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光からの贈り物  作者: 337
第三章 変光 ~来る時・訪れる間~
16/28

3-2

「いってきます」

「いってら~」

 家の中から桐斗が気の無い返事で返してくる。

 出かける先はこう君のお家、ではなくふーちゃんのお家。

 昨日帰る時にれん君が言った言葉が絶対に響いているから。

 そのことが絶対に気にかかっているはずだから。だから私が慰めてあげないといけない。だから今からふーちゃんの家に向かう。

 ピンポーン、

 インターホンの音が家の中ら聴こえる。

「はいはーい」

 ガラッと音を立てて扉が開かれる。

「あ、チユ、おはよう、どうしたの早いね」

「うん、ちょっとね。上がってもいい?」

「うんいいよ、上がって、上がって」

「お邪魔します」

 一先ずよかった今の所の雰囲気はいつも通りだったから。

「あたしの部屋に上がってて、お茶持ってくるから」

「うん、わかった」

 階段を登ってふーちゃんの部屋の中に入って座って待っている。

「お待たせ」

 お盆にお茶と煎餅を乗せて入ってきた。それを床の上に置かれている小さな机の上に置く。

「ありがとう」

 注いできてくれたお茶を一口飲む。

「どうしたの今日は?」

「うん、そのね…」

 いきなり本題に入ろうか雑談をしてから徐々に本題に触れていくか悩んだけれど、決めた。

「ふーちゃんは大丈夫かなって思って」

 いきなり本題に入ることにした。

「大丈夫って一体何が?」

 何のことなのかわからない、といったような素振りをして誤魔化そうとする。

「こう君のことだよ」

 こう君と名前を出した瞬間にびくんっ、と反応して一瞬止まった。

「別にコウは関係ないじゃない」

「じゃあ昨日れん君に言われたことにあんなに反応したの?」

「それは…」

 言葉に詰まって何も言えなくなっていた。

「私はね責めにきた訳じゃないの、ふーちゃんに協力してあげたいの」

「協力って、何を協力するのよ」

 私が気が付いていないと思っている様だ。

「こう君のことが好きなんでしょ」

「え…」

 やっぱりそうだ気づかれていないと思っていたようだ。私もれん君も気がついていたのに、こう君が気がつかないのが不思議なくらいに、好意を前面に押し出しているんだ。だから気がつかないわけがない。

「バレてたの…?」

「うん、わかってたよ」

「はは、そうだったんだ」

 乾いた笑いで顔を背ける。

「じゃあ昨日のあたしの姿なんて見るに堪えないようなものだったでしょ」

 見ている私まで辛くなるような場面だった。だから大声を上げてれん君のことを止めたんだから。

「だって辛くなるよ、好きな人の近くに突然あんな可愛い人が現れたんだもん。それに従妹ってことは恋愛もできるわけでしょ、そんなの敵いっこないよ」

 私も突然だったから驚いたけれど。

「でもゆうあちゃんとは昨日初めて会ったって言ってたよ、まだお互いのことを知らないから恋愛には発展しにくいんじゃない?」

 私だったらよく知らないような人に対して恋をすることはないし、一目ぼれもない。

「だから怖いのよ、コウとあたしの関係は友達、悪友、幼馴染、これでもう固定されちゃっているから、その先には発展しない。けれど、あったばかりなら意識さえしてしまえばすぐに互いに恋に落ちるということだってないとは言い切れないじゃない!」

 悲鳴にも似た叫びだった。

「じゃあ簡単に諦めるの?」

「そんなことない!」

「そうでしょ、だから私は協力したいの」

 今までだったらちーちゃんとこう君が付き合ってくれれば、れん君の気持ちが私のものになるんじゃないか、という打算が働いていたかもしれないが、今はそんなことない。もう気持ちは伝えているから、私は待つことしかできないから。だから全力でバックアップしてあげあられる。

「…本当に協力してくれるの?」

「うん、任せて、私にできることなら手伝わさせて欲しいの」

「ありがとうね、チユ」

「うん」

 暗く耽っていた表情に明かりがともったような弱い笑顔だったけれど、とても輝いて見えた。

「でもあたしでなんかで、ユウアに勝てるのかな。ユウアすっごい可愛いし」

「こう君は見た目だけで人を判断するような人じゃないと思うから、顔はあまり関係ないんじゃないかな?」

「それでもやっぱり、男は可愛い子の方が嬉しいでしょ!」

「ふーちゃんも十分可愛いのに」

 小さくて活発で元気で、羨ましいくらいに可愛いのに。

「そ、そんなことないよ、それにあたしスタイルよくないし」

 褒められたことの驚いて、自分の欠点を上げる。

「そんなこと…ないよ」

「ほらやっぱり負けてるじゃん!」

 確かにゆうあちゃんの方がふーちゃんと比べたらスタイルがいいのはどうしようもない事実だと思う。じゃなきゃ、あんな身体のラインの出る服なんて怖くて着れないよ。私も着たくないし。

