3-3
「これだけアイディアあげれば大丈夫かな」
「うん、多分いけると思う…」
「ほら、弱気にならないの、いつもみたいに強気でいかないと」
「うん、そうだよね、いつも通りに、ね」
チユがあたしに為にここまで真摯になって相談に乗ってくれて、その上どうすればいいか一緒に考えてくれた。これに報いるためにも頑張らないと。
「でもやっぱり、タイミングが一番重要だよね」
「うん、私もそう思う」
「それが一番の鬼門なんだよねぇ」
そんないい雰囲気なるようなことは早々ないわけなんだし、どうしたらいいのか。
「そういえば、もうそろそろで夏祭りがあったような…」
「そうなの!」
これはいい機会じゃないか、二人きりになれたらもうそれこそ告白の大チャンスだ。
「ねぇ、いつなの? それ」
「ごめんね、いつだったか忘れちゃったから、今度あった時に教えるね」
「うん、わかった」
「そう言えばふーちゃんって浴衣持ってる? 着ている所見たことないから」
「持ってないよ、あれなんか着るのめんどくさそうだからさ」
「駄目だよ、絶対にお祭りの時は浴衣を着ていかないと。その方がこう君も喜ぶと思うよ」
「そういうものなのかな」
別に着ているものでコウがあたしに対して思う所が変わるような気はしないのだけれど。
「そういうものだって、浴衣補正があるみたいだし」
「だといいんだけどね」
半分流して聴いていた。
「結構真面目に言っているのにもう」
「そうですね、ありがとうございます」
真面目に言ってくれているのはわかっているけど、コウにはそういうのは効かないだろうからなぁ。
「とりあえず、浴衣は絶対に買うよ」
「わかったって」
「それじゃあいつ買いに行く?」
「まあ適当にそのうち買いに行こうよ、別に明日祭りがあるわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど、でも…」
「はいはい、また今度ね。それはそうと、もうそろそろコウの家いかない? 今日はあっちでご飯を食べてやるんだから」
昨日はユウアが一緒にコウとご飯を食べていたのが羨ましかったから今日は一緒に食べてやる!
「はいはい、わかりました」
「じゃあ行くよ」
そして家を出てコウ宅に向けて歩き出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「未来…人?」
「うん、そういうことになると思うの、ゆうあもまだ信じられないけれど」
本当にそうだったとしたら凄いじゃないか。
「それに私の住んでいた星はね地球って言ったの。つまりこの星の未来からきたみたい」
「凄いじゃん! 宇宙人で未来人だなんて本当に凄いじゃないか」
「この場合だと未来人だけだと思うよ」
「そうなのか? まあどっちでも凄いことだからいいんじゃないか?」
「うんそうだね、自分のことだけどとても凄いよね」
そうだぞ、と力強く頷いて答える。
「なあ未来の地球ってどんな感じになっているんだ?」
ネコ型ロボットがいたりするのかな。
「う~ん、あんまり訊かない方がいいと思うよ、あそこよりもここの方が全然素敵だもん」
言ってからイノの中から降りて辺りに視線を移す。
「だってここにあるのは全部天然の自然なんでしょ?」
大手を広げて空を仰ぎ見る。
「まあそうだな、自然しかない所だけどな」
僕も降りてゆうあの隣に立つ。
「とても素敵じゃない、ゆうあはこんなに自然を見たことはないよ。未来よりここの方がいい所だよ」
「それはどうもありがとう」
未来の地球にはこんな豊かな自然はなくなっているのか、そう思うと、とても悲しく感じる。普段は何もない田舎だって馬鹿にしているけれど、だからって高層ビルが立ち並ぶような場所になって欲しいなんてことは思ったことはないし、それにこの自然しかないここが好きだから。未来にこれがなくなっているのはとても辛い。
「今後どうするんだ? 少なくともイノが直るまでの一ヶ月間は? ゆうあさえ構わないならずっとうちに居ても構わないけれど」
部屋も余っていて一人で暮らすには寂しすぎるから居てくれると嬉しい。
「ありがとう、でも流石にそれは迷惑にならない?」
「そんなことないよ、むしろ嬉しいくらい、一人じゃあそこは広すぎるからさ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「お願いされました!」
よし、これで寂しい一人暮らしとはおさらばです。
「とりあえずもうそろそろ帰らないか? なんかさっきからずっと嫌な感じがするんだよ、ここ」
「あっ、ごめんね、どうやらイノが人除けをしてくれているみたいで、そういう風に嫌な感じをこの丘周辺に撒いているの」
「なんでそんなことするんだ?」
「一番はこの子が見つからないようにすることかな。確固たる目的がこの場所にない限りは人は寄り付かなくなるから」
「だからあんな爆音を立てたのにこのことがなんのの噂にもなっていないのか」
狭い町だ、こんな異常なものがあったら噂などすぐに広がる。
「それもあるけど、ほら、このクレーターを見てみて」
人が寄らないのと何か関係があるのか?
