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光からの贈り物  作者: 337
第四章 光からの贈り物 ~宝物を乗せて~
27/28

4-6

 なんだかんだで買い物をしていたら日が傾き始めていた。

 今はまたバイクに乗っており、帰宅中である。

 今日は久しぶりにこうきと一日中一緒だった気がする。特に何もしていなかったのに、一緒にいただけだけれど楽しかった。

捜索魂共全動機ハンターシンパシー大気圏突入』

 突然の報告だった。

 どういうことなの? 一体なんで急に?

『まだ計測機系統も不調で、むらがあるみたいです』

 今日は調子が悪くて今まで気がつかなかったってことか。

 ということはこの楽しかった生活の今日で終わりになっちゃうんだ。

 迎えが来た時のことは想像しておいたけれど、やっぱり悲しいな、別れるのは。こんなに楽しいのに。離れたくないよ、イヤだよ、やだ。

 最後のお別れを言う時間くらいきっとあるよね、そう信じて呼びかけておく。

 掴んでいる腕に力が籠る。

 離したくなくて、ずっと一緒にいたくて、なのに引き離されるとわかって。

「どうしたんだ、ゆうあ?」

 私の変化に気がついたようだ。

「あのね、捜索魂共全動機が遂にきちゃったみたい」

 これでお別れだね、とはいえなかった、認めたくなかった。

「おお、ついに来たか、もう準備は万端だぞ」

 えっ?

