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光からの贈り物  作者: 337
第三章 変光 ~来る時・訪れる間~
19/28

3-5

 光輝達の後を追って来ていたらランジェリーショップの所に来ていた。しかも光輝がゆうあさんと一緒に店の中へと入っていった。

「ほら、レン突っ立ってないで行くよ」

 手を引っ張られて中に連れ込まれそうになる、が、その手を振り払う。

「いや、無理だろ、てか、男が入っていい場所なのかよ! だから俺は外で待ってる」

「ああ、そう言えばあんた男だったね。やっぱりこういう店、入るの気まずいの?」

「気まずくてしょうがないね、だから俺は外にいる、わかったな」

 中に入る気まずさなんかよりも二葉に男として見られていないかったのかと思うとそっちの方が辛い。冗談で言ったんだろうけれどそれでも。

「じゃあチユ、行くよ」

「私も外で待ってるね」

「え~何でよ?」

「男の人がこのお店の近くで一人うろうろしていたら怪しまれちゃうでしょ。それにこんな恰好しているんだしね」

 忘れかけていたけれど俺たちはみんな深くかぶった帽子とサングラスという明らかに怪しいいで立ちをしていたんだ。

「だから私も外にいるね」

「わかったわよ、あたし一人で行くね」

 思いのほかすんなり通れた二葉だった。

「うん、ごめんね、頑張ってねちーちゃん。後帽子だけの方があの中だったら目立たないと思うよ」

「そう、わかった、じゃあ行ってくるね」

 サングラスを外して鞄の中に入れてランジェリーショップの中へと入っていく。

「ありがとうな」

 気を使ってくれたことに対しての感謝。

「どういたしまして」

 いつものようににっこりとして返してくれる。

「「・・・・・・・・・」」

 何を話したらいいのかわからなくなって言葉が出てこない。智癒の顔を見るとどうしても昨日のことを思い出してしまって何を言えばいいのかわからなくなる。同じなのか智癒も口を開こうとしていなかった。

 何をすればいいのかわからなかったので、手近にあった椅子に腰を落とす。智癒も自然と隣に座る。吸気する音が聞こえて智癒が口を開く。

「私ね、ふーちゃんのこと応援するって決めたの」

 突然のことに驚き立ち上がる。

「俺が二葉のことを好きだってことを知った上でそんなことをするのか」

 思わず大声を出しそうになったけれど、どうにか自制して出さずに済んだ。

「うん、そうだよ。知った上でそうするの」

「はは、そうかい、それで光輝と二葉がくっつきゃ、諦めて智癒と付き合うとでも思ったのか」

 何言ってんだ俺は、智癒がそんだ打算で動く訳ないってことは十分に知っている癖に。自分より他人を優先する奴だってことはわかっているのに。

「そう…思うよね」

 辛そうな表情をしてから下を向く。

「信じてもらえなくていいけど、私はふーちゃんがれん君のことを好きだったとしてもきっと同じことをしていたと思うの」

 実に智癒らしい答えだった。実際にその例と同じような状況になってたとしたら、智癒なら二葉の為に自分を犠牲にして動いているだろう。

「そんなこと信じられるか」

 なんで口は思っていないことを勝手に話すんだよ。

「みんな自分が一番大事に決まっているじゃないか、自分の恋心を犠牲にしてまでそんな協力するわけないだろ」

 もう喋るな、喋るんじゃない俺! これ以上智癒に当たって何が変わるんだ?

「そんなことをしても俺は智癒のことを好きになることはないからな」

 致命的だ、どんなことを言ったって取り返しは付かないだろう。

「そう…だよね」

 俯いていた顔が上げられる。

「でもね、私はれん君のことが好きだよ」

 こんな笑顔が見たくてこんなことを言っていたわけじゃない。こんな悲しい笑顔、目じりには零れそうな涙が溜まっているのに必死にこらえているのがわかった。

 こんなゴミみたいな奴に向けられるにはもったいなさすぎる言葉。

 いたたまれなくなって、この場からいなくなりたくなって、走り出した。

 どこに向かうかなんて決めず、動く身体に任せて走る。

「待って!」

 智癒の言葉は届いていたけれど、待たない。顔を合わせていたくなかった。自分が本当に最低過ぎて合わせる顔がない。

 周りから向けられる怪訝な視線も気にすることなく、気にする余裕もなくただひた走る。脚が動かなくなるその時まで。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「下着だけでもこんなにたくさんあるんだね」

