表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/38

Eyes9 捜索

2016年9月9日改編完了

闘っていた事が嘘のように、自分の体が身軽になっていくのを秀一は感じていた。今回、本当に病院へ行く必要性がないのは、端から見ても火を見るより明らかだった。


秀一自身、先程までは節々が多少動かし辛かったのだが、今では戦闘を行っても、何の支障もないぐらいに回復している。


(あかりさん、あの薬、本当に大丈夫でしょうね……)


本心からそう問い詰めたかった……


戦闘後なので、いつもなら帰りがけに買い物をするところだが、今日は雫と共に行動する予定はなく、特に買い物をしないので、個人個人で帰宅しようと決めていた。


というよりも買い物をしない理由は、そろそろ冷蔵庫の中を一旦、空にさせておきたかったというのが大きな理由だろう。


既に冷凍保存してあった牛肉などはすでに常温で解凍している。野菜も家にあるものをすべて消費しないと、次回商品を購入する際、あれも欲しいこれも欲しいと余剰を出してしまい、ダメにしてしまう懸念が高かった。


一般家庭でも、よくあることなのだが、調理する品目を決めて、いざ商品を購入しようとすると、想定していたものよりも多く買ってしまう事が通例で、特にまとめ買いをするとそれが顕著になる。


料理を作る際に、余りが出てしまい、ちょうどに使い切れない事が多々あるのだ。


話は変わるが、秀一達、ES発症者の消費カロリーについてだ……いやなことにバトルを行った日は一日当たり2~3倍のカロリーと栄養素を追加摂取しなければならず、必然的に大量の食事をその日は取ることを余儀なくされる。


その為、量を多めに作り、あまりを出さない事も出来るのだが、それでは見栄えがあまりに宜しくない。なので残った野菜を使用した、彩りをあまり気にしなくて済む、肉野菜炒めを作るケースが多い。


(正直、今おなかが凄く空いている……食事を済ませてからそんなに時間はたっていないはずなのに……)


戦闘を行うと、毎回訪れる絶食を味わったかのような空腹感、食事と満腹中枢のコントロールをしないといけないのは明白だ。


空腹に任せ、あまり考えなしに食べすぎてしまうと、この後バトルを行っていないときに過剰摂取してしまい、贅肉になり今後の生活に悪影響が出る。


別に制限を掛けているわけでもないが、今後連戦する事があるかもしれないという事も視野に入れると食事の管理はかなり大事になって来る。


まぁ、その場合は、携帯食品を持ってカロリーを上げればいいかとも思うが、栄養が偏るのはよくない。身体を動かせば様々なミネラル、ビタミン等々が消費されるのだ。


カロリーのみの摂取はあまりに好ましくない。それに加えエンゲル係数の羽上がりも半端ではない。




だが、今、お腹が減ってはいても、奏皐月に接触しなければならない。それは直接的にではなく、間接的にだ。


橘と正式な約束を交わす前に、奏皐月が一体どういう人間なのかを知っておかなければならない。


秀一が助けるべき人間であるのか。リスクを背負ってまで肩入れする意味があるのか。橘に力を貸す価値があるのかどうかをだ……


そう、今から行う事は彼女の人となりを調査、確認し、判断をする為だ。


ある意味でいえば、橘と約束を交わすという事は、雫にも迷惑がかかるという可能性を捨て去ることが出来ない。


故にその確認も含め、橘に時間が欲しいと言ったのである。






彼女のいる場所は、集団施設通称「やなぎ」


一人で生活する事が困難と判断される子供達は、こう言った集団施設のやっかいになることが通例である。


GE発症者をメインとして、十数体のヒューマノイドが常駐し、管理・運営をしている。いわゆる孤児院の様なものだ。何百人単位のGE発症者がこの一つの施設にいる。


収入源は基本的にGE発症者の子供達のバトルの報酬によって賄われている。


もちろん、不足が出たからといって集団施設から追い出されるということは決してない。


学校のような授業を取り行う様なスペースや時間もあり、その場所で食事も摂る事も可能だが、基本的には食堂でとることが多い。


講義自体は、一般的な生活を行う為の家庭科、後は国語力と算数程度の演算が出来るかどうかの確認程度。


科学的な知識も付けることは可能ではあるが、本人が望み、手続きを踏まなければ、講義を受ける事は出来ない。


社会と呼ばれる歴史関連の知識も個人個人で必要であれば、講義を受けるような形を取っている。


世界の共通語である英語に関しては、必須科目というような感じだろうか?


