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Eyes8 望まぬ闘い、そして敗北

2016年9月9日改編完了

Get set ready?秀一の正面に表示された戦闘の受諾確認に肯定の意思を見せる。


バトルフィールドが構築され、力の枷が取り払われた。上体を軽く沈め、地に力を込める。


(さて、どう出よう……まずは、距離を取るのが先決か……)


『さぁ、始めようか』攻撃の口火を切ったのは秀一に投げ掛けられた短い言葉、いつの間にか距離を詰められ、顎に向けて鋭い蹴りが迫っていた。


「なっ!!」上体を少し後ろに反らし、紙一重で避ける。


初見で様子を見る為に距離を取るつもりだったのが、うまく転んだだけの事。


今は単なる偶然により、首の皮一枚繋がっているだけ、たった一撃で脳震盪により簡単に意識を持っていかれるところだった。


秀一とて決して油断していたわけではない。


何かがおかしい……そう思いながらもソレを考察する余裕を相手がくれるわけがない。


(攻撃に転じられるよう、無様に逃げる事だけは!)


身体を最小限に動かし、左側面からの後頭部に向けられた知覚範囲外からの右上段蹴りを寸前でかわす。左から右への移動慣性に従って、そのまま思い切りサイドステップを踏み、右へと距離を開ける。


(くっ!?二度も見失うなんて……まずは安全圏まで回避!このままじゃ何もせずにやられる!!)


直角に方向転換しつつ、相手に向き直りながら、バックステップ……少し距離を取ってから勢いをつけ、相手との距離を一気に詰める。


打撃を()なし、左側面に位置取る。


(肘関節!!この位置からならかわせない!!)


攻撃のチャンスが一転した、相手の右肘へ向けた拳が空を切り、攻撃の意識から防御へ切り替えるのにタイムラグが発生する。


(なっ!?またっ!?そんなはずは……相手もベーススキルはまだ使用していない!そこまでスピード差はないはず。どこに!?)


『おそいっ!!』「かはっ!」真後ろから後頭部に向けての痛烈な一打、意識が一瞬持っていかれる。


「くっ!」右足で倒れこまないように踏ん張り、切れかけた意識を何とか繋ぎ止める。


倒れ込む形でそのまま前に加速し、相手に向くよう180度回転しながら、追撃を回避するために垂直ジャンプして意表を突いた。


(力が解放されて、防御力が上昇しているのにも関わらず、後ろからまるでハンマーで殴られたかのような威力……間違いない。姿を見失う程のスピードとこのパワーからして、間違いなく…ベーススキルだ!)


(でも、スペルは!?彼は何も発言していない。いつの間にスキルを発動したんだ!?)


上空でシェイクされた頭を振りつつ「っ!リンク、バースト!」と何とかベーススキルを発動させる。


スキルを発動し、多少なりとも防御力が上がってはいるが、後頭部に攻撃受け、脳髄を揺さぶられた為、いつ昏倒させられてもおかしくなかった。


ここでようやく、同じ土俵に立てた事に気づかされた。


秀一には多数の被弾があり、一方の相手は未だ無傷……スピード、攻撃力、防御力、思考速度、反応速度が上昇した秀一がやっと攻勢に出る。


「はっ!」『やっと、本気になれそうだ……』連撃を軽くいなされるがそれは予想済み、着地してから誘い出すのが目的のただの囮。


着地後、相手の方向に踏み込んで、相手の脇を抜け、壁際まで一気に前進する。ベーススキルが発動されたとはいえ、予断を許された状況ではない。


戦闘フィールドの壁を蹴りあげて、バク宙の要領で追尾してくる敵の背後へ移動。


リスクを背負っての博打だったが、やはり、リスクの方が勝った。背後を取ることには成功したのだが、


「なっ!?」


(不意を突いたつもりではずなのに、攻撃を側面からか!?相手を壁際に追いやった。それでも、また、防戦一方!経験不足を嘆いても仕方ない。もっと周囲に目を配らなきゃ!!)


「まだだ!」


『頼むから本気を出してくれないかな?』


「本気ですよ!」


『まだ、躊躇ってるようにしか思えないけど?』


(くっ!今回に限っては、命の危険は少ない、オーバーキルはありえない。少しでもこの人から吸収させて貰うために、ここは胸を借りるつもりで全力を出し切る!!)


