身体から血液が減っていくと、脳に異常を来たしてしまう事や脳死状態に陥るケースもあるのだが、初動のアンドロイドの対応…仮死状態への移行が早かったため、脳へのダメージが少なかったのだと言われたが、何故大丈夫なのかということは全く理解できていなかった。


詳しく説明を受けようにも、専門的な知識が全くない分野の話……


とにかく無事ならいいのだが、だとしたら何故意識の覚醒が行われないのかと尋ねると、完全に落ちてしまった意識を覚醒させるのには、ある程度の時間が必要なのだという。


あそこまで疲労が溜まった肉体と精神が落ち着きを取り戻すため……今起きてこられないという事は休息の時間なんですよ。


という話だ。


いつ目覚めるのかという保証はできないが、安定期に入っているので、明日には目を覚ますはずですよ。とのこと






人体から何%の血液が失われると危険になるのかということを考えると大体全体の血液量の25%が失われた時、脳や臓器などに影響の出る危険域に入るという。


33%程で失血死の可能性が発生し、50%程で失血死をきたすと言われている。


処置が良く、静脈からの出血であれば、助かる確率が上がるということらしい。


未成熟である秀一達が対象になるかどうかは非常に微妙なところだが、失った血液量は、恐らく25%に満たなかったのではないだろうか。


余談だが、ポッドでの身体の修復は失った血液を、短時間で生成してくれるということだ。





「ところで、一条先生こそ、何故この収監施設にいるんですか?」


苦虫を潰したような顔をしている。聞いたらまずいことだったらしい。


『ある意味で、君も関係者だから話しても大丈夫か』と一人で納得して頷いている。


「関係者?一体なんの話です?」と恐らく独り言だろうその言葉に対して、無視する事も出来ず聞き返してしまう。


『あぁ……済まない、話してしまっていたのか?研究者や医者なんて仕事をしていると一人でいることが多くて、独り言自体も多くなってしまっていかん。最近では隠し事も出来んよ』


開けっ広げにそんなことを言ってくれる一条先生は、良くも悪くもいい人なんだろう。


『先ほどの話の続きをしよう。あかりくんから頼まれてここに来ることになってしまったんだよ。半ば強制的にだがな』


苦笑いをしていたが、本心ではあまり来たくなかったのだろうか?


『以前、私がここの研究所にいたということもあるのだろうが、君の詳細データが欲しいと頼まれて、あかりくんの所長権限を使って、本土には帰らせず、そのついでにここで仕事をする羽目になっしまったのさ。ついでで病院を辞めさせられるこっちの身にもなって欲しいものだがな』


「僕の詳細データですか?何故そんなものが欲しかったのかは分かりませんが、間接的にとはいえ申し訳ありません」


ふと気になり「……所長ってそんなに偉いもんなんですか?」と尋ねていた。


『偉いなんてもんじゃないさ。大型病院の病院長クラスだって簡単にはなれないような地位さ。普通は、50~60歳ぐらい老齢のお偉いさんが、この国に貢献できるような功績を認められて付く、そんな名誉職なんだ。任期は短いがその代わり、かなり高額の報奨金が支払われるようになっているぐらいだ』


『つまり、ES分野にかなり特化して研究を進めていて、尚且つその実績を見合った場所で認められている……とそういうことですか?』


『それだけではないがね、だがそれをあかりくんは10代成し遂げているんだ。因みに彼女の任期は、基本的に無制限。任期延長は彼女自身が望んだことで、報奨金自体も下げてくれと彼女が国に申し出たんだ。それを政府が承認し、許可を出したらしい。とまぁ、私の今後が決定してしまった事に対して、君にぼやいても仕方ないのだがね…』


首を傾げてしまう。榊原がわざわざ、報奨金の減額をしてまで、ここでの任期延長を望んだのは一体何故だろうか?


あんな性格の榊原だ、別に地位が欲しかったとかそういった内容ではないだろう。それなら任期を延ばす必要はないのだから……


自分に何か利益があるからなのだろうとは思うのだが、それが全くわからない。


「あかりさんがすごい人だということは理解できたんですが、任期を延長することで何を得するんでしょうか?教えてくれませんか?」少し強い口調になる。


『それは本人に聞いてみてくれないか?それについて、詳しいことは私も知らないし、私がおいそれと、答えていい内容ではないと思うのでな』


本人が教えてくれそうにないから、聞いたのだけど話していい内容ではない事は、本人から聞けというのは、もっともだ。


当たり前の事だってことは理解できている。


自分の意識とは無関係に思わず、何故か歯ぎしりしてしまっていた。


榊原の行動から想像すると、恐らくではあるが、秀一の過去(〃〃)を握っている人間だという結論に至ってもおかしくない。


そう思えたからこそ、秀一の心の中にある不確かな存在をリアルに変えたかった。







…………そう、秀一には、確かな過去がない。


元の生活をしていた時には、ある時を境に記憶がない事を誰も知らせず、その事を気づかせないように努めていた。


今でもその事を感づいていた人間はいないはずだ。不安に眠れない夜が何度も訪れた事も少なくない。


僕は生きていてもいいのだろうか?と良く考えたものだ。


そんな自分自身を再構築するため、鉄壁の笑顔と不必要なまでの人を敬う心を手に入れた。


(どこにでもいるはずの少年の姿ではないという事は、十分に理解している。僕は何のために生きているのか。それすらも分からずに生きている事は、僕にとって苦痛でしかない)


(そんな僕にも、今では僕の力を必要としてくれている、雫さんがいる、橘さんがいる。僕を味方してくれている、榊原さん、キューさん、ミシェルさん、さくらさん、そんな人たちのために力を奮う事が出来る)


