表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光からの贈り物  作者: 337
第四章 光からの贈り物 ~宝物を乗せて~
22/28

4-1

 第四章 光からの贈り物 ~宝物を乗せて~


 昼を少し過ぎたあたりになったけれど、することもなかったので、コウの家に向かうことにした。

 縁側から入っても駄目だった、インターホンを鳴らしても駄目だった、ということで今回は、インターホンを鳴らさずに、なおかつ縁側以外から入ろうと思う。

 駄目もとで玄関を開けてみる。すると、開いた。

 …、いくら泥棒とかがいないからって流石に不用心な気もするけれど、まあいいか、上がらせてもらおう。

「おじゃましまーす」

 靴を脱いでそのまま真っ直ぐ居間に向かう。

 そこには仲好く寝ているお二人。

 一瞬イラッとしたけれど、二人の寝顔をみたらそんな気持ちが吹き飛んだ。二人ともとても可愛らしい顔をしていた。特にユウアなんて天使でも舞い降りたんですかと幻覚を催す程に可愛らしい。

 今は嫉妬心とかを抱くことなく、微笑ましく眺めることができた。

 こうやって無防備に寝ている人を見かけたら、無性に悪戯心がくすぐられるな、どこかにペンとか落ちていないかな、…あった。よし、これで。

 コウの顔に色々と落書きをしてやる。ゆうあにもしようかなと思ったけれど、罪悪感にさいなまれてできなかった。

 他に何かすることはないかなと思って、コウをユウアに近づけてみる、顔と顔の距離をなるべく近くに。

 起きた時どんなリアクションするか楽しみだ。

 少しでも早気起きろと急かすために5~6発頭を軽く叩いた。

 それから少ししてからコウが飛び跳ねてあたしにぶつかってきた。

 突然にことに怒りが募った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんかとてつもなくいい夢を見ていた気がする。

 感触が暖かさが残っていそうで、無意識の内にその場所にてが伸びる。自分の頬。

 閉じていた瞼を開ける。何時寝たのかは全く覚えていなかったけれど、気分がすこぶるいい。

 覚めた目が最初に捉えたのは、顔。

 驚くほど白く透明感のある肌、大人っぽい顔立ちなのに、幼さを感じさせる雰囲気。

 それが僕の顔のまん前にある。その顔から出てくる寝息が僕の顔に直接届いている。

 頭が状況を理解できていない。あれ、これはゆうあだよな。

 ……。

 うわぁっ!!

 あまりの驚きで飛び起きる。

 背中に何か柔らかい感触、どこかで触れたことのあるような感触。それが聞こえた時に何か鈍い音が聞こえた気がした。

 その方向に恐る恐る視線を移すと…何か恐ろしいものが見えた気がした。全身から禍々しいおーらが出ていたような気がした。

「僕は何も見ていない、あれは幻覚だ、あんな死神みたいなのが家にいるわけがない」

 暗示を掛ける。

 けれど、背中に感じるものは密度を増した殺気のみ。

「あ、ああ、い、いい朝だな~。こんな日は散歩にでも行こう。うん、そうしよう」

 グルルルと野獣の様な唸り声が聞こえる方向には一切視線を移さず、外に逃げようとする。

「待てよ」

 低く物々しい声が聴こえた。

「はい!」

 思わず声が裏返ってしまった。背筋もピンと伸びている。

「まずは言うことがいあるんじゃねぇのか?」

 え~と何だろう。

 ゆっくりと恐怖心に耐えながら声の方向に向き直る。

「おはよう?」

 丁度起きたばかりだし。

「ごめんなさい、だろがぁぁぁぁ!!」

 反動をつけることなくドロップキックが飛んでくる。

 もちろん寝起きの反射神経では避けることもできずに直撃を食らう。

 サヨナラ僕の人生、サヨナラ蒼き青春の日々、短かったけど楽しかったよ。

 意識がどこかへ吹き飛んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんか、やけにさわがしいな。

 身体を起こして、瞼を開く。視界がかすんでてはっきりしないから、目を擦ってみる。

 そこには誰かの後姿があった。

 こうきじゃない、誰だろう?