 どれにしたらいいのか迷ってしまう。

「ああそうだな、なんでもいいんじゃないか」

「なんか適当にいってるでしょ」

「そんなことない、めっちゃ真剣に言っている」

「そんな風に見えなかったんだもん」

「てか、僕よりも店員さんに訊いた方が絶対にいいだろ」

 店員さんに訊いてもいいんだ。

「じゃあそうするけど近くにいてよ、いなくなったらイヤだからね」

 知っている人が近くにいないと心細く感じるから。

「わかったから、近くにいるから早く訊いてこい」

「うん、そうするね」

 店員さんに尋ねてみたら、サイズを測るとか色々なことを言われて試着室に連れていかれた。

 店員が持ってきてくれた下着を身につけて鏡で自分の姿を見てみる。

 こんなの付けたことなかったけれど、けっこう可愛らしいと思う。

 先程店員さんに言われた言葉が頭の中で繰り返される。「これであの彼も大喜びよ」と。なんで喜ぶのかはよくわかんなかったけど、こうきが喜んでくれるなら私も嬉しいし。見てもらおうかな。

「こうきー」

 近くにいるはずの光輝に向けて大声で呼ぶ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 僕のことを呼ぶ声が聞こえる。どうやら試着室の方からだ。

「どうしたんだゆうあ、何かあったのか? なら店員さん呼ぶぞ」

「そこにいるよね」

「ああ、近くにいるぞ」

「じゃーん、どう?」

 試着室のドアが開け放たれる。

「おい、何してんだ早く締めろよ!」

 下着姿のゆうあがそこにいた。

「ね、こうき、見てよ、どう? 可愛い?」

「ああ、かわいいかわいい」

 実際はほとんど見ていないけれど。

「そう、よかったぁ」

 喜んでいる様な声が聞こえてくる。

「ん、じゃあ買うものも早く決めてくれよ」

 今の発言のせいで周りから視線が集まってきているし。

 その後何を買うのかすぐに決めたようで早々にこの場を後にすることができた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユウアが試着室の中に消えて数分がたった。その間コウは居心地が悪そうに辺りをきょろきょろと見回していた。

 やっぱり男の人にはこの場所はいずらいものなんだね。ただブラとかパンツとかがあるだけで誰かが穿いてる姿が見えているわけでもないのに。

 そんな様子を観察いていたら「こうきー」と呼ぶ声がしてその方向にコウが移動する。

 突如開かれる扉振りかえるコウ。顔を真っ赤に染めて。

 コウかげにいる人はユウア、しかも下着姿で。折角だしその姿をよく見る。

 肌は驚くほど白く澄んでいる、綺麗にすらりと長く延びる脚、ウエストも引き締まっており細い、胸もチユと同じくらいある。おまけに顔は大人っぽいのに可愛らしい。

 勝てる気がしない。身長もあんなにないし、脚も長くない、それに胸もない。

 思っていた場所に手が動いていた。自分で触って確かめて更にがく然とする。

 胸が何だ、別にいいじゃないかあんなのただの脂肪の塊だ、邪魔にしかならいってどうせ。

 恨みでつ自然と力が入っていく。

「あの、お客様」

「はい?」

 突然声を掛けられて驚いた。

「商品を乱暴に扱わないでもらえませんか?」

 力の籠っていた掌の中にはブラが収まっていた。怨念からか勝手に手が動いていたのだろうか。

「あ、すいませんでした~」

 そう言ってお店から出ていく。

 そしてで二人が出てくるまで待ち続けようと決める。

 そう言えばチユ達はどこに行ったのだろうか? 近くにいると思ったらいつの間にか消えていた。

 まあいいか、と思い二人が出てくるのを待つ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ランジェリーショップを出てから、普段着を買い、食料を無事買うことができた。