それだけでも、今を生きる秀一には、十分すぎる理由がある。


(僕だけの欺瞞(ぎまん)ではない。人を助けたい。どれだけ僕自身をないがしろにしたとしても……)


それとこれとは話が別で、空虚な心を埋めたいと思う秀一の影が、薄暗い闇の中から顔をのぞかせていた。





「っ!……ふぅっ………………分かりました。聞けるようであれば、今度あかりさんに確認してみたいと思います」


『すまんな。こればかりは、教えてくれなかったんだよ』


知らない事なら聞いても仕方がない。例え、知っていても答えてくれるような内容ではない。仮面を元に戻そう。


コンセントレーションを整える。


空っぽの心に雑念が入ると、掻き乱されてしまう、これはよくない。久しぶりに本気で気が動転してしまった。


「目上の方に対する態度ではありませんでした。取り乱してしまい、申し訳ありません」と頭を下げる。


『さっきの態度は、君の年齢相応だよ。初めて会った時の事を考えると、それぐらいの方が13歳らしいさ』


とあっけらかんと笑ってくれていた。お医者さんや研究者と言う割には、朗らかで救われた気分になった。


「その言葉に、感謝します」ともう一度一礼した。


『君も疲れているんだろう。シャワー室が隣にある。浴びてからそのまま寝るといい』


諭されるように「ありがとうございます」と返答し、秀一はシャワー室へと向かった。





身体を清めた後、そのまま寝床についていた一条先生を確認し、秀一も空いているところに寝床を決め、まどろみの中へと心を埋没させた。






朝起きて見ると、書き置きのみが残されており、一条先生がいた寝床はいつの間にか、もぬけの殻だった。



『辛い時、素直に物事を話せるような相手を見つけるといい。自分もその相手の相談に乗ってやれるような人間になれれば、尚のこといいがな』



とのことだ。僕等GEの人間にとっては結構難しい事だな、と考えつつも橘の事を思い出していた。





深夜遅い夕食を取ってしまった為、あまりお腹がすいてはいなかったのだが、これからの予定を考えると何も食べないわけにもいかず、昨夜の食堂で朝食を食べることにする。


起きた段階でメッセージが届いていなかったという事を鑑みると、まだ雫は目を覚ましてはいないのだろう。


昨日、榊原から送られてきたメッセージを再度開く。



性別は、男性

名前は、空矢くうや惣一そういち

ランクは翠玉

年齢は秀一より二つ上で15歳


一体、どんな人なんだろう?いきなり通信を送るのも失礼かと思い、当たり障りのないようにメッセージのみを送信しておく。


送信後、雫の容体を確認するために食堂から外へと出た。3F西館の管理室へと出向くと、まだ起きそうにはないと常駐のアンドロイドから言われた。


(動きようがないな。近場に喫茶店のようなものがあれば、空矢さんとそこで落ち合う事もできそうだ)


あまりこの病院から離れるのは良くないので、目を瞑り検索を掛けた。日常的に行う検索。



近場にある喫茶店は、病院から歩いて三分か。返信が来たらここで待ち合わせが出来ないか応相談だ。



それにしても、雫はまだ目覚める様子はない……



メッセージの受信を確認した。こちらの意思を伝えよう。


秀一:唐突に申し訳ありません。今現在、ルームメイトが病院で入院している為、付き添いで病院にいます。戦闘について話を詰めたいと思うのですが、病院で話せる内容では、あまりないと考えます。近くにカフェがあるので、そこで次の戦闘の打ち合わせをしませんか?


っと、これで良いだろうか?


『それでいいぜ』という返答を貰ったので、「時間の指定は任せます」と返信、『近くに付いたら、通信を行えばいいか』と来たので「それでお願いします」とメッセージを打ち、一旦そこで打ち止めにした。



雫のいる部屋に入るわけには、行かないんだろうなと部屋の近くで考え事をして一点をグルグルと回っていた。


正面からガイノイドから声を掛けられた。『雪村様、どうかなされましたか?』


「いや、本当に大丈夫なのかなと今更ながら、心配になってきまして……」


『確かに心配にもなるでしょうが、身体へのダメージは、完治しておりますので、問題ないかと思います。もし気になるようでしたら、ポッドの中にいるわけではないので、部屋に入ってみたらいかがですか?』


「別にかまわないなら、ちょっと様子を見てみたいと思います。」


『どうぞ』と言われたので、そのまま雫の病室へと入る。


寝息が聞こえている。いたって普通だった。本当にただ寝ているだけ。点滴が見えるが栄養剤か何かだろう。


(ただ、自分の不甲斐なさを感じていた。僕が初めから勝てていたならこんな気苦労を掛けて、連戦の中に雫を追いこむ事は、なかったんじゃないだろうか)


無意識で雫の手を握っていた。目が覚める事はないが、秀一の手を握り返してくれていた。


(この子を守れるだけの力が欲しい。どれだけ自分が傷ついても構わない。僕の為に闘ってくれた雫さんを今度は僕が助ける番だ)


どれぐらいの時間かわからないが、雫の手を握っていると、唐突に通信が来た。


ゆっくりと雫の手をベッドへと下ろして、病室を後にした。病室から少し離れて、回線を開く。


「お待たせして申し訳ありません。もう近くまで来ましたか?」


『あぁ…じゃあ、そろそろきてもらえっか?』


「分かりました。ではこちらも向かいます。またあとで」


『わぁった。またあとでなぁ』と通信を遮断した。




途中あった看護師ガイノイドに「もし目が覚めたら、連絡をお願いします」とだけ伝えて病院を後にした。

700文字の追加です。大幅な変更点の少ない話になっております。

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