他には体育館やグラウンド等も見て取れる。恐らくここでは、戦闘技能の向上を図っているのだろう。


ここは、孤児院兼訓練学校なのだ。





話は戻るが、寝るための場所は、当然ながら男女分かれているのがほとんどだが、その限りではない。


そう、ここの目的は自立支援に当たる。ずっとここで生活し続けている人間は、ごくわずかだ。長くて二、三年程度でここから巣立たなければならない。そう義務付けられている。


その為、入れ替わりが激しいのである。まぁ、ここから巣立った人間であったとしても、様子を見に戻って来る事もあり、内部は和気藹藹としている。



前述の通りではあるが、活動資金に関しては、基本的にGE発症者達の闘いによるPTによって、大部分が賄われている。


例え資金不足になったとしても、政府が資金難にならないように月一度に財政調査を行い、足りない分は国庫から賄われるという形が取られている。


ごく一般的な孤児院や集団施設の場合は、資金難で立ち退き等が行われ、姿を消すケースが少なくない。しかし、この収監施設の集団施設地区はその限りではない。


前述として地区と言ったが、何も集団施設と言うのはこの「やなぎ」だけではない。


100では済まないほど多数の集団施設があり、全ての場所を訪れるとしたら一日二日で巡りきる事は難しいだろう。


何百人単位の人間が暮らす集団施設が数多く、ひしめいている事を考えれば、おおよそのGE発症者の人数が割り出せる。


ここの地区の施設のみで最低でも10万人を超えるのではないだろうか?


マンションやアパートの様な物も点在してはいるが、数自体は集団施設よりも明らかに数は少ない。



その区域に入るや否や奇異の眼がこちらへと向けられる。しかも何故かここは、AESFの効果が低い為、ハイディングスキルを使わず、GEの力を行使しようとしているようにも窺える。




後日談ではあるが、この集団施設において、上位者が下位者の暴走を抑えるために、わざとAESFの効果を薄めているという話だ。あと、GE発症者達にある程度自分に力がある事を自覚させる為でもあるらしい。


その為、強制的に実力の行使が出来るといった寸法だ。ある意味でどんなGE発症者にも力がつかえてしまうような環境というのは、本末転倒な気もするが、強いものには逆らえないのは世の常である。


それが怒った時以外は、母性本能に溢れているような人間であれば、殊更ではないだろうか?




両手を上げながら、進んで行った方がいいんだろうか?Hold Up!とでも言われている気がしてならない。


(別に僕は犯人でも何でもないんだけどな。まぁ、探りを入れに来ている時点で犯人と疑われても仕方がないのかな)


一旦外に出ようかという時に不意に声を掛けられた。


『君、初めてみるね。』20代後半の長身黒髪の落ち着いた感じの女性が真後ろに立っている。


びっくりはしたが、こちらに攻撃の意思はない。やはりこんなところに生活をしていれば、自分の気配くらいは消せる事が出来るようになるのだろうか?


「申し訳ありません。みなさんを警戒させてしまったようです」


無理矢理ハイディングスキルを切る。「Turn Off the Skills」


こんなことで効果があるとは思ってはいなかった。だが、周りの警戒の意思は多少なりとも和らいだ気がする。


逆の立場に立って、よくよく考えてみると、部外者がここに訪れ、GE発症者でない可能性があるのならば、警戒して当然ではないだろうか?


『いいね、冷静じゃん。ところで君は、どうしてこんなところに来たのか…説明してくれるよね!!』


「っっ!!!」


強い威圧の意思を感じる。容姿と声質が雰囲気に全く合っていない。もしかしたら、ここを管理している立場にある人間かもしれない。


表情とは真反対の感情に対応が少し遅れてしまう。


沈黙はよくないとは思っているのだが、答えが出てこない。そのまま率直に伝えてしまっていいものだろうか?等と考えていると


瞳の色が変化する。


(くっ、またスペル無しか!しかも、オレンジ!!不味い、三つもランクが上、今の僕じゃ絶対に勝てっこない!!)