さっぱりわからないが促された通りに見る。
「クレーターってこういうものじゃないのか?」
実物は始めてみるから比較のしようがないのだけれど。
「よく見て、不自然なほどに綺麗な円になっていない?」
「そうなのか」
その点に注意してもう一度見回してみる。
言われてみれば確かにそうだ。イノを中心にして綺麗な円になっている。コンパスで線を引いたかのように、円の輪郭に一切のブレがなかった。
「これは多分、重力膜を張って音と光が広がらないようにしたんだと思う」
「何だそのグラビティシールドってのは」
「重力を操って膜をみたいなものを作り出したもののことなの。ブラックホールみたいに物凄い重力は光をも捉えて、逃がさないの。それみたいに、イノを中心にして丁度15メートルくらいかな、離れた所に超重力を作り出して、光と音を閉じ込めたみたいね」
「つまりはその重力膜がこのクレーターとそうじゃない所の境界線上に張られてて、着陸した時の衝撃はそこでシャットダウンされたからこんな風に綺麗に円状に穿かれて、音と光もこのクレーターの範囲内に閉じ込められたってことだよな」
脳みそを総動員させて判断した結果だが。
「そんな感じね、多分光までは防ぎきれていないと思うけど、音は中に閉じ込められたと思うの、だからあまり気づかれていないんだと思うの」
「なんか説明聴いてても、ゆうあもあまりわかっていないみたいだな」
説明の一つ一つがたどたどしく見えた。
「実はゆうあもあまりわかっていないの、全部この状況を見て推理したことだから。たぶん不時着した時に魂共全動機にこういうアクションを起こすように設定されていたんだと思うの」
「とりあえず凄いってことがわかったから帰らないか?」
言葉はちゃんと聞いていたが不快感は消えることはない、なのでできるだけ早くここを出たい。
「そうだね、そうしようか」
来た道を逆走して降りる、平原を下り、林を抜け、ふもとに着く。そして一つのものに目がとまる。
「ああそう言えばこれ忘れていたんだ」
目の前にあるのは自転車。
「鍵も丁度よく付けっ放しだし乗って帰るか」
家の鍵は閉め忘れるは自転車には鍵を付けっ放しにしとくは、セキュリティー面ずさんすぎるな。
けれどこのずさんさが招いてくれた移動手段だ、喜んで使わさせてもらおう。
颯爽と自転車に跨る。
「ほらゆうあも乗れよ」
後ろの所をぺしぺしと叩いて早く乗れと急かす。
「あ、うん、わかった」
小走りで寄ってきてから座る。
「よしじゃあ行くぞ」
「うん、いいよ」
ペダルに力を込めて走り始める。
「うわぁ、揺れる!!」
驚いてか僕のお腹辺りに腕をまわして、ギュッと捕まる。
その瞬間ドクッと鼓動が早まった気がした。
「おし、スピードあげるからそのまま掴まっていろよ!」
「うんわかった」
強くなる力を感じて、それを原動力にして脚を動かしている様な気になった。
田んぼに挟まれた道を自転車でただひた走る。
「よし、やっと着いたぞ」
自転車をこき続けること数十分ようやく自宅にまで辿り着いた。
人一人多く乗せて走っていたのでいつもより運動量が多かったせいか、普段より多く額に汗が光っている。それを拭ってから自転車を降りる。
「うぅ~お尻痛いよ」
後ろに乗っていたゆうあが自分の尻を擦っている。
その動作は女の子としていいものなのか、と疑問符が頭の中に浮かんでいるけれど、気にしないでおこう。
「舗装されていない道ばっかりだからな、仕方がないさ」
後ろはサドルと違ってスプリングが入っていないから、振動が直に来て痛いんだよな。こんど座布団でも括りつけてやろうかな。
頭の中で自転車に座布団を装備された姿を想像してみて、これはない、と思ったのでやっぱり実行しないことにする。
「後少しで昼飯の時間か」
ポケットから取り出した携帯のサブディスプレイを見て時間を確かめた。
