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光からの贈り物  作者: 337
第四章 光からの贈り物 ~宝物を乗せて~
23/28

4-2

 そして漕ぎ続けること約一時間で目的地へと辿り着いた。

「久しぶりに来るな、ここ最後に来たのいつだったけ」

 本当に久しぶりだ、懐かしいな。

「小学校の高学年頃に一回来なかったけ」

 流石智癒、記憶力がいいですね。

「えーと言うことはもう五年くらい前なの。凄いね」

 来る前は嫌がっていた二葉も目を輝かせて懐かしんでいる。

「とりあえず適当に中に行こう」

 促してからみんなと一緒に入っていく。

「ゆうあここで遊ぶ時の注意事項一つな」

「うん」

「向こう側の方に今は使われていない炭鉱があるから、そこは危ないから入るなよ」

「うん、わかった」

 その後もしばらく歩いて適当な所で止まる。

「よしじゃあ鬼ごっこからいくか」

『最初はグー、ジャンケン、ポイ』

 自然の中での鬼ごっこが今始まる。

 最初は僕が鬼となってみんなのことを追いかけた。智癒と二葉は難なく捕まえられたのだが廉哉とゆうあには苦戦させられた。廉哉にはそこら辺に落ちていた柔らかめの木端を投げてぶつけて、文句を言っている最中に確保。問題はゆうあ。

 何を隠そう普通に脚が速い、なので古典的な方法に騙されないか確かめてみる。

「ゆうあ、あれ見てみ、あれ」

 実際は何もないけど、適当なと所に視線を送る。

「えっ、何かあるの?」

「興味を持ってそちら側に注意が行っている。その隙に。

「捕まえた」

「何もないじゃん、こうき」

「ああそうだな、何もないな」

 まさか引っかかるとは思わなかった。

「もしかしてゆうあ騙された?」

「そうだぞ、僕が騙したんだ。どうだこの見事な策略」

「うぅ~ずるい」

 むくれていらっしゃるけれど知りません。

 ということで鬼が変わってもう一度開始された。

 なんどか行ってから今度は缶蹴りにするか、ということで缶を捜索する。

「あったよ」

 ゆうあの声。

 声の場所に行って確認する。

 どうやらみんなも来たようでそろって唖然とする。

 全員、言いたいことは同じだろう。

 それ、ドラム缶だから、蹴れないから。

 ということで無言のまま解散して再び捜索。

「待って、待ってよ! 缶あったよ!」

 今回ばかりは知りません。

 智癒が手ごろな缶を見つけてそれで開始する。

 鬼は二葉でスタートとなった。

 同じ方向に逃げていたゆうあに重要なことを教えてあげる。

「さっきの確かに缶だけれど、ああいう風に蹴れないだろ、だから駄目なんだ。いいな」

「ちゃんと蹴れるよ」

 丁度先程のドラム缶が目の前にある。

「じゃあ、やってみろよ」

 こういうのは実際にやらせてみてみた方がわかりやすいだろうから。

「うん、えいっ」

 見事に放物線を描いて飛んでいくドラム缶。

「ほら、蹴れないだろ、…えっ飛んだ?」

 思わずニ度見。

 ガタン、ゴトンと音を立てて転がり落ちて行く。

「できるでしょ」

 ポカーンと転がり落ちて行く缶を見つめる。

 冷静になって考えてみるんだ、普通に考えりゃおかしい。これってもしかして。

「グラビティなんちゃらっての使っただろ」

 一瞬びくっと反応した、きっと正解だな。

「こうき、あれって何」

 突然向こうを指差す。

「どれだ?」

 指差す先を見つめる。

「何にもないじゃないか…なん、だと。同じことをやられた」

 その場に項垂れる。

 自分のしかけた古典的なトラップに自身もはまってしまうなんて、ゆうあの姿も消えているし。

「コウ見つけ」

 おまけに見つかったようだ。

 だったらもう全力でダッシュ!! しようと思ったら転んでできませんでした。

 結局この回は僕が最初に見つかって次の鬼となりました。

 なんだかんだで太陽の高さも低くなってきたのか、空の半分ほどが夕焼け色に染まってきていた。森の中も明るかったのが暗くなってきていた。

 そして今からやる遊びはかくれんぼ、絶好のロケーションとなった。暗い場所が増えるので見つかりにくくなる。

 そして運命のじゃんけん。結果はまたしても僕の負け。最悪の環境での鬼となった。

 おそらく時間的にもこの一回で最後となるだろう。その分みんな気合いを入れているのだろうな。

 目を瞑ってカウントを始める。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここだったら見つからないだろう、絶対に。誰もこんな所に隠れるとは思わないだろう。

