表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光からの贈り物  作者: 337
第二章 ~動き出した光・輝きだした時間~
8/28

2-2

 現在時刻は9時55分。場所はコウ宅前。

 昨日は特攻を仕掛けて痛いような嬉しいような羽目にあったので、堅実に確実にちゃんとインターホンを鳴らす。

 ピンポーンと心地よい音が響いて行くのを聴き、次にドタドタドタと廊下を踏みならす足音が鳴る。

「はいはーい、今開けまーす」

 中から青年の声が聴こえてくる。そしてガラガラガラと横に開かれる扉。開けたのは声の主の藍沢光輝。もう何年の付き合いになるかわからないくらい長い付き合いの友達。

「えっ?」

 当然の相手が出てきたのにそれなのに関わらず、驚きで意味がわからないといった感じの声を零す。

 その理由はコウが腰にタオル一枚を巻いた姿で出てきたからだ。

「あっ、二葉だったのか。どうしたんだこんな朝早くから」

 今の自分の姿を忘却しているのか、いつも通りに話しかけてくる。

「にしても偉いな、今度はちゃんとインターホン押せたな、いい子いい子」

 言葉通り頭を撫でまわしてくる。

 この行為自体には何も言うことはない、どっちかというと嬉しいし、けれど言いたいことがある。この状況ならみんながみんな同じことを思っているはずだ。

「どうしたんだ黙ったまんまで。おーい、二葉」

 そんなことお構いなしと、あたしの顔の前で手を振っている。

「ふ―」

 なわなわと肩を震わしながら叫ぶ準備。

「ふ?」

 何を言うんだと興味を持って耳を傾けるコウ。

「服を着ろ―――――――!!」

 大絶叫と共に身体目掛け前蹴りをかまして玄関の奥へと強制的に引き返させる。

 蹴り終えた直後に勢いよく扉も閉める。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 顔を真一杯赤く染め、肩で呼吸をしていた。

 そしてそのままへ垂れこむ。

「びっくりしたぁ」

 思ったことをそのまま吐露した。

 また今日の邂逅もハプニングから始まったのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いてーな」

 呟きながら視線を前に送る。が、その時には扉はもう閉まっており、暴行犯の姿は見えなくなっていた。

「一体なんで蹴られなきゃならないんだよ!」

 外に居るであろう二葉に文句を垂れる。

「自分の姿を確かめろ!」

 その言葉の間に天から何が白いものが舞落ちて顔にかかる。それを拾い上げてみたら正体はハンドタオル。ああそういえば、と今らさらならがら思い出した。

 シャワーを浴びてた途中にインターホンの音が鳴ってそれで出るために腰にタオルを巻いたんだった。どうせこんな時間だから来たのはいつも野菜をお裾分けしてくれる近所のおっちゃんだと思ったからこんな格好で出たんだった。本当におっちゃんだったとしても十分失礼な姿なわけだけれど。

 だから蹴飛ばされたのかと今さらながらの得心。

「そんなに恥ずかしがるな」

 腰にタオルを巻き直していたずら心でもう一度ドアを開ける

「服きろ!」

 扉を10センチくらい開けた時に言葉と同時に再び閉められた。

「ほらほらそんな連れないこと言わないで」

「黙れ!いいからお前は服をさっさと着ろ!」

 扉一枚挟んでの攻防、開けようとする僕、開けさせまいとする二葉。今ここに仁義なき闘いが始まった。

「そんなこと言いつつ本当はみたいんだろ」

 開こうとしている手に力を込めながら冗談で訊く。

「……そんなことない!」

「何今の一瞬の間!? まさかお前僕の裸がみたいのか」

「んなわけないでしょ!」

「じゃあ今の間はなんだよ」

「それは…」

 返答がすぐ帰ってこない。

「すぐ答えられなってことはお前まさか」

 一つのことが頭の中に浮かぶ。

「な、なによ」

「私の身体だけが目当てだったのね」

 当然ふざけて言っているわけだけれど。

「違うわぁ!!」

 いきなり開かれる扉、テンパり頭が回らなくなったのか力を加えるベクトルが真逆に働いたのか二人分の力で開かれた。

 ドアを壊さんとばかりに打つドンッと音。開かれた時に巻き込まれて空気が動き風が起きる。気持ち程度に結んでいた結び目がほどけた。僕のボクが露になる前にしゃがんでその部分を押さえる。みられたかみられてないかはわからないが赤らむ二葉。無情にも、無慈悲にもくり出される蹴り。かがんだままの姿で飛ばされる僕。