タイミングを見計らって、右腕を払い落とす。体制を崩したと見せかけてコマのように回転しながら、左後ろ回し蹴りが飛んで来る。


(初撃から考えても、蹴り技が得意!とにかく迎撃!)


右腕に力を入れ、回し蹴りを叩き落とすつもりがソコに目当ての足はない。その思惑が完全に空を切った。


(なっ!?これはデコイ!?)


秀一へ向かうはずだった左足を地面につけ、再び独楽(こま)のように回転しながら右回し蹴りが飛んで来る。空を切った右腕を引き上げなんとかガード体制を整える。


「うっ!」


壁に打ち付けられる格好になるが、秀一も只で鳴くわけにはいかない。飛ばされた反動を生かし、フィールド壁に対して両足に力を込める。


「いけっ!!」


(捨て身の体当たりっ!!)


秀一の全体重を掛けるので、防御力を一切の度外視……威力もスピードも、通常打撃よりもはね上がる。


攻撃をかわされた後の事も考え、次のステップも視野にいれておく。


(そうか、何が足りないのかがわかってきた気がする)


(今までは、ただ単に攻撃や防御を繰り出していただけ。敵であろうと、なるべく穏便に済ませようとしてきた事が仇になったんだ。ここは戦場だ……食うか食われるか、いまはそれだけ!!)


(次に何が起こるかを想定し、行動に移れなければ、向こうの攻撃を一方的に食らうだけだ。その為には、一回でも多く受け流し攻撃出来るように、引き出しを増やす必要性がある)


右肩を前にしつつの体当たり、敢えて受け止めに来た。掴まえられると思ったが、思いの外威力が強かったらしい。壁にぶち当てることに成功した。


(んっ?反動が弱い?いや違う、わざと受けたのか!ダメージによる息遣いが聞こえない。受け流された!向こう側もある程度のダメージを受ける覚悟か!)


両肩を掴まれ、前後に揺さぶられ耐えきれず体勢を崩す、壁を背にした状態での巴投げ。フィールドの壁に叩き付けられる


「かはっ!?」肺が圧迫され、身体全体にダメージを受け、目がチカチカする。


(このままでは不味い!一旦距離を開けないと、この場に留まれば、連打を食らうだけだ。あっ)


フィールド壁を蹴って、左側のビル群へと移動し、ビル内部へと進入する。長い廊下を突き進んでいくと大部屋へと入る。


(ガラスが所々ひび割れている。システムデスクなどの防壁があり、多少の時間稼ぎができそうだ、屋内戦闘は初めてだけど、何とか体制を整えよう)


「はぁ…はぁ…はぁ……ふぅ~~~っ」


柱等のコンクリート基材の分厚いものなら未だしも、机などは壁にはなり得ない。


(くっ!一瞬で粉々に粉砕される。コンクリートにすら簡単に穴が開く。通常攻撃の10倍か!よく言ったもんだよ!!)


先程まで肩で息をしていたが、呼吸が整ってきた。思惑通り、時間稼ぎは出来た。しかし、このままではジリ貧……


と思い攻勢に出ようとした矢先、何故か秀一のベーススキルが先に時間切れを起こした。


(なっ!?時間配分はコチラが有利だったはず!)