 しっかりと凝らしてみてみたらそれはふたばだった。

「ふたば、おはよう」

「えっ、あ、おはよう、ユウア」

 ふたばはいるけど、こうきはどこにいるのだろう? 辺りを見回してみても見当たらない。

「ふたば、こうきはどこ?」

「コウ? コウなら何故だか全くわからないけれど、こんな所に寝てるのよね」

 丁度二葉の後ろ辺り、廊下と居間の境界に掛った所に倒れている。

「こうき、もう朝だよ、起きたら?」

 身体を揺すってみるけれど反応がない。

「じゃあ、昨日みたいに起こすね」

 こうきの上に跨ろうかなと立ち上がろうとした時に、操り人形のようにむくっと上半身が起き上がった。

 その時ふたばから舌打ちみたいなのが聴こえた気がしたけれど、気のせいかな。

「お、おはよう」

 苦しそうな声での挨拶。

「おはよう、ぷっ!!」

 思わず笑ってしまった、こうきの顔に沢山の落書きがされている。

「どうしたんだゆうあ、いきなり笑い出して」

 自分の状態に気が付いていないのか、不思議そうに私を見る。

「こうき、顔面白い」

「失礼なことをいうな、確かにイケメンとかじゃないけれど、そんな笑われるほどの顔じゃないとは思うんだが」

「そういうことじゃないの、鏡見てきたらわかるよ」

「ん? じゃあそうするわ」

 寝起きだからか辛そうな足取りで歩いて行く、そしてすぐに足音、走ってこちらに向かってくるそんな音。

「こういうことか! 二葉!」

「何のことかな、さっぱりわからないな」

 手を振ってあたしじゃないよと否定をする。

「じゃあその手に持っているものは何だ?」

 手?

 言われてからふたばの手に握られているものを見る。黒色のマジックペン。

 ふたばも一度自分の手元に視線を送って、それをポイっと縁側の方に向け投げ捨てる。

「何も持っていないじゃない」

 掌を開いて何も持ってませんよ、とアピール。

「捨てただろうが! 今、僕の目の前で捨てたよな!!」

「男がいちいちそんな細かいことを気にするな!」

「関係ないだろ! これは誰でも怒っていいことだろ!」

「そんな昔のことは忘れたから、さっさと顔を洗ってきなさい」

 しっし、と手を振って向こうに行きなさいと言う。

「あーもう、わかったよ!」

 その言葉を残してまた消える。

「というのがよくある朝の風景です」

 ずっとこうきの方を向いていたふたばがこっちに向き直る。

「喧嘩してるのかと思って怖かった」

「そんなんじゃないから、これは良くあること、だから気にしなくていいのよ」

「うん、わかった」

 その後、一瞬間が空く。

「あのね、ユウア、あたしから言っておきたいことはただ一つ」

「うん」

「負けないからね」

 それは昨日の続きの言葉、私達だけにしかわからないこと。

「ゆうあも、負けない、今はまだよくその気持ちのことはわからないけれど、負けないもん」

 ふたばが右手を伸ばしてきたのでそれを私も右手で受け取り、握手を交わす。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 まだ完璧に落書きは落ちきっていないけれど気にせずに、朝食兼昼食のトーストに噛り付く。

「で、今日は何の御用で不法侵入なさったのでしょうか?」

「そんな失礼なことを言わないでもらいたい、ちゃんと玄関から入ったのに」

「いや、玄関から入ろうが、縁側から入ろうが、無許可で入ったら不法侵入だろ!」

「そんな細かいこと気にしていたら、禿げるわよ、と」

 そう言って僕の持っているトーストに噛り付く。

「食いたかったら自分で焼け!」

 台所にあるトーストを指差す。

「え~めんどくさいし、ただ食べてみたかっただけだから、もう満足」

「さいですかい」

「あ、でも作ろうかな。納豆あるよね?」

「あるけど、まさか、パンで納豆を食おうというのか?」

 恐る恐る尋ねる。

「もちろん! パンの上に納豆置いて、そこにマヨネーズをかけて焼く。結構おいしんだからね」

「うん、嫌です、みたくありません、これあげるんで勘弁して下さい。納豆はご飯オンリーだと僕は主張させてもらいます!」

 自分の飯を犠牲にしてでもイヤだった。

「冗談よ、今おなか減ってないから、作らないよ。でも美味しいのは本当だから。今度やってみれば?」

「謹んで断らさせてもらいます」

 土下座をして断らさせてもらう。

「そんなにイヤ!?」

「ご飯×納豆が至高だと思います」

「じゃあそういうことでいいよ。それよりも早く食べちゃってね、もうそろそろでチユとレンも来るから」

「二人も来るの?」

 小動物のようにパンをかじっているゆうあが訊く。

「うん、そう。とりあえず今日は色々なことをしよう、というコンセプトのもとで呼び出しました。もっと具体的に言うならば、最初に決めた予定を消化していきたいと思っている所です」