 あれ、なんか目に水が溜まっている様な気がするな、ハハハ。

「もうお嫁にいけない!!」

 二葉に向けて叫ぶ。

「お前は男だろ!!」

 ドアの向こうから騒がしい声。無視して勝手に続ける。

「責任とって私のこと貰ってくれるの?」

「よしわかった、貰ってやるよ」

 男らしい返事が返ってきた。

「本当に?」

 乙女の様に訊き返す。

「ああ、本当だ」

「ありがとう!」

 扉目がけて走りだす。いつの間にか閉まっていた扉に手を掛けた。

 あれ、開かない。

「もういい加減服を着ろ!」

 マジでお冠のテンションで言われてしまった。

「わかりました」

 おふざけタイム終了。

 得たものは何もないのに色々と失った気がするのは気のせいでしょうか? 途中からおかしくなってやけくそだったし。

 はぁ。

 黒歴史に認定して、即座に記憶の片隅に追いやって早く消えろと念じておく。

 冷静を取り戻して、さっさと着替えを取りに向かおうとする。

 誰もいないしタオルは巻かなくってもいいかな。……忘れてた! 今はもう一人人がいるじゃないか! あの子が客間で寝ているんだった!

 おふざけタイムで得たものは一応あったみたいだった。

 それは、二葉を家に上がらせないこと。

 絶対割に合ってないよ、等価交換では全くないな。胸中でぼやきながら急いで客間へ向かう。

 階段前を通りすぎる時一度上に戻って着替えを取ろうかと思ったけれど、その間に二葉が侵入してくる可能性は大いにあるわけなので、優先するべきは彼女の移動。

 客間に入り、寝息を立てている彼女の横で腰を落とす。ほぼ全裸の状態で。

 傍目から見たらもう完全にアウトな状態だけれど、今はそんなこと気にしていられるか。この子と二葉が出会った時の方な何かと面倒くさそうだから一先ず移動させる。

 この状態で起きられたら蹴り飛ばされても文句は言えないので起こさないようにして布団ごと抱きかかえる。幸いなことに深い眠りに入っており起きる気配はなさそうだ。

なんかさっきよりも重たくなった気がするような、ああ、布団も持っているからか。

 腕の中にしっかりというにはいささか軽いけれど、重量を感じながら歩き出す。

 廊下に出て、階段を登り、僕の部屋の対面である姉の部屋で寝かせておくことにする。

 そしてすぐさま退出して、自室に入る。

 適当に服を見つくろって着替え始めようとした時、下から扉の開かれる音が聴こえた。

 念のために今日はニ階に上がらせたくはない、なので急いで着替える。ズボンまではき終えて、Tシャツを掴んだまま部屋を飛び出し、ニ階の廊下に出て着替えながら階段を降りようとする、が、空を掻く脚。

 視野がすべてシャツの中にあった時に階段を下ろうとした背で踏み外したようだ。

 シャツはどうにか着れた。今視界に映るものは絶望。

 踏み外した脚は階段を捉えることはなく、身体のバランスを整える猶予もなく。階段を転げ落ちるしかなかった。

 その着地地点に人影、二葉だ。姿ははっきりと見えなかったがそれ以外はないだろう。

 もうこれ以上何もできない、人間は重力には逆らえない、だから最後に僅かな抵抗。間に合ってくれと祈りながら。

「逃げろ―――――――――――――!!」

 断末魔とも聴こえる絶叫。

 暗転の世界に響く衝撃音。

 全身に衝撃を伴い訪れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドアの向こうで「わかりました」と言って家の奥へと向かっていく音が聴こえた。