 予想だにしない答えが返ってきた。準備は万端? どういうことだ。

「さっさとそのハンターなんちゃらを追い返してやるよ」

「どうやって?」

「いいから任せな、そいつは後どれくらいで接触してくるかわかるか?」

「ちょっとまってね」

『後15分程で接触します』

「オッケーわかった、じゃあもう少しスピードを上げるからしっかり捕まれよ」

 早かった速度が更に増していく。絶対に法定速度を振り切っていると思う。

 走り続けること数分目的地に着いたようでバイクを停車させる。

「ここって」

 かくれんぼをした、バーベキューをした森だった。

「ああ、この先に仕掛けがあるんだよ、急いでついてこい!」

 そう言って森の中を駆けていく。

「どこに行くの?」

「廃鉱山だよ」

 それって確か。

「こうきが入っちゃダメって言った所じゃないの?」

「緊急事態だからいいんだよ」

 何分か走り続けて、立ち入り禁止と書かれた看板を横目で捉えて、小さな洞窟の前についた。

 その洞窟の入り口脇にあるプレハブにこうきが入って何かを投げてくる。

「ライト付きのヘルメットだ被れ」

「うん」

 言われるがままに付ける。さっきこうきがやってくれたように装着する。

「この中に籠城するつもりなの?」

 洞窟だったら頑丈そうだし、もしかしたら諦めて帰るってこともあり得るけれど。

「いいや、ここで追い返す。あわよくば倒す」

「無理だよそんなこと、絶対にできないって、怪我する前に逃げてよ」

「いや、逃げない。どうにかして見せるって言ったんだからな、これを破った嘘をついたことになっちまう」

 右手を握って小指だけ立てる。

「約束したからな、約束は守るって。だから絶対に守る」

 ファミレスでした約束のことか、私がいいように使ったのと同じくこうきも使ってきた。

 その目は真剣そのもので本気で私を返そうとしていなかった。

 こうきが本気でやってくれようとしているんだ。私が諦めてどうする。

「絶対に戻らない」

 誓いの指切りをもう一度交わす。

 刹那、空気の震える音がした。上方には夜空よりも暗い物体。

 捜索魂共全動機だ。

「こっちだ」

 手を引っ張られて洞窟の中に引っ張られる。

 しっかりと姿が見てとれたわけではないけれど、無数の傷跡がすでに付いていたように見えた。

 やっぱりタイムスリップのできる機体は存在していたようだ、そして憶測の通り、スピードと強度はイノに比べたら遥かに劣るようだ。

 暗い洞窟の中をヘッドライトの明かりと引っ張られている手を頼りに進む。

「ゆうあこれをなるべく後ろの天井に投げつけろ!」

 渡されたのは、瓶。

「でもそんなことしたらあ――」

「いいから投げろ!」

「うん」

 破片を浴びないようにするため、指示通りのなるべく後ろの天井にぶつける。

 天井にぶつかり、瓶はあっけなく割れる、その中から光る何かがあ降り注ぐ。

 光輝が走りながら瓶を拾ってもう一度同じことをしろという。

 次の便からも同じ光る何かが降り注いだ。

「アルミ箔だ。これで電波をジャミングできるはずだ」

 そういうことか、ようやく理解できた。

 詳しい原理は知らないけれど、アルミ箔が空中に漂っていると電波が通らないと訊いたことがある。

 いつの間にこんなのを用意していたんだ? あっ、そうか付き合いが悪くなっていたのはすべてこれを準備するために。

 本気で返したくない。その気持ちが真に伝わった。

「手、離すけどちゃんと付いてこいよ」

「うん」

 絶対に見逃さない。絶対に振り切られない。死ぬ気でここに残ってやる。

 何度か同じように瓶を割らされてからこうきが口を開く。

「次は、音だ。五月蠅いけど我慢してくれよ」

 手に持っていたのはガスバーナーと爆竹。そんなものまで用意していたのか。

 爆竹に火をつけて二手に分かれている道の両方に投げ入れる。

 洞窟ということもあって音が乱反射して耳が痛い。

「次が最後のトラップだ、一番派手だからな、期待しておけ!」

 さっきと同じように床にあらかじめ置いておいた瓶を掴んで後ろの方の天井にな上げて割っていく。けれど今度のは光っていない。それが空気中に漂う。

 同じ様に幾つも瓶を投げ割っていく。

 後ろの方から風切り音が少し聴こえる、どうやらもう場所が割れたようだ。

「こうき!」

「大丈夫だ! そこが出口だ!」

 走り抜けて外に出る。

「ゆうあそっちに行け!」 

 右手側を指す。

「うん」

 こうきはそのまま真っ直ぐ走り、振り返る。

 足元には幾つものロケット花火、それが洞窟の方に向けられている。

 ガスバーナーで横一線。一気に火をつける。

「いけえぇぇぇぇ!!」

 叫びながら横っ跳びし、入り口の正面から逃げる。

 中にロケット花火が幾つも突入する。

 その刹那、昨日の花火など比べ物にならない爆音が響き渡る、衝撃で崩れる洞窟。

 捜索魂共全動機は出てこない。

「最後の熱、粉塵爆発だ! どうだ!!」

 地面に倒れた状態のこうきが洞窟の方に向け叫ぶ。

 そうかあの白い粉は小麦粉だったんだ。それでこれほどの爆発がしたのか。

「な、任せろって言っただろ」

「こうき!」

 倒れているこうきの元に駆け寄る。

「立てる?」

 手を差し出して起き上がらせる。

「ああ、サンキュ」

 飛んだ時に擦りむいたのか、膝や肘なとに小さな出血があるけれど大事には至ってなさそうで一安心する。

「これで勝ったろ」

 崩れた洞窟を見つめる。

「光輝特製、火薬、ガソリンプラスセットだからな、いけただろ」

 少しの間見つめていたが洞窟の方から何かが動く気配は感じ取れない。

 冷静さが戻って辺りの暗さを感じる、もう太陽は姿を消して明日の為に眠りに着いたようだ。

「よし、来ないな、フェイントとかないよな、やったよな」

 声が段々と大きくなっていってた。

「よし、んじゃあ帰るか」

「うん、そうだね」

 遂に緊張から解放された。

 もしあれが無事だったとしてもしばらくは動けないだろうからもう安心だ。あれが動けるようになる頃にはイノが全快している頃だから確実に追い返せる。

「そこに原付止めておいたんだよ、本当は二人乗りは駄目だけど、こんな時くらいはいいよな。ほら、乗れ」

「うん」

 跨って帰ろうとする。

 後方から物音。小さな石が滑り落ちていくようないやな音。

「こうき、出して!」

「ああ!」

 大きな岩が吹き飛ばされた。その中からはボディーを凸凹に変形させ、何箇所か穴が開いているのにもかかわらず浮かび上がる、どこまでも黒い魂共全動機があった。

「早く走って!」

「これでも出している方だ」

 まだ両者の距離は開いているけれど安心できる距離じゃない。

 この感覚、近くにイノが居る。

 その方向い向かってとこうきに告げる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 身体が勝手に動いている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 来なくちゃいけない、そんな気がして。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 呼ばれた気がして。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「「「なんでここにいるの」」」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こうき早く!」