 ここに来るだけでも相当な手間が掛った。脚を擦りむいて少し血が滲んでいる。

 けれどたいしたじゃないし放っておこう。

 これでこの最後のかくれんぼの勝利は頂いたも同然だ。

 子供の遊びだけれど、真剣になってやれば案外面白いもんだ。

 子供のころには浮かばなかった発想では届かなかった所に行ける。

 こういう遊びもたまにはいいものだな。

 そう思いながら見つけれるものなら見つけてみろと高を括って待つ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕日もほとんど沈んで辺りは大分暗くなっていた。見つかっていないのは二葉だけとなった。みんな結構見つけにくい所にいたけれどどうにか発見できたのにも関わらず、二葉だけがいまだに見つからない。

「もうそろそろ見つけないと危なくないか」

 廉哉が心配して訊いてくる。

「僕もそう思ってたところだ」

 こんなに暗いと危険だ。

「じゃあみんなで手分けして探そうよ」

 智癒の提案、もちろん賛成だ。

「じゃあ智癒と廉哉はそっち頼むな、僕たちはこっちを探す」

「わかった」

「任せて」

 二人が駆けていく。

「ゆうあ行くぞ」

「うん!」

 廉哉たちとは反対側を探しに行く。



「二葉ーどこだーもう終りだぞー」

「ふたばー、もう終りだよー」

 なんど叫んだかわからない、それなのに一度も声は帰ってこなかった。

「!? なにか今聴こえなかったか?」

「ううん、なんにも聴こえなかったよ」

「いや、確かに聴こえた。こっちだ」

 急いでその方向に走る。

「あ、ゆうあにも聴こえた」

 小さく聴こえたものの真下に着いた。

「二葉!」

「ふたば!!」

「コウ、ユウア助けて」

 いつになく弱気で声も震えていた。だけれど見つけられて人安心。

「もう大丈夫だ、降りられるか?」

 二葉のいた場所は木の上。どうやって登ったんだと思うくらいに高い場所だった。

「むり」

 ですよね、だからそうして今震えているんだよな。

「お前は猫か!」

 元気を出してやろうと少しふざけてみた。

「うん、そうだから助けて」

 どうやら本気で駄目なパターンみたいだ。

「お前高い所、駄目なのによくそこまで行けたな」

 素直に関心。

「早く助けろ、バカ! あぁ」

 大声で叫んだ衝撃で身体揺れて、体重を支えている気の枝が大きく震える。その時に情けない声を漏らしてしっかりと木の枝につかまる。

 二葉が乗っかっている木の枝は思いのほか小さく僕が乗ったら間違いなく折れていると思う。

 二葉が小さく動くたびに枝の先は大きく動く。それだけ恐怖に苛まれているのか。

 僕が登っていっても降ろすことができないし、登れたとしても枝に体重を掛けた瞬間に折れてしまいそうだ、ならどうしたらいい。

 思いついたのは一つの手段。

「飛び降りろ」

「えっ」

 こいつは何を言っているんだと言う表情を向けられた。

「だから飛び降りろ、僕が絶対に受け止める」

「むり」

 小さな声での拒否。

「僕を信じろ! 絶対に受け止めるから!」

「無理なものは無理なの!!」

 大声での拒否。

 ポキッ、

 不吉な音が聴こえた。

 枝先が大きく下を向く。二葉が振り落とされる。

 全力で走り出す。

 間に合え、間に合え!!

 後3メートル程で着陸してしまう。そんなことになったらただでは済まない。

 イヤだ。絶対に嫌だ! 動けよ脚! もっと疾く動けよ!

 二葉の元まで約2メートル、地面までの距離とほぼ同じ。

 全力で腕を伸ばす。掴め、絶対に掴め!

 指先が触れた。

 触れただけだった。

 掴めなかった。

 どんどん高度を失っていく。

 脚からスライディングをして身体で受け止める。二葉にできたことだ僕にだってできる!