と思うのもつかの間、何とか視認は出来るが身体が付いていかず、数発の打撃をくらうはめになる。防御力も明らかに足りていない。


前回の戦闘経験があるため、多少なりともスキル不使用状態でも対応できたが、あまり意味をなさない。


「ぐっ!くっ……くぅっ……」


両肩、両肘、両膝、両踝を潰される。関節破壊連撃。多少動きはするものの、かなり腫れぼったくなってしまっている。


左側面からの四連、右側面からの四連、計八連撃を加えられた。追い打ちで鳩尾に重い一撃を貰って、地べたに這いつくばってしまう。


「がはっ!」


いくら防御力が上昇したとはいえ、この身体のベースは所詮はヒトだ。ベーススキルを展開していなければ、防御力は格段に低下してしまう。


関節を壊されてしまっては、抵抗すらできない。それでも身体を動かそうとしたところで勝負あったとばかりに待ったがかかった。


『さて、決着はついたように思えるけど、オリジンスキルの使用は必要か?』


上体だけを起こし、相手の方を向き、降参の意思を見せる。


「ごほっ!こふっ!はぁ、はぁ……ぃ…いえ、正直見せてもらえるなら助かりますが、けっ、結構です」


という僕の発言を確認すると『オフ、リンク、バースト』


とわざと解除スペルを口にする。やはり、時間切れを起こしてはおらず、自分でスキルを止めた。


『オリジンスキルを使うことが出来るならまだしも、君はもうスキル自体を使用できないだろう。ダメージ蓄積も雲泥の差だ。降参してくれ』


はぁ……ここまでか。言葉が出ず、その言葉に頷きアクセサリーに手を掛けた。


Surrender?Are you okay?


「っ……い、イエス」痛みを殺して、何とか声を絞り出す。


フィールドが消失し、お互いがハイディングスキルを使用している状態へと戻る。


『すまん。悪い、少しやり過ぎたか?』と秀一を心配していた。


「こほっ、こほっ…身体は…あちこち痛いですが、意識を失った前回程ではないと思います」


『これを使うといい』


小さな薬の入った瓶の様なものをこちらへ投げ渡してきた。


「これは?」と尋ねる。


『身体の修復を速めるものらしい、これは今回先生渡されたお手製だ。多少、身体は動かしづらいと思うが、移動に関しては、そこまで困らない様になる治療薬の筈だ』


背に腹は代えられないが、どうにも怪しい薬に見えて、秀一は仏頂面になっていた。


(こうなることは、想定済みか……)


『正直なところ、効果効能を教えてもらっているわけではないから、俺には安全の保証は出来ない』


(身体が動かしづらいのは事実。この人を100%信頼するのはどうかと思うが……ラベルには『榊原あかり謹製 SY仕様』ですか……使ってみるしかないだろう)


するとどうだろう。痺れや激痛の走っていた関節が、多少まだ痛みは感じるものの、段々と動かしやすくなっていく。熱を帯びたのは、ほんの一瞬で腫れ上がった箇所がまるで冷却され、元の状態へと変化していく。


『ホントに……治ってく……ポッドを使ったわけでもないのに……凄い』


肘や膝などを軽く回して様子を見る。


『どうだ?一人で歩けるか?』「ハイ、大丈夫みたいです」周りを見渡し、秀一へ再度向き直る。


『ビルが崩れるかもしれない。一旦外へ出よう』「わかりました」と破壊してしまった箇所の目立つ内部からビルの外へ移動する。


ビルは崩れる事はなかったが、衝撃が強かったようで入った時よりも外壁のコンクリートは崩れていた。


彼は秀一へと振り返り、数秒ほど目を閉じてから頭を下げてきた。


(え??一体何?)


『すまない、折り入って頼みがある』


真剣な眼差しを秀一へ向ける。


「何でしょうか?」と相談ではなく頼みとの発言に、少し怪訝な顔になる。


『少し話を聞いてくれ』と再度目を瞑り、意を決した様な表情でこちらに語り始めた。


『おまえはさ、この世界に救いがあるってを信じているか?』


「……信じてはいません」


『そりゃそうだよな、世の中は理不尽のかたまりさ。涙を流してるやつを見捨てるなんざ当たり前のことなんだ』


『皆、自分が一番かわいいからなぁ。それでも、俺はあいつを守りたかった!!』


『あの子は、誰かに救ってほしいと手を伸ばしたんだ。誰かがその手を握りかえしてはくれても、それはホントに意味での救いなんかじゃない。最後には裏切られるんだ』


『お前もGE発症者ならわかるだろ?どこにも助けなんかないってことぐらいは……』


(確かに僕に対して救いはなかったな。けど、それは自分が手を伸ばさなかったから仕方がない事)


