夢の中のヤヌス
「キミは何故この世界に呼ばれたか分かるかい?」
光に包まれた空間で、オレとその人は向かい合って立っていた。
その人は見た目まだオレと同じか1つ上くらいの歳で、オレと同じ黒髪なのに自分には何かかなわない雰囲気を纏っていた。
これは夢なんだと思った。
「分かりません。でも、この世界には見覚えがあります。」
満面の笑みを作る彼は、オレのその応えに満足をしたようだった。次は此方から質問を投げかけてみる。彼には見覚えがあった。
「貴方は?」
彼は少し考えてから言葉を返した。その表情は哀しさに溢れていた。
「僕はね……。僕はこの世界に魔物を呼びこんだ張本人なんだ。それが原因で兄と疎遠の仲になってさ。キミは僕に似ててね。兄を探しているんだ。頼むよ。」
だからキミに任せたい。なんて、最後の方はふっきれ気味に話してきた彼。さっきの同情を返してくれよ。
それに、彼の話を聞いて確信した。カナンはただのRPGゲームではなく、実在した世界を舞台に作られたんだ。
教科書には長ったらしく書かれていた歴史だが要約すると、ある兄弟の弟が楽園の扉を開けたけれど、結果魔物が噴出してきて、兄の愛する人が死んで、人々から漏れた怒りや悲しみの念を受け止めて兄弟がヤヌスっていう神様になった話。
彼は兄弟の弟で、確かこの大陸カナンの神ヤヌス。
ちなみにこれが彼の物語。
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カナンとは、神に約束された幸せな大陸であった。
だが、とある兄弟が一冊の魔道書を手にした。その書には「『ある条件』を満たした時、楽園への扉が開かれる」と書かれていた。その二人は喜び、「ある条件」を求めさまざまなものを創造・分解したが、事故が起こり、その兄の恋人が巻き込まれ、体が分解され、楽園への扉が開く。
二人は失意してその世界に同化してしまった。そうして神となった者たちの悲しみ・怒りが、「ヤヌス」となり、世界を満たした。世界は新たな生物を生み出したが、神の約束は失われた。一方、戦乱の続く下界では争いがやまず大陸カナンを救う冒険者を異世界から求めた。
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「それがキミらさ。頼んだよ、ヒロ」