「だ、大丈夫だよ、最近は小さい方にも需要あるみたいだし!」

「そんな、慰め嬉しくない!!」

 咄嗟に出た言葉だったけれど、やっぱりそうですよね。

「けど、ちーちゃんにはにーちゃんの魅力があるから大丈夫だよ」

「そうかな」

「うん、そうだよ。けれどこう君は鈍感だから、今までみたいじゃ駄目だよ」

「うん、わかった」

 けれど今まで以上に積極的なことをさせるとしたら何があるだろうか。私がすぐ浮かんだことは。

「告白したら?」

「えっ、えぇっ!! 無理っ! 無理だよ」

「でもいつまでもこのままじゃ何の進展もしないよ! こう君とゆうあちゃんの関係はゼロから始まったわけなんだからこの先はドンドン進展していく一方何だから。さっきふーちゃんが言ってった通り幼馴染のままで終わっちゃうよ、それでいいの?」

「よくはないけど…」

「じゃあ決定、なるべく早く告白した方がいいよ」

 私の場合はいつ告白していたらよかったのだろうか? 私がれん君のことを好きだってわかった時にれん君の気持ちはふーちゃんに向かっていたことに気が付いてしまったから、それで昨日までできないでいたから。

「う、うん…」

「じゃあ頑張ろう」

 私の気持ちは変わっていない、今でもれん君と付き合えるなら付き合いたいと思っている、けれど、それよりもれん君が好きな人と一緒になってくれたらうれしいから。そう思っているから痛みを抱えるとわかった上で手伝う。

「それじゃあ、どうやって告白するか考えよう」

「うん」

 この後いつどこでどう告白するか、などを話しあった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほら、ここを登ったらもう着くぞ」

 丘の入り口を指して案内する。

 なんかここら辺妙な雰囲気が漂っている様な気がするんだよな、よくないようなものがありそうな、そんな雰囲気が。前は普通に来ていたんだけれど、ゆうあとの約束がなかったら絶対に来ていなかったと思う。

「うん、ありがとう」

 小走り気味にけもの道を登ろうとしている。

「危ないから走るなよ」

「大丈夫だよ、早く来て」

 手招きしてこっち、こっちと急かしている。

「わかったから待ってろ!」

 その時風が通り抜けた、夏の匂いを含んだ強めの風が。

 気持ちのいい風だな、とぼんやり前を眺めていた。捲れあがるスカート、見えてしまう下着。

 あ、やばっ。

 すぐさま目線を反らす。

「こうき早く来てよ!」

 そんなことはお構いなしといった様子のゆうあが急かす。

「あ、うん、わかってるって」

 何ドキドキしているんだ僕は、あれは姉さんの下着なのに何ドキドキしてるんだよ! あれ自体は何度も見たことがあるだろが。

 去年まで姉さんと二人暮らしだった頃は、家事のほとんどは僕が担当していたので当然のように洗濯もしていた。その時に何度も見ただろうが。それに姉さんは僕がいることもお構いなしに、風呂上がりとかは下着姿で家の中を徘徊していたじゃないか。だから落ち着け、落ち着くんだ。……よし大丈夫だ。

 落ち着きを取り戻してから、ゆうあの後について林を抜けて、平原に出る。丘のふもと付近は気で覆われているのに、山頂から中腹付近にかけて木が一本も生えていないという面白い丘だ。その山頂だったはずの所に今あるのは白く切り立った一つのオブジェクト。綺麗な流線型で上下左右対称のゆうあが乗ってきたと思われる宇宙船。

「ゆうあはこれに乗ってきたんだよな」

「うん、そうだよ。この子はノアって言うの」

「へえそうなんだ」

『はじめまして』

 えっ、なんだ今頭の中に直接響いてくるような声が。

 けれど辺りを見回してみてもゆうあ以外誰もいない。

「この子が話したんだよ」

 ゆうあがクレーターの中に入り、イノと紹介された宇宙船に触れる。

「え、喋れるの?」

「うん、話せるよ」

『話せますよ』

 また頭に響いてくるような声が聴こえる。

 この声前にどこかで聴いたことがあるような。

「ゆうあがここの言葉を話せるようになる前に通訳してくれていたのがイノなの」

「そんなこともできるのか」

 だから声を聴いたことがあったのか。

『できますよ』

「へぇ、すごいな、この宇宙船」

「イノは宇宙船とはちょっと違う、かな。宇宙も飛べるって所だけを見ればそうだけど、イノの機械としての名前は魂共全動機シンパシーって言うの。イノって言うのは私の付けたニックネーム」