『アイツはな『辛かったでしょう』と優しい笑顔と憂いを帯びた表情を振り撒きながら、心の奥底で『馬鹿ね』ってほくそ笑んでたんだよ』


『……一度握ってくれた俺の手は、払い除けられて、握り返してはくれなかったけどな』


『……涙を流しながら『嘘つき』ってな。否定はしたさ。俺だけは君の味方だって』


『初めて会う奴に言う台詞じゃないけど……彼女のことが好きだったからさ』


『俺自身、彼女が一番信頼していて、信じて疑わなかった人間が本当の黒幕で最大の加害者とは思ってもいなかった』


紡いでいく言葉には、切なさ、やるせなさ、怒り等々様々な感情が渦巻いていた。


『哀しかったさ、辛かったさ、涙も流したさ、けど……俺はどこまでもいっても彼女の味方なんだ』


『でも、俺がここにいることすらできなければ、本当に二度と彼女を救うことすら出来ない』


『ある意味で言えば、まだなんとかなるかもしれない……こんなことを言うのは、お門違いだってわかってる。でも、近くにいることができない俺じゃ彼女を助けられない』


『頼む!!すこしでいい…力を貸してくれ!!』


「頭をあげてくれませんか?」


少し前置きをして彼に対して秀一はこう言い放った。


「…………申し訳ありません」


彼は残念そうな顔を浮かべながらも、仕方無いか……と諦めた様な表情を取った。


秀一は先程の言葉が足りなかった事に気が付き、慌てて首を振る。


「ち、違うんですよ。協力する・しないっていう話の前に確認したいことが何点かあるんです」


先程の表情とはうってかわって、頭には?が浮かんで首を傾げている。


『確認したいこと??』




「あかりさ……いえ、先生からはどこまで聞いているんですか?」


『そうだな……どう話せばいいかな……基本的に俺は先生の実験材料だ。その代わりの対価として、情報を貰っている……と言った方が正しいのかな?その時に先生にどんな意図があったのかは知らないけど、話の中で君の話が出た所をこっちから詳しく聞いたってとこだ。他には?』


「次に具体的にもし手伝うとしたら、何をしたらいいのか?」


『たまにでいいから、彼女の様子を伝えてくれないか?困っているなら、出来れば助けてやってほしい。……名前は奏皐月(かなでさつき)だ。』


(名前まで言われては、引き下がれないな。しかし、どうしたものか。僕一人では手に余る。それにこの関係はあまりよくない)


「んー、こういうことを言うのは気がひけますが、見返りが僕には何もないですよね、それって……」


少し怪訝な顔をしたが『確かにそうだな』と素直に頷き『何か欲しいものがあるのか?PTか?』と言葉を続けた。


「それでは、あなたが困るでしょう。こちらからは情報を要求します」


『情報?なんのだ?』


「僕らGE発症者は、進入は許可されていますが、安易にAEエリアに入ることは出来ません。正直な所どんな人達と闘っているのかすら知り得ません」


「ある意味で僕はあなたに対してGEエリアの情報を開示しています。その代わりにAEエリアについて知りたいと言うことですよ」


『そんなことでよければいくらでも話すが……』


しかし、秀一は少しだけ首を横に振る。


「僕の話していた内容に戻りますが、先程の話を鵜呑みにするわけにはいきません。先生に再度確認した後に了承か拒否の連絡をいれます。なるべく不確定要素はなくしたいので……」


『まぁ、確かに俺はAE発症者、どこの馬の骨とも解らないやつに、全幅の信頼を預けるのは無理な話だよな』


頷きながら『逆の立場なら俺でもそれぐらいするか……』そう言うと秀一は再度首を振り否定した。


「いえ、自分一人なら、ここまで警戒はしなかったですよ。申し訳ないですが、こちらも色々と諸事情がありますんで……」


『そうか、自己紹介は……いいか。連絡先データを送信しておく、それで多少はわかるだろ?』


お互いのデータのやり取りを終えて、改めて確認した。


名前は橘夕陽(たちばなゆうひ)か「橘さんでよろしいですか?」と言うと頷いてくれた。


『雪村でいいか?』と聞かれたので「それで構いません」と返答した。


「では、逆に質問させてもらいますが、橘さんは今の立場に満足していますか?」


『そんなわけあるか!……出来ることなら、泣いてる彼女の隣にいたかったさ』


その言葉と態度・表情に嘘や偽りを感じる事は出来なかった。彼の真意を計るには十分すぎる答えだった。


「そうですか……わかりました。即決するのはどうかとも思いましたが、今の言葉を信じたいと思います。正式な連絡は後日しますが、それでよろしいですか?」


『……わかった、それでいいぜ。協力してくれるに越したことはない。そうなれば雪村、お前で二人目になる。なるべく、味方が多い方がこっちとしては嬉しいさ。いい返事を待ってるぜ……じゃあ頼むな』


