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光からの贈り物  作者: 337
第三章 変光 ~来る時・訪れる間~
20/28

3-6

 遠くの方にれん君の姿が見えた。その少し先にはふーちゃんもいる。

 いきなりれん君がふーちゃんのことを掴んで大通りからそれていった。何をするのか気になり二人の入っていった脇道まで歩いて行く。

 暗い脇道の中に私も入ろうとした時にすぐ目の前に二人の姿があったので素早く引き返す。

 裏道の入り口辺りで申し訳ないと思うけれど二人の会話を盗み聞きさせてもらう。

「好きだ」

 えっ!?

 今なんて言ったんだ? 見つからないようにこっそりと覗きこむ。

 今までにないくらいに決意に満ちた横顔が見えた。

「俺、大杉廉哉は三月二葉のことが好きなんだ、付き合って欲しい」

 れん君がふーちゃんに告白をしていた。

 予想外過ぎて一瞬よろけてしまう。

 れん君がふーちゃんに告白すればいいと思って、さっきは私も檄を飛ばして、焦らせる意味も込めて協力しているって教えたけれど、こんなに早く言うとは思っていなかった。

 しかも偶然とはいえ私の見ている所で。もうひとつ偶然が重なってか私の目の前をこう君が通り過ぎていった。こちらに気付いているのに関わらないように足早に過ぎ去っていく。

 まだ帽子を深くかぶっていてそれで気付かれなかったのか。この変装も役に立つものだね。少しだけ感謝してみる。

 その後も二人の会話に耳を立て続ける。

 聴いている私が辛くなりそうなほど、やせ我慢をしているのが痛々しくて辛い。

「ほら、じゃあこんな所いないで光輝に声掛けてこいよ」

 その言葉の後にふーちゃんが脇道から出てきた。

 私の目の前を通り過ぎて行って。

 れん君にも応援してもらっているんだ、そんな頑張る気力が増えて嬉しそうな表情がちらりと見えた。

 いつの間にか目には涙が溜まってきていたようだ。帽子とサングラスのお陰でこの表情は誰にも見られなくて済む。またこの変装に感謝しちゃったな。

 辛さが伝わってきて私も辛いけど、一番辛いのは本人何だから、どうにしてあげたい。

 脇道にいるれん君の所に向け歩き出す。

 そこには両膝を地面について苦しそうなれん君の姿があった。

 突然引かれる右腕、その先には拳、何をしようとしたのかわかって、その行動を取って欲しくなくて、後ろから抱き締める。

 自傷行為をしたって何も変わらないのだから。

「いつから見てたんだよ、智癒」

 姿も見ていないのに私だとわかってくれたことが嬉しかった。

「最初からだよ」

 けれどこんな状況で私だけが浮かれていたくなかった。

「ずるいだろ、このタイミングはさ」

 たしかにそう思う、けれど。

「さっき酷いこと言ったからそれの仕返しだよ」

 本当はただの方便だけれど、苦しみを少しでも和らげてあげられたらいいけれど。そう思い腕にかける力を少しだけ強める。

「それじゃあ仕方がないな」

 小刻みに震える振動が腕の中に伝ってきた。

 私の腕が緩く握られた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日もすっかり傾き、夜の色が色濃くなってきた。

 いつの間にか今日という日も大半が過ぎており、後することといえば、帰宅して、飯を食って風呂に入って寝る。それくらいだ。

 今はその最初の帰宅するためにバスが来るのを待っていた。

「バスまだ来ないのかな」

「後20分も待てば来るだろ」

「結構待つんだね」

「そんなんでもないぞ、割と短い方」

 短いと言ったけれどそれだけの時間があれば、夕焼けも完璧に姿を消してしまうだろうけれど。

 そんなどんどん消えてしまうオレンジを眺めていたら、肩を誰かに小突かれた。

「よっ!」

「おぉ、二葉か、こんな所で会うなんて奇遇だな」

「ふたば、おはよう!」

 バス停で二葉と会うなんて珍しいこともたまにはあるんだな。

「お前も買い物していたのか?」

「うん、まあね」

「なのに何にも荷物ないんだね、こうきこんなに持ってるのに」

 言われてみれば二葉が持っているものといえば、手に持っている鞄一つだけだった。

「そう言えばそうだな、買い物してた割には荷物が少ないな」

 別に何か疑っているわけではなくてただ単純にそう思っただけだけれど。

「今日は特に何も買わなかったから、こんなんな訳よ」

「ウィンドーショッピングしてたの?」

 なんだそれ、窓でも買う気だったのか?