「わかっているって」

 モーター音を鳴らしながら、走り続ける。

「ほら、着いた急ぐぞ」

「うん!」

 原付を投げ捨てるようにして降りる。

 そしてすぐさま、全力ダッシュで駆けあがる。

 林を抜け、草原に出る。丘のてっぺんにあるものは、白く切り立つオブジェクト。

 イノだ。

「なんでお前たちがここにいるんだ!?」

 そこのはここにいるはずの無い三人の姿。

 廉哉、二葉、智癒。

「ゆうあがやったの、ここに来たくなるようにって」

 どうやってって訊こうとしたが、これくらいならすぐにできそうだと思った。

 今この場には前に来た時のいやな雰囲気というものがなくなっていた。それの応用でこいつらを呼んだのだろう。

「こうきが頑張ったんだから、今度はゆうあの番だね」

 イノの元に近寄り、中に入っていく。

「おい、何だよこれは一体?」

 さっぱり状況を理解できていない廉哉騒ぐ。

「あれは何なの? なんでユウアが入っていったの?」

 疑問だらけになっている二葉。

「どういうこと? こう君」

 冷静に場を見れている智癒。

「ゆうあはな、本当は未来人なんだよ。突拍子ないことで信じられないと思うけれど事実なんだ」

 最後の時が近づきつつあるとわかってしまい、涙がこみ上げてきそうだ。

「だから、従妹ってことも嘘なんだよ」

 驚きすぎて声も出ていないのか、それとも呆れ返って何も言わないのか。どちらかは知らないけれど、聴いてくれていればいいさ。

「そして、今未来からの迎えが来て、必死に逃げているんだよ」

 涙を堪えるために、必死に拳を握る。

「そしてゆうあは最後の手段に出るってわけだ」

 故障中のイノに乗って何かをするつもりだ。

 もう僕にできることはない、後はここで見守ってやる事くらいしかできないから。

「それって、全部本当なの?」

 智癒が代表して訊いてる。

「ああ、全部本当だ。信じるかどうかは任せるけれどな」

「ユウアいなくなろうとしていない」

 こういう時だけは鋭いよな二葉は。

「たぶん、な」

「なんで止めないのよ!」

「止めたいに決まってるだろっ!!」

 全員が驚くほどの悲鳴にも似た叫び。

「けれどゆうあがやるって決めたんだ、僕はその決断が正しいと信じるだから止めない」

 いなくなるかもしれない、それがわかってて進める奴がどこにいる。

 重苦しい沈黙が支配する。

『あーあー、聴こえる? みんな』

 頭の中に直接話しかけてくる声だ。

 みんなにも聴こえているらしく、辺りを見回して発声源を探してるようだ。

「あの中からだよ」

 イノのことを指差す。

『きっとこれが最後の言葉になるかもしれないけど、時間がないから手短に言うね』

 最後とか言わないでくれよ。こう叫びたかったけれど、それ以上にこの言葉を一言も聴き逃したくなかった。

『れんや、一緒に遊べてとっても楽しかったよ』

「ああ、俺もだよ」

 ゆうあの方を一心に見つめる。

『ちゆ、いっぱい親切にしてくれてありがとうね』

「どう、いたしまして」

 目に溜まった涙をぬぐいながら。

『ふたば、ゆうあはまだ諦めてないからね』

「あたしだってそうよ」

 いつも通りを装った笑顔で。

『こうき、言葉が浮かばないよ、どうしたらいい?』

「僕もわかんないよ」

 泣き顔は絶対に見せない、最後に見る僕の顔は笑顔で会って欲しいから。

『じゃあね、もう行くね。みんな大好きだよ』

 低く唸るような音が響く。

 もう、行くのか。もう、出発するのか。いやだ、やだっ!!

 脚が動き出す、手を伸ばす。掴め掴んでくれ!

 これを逃したらもう、二度と届かない気がした。

 イノが白く輝き飛びあがる。

 この手が触れる前に、触ることもできずに。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 言いたいことなんていくらでもある、けれどそれを言いてたらいつまでもいけなくなる。全然伝え足りないけれど、この一言だけで我慢する。

 いくよ、私の傷の結晶(Innocent Sorrow)。

 エンジンが最初から悲鳴を上げる、けれどそんなことはお構いなしだ。

 上空に獲物ターゲットを補足、かかってこい言わんばかりに止まってまっている。

 一瞬で終わらせる!

 重力減算発動!

 いつもよりかかりが悪いけどそんなことは言ってられない。

 初速から最高出力で突っ込む。

 全身にかかる圧力、これだけで潰されてしまいそうだ。

 イノ全体に伝わった振動、魂共全動機に突撃を喰らわせた。

 目の前を包む激しい光。

 しまった、これは自爆攻撃だったのか!

 気がついた時には、身体から力は抜けきっており、全身を包んで行く光に身を任せるしかできなかった。

 薄れていく意識の中で最後に浮かんできたのは、辛そうなこうきの笑顔。

 ごめんね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 飛び去った刹那に爆発が生じた。

 上から降り注いでくるのは、夏の夜に振る奇跡の雪。

 その一粒が掌にひらりと舞い落ちる。

 とても温かい雪は掌の中で消えた。

 ゆうあが最後に見せてくれた。

 奇跡の産物。

 この〝光からの贈り物〟を。

 胸の中に留めておこう。

 いつまでも、いつまでも。


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