「そうなのか、で、今イノは動くのか?」

 飛べるなら是非見てみたいです。

「どう、飛べそう?」

『まだしばらくは無理そうです。重力機関エンジンが壊れてて飛べそうにないです』

「そうなの、後どれくらいで直りそう?」

『一か月くらいは掛りそうです。他にも何箇所か不具合が出ています』

「そう…結構掛るのね、中の様子も見たいから開けて」

『はい』

 表面に彫られている幾つもの溝が動き、穴が開いた。

「よいしょっと」

 イノの中にゆうあがよじ登った。

「僕も入っていいか?」

「うん、いいよ」

 ゆうあと同じ様によじ登って中に入る。

「なんか、結構狭いんだな」

 僕が両腕を伸ばしてしまえばそれだけでスペースの半分近くを占めてしまう。

「それに何にもないな」

 運転するために必要そうなものが何一つとして存在していなかった。このまま入ってきた入り口が閉じてしまえば、四方八方を外装と同じ白一色で覆われていまう。

「元々、一人乗り用だからね、それに今は運転しないから余計なものは全部仕舞われているの、一人でくつろぐ分には十分な広さはあるでしょ」

 確かに一人でなら十分な広さなのかも知れない。その気になれば寝転ぶこともできるわけだし。

「でもやっぱり窮屈そうだな、これにどれくらい乗ってここまできたの」

「これって言わないの! さっきイノって紹介したでしょ!」

「はい、すみませんでした」

 そこは結構重要なんですね。

「で、乗ってきた時間ね、ちょっと待って」

 そう言って何もない空間に手を差し出して、スマートフォンをスライドさせる時のように人差し指を空中で払う。

 すると何もなかった所に突如、緑色の四角いウィンドウが表示された。その浮いているものをタッチして操作しているようだ。

「え、どうなっているの」

 ウィンドウを見ながら怪訝そうな声を漏らす。

「? 一体どうしたんだ」

「時計がおかしいのよ、イノこれも壊れているの?」

 どれくらい経ったのか確かめるために時計を確かめていたのか。

『いいえ、時計には何の不具合も見つけられませんでした』

「じゃあこれって…」

 信じられないものを見ているかのような驚愕の満ちた表情だった。

「い、一体どうしたんだよ。何かあったのか」

 何かあったからそんな顔をしているのだろうけれど。

「これを見て」

 ゆうあの横に立ちウィンドウの中を覗き込む。

「ん? 何だこれは、さっぱり読めないぞ?」

 少なくとも僕は見たことのない文字だった。

「あ、ごめんねこれは私の星の文字、今からここの文字に変換するね、…よし、これ」

 少し操作をしてからもう一度見て、と促される。

「宇宙暦2937 7月29日 10時48分。何だこの宇宙暦ってのは? 今は2012年だぞ。それ以外は今日と同じだな、時間は…」

 ポケットの中から携帯を取り出して確かめる。

「今と同じだな。何かおかしいのか?」

「ああ、ごめんね、これをみせただけじゃ説明不足だよね。あのね、ゆうあが最後に時計を見た時は宇宙暦は3152年だったの、それなのに今は2937年、215年も戻っているの!!」

「つまりはタイムスリップしているってことか? それもイノについている性能じゃないのか?」

 星間移動を何なくやってのけるんだからタイムスリップもできそうな気がするんだけど。

「ううん、違う、イノにはそんなことできない。というよりの、タイムスリップ自体まだ現実不可能って言われているのに」

「そうなのか?」

「いや、でも、時空間移動のできる魂共全動機があるって都市伝説があったような、いやでも、所詮は伝説だ。あり得ない。少し先の未来への一方通行であれば昔からできてたみたいだけれど、過去へ戻るなんて話、やっぱり聴いたことがない」

 僕に説明するというよりは自分で状況を判断するために呟いているようだった。

「そう言えば過去へ行くための方法の中にワームホールを使うものがあった気がするけれど、まさかそれでここまできたのか? でも、あれには光速並みの早さが必要なはず、そんな魂共全動機聴いたことがない。あっ、そう言えばこの子」

 何かを思い出している様な遠い目をしている。

「だったら、まさか本当に?」

 なにかを悟ったのだろうか?

「そういえばこの星の名前まだ訊いてなかったよね」

「ああ、そうだな」

 そんなに時間はたっていないのに久しぶりに話しかけられたような気がした。

「教えて、名前」

 まっすぐ見つめてくる双眸に告げる。

「地球だ」

「やっぱりそうなのね」

 やっぱりってどういうことだ?

「ゆうあは未来人みたい」

 白に包まれている空間の中にその言葉だけが響いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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