と踵を返し、AEエリアに戻ろうと歩を進めた。


数歩進めた足を止め、秀一へと振り返る。


『俺がこう言うのもなんだけど、なんで協力しようと思ったんだ?』


少し逡巡したが、向こうが語ってくれたのにこちらが何も言わないのは不公平に思え、ありのままを伝える。


「あまりここに来る以前の事を語りたくはないんですが、昔似たような事が僕にもあったんですよ」


『それが原因…………いや何でもない。簡単に聞いていい事じゃないな』


「橘さんも話してくれましたし、少しだけ話しますよ。一人の女の子を救おうと僕もしたんですよ。そうしたらターゲットが僕になった、ただそれだけの話です」


そう聞くと、彼は顎に手を当てて十数秒ほど思考を巡らせているようだった。


『ターゲット……俺も同じ立場になっていたかもしれない…か』


「あともう一ついいですか?ベーススキルはどうやって発動させたんですか?」戦闘中の疑問をそのままぶつけてみる。


『知らないのか?ベーススキルは発動スペルを言わなくても、心で願えば、発現できるんだぞ?』


「えっ?」思い当たる節がない訳ではない。


『せっかく口にしてあげたんだから』と白髪の女性が言っていた事を今更思い出す。


(なるほど、そう言うことだったのか……)


「それに、なぜ僕の方が先にベーススキルが途切れてしまったんです?発動は橘さんの方が早かったはずですよね?」


『あー……力を使用する必要性がない時は、ベーススキルを切ってるから時間の余裕が出来るんだ。雪村……おまえ、発現しっぱなしだっただろ?』


「そういうことでしたか……なるほど、ありがとうございます」


周りがざわつき始めた事に気が付く。そろそろ交代の時間だ。


『おっと、そろそろマズイな……』


「ええ、近々連絡を入れますので、その時に」


『じゃあ、またな』


その背中は悲しそうで、秀一はまるで昔の自分自身の背中を見ているようだった。


(よし、帰って雫さんと相談しないといけないか……っとその前にあかりさんに連絡か)


(まずは、雫にメッセージを残しておいてと手が空いていればすぐに返信してくれるはずだ。でも今日は時間が掛るんだったっけ?)


闘技エリアから出なくてはいけない、他の人間がバトルの為にこのフィールドを使用しないとも限らなかったからだ。


足早とはいかないが中継地点まで移動する。ある程度舗装された道を通っては来るのだが、そこかしこにバトルの残骸がひしめいている。


地面には崩れたアスファルト、コンクリート片、多数転がっている掌より少し大きめの石礫、街灯はひしゃげていて、ひび割れたアスファルトからは雑草が生えている。


そういえば、フィールドの大きさは、エリアに配置されているものによっても範囲が違うようだ。先日の草原エリアよりも範囲は大幅に広がっている気がする。


(まぁこの辺は、あかりさんにでも聞いてみるか、検証してみないと分からないな)


中継地点に到着し、雫から返答がない事を確認する。やはり本当に時間が掛るようだ。移動車両はすでに到着しているが、ここは榊原に連絡を取るべきだ。


(メッセージではなく、今回は声を聞いて真偽を確かめたい)


通信を行うと、すぐに榊原に繋がる。分かりやすく言うと3D立体型のテレビ電話とでも言えばいいだろうか?その姿は話をしている本人にしか見えていない。


自分の周りには、特殊なシールドが張られている。部外者には自分の声すらも確認する事は出来ない。


『ん?おはよ。しゅういちくんどうしたかな?』とすっとぼけていた。


「どうした?じゃないでしょう。今回のバトルはあかりさんの入れ知恵ですか?」


『あはははは…ばれちゃったか。そうだね。ただ単に偶然を必然に変えただけ』


『君にとって、別に不利益になる事はなかったでしょ?』


と首を傾げている。その笑顔だけを切り取れば年相応に見えない。


「まぁ、確かにそうですが……そういえばあの治療薬は一体何なんですか?」


『あぁ、あれはね……試作』


「はぁ!?試作を僕に使わせたんですか」


『そこは気にしないで、臨床実験は済んでるから大丈夫だよ』


臨床実験は済んでいる試作って何?