明らかに攻撃の意思が秀一へ向き、女性が飛び込んでこようとしていた。


言葉だけでは伝わらないと判断し、何かいい方法はないかとハイディングスキルを切った。


展開する際には、スペルは必要ない。アクセサリーの機能を介して常時展開しているスキルを無理やり切るだけだからだ。


瞳の色が元に戻り、秀一が両手を上げ、降参の意思を見せると、寸でのところで止まってくれた。


『降参の意思表示ね……どうやら本当に戦う意思はないようね。』


色彩が黒に戻る。ハイディングスキルを使用し、力を行使する気はなくしてくれたようだ。


『もう一度聞くわ、何故ここにきたの?』


先程よりは、優しい口調に秀一もやっと口が開くことが出来た。


嘘は通じないだろう。「ただ、人を探しに来ました」こちらに警戒、反抗の意思はないと両手を上げる。


『へぇ……嘘はついてないみたいね』


優しい表情になったところで、こちらの緊張が解けてしまった。ぐぅとお腹がなってしまう。


恥ずかしいことこの上ないが、これが良かったのか女性はこちらに向かって笑っていた。


『あははは、お腹が空いていたの?そんな事よりも重要な要件ってことかしら?』


赤面しながら「も、申し訳ありません」とこちらの気持ちだけは伝えておく。


どこまで話をしていいか悩みながらも、ここで今すぐに調査をすることはあまりいいものではないかもしれない。


あらかじめ、奏皐月の個人データに関しては、榊原から貰っている。


出来る事ならさっさと少女の情報を手に入れて、去るのが得策なのだろうが、それこそ悪手に違いない。


舗装された道で対峙する秀一、そして女性。十分か数分かもっと短かったかもしれない。


時が止まるように感じる程数秒が長く感じてしまう。思考を速め、この現状を打開する方法を模索する。


「人探しに来たのは、本当です」


『何のために?』


(このままでは、埒が明かない。仕方ない、申し訳ないが、ここはあかりさんに楯になってもらおう)


「榊原先生の依頼です」


あからさまな嘘は言っていない。今回の秀一の行動は元々は榊原が準備したものなのだ。


『あかりんからの??』聞いてないけどと、怪訝な顔をしていた。


あかりん!?やばい知り合いだったか?気が付かれないように早急に榊原へメッセージを飛ばす。


すぐに返信メッセージが返ってきた。





秀一:王華さんから確認メッセージが来るはずです。申し訳ありません。うまく対応をお願いします。





榊原:任せて♪


(よかった、間に合ったぁ……)


これでひとまず何とかなりそうだ。彼女も榊原に確認を取っているようだった。心の中でホッとため息をついた。


『そんな話聞いてなかったんだけどなぁ。ホント、早めに連絡しておいてよね……まぁ、あかりんの依頼じゃ、しょうがないし、あの人も忙しいだろうから忘れたのかな?』


『で?一体誰を探しているの?今は、昼前の戦闘時間、真っ只中だから、ここにはいないかもしれないよ』


榊原が依頼してくれたことになっているのだとしたら、多少安心してもいいかもしれない。


「奏皐月という女性を探しています。出来れば、今は僕の正体を隠しておきたいのですが……」


『えっ?……探しているのよね。会いに来たんじゃないの?』


「直接接触する事を避けたいだけであって、僕の姿を確認される事は問題じゃないんです。」


また怪訝そうな顔をする。当然と言えば当然である。探してきたと言っているにもかかわらず、話はしないと言っているのだから。


『ただ姿を見たいってこと?それだけでいいの?』


「構いません。それも依頼の内なんですよ。僕自身、その行動の真偽は分かっていません」


(口から出まかせ、正直こんな事はしたくはない。本来こんな事をする必要性は皆無なのだが、今の僕は一人じゃない。安全マージンは充分に確保しなければならない)


『そっか……』と下を向きつつ首を捻る。十数秒で考えをまとめこちらへと向き直った。


『君も事情はよく聞かされてないってことでいいのかな?それ以外に目的はないってことでいいの?』


ポーカーフェイスを保ちつつ「そうです」とだけ答えておいた。長いセリフを言った時点で恐らくこちらを疑うだろう。


『わかったわ。私がこの区画への進入を許可します』


「ありがとうございます」と手を相手に向かって差し出す。


『別に私がチェッカーってわけじゃないんだけどね。本来GE発症者である君が、ここに入る事は本来自由なのよ』


「ですよね。だとしたらゲートの様な物があってもおかしくないはず…」


『だけど、部外者よね。今現在、この集団施設集合地区の管理部分を多少任されている私が進入の許可を出した。だから安心していいってことよ』


「知りもしない人間が来て、力を行使する事が可能な場所であれば、力を使ってそれを打倒しようとする人間が出てきてもおかしくないってことですね」


『えぇ、連絡が早く来ていれば、こんな攻撃的な事をしなくてもすんだんだけどね。他の管理者にもメッセージを飛ばしておくわ』と少しだけ申し訳なさそうに秀一の手を握った。