「うん、そうだよ」

「何か可愛いお洋服とかあった?」

「う~んそうね、あっ、あそこの店の――…」

 二葉が僕に到底理解のできなさそうな言葉をゆうあと繰り広げ始めました。

 ゆうあは買い物も初めてだって言ってた割には今日一日で僕以上に服のことに詳しくなったみたいだし、やっぱり女の子だからだろうか、買い物することが好きみたいで色々な所に振りまわされたな。

 そんな女の子の会話に当然の如く交わることのできない僕は、何も考えることなく夕日が沈んで行くのを眺めていました。

 会話の雨が止むことはなく、いつの間にか結構な時間が経ったのかバスが到着して下さいました。

 二人ともよくそんな会話が続くなぁと二人を観察しながらバスの外の景色を見つめる。

 今はこうやってアスファルトに囲まれているけれど、数十分と走ればあっという間に田舎道になると思うとなんか面白い。

 楽しそうに話している二人をみて、ゆうあが馴染めてよかったなとしみじみ思う。気分的には保護者の気分になっていた。

 あと少しで降車駅に着く所で、二葉から話しかけられた。

「この後少しユウア借りてっていい?」

「そんなこと、僕じゃなくてゆうあに訊けばいいだろ」

「ゆうあもう少し二葉とお話したい」

「じゃあ借りていくね」

「どうぞ、どうぞ」

「借りられます!」

 別に僕に訊く必要なんか一切ないと思うんだけどな。

 そんなこんなで、バス目的地に着いたようなので降りる。

「じゃあ僕は先に帰るからあまり遅くなるなよ」

「うん、わかった」

 元気のいい返事が返ってくる。

 その返事を聴いてから自宅目がけて歩き出す。

 辺りはもう真っ暗になっており、頼りない街灯を頼りにして帰宅の途につく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後幾つもの水滴がアスファルトへと落ちて行った。

 この辛さを変わりに落としてくれている様な気がして、でも実際はそんなことはなく、心の中に蓄積されていくんだとわかっていて、そんな冷たいものを温めてくれる人がいる。

 だからこうして涙を流すだけで留まっているのかもしれない。

 こうやって抱きとめてくれているから、暴走しなくていられる。

 俺は結構無意識だったり、意識から切り離された所で、後悔するようなことをよくするってことは十分すぎるくらいに理解している。

 だから今こうして平静と保たせてくれている智癒にはもの凄い感謝をしている。

 夏場なのに暑いと感じることはなく暖かく思えていた。

 感情も気持ちも心も頭も落ち着きを取り戻せた。これならきっとすぐにいつも通りに戻れそうだ。

「ありがとうな、智癒。もう離してくれていいぞ」

 もう取り乱すことはなさそうだから。

 けれど、抱きしめている腕から力が緩むことはなかった。

 一体どうしたんだ? 何が起きているんだ? と頭の中に不安がよぎる。

「離したくないよ」

 耳元で囁かれた言葉。

 なぜだか急に身体が熱くなってきた。

「一体どうしたんだよ」

 無理矢理引き離すわけにもいかないので訊くことしかできない。

「離したくないの」

「なんでだよ」

 どうして離したくないんだ。

「好きだからだよ」

 その言葉を聴いた時に心臓の鼓動が強くなった気がする。

 今まで気がつかなかったけれど、背中には智癒の胸の奥で鳴っている鼓動が伝わってきている。

 とても早く脈打つ鼓動。きっと今の俺の心臓も同じ様になっている。

「いや、でもさ…」

「偶の我儘くらい聴いてよ」

 聴いたことがないくらいに甘えた声だった。

 そんなことを言われるとなんて言い返したらいいのかわからない。

 いつも俺たちの面倒を見て苦労を掛けているのはわかる。だから偶に言われる我儘くらい聴いてやるべきものなのだろう。

 後ろから抱き締めてきている智癒の腕を抱く。

「ありがとう」

 小さく優しい呟きの中に満ち足りたものを感じ取れた。

「何度でもいうけど、私はれん君のことが好き」

 その気持ちはとても嬉しい、俺なんかにはもったいなすぎると思えるくらいに嬉しい、けれど。

「まだ、答えは出せそうにないんだ」

 二葉のことが好きだと言う感情は消えちゃいない、変わらず心の根柢の方でしっかりと根付いている。

「焦らなくっていいから、前も言ったけど私は待ってるから。ちゃんと答えが出せるようになるその時まで」

「ごめんな、情けなくて」

 こんなウジウジ悩んでばかりで、みっともなくて。

「ううん、いいんだよ、それだけ親身になってくれているってことなんだから」

 そのことは確かだ、と胸を張って言える。だから苦しんでいるんだから。

 真剣な気持ちにはこちらも真剣に向き合わなければいけないと思うから。

 そんなこともできないような奴にはなりたくなかった。

 再び会話が途切れ静寂が訪れる。

 すぐ近くにはそれなりに人通りのある道があるはずなのに、その音はとても遠いものに聴こえる。

 届いてくるものは呼吸音と脈打つ鼓動だけだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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