 両手は袋で一杯となっており結構重たい。なので今表にある広場で休憩している。

「買い物楽しいね」

「まぁ楽しかったな」

 思った以上に疲れはしたけれど楽しかったな。

「あ、あっちで何かしてるみたい」

 一ヶ所に人だかりができていて、そこからなにか陽気な音楽が聴こえてくる。

 この曲の雰囲気からするとアイドルとかそんな感じだろうか。

「行ってくるね」

「気をつけろよ!」

 そうして人混みの中に消えていった。

 しばしの一人きりの時間、手持無沙汰に感じ自動販売機に向かい二人分の飲み物を買おうと立ち上がる。

 両手いっぱいの荷物を持つのは億劫に思ったけれどおいて行くわけにもいかないので、持ち上げて自販機まで向かう。

 さて何を買おうかな、適当にお茶と、もう一つは林檎ジュースでいいかな。

 ん? なんか今呼ばれた気がしたんだが。

 振り向いて辺りを見回してみても誰も知り合いの姿は見つからなかった。

 何だ気のせいか。

 地面に置いたビニール袋の中に買った飲み物を追加してゆうあを迎えに行く。

 その途中急によろけたよくわからない人がいたけれど、触らぬ神に祟りなし、そそくさと歩く。

「ほら、ゆうあもう行くぞー」

 集まっている群れの中に告げる。けれど返事が返ってこない。

 少し背伸びをして探してみると、違和感なく集団に混じって手を上げて声援を上げている。

 これはしばらく戻ってこなさそうだな。もう一度ベンチに腰を落として戻ってくるのを待つことにする。

 そして数分後。

「楽しかったのになんでこうき、みにこなかったの?」

「まあ荷物を見てなきゃ駄目だからな。ゆうあが楽しめたならそれで十分だ」

「うん、楽しかったよ。可愛い子たちがお歌歌って踊ってたの」

「そうだったんだ」

 予想が当たっててよかった。

「じゃあもうそろそろ帰るとするか」

「うん!」

 さっきまで高かった太陽もいつの間にか傾いて、オレンジ色に辺りを染めていた。

 長く延びる自分の影を追いかけながらバス停まで歩いて行く。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 走りつかれて、歩くのにも疲れていた。そして辿り着いていた場所はさっき入っていったビルの下、広場前だった。どこか遠くの方に行こうと思っていたけれどなぜだか戻ってきていたみたいだった。

 目の前に丁度開いているベンチがあったのでそこに座る。背もたれに全体重を掛けて目を瞑り風を感じる。

この風がすべてを攫ってってくれればいいのに、先程智癒に言ってしまった言葉も、昨日二葉に言ってしまったことも、一緒にどこかへ飛んで行けばいいのに。

 智癒は本当に自分の為じゃなくて親友の二葉の為に、二葉の恋を応援するつもりだって頭では十分理解しているのに、なのにあんなひどいことを言ってしまったんだよな。

「本当にもう、死に…」

 そうだった、もうこれは言わないって智癒と約束していたんだったよな。せめてこれくらいは守らないと。

 目を瞑って何かを考えようとする。すると後ろの席の方からカップルらしき会話が聞こえてくる。

「買い物楽しいね」「まぁ楽しかったな」

 こんな会話を聞いていると羨ましくて辛い。

 何かを考えようとしていたけれどそれを止めて、瞼を開ける。ボーっと何も考えないで視線を前の方に置く。その中に見なれた人物を見つけた。

 脚を動かしてその人物の元へと歩き出す。

「コウ、うわぁ」

 前にいた二葉を捕まえて近場の脇道に拉致をするかの如くの勢いで連れ込む。

「えっ、何!?」

 何が起きたのかわからないといったように戸惑っている。

「俺だ、廉哉だ!」

 取り乱している二葉の肩を押さえてこっちを見させる。

「えっ!? レン? あ、本当だ。一体何するのよ!」

 言葉通り激昂した表情を浮かべている。

「話があるんだ」

 咄嗟に口から出た言葉だ。実際はまだ何も考えていなかった。

「何よ、話って」

 怪訝そうに訊いてくる。

「それはだな」

 何を言えばいい、なんて言えばいい。そもそもなんで俺は二葉のことを呼びとめたんだ。なんでここに今いるんだ、どうしてここにいるんだ。

 逃げてきた。智癒の言葉から。

 智癒が二葉の告白を応援すると言って、そんなことを言われて悪くもないのに智癒に八つ当たりしてここにいるんじゃないか。

 さっき二葉は光輝のことを呼びとめようとしていた。もしかして二葉は光輝に告白しようとしていたのか。そうなのか?