『実験データはそろっているし、試作じゃない製品自体もあるんだけど、それはしゅういちくん用に作られたものだから試作なんだよね』


「なるほど……もし、僕以外に使うとどうなるんですか?」


『特には問題ないとは思うけど、最悪の場合、拒否反応かな?その薬自体にしゅういちくんの体になじむようにDNAデータを仕込んであるからね』


何とも仰々しい事を平気でやってくれる人だ。


「ここは一応感謝しておきます。まぁ、サプライズ的な部分もあるんでしょうから、これ以上追及はしませんが……」


『そうだね。所で質問があって連絡をくれたんでしょ?なにかな?』


「えぇ、一つ目は何故橘さんを僕に引き合わせたのかという事」


「そして二つ目は、橘さんの言っている事を信用していいのかという事」


「三つ目はもしそれが本当ならAEやGEの本質は一体どこにあるのかという事…以上です」


見える映像では、榊原は首を捻っている。


『最後の一つは、まだ研究中で答えることは難しいかな。検討はなんとなく付いているんだけど、正直なところ、正確な事は、私にも分かってないんだよ』


「そうですか」流石に全てを知っているわけではないということか。出なければ研究機関など存在しない筈だ。


『その前の二つに関して、まぁ、彼の言っている事はある程度信用していいと思うよ。引き合わせた理由は彼と言う存在を知っておいて欲しかったのと彼自身が君に会いたいと言ってきたからさ』


「橘さんが?僕の事は知らない筈じゃないですか?」


榊原が両手を合わせて謝って来た。


『ごめんね。情報自体は私がリークしたの。彼の境遇も知っていたし、彼自身が私の研究対象でもあるからね。少しだけ話をしたんだよ。そうしたら食いついてきちゃってさ。すぐにでも会いたいって』


(平然と自分がばらしましたって言ったよこの人……まぁ隠されるよりはましか。)


「まぁ、あかりさんのところには、僕のデータが開示されているんでしょうから、当然と言えば当然でしたか……出来れば、今後は僕に一応許可を取って欲しいです」


『ごめんごめん。ホントはね、闘いの場で会わせるつもりはなかったんだ。だけど、君は闘い方を学べる状況にはないだろう?丁度いい機会かなと思って少し対戦相手を操作させてもらったんだ。』


情報操作もお手の物ってか。本当に何でもできる権限があるんだな。だけど所長ってだけでここまで入り込んでいけるもんなんだろうか?


「分かりました、とにかく橘さんとは協定関係を結ぶつもりでいます。また直接会って話をする事もあるでしょう。落ち合う席は、あかりさんが設けて貰えますか?」


『それぐらいなら構わないよ。私も一緒にいた方がいいかな?』


「いえ、その時々の状況でお願いする事もあると思いますが、毎度という事はないと思います」


『そっか、良かったよ。君と彼が仲違(なかたが)いしなくてさ』


(あかりさんも橘さんの状況を憂いていたんだろう。そこに僕が来たなら、いずれ会う事も必然にすべきか……)


「可能性としては、恐らくかなり低かったでしょうね。あぁ、あと奏皐月さんと言う方は一体どこにいるんでしょう?」


『それに関しては、データを送信しておくわ。彼の話をする事は絶対に避けた方がいいわ。トラウマが呼びさまされると、あなたがただじゃすまない可能性が出てくるから』


「では彼女には、直接会わない方がいいでしょうか?」


『いいえ、そうではないわ。ただ彼女自身の整理が付かない状態で、彼の話をするのはあまり得策ではないというだけよ。しゅういちくん自身が彼女に対して、害があるわけではないでしょう?』


「それは、まぁそうですね……とにかく聞きたい事は聞けました。ありがとうございます」


と言うと彼女は『そう、よかったわ。じゃあ一週間後には私のところに来て宜しくね』と言って通信を切った。


(そうだ……ご飯を作りにいくんだった……)




メッセージを確認してみるが、数分は経過しているはずなのにメッセージが残されていない。


雫の前言の通り今日は時間が掛るようだ。


すでに到着していた車に乗り込み、先に帰宅していますとメッセージを送信しておく。





雫から返信がきたのは、それから一時間後の事だった。

以前のデータと比べ、2400文字強の追加です。


お手数ですが、もう一度読み返していただければ幸いです。

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