「挨拶がまだでした。雪村秀一と言います」


『私は、王華(おうか)よ。名字はもう忘れたわ。私はユッキーって呼ぶわね、異論は認めないわ』


有無を言わせない。はっきりとした口調で述べた。


「え゛っ…………あ~、分かりました。王華さん、よろしくお願いします」


『ありきたりでつまらないわよ……別の呼び方を考えなさい』


呼び方を変えろと言われたのは、初めてだ。別に失礼な呼び方をしたつもりは毛頭ない。


(ありきたり?つまらない?あ、目が本気だこれは不味い。仕方ない考えようか)


「じゃあ、すいません。僕も送りますんで、連絡データ送ってもらえますか?」


『別にいいわ』と首筋に手を当ててきた。別にこれから何かされるという訳でもないのに、何だろう?凄く怖い。自分より格上だという事が頭に刷り込まれたからだろうか?


首筋に当てられた手越しにこちらもデータの転送を行う。本来の場合、お互いが正面を向いていればいいだけなのだが、皮膚への直接接触でも構わない。


王に華か……無難に、はだめか。


(読み方ではなく、少し書き方を変えてみようか……確か、同じ読み方で桜花という言葉がある。確か競馬だったかな?そこから再度文字ってさくらさん……どうだろう?)


「ではさくらさんというのはどうでしょうか?」


『なんとなく想像はつくわ。でも初めて呼ばれる呼び方ね。さんづけが気になるけど、それでいきましょう♪』


おっ…よしっ、嬉しそうだ。呼び方を変えるのがこの人の常なのかな?


「では、さくらさんよろしくお願いします」


『えぇ、ユッキーもよろしくね……お腹すいてるんでしょ?連れてってあげるから「やなぎ」で食事していけば?』


部外者が平気で食事が出来るのか?等と考えていると


『そこで生活していない人でも、PTさえ納めれば食べさせてくれるわよ』


と呑気に語った。


「じゃあ、お言葉に甘えて……量を多く食べると次に差し支えるので、少しだけ頂くようにします」


『そう、じゃあついてきて』と坂道を上がっていく左右の歩道には、葉桜が目に付いた。


7~8分程歩いて「やなぎ」に到着した。


『ごめんね~…ミシェルいる~??』と施設の門扉の前で中に向かって声を掛けた。


『は~い。王華様珍しいですね。許可を取らずに来られるなんて、そちらの方は?』


とガイノイドだろうか?耳あてがない。かなり柔らかい口調でこちらに視線を向けた。


『ああ、この子?ユッキー。ご飯食べさせてあげて』


『はぁ……わかりました』


え?手続きとか踏まなくちゃ普通は入れないのか。あぁ、トラブルを避ける為に事前連絡をしておいた方がいいということか。


『それでは、秀一様、ついてきていただけますか?』


(あれ?僕、名前教えたっけ?)


いぶかしげな顔をしていると『私には、この収監施設のデータベースに対して、ある程度のアクセス権限がありますので、あなたの名前がわかっただけですよ。それに聴力もいいですから……』


とさも当たり前かのように答えた。


「あ、あの、呼び方はミシェルさんでいいですか?」


ヒューマノイドらしからぬ、少し呆けた顔をしている。とても人間(〃〃)らしい


『失念していました。私はミシェルではありません、ですが、ミシェルで結構です』


「えっと、どういう意味です?」


『現状では、秀一様と王華様しか私の事をそう呼ばれないからです』


『ですが、私は声紋認証と記憶領域にある、あなたの私に対する呼び掛け方を、瞬時に引き出せますので、御安心してミシェルとお呼びください』


(あ~、やっぱり名前違うんだ。さくらさんらしいと言えばらしいか)