 階段での出来事が頭の中を一瞬よぎった。

 落下速度が急に減速したように見えた。いや実際に減速している。

 そして僕の身体に振ってきた。

 掛った重さは、あの高さから落ちてきたとは考えられないほどに軽かった。普通なら僕も大けがをしていたに違いないのに。なんでだ。

「間に合ってよかった」

 この言葉でわかった、ゆうあがやってくれたんだと。グラビティなんちゃらで二葉の落下速度を落としてくれたんだ、と。

「おい! 二葉! 大丈夫か!?」

 僕が階段で助けられた時と同じような体勢になっていた。立場が入れ替わっただけで、鏡写しの様な出来事だ。

 抱きかかえて横にある顔から小さな唸り声が聞こえてきた。

「よかったぁ」

 涙が零れてきそうなほどの安堵。

「ありがとうな、ゆうあ」

 ブイっとピースしている。

「んぅ、コウ?」

「ああ、そうだ僕だ」

「あたし生きてるの?」

「もちろんだ、絶対に受け止めるって言っただろうが」

 ちゃんと受け止めているだろ、と強く抱きしめる。

「うん、そうだね、そうだよね」

 答えるように力強く抱きしめ返してくる。

「ゆうあも心配だった」

 歩み寄ってきて、僕と二葉のことを一緒に抱きしめる。

「ごめんね、二人とも心配かけて、でももう大丈夫」

 そうだな、もう大丈夫そうだな。

 込めていた力を緩める。

 自然と二人も力を抜いた。

「ほら、立てるか」

 二葉に手を差し伸べる。

「どうにか」

 掴まれた所を上に引き上げる。

「へへ、まだ足が震えてるよ」

 とてもこの中を歩いて行くには危なかった。

「ほら乗れよ、危ないから、おぶっててやる」

 しゃがんで背中を見せる。

「いいよ歩けるから」

「たまには黙って言うこと聴け、そんな震えた脚で歩いて怪我されたらこっちが嫌なんだよ、だからさっさと乗れ」

 躊躇するような間があった後、体重が乗せられた。

 ゆうあを最初担いだ時のように、見た目と重さが一致していなかった、背中に掛ってきているのは実際の体重の半分以下だと思う。それくらいまでに軽くなっていた。

 目線だけを送ってゆうあに「ありがとうな」と伝える。

 伝わってくれたのかにっこりと笑って答えてくれた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それなりの時間は探したと思うのに一向に見つからなかった。あの馬鹿は一体どこの隠れているんだよ。とても心配だった一人の友達として。

 その心配とは別に気にかけていることもあった。智癒に言っておきたいことだ。

「あのさ、俺昨日二葉に告白しただろ」

 何を急に言い出すんだと驚いて振り返る。

「それは今言わなくちゃいけないことなの?」

「いいや、違うよな。わかっているよそれくらいは。でもさ、言っておきたいなって思ったんだ」

「だったら、真面目に探してよ! 心配じゃないの?」

「心配に決まっているだろ」

 だからこうして探しまわっている。

 俺以外にも、智癒、光輝、ゆうあさん。みんなが同じ気持ちの元、探しているんだ。

 けれど、背中を押してもらったんだ、どうなったくらいは言っておくべきだと思った。

「結果は思った通り、見事に玉砕だったよな」

「今は励ましてあげれないよ、ふーちゃんを見つけることの方が大切だから」

「ああ、わかっているさ、そんなつもりで言ったわけでもないしな」

 そんな期待はしていなかったから。

「一晩経ってさ、気持ちが落ち着いてみたら、どうなるのかなって思っていたんだけど、そんなに堪えていなかったんだよな」

 智癒からは何も返事は帰ってこない。

 それでも構わない、聴こえてはいるんだから。

「なんでなんだろうなって頭の端っこで今日一日考えていたんだよ。それでさ、なんでだったのか理由がわかったんだ」

 ホント場違いも甚だしいけれど。

「それはさあ――」

「待って、今は言わないで」

 俺が言おうとしていたことがわかっちまったのか?

 その時、ポケットに入れていた携帯に振動、光輝からの電話だ。

 その内容は、

「二葉を無事見つけたってさ」

「よかったぁ」

 緊張のたがが外れてか、その場にへ垂れこむ。その智癒の後ろからゆっくりと抱きしめる。昨日とは真逆の状態となった。

 抱きしめた時に「えっ」と何が起きたのかわからい、と声を漏らした。

「こういう風に昨日してもらってさ、苦しかったはずのことが、消えてくれてたんだよ。とても心地が良くてさ、凍えきりそうだったこころが温まって、とても嬉しかったんだ。そのことを伝えたかった」

「うん」

 短く一度だけ頷く。

「ごめんな急にこんなことして」

 そう言ってから離れる。

「立てるか?」

 昨日と同じように手を差し出す。

「ありがとう」

 その手を掴んで智癒が立ち上がる。

 正面から互いの顔を見つめ合う。

 そして、そのまま距離が近づいて行く。

 目を瞑る智癒つられて、俺も瞑る。

 触れる唇と唇。

 とても短い時間、一秒もないはずだったのにも関わらず、とてつもなく長く感じ取れた。

 離れてなお近くにある顔に向けて、一番言いたかった言葉を言う。

「お前のことを好きになっちまったみたいだ、どうしてくれるんだよ」

 自分でも素直じゃないなとおもったけれど、これでいい。

「私の努力が報われたのかな」

「ああその通りだ。お前に告白された時に気持ちが大きく揺れ動いていたよ。今思うと昨日の告白は過去の自分と決別するためにしたんだと思う、そして今の俺は、救い出してくれた救世主に心を持っていかれたんだろうな」

 過去と切り離されたから堪えていなかったんだ。

「私はれん君のことが好きです」

「俺は智癒のことが好きだ」

 再び唇が重なり合った。

 夕焼けが消えかかっている空の下で。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

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