脈打つ鼓動が運動後のように早い。

 あの馬鹿との変なやり取りのせいだということはわかっている。嬉しいような嬉しくないよな、自分で自分の感情がよくわからない。

 あのやり取り自体は楽しかったけれど、あいつに変な風に捉えらた所もあるからなぁ。すぐに否定できなかったことの事実だった訳だし。

相手がレンだったら一瞬の間も置くことなく否定できていただろうけれど、相手がコウだったから一瞬の躊躇いができてしまった。

 てんぱって間違えてドアを開けちゃったし、その時にコウの……

 いや見えてはいないけれど、絶対に顔が赤くなっていたと思う。この体質どうにかなってくれないかな。それに怒っていなければいいんだけど。

 不安なことは考えないようにしよう。いつも通り、いつも通りにしておけば、あいつもいつも通り接してくれるはずだ。よし。

 ふぅ。

 大きく息を吐いて気持ちを整える。

 胸に手を当てて鼓動を感じる。徐々に、徐々に普段の速さに戻っていく。

 よし、もう大丈夫。

 扉に手を掛け開け放つ。

 もうある程度時間も経っているので着替え終わっているだろうから勝手に居間に上がらせてもらおうっと。

 靴を脱いで廊下を歩く。玄関からすぐの右側にある階段前にて一度立ち止まる。

 さっきはやられぱなしだった訳だし、何か仕返しをしてやろうかな。

 何をしてやろうかと考え始めた時に上から足音、ゆっくりと歩いているような音ではなく、慌てて走っているようにドタドタと早いリズムの大きな音。

 見上げた先に、Tシャツを着ているのか着られているのかわからないものが見えた。それから顔が生えて着た時、にやけに焦ったような表情をしていた。

「逃げろ―――――――――――――!!」

 絶叫が響いてきた。言葉に遅れて階段を転げ落ちてくる。

 危ない!

 自分の身ではなく、コウの方が心配になった。落下地点に立ち両腕を広げて受け止める準備をする。避けようと思えば避けれた、でも、それでコウが怪我してしまったら、そっちの方がイヤだった。