声紋認証と記憶領域は違うカテゴリーのようだ。


「いずれは、名前教えてください」


『機会があれば、御伝えしますよ。ですが、ミシェルという呼び名が別に嫌いではないです、寧ろ好ましいですから』


と朗らかに言ってくれた。


『私も少し寄っていくよ』と王華が後ろから付いて来る。




5階建てのいわゆる学校を想像させるような建物だ。別途宿舎の様なものと大型の体育館の様なものも見てとれる。


宿舎だけがある意味異質ではあるが、寮生がいる学校では、あまり珍しい光景ではないのかもしれないが、幾分か建物と建物の間隔が近い気がする。


学校の(?)門扉に関しては、観音開きの手動式ではなくスライド式の自動ドア。正面玄関を入ると目の前には階段がある。


階段を境にして、左右に教室の様な大きな部屋がいくつかある。人数が人数だ、大体同じ年齢のグループに分けても300人は降らない。


大体900人かそれ以上は人がいるってことか。流石にその中から一人を探すのは一苦労。


事情をある程度把握してくれているこの二人がいれば、捜索について難航するということはあまりなさそうだ。


『そういえば、ユッキーはかなちゃんを探してるんだよね?』


「かなちゃん……は、はい、そうですね」


常に名前には、さんづけを心がけている秀一としては、本名=あだ名の様な呼び方は決して慣れない。


だが、ここは、郷に入っては郷に従えだ。敢えて頷いておく。


『ミシェル、今日のリストってある?私でも探せるけど、あなたの方が早いよね』


『はい。本日の戦闘予定はありません。恐らく、今日は2F-Cにいると思います』


『かなちゃんとは直接会わないんだよね……もうじき少し早い昼食か。戦場みたいになるけど見ていく?』


1000人近い人間の食事風景、確かに戦場だ。



……特に作ってる人がね。



「分かりました。僕の空腹感も治まってくれそうにないので、少しだけ食事を頂いて、様子を見てから帰りますね」


『本当によろしいのですか?引き合わせる事は簡単ですよ?彼女は相手がGE発症者であれば、気軽に話が出来る筈ですから』


「今日は様子見で……」と念押しをしておく。正直興味がないと言えば嘘になる。


あれだけの意思を持った橘が自分を殺してまで頑なに守ろうとした女性…


どんな人なんだろう?という知的好奇心は拭えない。しかし、今日の目的はそれじゃあない。


ミシェルの一言も判断材料の一つ。


うん、話を聞く限り、悪い人ではなさそうだ。


『では、そのまま食堂に案内しますね。戦闘がない限り、彼女は必ずそこで食事をとりますから……』


と彼女についていく。


食堂自体は、校舎の外に設けられており、一旦外に出なければならない。


1F階段の奥に、校舎裏へ出る為の大きな観音式の扉三つと自動ドア一つが設けられていた。


何の為の自動ドアだろう?校舎から外へ出ると答えはすぐに出た。


その先には、スロープがついていた。観音式の先には、階段がある事から鑑みて、車イス用の自動ドアらしい。


考えてみると、肢体不自由の人間がGEを発症する事ということを考慮にいれていなかった。


校舎の中がざわつき始めた。時間を見ると11時30分を指していた。食堂への移動の時間だ。


年齢毎に食事の時間が違うらしく、年少組が教室から順番に食堂へと向かっている。恐らく秀一と同い年の子達だろう。


『少しタイミングが悪いようですね。食堂には入らず、少し外で待っていましょう』


秀一は、外に出てから食堂には入らずに、校舎と食堂から距離を開けて眺めていた。


少し遅れて、車イスの少女が女性に支えられながら、自動ドアから出てくるのが確認できた。


王華が後ろから声を掛けてきた『ユッキー、あの子が御目当ての女の子だよ』


指差した方向は()()()に乗った少女だった。


(えっ?車イス?あの子が奏皐月さん?)



まさか………



『直接お話をされていかれますか?榊原博士の御依頼であれば、その様に対応する事も可能ですが、いかがいたしましょう?』


質問をされ、ハッっと我に返ったが、言葉は続ける事は出来なかった。今世ではありえないその光景に様々な感情が渦巻く。


あの子は一体どうやってこの収監施設で生き残っていくんだろうとか、普通の生活を一人で行う事は無理だろうとか、何故あんな子がGEを発症してしまったのかとか色々な事が頭の中を駆け巡る。



秀一は何も言えず、ただただ、彼女が食堂へ移動するのを遠目から見送ることしか出来ずにいた。

700文字程の追加になります。大幅な変更点はこの話に関してはありません。宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