初見殺しのディア先生1
夜。魔物の咆哮が男子寮の一角で木霊した。
「動き出したみたいだぜ」
廊下と接する扉の前で耳を当てて音を確認するリク。彼は耳が人一倍いい。なんでも出来るリクがなんで平凡なオレなんかと一緒にいるのか、たまにふと思う。あまり考えないようにしているんだけど。
と、二度目の咆哮が校舎の方から聞こえた。心臓がバクバクする。リアルとゲームとじゃこんなにも迫力が違うんだ。
ここからがオレら新米冒険者の初めての実戦なんだけども。
「ほら、急げっ」
一階の寮の窓を全開に開けて足をかけて、オレを急かしてくるリク。そうだ、今夜一番被害を受けるのは男子寮の森寄りの南校舎。つまり今自分が居る場所だ。
「月、綺麗…」
今日は満月だった。その自分の言った言葉を流さずに返してくるリク。
「んのせいで、魔物が今日はバカに強化されてるんだろうが」
本校舎を目指して夜の中庭を駆ける二人。確か今日のシナリオはこうだったはずだ。
たまたま魔力が強い満月の夜に、魔物達によって謎の奇襲を受ける。
でもそれの本当の原因は見習い冒険者の面倒を見ていてくれたディオ先生の策略なんだってこと。そういや初めてプレイしたときは、何も知らないまんま男子寮で魔物に殺されたんだっけ。
画面にゲームオーバーなんてデカデカと表示された時は軽く殺意さえ芽生えた。
「それじゃあ、こっから先は二手に分かれるぞ」
軽く頷き事前に話していた作戦を決行する。リクは魔物の足止め件冒険者の保護。オレはディア先生を止めに行く。
<全ての闇夜を見抜く猫の目、彼にその力を>
リクが詠唱を終えると同時にオレの視界がクリアになった。まるで昼間のように視界が明るい。
「ヒロ、そっち任せたからな」
前に出したリクの拳。オレも拳を合わせる。今になって気付く。リクの手は震えていた。オレの手も震えていた。やっぱり、怖い。
「リクこそ。人助け、しまくってこい」
後ろを振り返らずに、オレは校舎へと入っていった。