 そう言えば予定なんて立てていたな、すっかり忘れていた。

「予定って何?」

 そのことを知らないゆうあからは当然の反応が返ってくる。

「終業式の後に立てたんだよ、夏休みの間、どんなことをしようかって、予定を。二葉そっちにあると思うから取ってくれ」

 棚の方を指差す。

「コウが取ればいいじゃん」

「僕はまだご飯中だ! 紙が汚れるのはイヤだろ」

「はいはい」

 しょうがないなぁと立ち上がり、取る。

「ユウアこれよ」

「うん、ありがとう」

 掴もうとしたけれど、自分の手を見てパンくずが付いているのを気にしてかテーブルに置いてもらってそれを読み上げる。

「東京旅行、海、天体観測、BBQ?」

 最後の一つに疑問符。

「バーベキューな」

 そうなんだ、といった顔をして続きを読み上げる。

「カラオケ、夏祭り、花火、かくれんぼ、鬼ごっこ、缶蹴り」

 ああそう言えばそんなのもあげていたな、前半三つはまともだけれど、後半のはどうなんだろうか?

「ひたすら自転車で爆走、…宇宙人と遭遇?」

「本当にごめんそれは僕と廉哉が出した意見だ。気にしなくていいから」

 自転車で爆走はしたくないし、宇宙人と遭遇に関しては、それよりも凄い人と遭遇しちゃったし。

「うん、でも全部面白そうだね」

「そう? 流石にかくれんぼ、鬼ごっこ缶蹴りはどうかと思うけど」

 不満そうな二葉。

「けれどこのうち缶蹴りはお前の意見じゃなかったけか?」

「流石あたしいい意見を出す!」

 手のひら返しとは正にこのこと。

 このタイミングでインターホンの呼び出し音。

 ドアを開けるために歩き出す。

「開いてるから、勝手に開けていいぞ」

 扉を開けるのが面倒だったので、声を上げた。

「「お邪魔します」」

「お邪魔されます」

 居間に戻る途中で軽く手を洗う。

「ちゆ、れんや、おはよう」

 ゆうあが元気よく手を振って迎える。

「ああ、おはよ」

「おはよう、ゆうあちゃん」

 二人と挨拶を交わす。

「で、今日の呼びだした理由は…それか」

 卓袱台の上乗っけられたメモ用紙を見て気がついたようだ。

「もう一回、会議するの?」

 今度は智癒が話す。

「いや、今日はこれをドンドン消化していこうと、二葉が言いだした」

「まぁいいんじゃないか、これといってすることもない訳なんだし」

 廉哉賛成。

「うん、私もいいと思うよ」

 智癒賛成。

「あたしが言いだしたことなんだから、いいに決まってるじゃん」

 二葉賛成。

「楽しそうだからやってみたいな」

 ゆうあ賛成。

「それじゃあ、そうしますか」

 僕も賛成。

 賛成5、反対0という結果になったので、皆さん一緒に遊びましょ。

「さて、じゃあ手始めにどこら辺から手、付けていくか?」

 こう、沢山あるとどうしたらいいものか。

「まぁ簡単な所で、童心に帰って遊びましょセットでいいんじゃないか」

 ですよね、その三つがすぐにできることだしな。

「それでいいんじゃないか」

 僕の言葉を皮切りにみんなも賛成する。

「じゃあ森の方にでも行くか? あそこなら色々とできるだろ」

「そこにいくのぉ」

 不満げな声を上げる二葉。

「妥当な場所だと思うぞ」

「あたしもそう思うけど、遠いんだもん」

「自転車でたった一時間くらいだろ、近いじゃないか」

「一時間もの間違いね、まあでもそこでいいよ」

 文句は付けたけれど、結局はいいんですか。でもその方が楽で助かります。

「じゃあ一度解散して、自転車で僕ん家に集合でいいでしょうか」

『異議なーし』

「はいじゃあ解散」

 三人とも一度帰宅する。

「さて、じゃあ僕たちは着替えますか」

「うん」

「今日は動くんだから、スカートじゃなくてズボンにしとけよ」

「うん、わかった」

 そして着替え終わってから外でみんなが集まるのを待っていたら思いのほか早く再集合となった。

「よしじゃあ、出発!」

「出発!」

 僕の後ろに座っているゆうあだけが復唱する。

「お前たち元気ないな」

「なんでユウアはコウの後ろなの?」

 また不満げな二葉。

「そりゃ家にはチャリは一台しかないわけだから必然的にこうなるだろ」

 という理由からです。できれば僕も一人乗りの方が楽で助かるけど。

「そうだけど…」

「ということで今度こそいきます。出発」

 出だしだけふら付いてその後は普通に走り出す。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