「どうせ買い物にも行かなくちゃいけない訳なんだし、今日は外で昼、食べるか?」
「うん、食べる!」
「よし、それじゃあ外で食べるで決定!」
「決定!」
「喉乾いたし、財布とかも家の中だから一回戻るぞ」
ドアに手を掛けて開けようとするが開かない。
そうだ鍵閉めたんだった面倒くさ、閉めなきゃよかったな。などと鍵の存在意義を前面から否定するようなことを胸中で呟く。
鍵を取り出して家の中に入り、喉を潤して、出発の準備をそそくさと済ませる。
「ゆうあ、準備できたかー?」
家の中のどこかにいるゆうあに向け訊く。
「うん、できてるよ」
縁側の方からひょっこり出てきた。
「よし、行くか」
「うん!」
靴を再び履いて、外に出る。
「今度はバスで行くぞ」
一時間近く二人乗りして行くのは流石に面倒だから。
「初めてのバスだ」
「そうかそれはよかったな、ほらこっちだぞ」
バス、バスと鼻歌の様なものを歌いながら反対側に向かおうとしていたので襟首を引っ張って連れ戻す。
砂利道を蹴って、バス停にまで向かう。
歩くこと数十分バス停にようやく着いた。時刻表に目をやると後十分程で来る様だ。
さて、何をしようかなと考えたものの何も浮かんでこない。座っていた椅子の背もたれに体重を任せて空を仰ぎ見る。
どこまでも高く延びる青空、ゆっくりと流れていく雲、熱さを追いやってくれる風。いつも通りだった。
「縁側もよかったけど、ここもいいね」
「そうだろ、こんな天気のいい日は尚のこといい」
ゆうあもこの風景のよさがわかるか。
「雲の形がおいしそう」
「そこかいっ!」
前言撤回ですな。
「あれとか、鯛焼きみたいでおいしそう」
「はいはい、そうですか」
遂に同士が現れたと思った所に。
「じゃあ向こう行ったら鯛焼きも買うか」
「うん!」
本当子供みたいに無邪気ないい笑顔をするな、ゆうあは。見ていてこっちも気持ちがよくなる。
そんな他愛ない会話をしていたら、バスが来た。
「ほら、乗るぞ」
「うん」
乗り込んで一番後ろの方の席に座る。発車するかなと思った時に3人ほど掛け込みで乗ってきた。その3人の乗車を確認してからバスが出発した。
「ああいう風に掛け込み乗車は良くないからするなよ」
隣に座っているゆうあに聴こえるくらいの大きさで話す。
「うん、わかった」
「よし、いい子だ」
頭をに手をポンと軽くおいてから撫でる。
「へへぇ」
緩んだ表情のゆうあが隣にいる。
にしてもあの3人は何なんだ? 全員深くかぶった帽子にサングラスって怪しすぎるだろ。そんなことを思っていたけれど、僕には関係ないから不審者達のことは忘却する。
前からいきなりドンッ、と音が聞こえたけれど、タイヤが石か何かを踏んだだけだろうと御思い気に留めなかった。
20分程経ってようやくここら辺では一番大きな街に着いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれ、こう君じゃない?」
「え、どこにいる?」
「あの向こうから自転車漕いでる人」
奥の方で走っている自転車を指差す。
「あっ、本当だ」
丁度いいタイミングじゃん、と思って歩き出そうとしたら急にチユに手を掴まれた。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「ゆうあちゃんが乗ってるよ」
「えっ?」
「見つかる、ちょっとこち来て」
掴まれていた腕により一層力が加わって引き寄せられる。そしてコウの家の正面の方にある物置小屋の影に隠れる。
「な、なんで隠れるの」
「いいから、二人がどういう会話しているか気にならない?」
気にはなるけれど、そんな盗み聞きするのはいけないような。
「今日外で昼、食べるか?」
コウの声が聞こえてきた。