 身体で受け止める。

衝撃で吹き飛ばされ壁に背中をぶつけた。一瞬呼吸が止まったんじゃないかと思ったけれどすぐに回復する。腕の中にいるコウを確かめる。

 あたしの顔の横には丁度コウの顔。うまい具合に落ちてきてくれたので背中に走った衝撃だけで助かった。

密着する身体。昨日よりも触れている面積は大きい。あたしが全力で抱きかかえているから。右胸の位置に鼓動を感じる。それほどまでに近い距離。

「だい、じょうぶ?」

 まだ少し息苦しいが声を掛ける。

「ああ、どうにか」

 掛けていた力を緩めて顔を確認する。

 つらそうではあるけれど、大丈夫そうだ。

「よかったぁ」

 安心して肩の力が緩む。

「本当によかった」

 反動からか今度は思いっきり力をいれて抱きしめる。

「く、苦しいって」

「あ、ごめん」

 入れていた力を緩め解放する。

「本当に大丈夫なんだね」

 顔を近づけ、しっかり目を合わせて。

「ああ、お陰さまでな」

 普段なら顔を真っ赤にしているだろうけれど、今は不思議と落ち着いていられた。

「無茶しやがって、逃げろって言ったのに」

「身体が勝手に動いちゃって」

 テヘっとおどけて見せる。

 合わせていた視線をコウから背ける。

「その、なんていうか、……ありがとうな。僕の為に身体張ってくれて」

 顔を赤くして普段みせない、はにかみながらのお礼。

「どういたしまして」

 笑顔で正面から受け取る。

 今の表情を見れただけで十分満足できた。あんな可愛らしい表情は初めてみた。

 無言で見つめ合う、とてもいい雰囲気になっている。

 あたしの方は準備はできている、後はコウの方から来て。

 目を瞑ってその時を待つ。

 頭に触れられる掌、額に触れる何かの感触、わからなくて目を開いた。

 目の前にはコウの瞳。触れていたのは額。

 この光景は見たことがあった、最後にみたのはいつだったかはきりとは憶えていないけれど。言われる言葉もきっと同じ。

「ありがとうな」

 屈託の無い笑顔で頭を撫でながら“ありがとうな”昔と同じだ。

 コウが最大限に感謝する時にする行動。これをされたのはおそらく小学生以来だと思う。

 して欲しかったこととは大いに違ったけれど、なぜだか満足できる感覚、涙がこみ上げてくるんじゃないかと思うくらいに心境になってる。

 今度はあたしが目を背けた。

「うん」

 落ち着いていれたのに、顔に熱が集まってくる、脈もどんどん早まる。

 くっついていた額が離れ、コウが立ちあがる。

「ほら、起きれるか?」

 手を差し伸べてくれる。断る必要もないので捕まって起き上がる。

「ありがと」

 自然と笑顔が零れる。

「どういたしまして」

 掴んでいた手が離れていく。

 いやだ、放したくない。

 感情とともに手が動く。

 振り返って居間のほうに向かおうとしていたコウの後ろ手を掴む。

 握ることができたのは薬指と小指。互いにその二指だけで繋がっている。

 握った時に一瞬コウの動きが止まったように見えたけれど、振りほどかれることはなかった。

 どちらか一方が拒めば簡単にほどけてしまうくらいにゆるい結び、けれど拒まれることが無かったから、今、こうしてささやかではあるものの手を繋いでいる。

 気恥ずかしさから互いに何も話さず、顔を見ることもできなかったけれど、これでもいいと思えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 いよいよその時が来た。

 脱走を図るのなら今日が最善、年に一度のタイミング。

 魂共全動機計測シンパシーチェックの日となっている。

 そして一年ぶりにあの子との再会ができる。

 この囚われの生活の中での唯一の楽しみといったらこれくらいだろうか。

 そして時間が来た事を知らせるドアの開く音。

「ついてきて下さい」

 感情も何も感じ取ることのできない、無機質で冷たい氷の様な言葉。

 感情を気取られるなと意識しながらいつも通りに着いて行く。

 この動くモノの後をついて行きながら頭の中でイメージトレーニングをする。

 正直に言って成功する確率はそれほど高くはない。

 あの子の性能がどのようになっているかはわからないけれど、去年よりも疾くなっていれば確率は上がる。

 後をついて行って遂に目的の場所に辿り着いた。

 広がるものは寂れた景色。地面には錆びついた金属の床があり、空は塵や灰で薄汚れており、広がっているはずの夜空の色がくすんで見える。

 まだ計測結界アンチフィールドは張られていないみたいね。これならいける。

 そして待ちに待ってた一年ぶりの再会。場所は見なくたって感覚で伝わってくる。

 迷うことなくその場所に視線を送る。

 あるものは、滑らかな流線型で上下左右すべて対照にできている魂共全動機シンパシー

 どんな場所であろうと自由自在に飛行することのできる、現在の日常生活では身体の一部となっている乗り物だ。

 それの飛行テストが行われるのだ。

 18歳以下の人は法律で年に一度、魂共全動機計測を行いそのデータを国に送信するという義務があるからだ。

 そもそもなぜこんな面倒なことがあるかというと、魂共全動機はすべての機体ごとに性能が異なるため、稀少な能力などのついたものや、珍しくないものでもどのように成長するのかという記録が欲しいためにこんなことが執り行われている。

 機体ごとの能力が異なる最大の理由は、生まれた時に魂を半分この魂共全動機に移すというこのが大きな理由となる。

 魂共全動機は移された魂の元主マスターと共に成長をしていく。

 だから人間の能力に個人差があるのと同様に魂共全動機にも個体差が生じるわけだ。

 多くは元主の得意なことが魂共全動機に反映されるのだが、それ以外のこともある。トラウマや渇望、それの強さによっては元主の持ちえないものを魂共全動機が持っていることがたまにある。

 私の場合はそのたまにの方のパターンだけれど。

 自嘲気味の笑いを零す。

 そのまま相棒のイノ(私の魂共全動機の愛称)に触れる。

「久しぶり」

『うん』

 私だけに届く声が聴こえる。

「今日は頑張りましょうね」

『任せて』

 短い挨拶だけ済ませてイノの中に乗り込む。

 まだ計測結界は張られいないみたいね、あれが張られたら正直脱出できる気がしない。その前に振り切るよ。

『わかりました』

 魂で繋がっているのでその気になれば声を発さないで会話をすることくらいは造作ない。

 機械ロボットが私が乗り込んだことを確認して計測結界を展開するためか移動し始める。

 今だ!