 そんなことされたら、一体どうなる? 正直に言って光輝がオーケーするかどうかは五分五分だと思う。賭けとしてはそこまで歩の悪いものじゃない。二葉ならそんなことリスクを度外視にしてでもやってしまう可能性が十分にある。しかも今は智癒の手助けも得ているそうだ。更に確率は上がっているんじゃないだろうか。

 告白。

 二葉が光輝に告白してしまう。イヤだ、絶対に嫌だ。

 どうしたらいい、どうしたら抗える。

告白、告白をどうしたら。

「好きだ」

「えっ…?」

 しまった、告白のことばかり考え得ていたら口が勝手に言いやがった。

もうしらねぇ、どうなっても構わない、今度は止めねぇから勝手に動きやがれ。

「俺、大杉廉哉は三月二葉のことが好きなんだ、付き合って欲しい」

 言っちまったよ、流石の二葉でも勘違いできないほどにはっきりと。

「え、何それ…? 新手の冗談?」

 まさかだろうと信じ切れていないようだ。

「冗談なんかじゃないぞ、俺は、お前が、好きだ!」

 突然の告白に驚いてか何も言わずに立ち尽くしている。

「本当に冗談じゃないのね」

「ああそうだ、この際だ何度だって言ってやる、俺は、二葉、お前のことが好きだ、付き合って欲しい」

 ホント今日の俺はどうかしている。これも智癒のおかげなのかもな。

 こうやって踏みだすためのきっかけを自身を犠牲にしてまで作り出してくれた。どこまでもお人好しで、最高に馬鹿な奴だよ。

結果的に好きな人が別の相手に告白するのに協力しちまってたんだからさ。

 だから今俺はこうしてこの言葉を二葉に届けることができたのだけどな。

 下を向いて考え込んでいる二葉、表情は見てとれないけれどきっと必死になって考えて、悩んでくれているんだろうな。

 なんで俺のまわりには、こう、良くも悪くも真面目な奴が多いんだよ、まぁそんな奴らだから俺も一緒にいられるんだけれど。

 俯いていた二葉が口を開く。

「…告白してくれたことはとても嬉しいよ、あたし告白されたのは初めてだったから。けれど、けれどね、その気持ちには答えられそうにないの、…あたしはね、今、好きな人がいるの」

 俺の気持ちに答えようと真剣に話してくれている。

 一息吸い込んでからその相手を言おうとする。

「光輝だろ」

「えっ、……うん、そう。バレてたの?」

 こいつは俺たちが気が付いていなかったと本気で思っていたんだな。

「ああ、ずっと前からな。光輝がお前に好かれているのが、なんで気がつかないんだって思うくらいにわかりやすかったからな」

「そうだったんだ」

 今頃こんなことに気がついてか顔を少し赤らめている。

「まぁやっぱり俺じゃ駄目だったか。仕方がないか、俺も智癒と同じようにお前のことをバックアップしてやるよ」

 そう言って肩を力づよく一発叩く。

「いいってレンまでそんなことしなくって、てチユに手伝ってもらうこと知ってたの?」

「ああ、さっき聴かせてもらったからな」

 荒療治ではあったけれど結果的に自分に檄を入れることができたからな。

「ほら、じゃあこんな所いないで光輝に声掛けてこいよ」

 後ろから両肩を 掴んで行けよ、と押しだしてやる。

「あ、うん、わかった」

 一度振り返ってからどんどん離れていく。そして姿が見えなくなった。

 どうにか力を込め続けていた脚から一気に力が失せていく。立っていることができなくなってそのばにへ垂れこむ。

 これが顔で笑って心で泣いてって奴なのか。

 いる場所が幸い誰も目もくれる様なことのない路地裏だったのがせめてもの救いかな。

 涙を浮かべた所で誰も見やしない、夕暮れ時に染まっていく世界の中でいち早く闇が到来してただですら薄暗いのにより暗くなる。

 憤り苦しみその他諸々の感情のやり場に困って、代わりに受け取れよとばかりに地面を殴りつけてやる。

 けれど実際にはできなかった、阻止されてしまった。

 後ろから包むように抱かれて腕を動かせなかった。

「いつから見てたんだよ、智癒」

「最初からだよ」

 包まれている温もりが本当に暖かくて、物理的な温かさだけではなく、凍てついて凍えそうになっていた心まで温められたような気がした。

「ずるいだろ、このタイミングはさ」

 堪えていた涙が今にも溢れかえりそうになってきた。

「さっき酷いこと言ったからそれの仕返しだよ」

 身体に伝わってくる力が少し強くなる。

「それじゃあ仕方がないな」

 涙を堪え切ることができなくなり、一粒の雫が零れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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