「チユ、浴衣今日買いにいかない?」
「ちゃっかり聴いているじゃん」
「へへ」
ここら辺で昼ごはんを食べるために行くような場所なんて一つしかない訳なんだから、どこに向かうのか容易に想像がつく。
そして、コウとユウアが家の中に入っていった。
「この後どうする? こっそり付いて行くのはいいけど」
「そうね、どうしようか」
「ああ、どうするんだ」
「え?」
「うわぁっ」
「どうしたんだ二人とも幽霊を見たような反応しやがって」
「そりゃ驚くでしょ」
「うん、私もびっくりした」
「ははは、ごめんな」
あたし達の驚いた理由はいきなり背後にレンが立っていたからだ。
「一体いつから居たのよ」
「お前たちがいきなり隠れたあたりから見ていたぞ、一体何してたんだ?」
どうやら話していた内容までは聞きとられていなかったようだ。
「後で買い物行こうよってチユと話していたの」
嘘は言っていないぞ。
「わざわざこんな所でか、そんなことしていないで早く光輝の家行こうぜ」
歩き出す背中。
行くな! と掴むために腕を伸ばしたけれど届かない、けれど動きが止まった。チユが私の時みたいに腕を掴んで引きとめたようだ。
「なんか、二人様子おかしくない?」
いつも通りといえばいつも通りだけれど何か違和感を感じた。
「別に、何にも至ってこれといっておかしいようなことなど、微塵も一つもないぞ、な、智癒」
やたらと早口になっているし、文章も滅茶苦茶だ。
「うんその通りだよ、いつも通り、いつも通りだよ。ね、れん君」
チユも声のトーンがいつもより若干高い気がする。
そのままぎこちなく視線が混じった、と思った時にはすぐにどこかを見る。
「絶対何かあったでしょ、二人ともおかしいよ?」
「いや、俺は至って普通、で、普段通りだって」
「あ、ふーちゃん二人出てきたよほら、見てみ」
玄関の方を指差す、二人とも本当に出てきたようだ。
ユウアが私たちのいる方と反対側の方に一度進もうとして、コウに掴まれてからこっちに向かって歩いてきた。
「普段通りの二人ともこっち来い、見つかるって」
あたしもコウと同じように二人の襟首ではないけれど、手首を引っ張って、物置小屋の裏手に連れ込む。
二人ともあたし達に気付くことなくバス停目掛けて歩いて行った。
「よし、じゃあ付けるよ」
「うん」
チユが頷く。
「お前らあの二人を尾行するつもりなのか?」
「そうよ、悪い?」
「いや、誰もそんなこと言ってないけど」
「じゃあ、レンあんたも共犯付いてきてね」
「だからちょっと待てって」
「もう何よ」
早く後を追わないと。
「このままじゃ、すぐばれるだろうが」
「あ、確かに」
いくら距離を置いて後を付けていったとしたって、遠目で一瞬見ればあたし達だって気付かれてしまう。
「こんなこともあろうかと、これをもってきたのさ」
一回息を吸い込んでからだみ声で。
「変装セット~」
どこから取り出したのは知らないが、帽子とサングラス各3つずつ取り出していた。
「やっぱ、あんた今日は一段とおかしいわね、けれど使わさせてもらうよ」
三人そろって帽子とサングラスを装備した。これで間違いなく不審者の仲間入りをしたわけだ。
「どうだ俺の変装セット、完璧だろ」
「ホント、凄過ぎて声も出そうにありません」
凄い呆れ返って声を出すもの面倒です。
「そうだろ、ちゃんと感謝しろよ」
「はいはい、そうですね、感謝感謝、シェイシェイ、シェイシェイ、カムサハムニダ、ボンジュール」
「うん、感謝する気のないってことだけは伝わったぞ」
どうせ用意するならもっとまともなものにすればいいのに、なんでこんのにしたんだか。
「一先ず後を追うよ」
そして不審者三人組の尾行がスタートする。
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