 一年ぶりの搭乗でブランクは相当あるけれど、そのんなことは言っていられない。

 全速力発進!

『了解!』

 目の前にあるハンドルを勢いよく手前に引く。

 機械が違和感に気がついたのか急いで計測結界を起動し始める。

 地平線の彼方に結界が張られ始めたのが見えた。

 音を後に引き連れてイノが飛び立つ。身体には物凄いGが掛ってくる。

 重力減算グラビティカット発動。

『発動します』

 全身を押しつぶすように掛っていた力が緩まる、けれどすべての重力をカットできているわけではないので、まだ全身に通常の2~3倍の圧が掛る。

 計測結界が空の半分以上を覆ってきた。

 まだ半分も飛べていないのに7割がたが結界に収まっている。

 身体に掛る重力のことも考えずに更に深くハンドルを引く。

 音を置き去りにしても間に合うかどうかわからない。

 全身の関節が悲鳴を上げてくる。

 まだだ、まだやれる、もっと疾く!!

 痛みに、重さに耐えながら更にハンドルを引く。

 結界は9割近く完成されている。その僅かに開いたスペース目掛け、白壁ベイパーを引き連れて全速力で突っ込む。

 が、それでも無情に閉ざされていく空、抜けだす最後の空路に結界が張られていく。

 もっと、疾く!!!!


 ゴンッ、


 先端に何か衝撃を感じたが突き進むことができた。

 突破できたのだ。

 ようやく鳥籠の中から逃れることができた。思わず涙が溢れてきそうだった。

 これもすべてイノのお陰だ、きっと去年までだったら疾さが足りなかった、私の痛みいがまだ足りなかった、だからきっと逃げれていなかった。

 けれど今年ようやく、ここから逃れることを許されるだけの痛みに耐えてきた、掴み取ることのできた自由。

 安心していた刹那、機内に響く警告音。モニターにはWarningの文字。

 クローズアップして映し出される一機の魂共全動機。

 脱走したことに気がついて現れたようだ。

 姿かたちこそ私の魂共全動機と同じだが、色は迷彩色をしている。おそらく警備用の無人タイプだ。

 折角見えかけた自由だ、何が何でも逃れてみせる。

 警備機とは相当な距離がまだ空いているこれなら振り切れる。無理な加速はせずにそのまま上昇を続ける。幾つもの雲を切り抜け、後少し進めば宇宙に出られる。そうすればこちらの勝ちだ。モニターの中の無人機ターゲットに目をやる。

 追いつかれることはないだろうと高を括っていたせいか想像以上に近づかれていた。無人機の最大のメリットはスピードを際限なくあげられることだということを忘れていた。乗組員がいないので、Gのことを無視してスピードを上げられるのだ。

 迷彩色の先端に亀裂が走り、銃口が出てくる。そして次の瞬間にはエネルギー砲が放たれる。

 どうにか紙一重で避けれたがそう何度もかわし続けることはできない。

 ニ度三度とどうにか避けれたが、次第に相手の命中精度が上がってきており、いつ当たってもおかしくない。

 周りはもうほとんど宇宙となっていた。あと10秒と掛らず大気圏を脱出できるけれどその間に避けきれるか。

 放たれる一撃、私目掛け一直線に飛んでくる。

 最後の賭けだ。

 垂直に上昇していた機体の軌道を変えUターンする。そしてそのままの勢いで迷彩色に突撃を試みる。

 ぶつかる両機、先端から一貫。

砕け散る、無人機。

イノの方が強度で勝っていたようだった。

 汗で湿っていた手を拭う、ようやく落ち着いて呼吸をする。

 勝ったんだ。

 大気圏を脱して、重力圏からも脱する。

 こみ上げてきた涙が球を作って漂っている。

 ああ、よかった、よかった。

 これで本当に自由だ。

 この無限の宇宙の中で。

 たった一人きりで。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