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光からの贈り物  作者: 337
第三章 変光 ~来る時・訪れる間~
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3-1


 第三章 変光へんこう ~来る時・訪れる間~


 暗闇と見まごう程暗いモノ。

 光をも飲み込んでしまうブラックホールのように、黒く暗く喰らう。

 黒に支配されているはずの宇宙ですら、くすんで見えてしまう。

 決して速度は速いとはいえない、人が走っているかのようにのろのろとした動き。そんな鈍足が宇宙の中を進んで行く。

 定められた目的地ゴールに向かうため、与えられた任務ミッション遂行コンプリートするために。

 数百年という時間を超えた先にあるものでも迎えに行く。

 そのためだけに動き続ける。

 時空間移動ジャンプを何度もしてその時に向かう。

 どれだけ遠くにあろうとも、それだけのためにあるのだから、それだけのために作られたのだから。

 だから先の見えない徒労であろうとも、着実に進んで行く。

 でなければ存在価値がないものと同じだから。

 だから一歩ずつ距離を詰めていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 うっ、

 なんか下っ腹に重たいものが乗っかった。眠さに支配されているけれど、瞼がどうにか開いてくれた。霞む視界の中に何かの輪郭。ぼやけていてよくわからないけれど、重いものが乗っかっている様だ。

「ほら、お兄ちゃん早く起きて、学校に遅刻するよ」

 ん? なんだこれは、お兄ちゃんって誰だ? 姉ちゃんなら知っているけど、お兄ちゃんなんて知らないぞ。

「ほら早く、目醒ましてよ」

 言葉に連動して僕の身体が揺すられる。

 ああ、なるほど、夢か。僕の中のどこかにあった妹への欲望が寝ている間に体現されているのか。本当に妹がいてもこんな絶対に起こらないようなことを望んでいるとは僕の深層心理は一体どうなっているのか確かめてみたいものだ。

 たまにあるけれど夢の中で夢だって気がついた時はどうしたらいいのだろうか? どうせ空想の中なのだから自由に欲望のままに行動してみるか? まあ、たまには羽目を外してもいいだろう。ということでもう少しだけ、目を閉じ続ける。

「ねえ、起きてってば。もう、起きろー」

 そんな場所で上下に揺れないでくれ、僕の違う所が起きるからさ。てか、夢でもリアルに重さは感じるのかよ! 流石に苦しい。寝起きでまだ力入らないから。

「そんな風にいつまでも寝ているんだったら、私にも考えがあるんだからねっ!!」

 一体どのようなことをされたいと望んでいるんだ僕の深層心理! 事と次第によっちゃただ幻滅するだけだけれど、楽しみです。

「…き、キス、しちゃうよ」

 恥じらいに染まった声色で甘く囁く。

 お、おお、これはなんだかリアルにドキッ、とするような感じのが来ました。どうする、どうしたらいい? 起きたらいいのか、このままがいいのか。わからない、どうしよう。

 こんな風に悩んでいる間にも時間は経過しているというのにも関わらず決め切れないでいる。

 そして、頬に触れる微かな温もり、暖かくてとても気持ちのいいものだった。その感触はとてもリアルで、これが夢だとは到底思えないほどのリアリティーだった。

 頬に触れた温度に驚いて瞼を完璧に開いた。目の前には幻の妹の顔、触れていたのはやはり唇。このことを再認識してしまって鼓動が速くなってくる、顔に熱がこみ上げてくる。こんなリアルな夢はもう二度と見れないだろうというくらい五感に響いてくる感覚。

 香ってくる彼女の匂い、触れている唇は柔らかく、暖かい。身体が密着しているせいで彼女の心音まで聞こえてきそうだ。視界を覆っている肌の色は淡雪のように白く触れれば溶けてしまいそうだ。

 そして離れていく唇、上半身が持ち上げられて彼女の顔と相見える。先程はぼやけていてよく見えなかったけれど今はよく見える。一見したら作り物と間違えるくらいに整った顔立ち、大人っぽくはあるもののどこか幼さの感じ取れる、そんな顔。

 ん? 待て、この顔はどこかで見たことのあるような……

「おはよう、お兄ちゃん。別に私がちゅうしたかったわけじゃないんだからね、…起きなかったお兄ちゃんへの罰なんだから」

 恥じらいで白い頬が朱に染まっている。

 どこかで見たことがあるなんてことがどうでもよく思えるほどに、可愛かった、心が揺さぶられた、それほどの大きな衝撃が走った。

「ほら、起き上がって、じゃないともう一度、罰を与えちゃうよ」

 僕に座ったまま顔を覗き込みながらの一言。

「起きました!!」

 これ以上はもう身体が持たない。

「おはよう、こうき」

 何度か見たことのある笑顔がそこにあった。

「ゆ、ゆうあ…か?」

「うん、そうだよ」

 頭の中に嫌な予感を一つ通り抜けていった。次々と背中に冷や汗が伝っていく。違うベクトルに脈が早まっていく。

「これって、夢、ですよね」

 そうであると言ってくれ、一生のお願いだから頼む。

「夢、じゃないよ」

 ですよね。

「よし、寝る、お休み」

 今から寝ればこれを夢だったということにできる気がする。

「駄目だよ、こうき、折角起きたんだから」

 だからそこで揺れないでくれ、マジでお願いします!

「わかったよ」

 これじゃあ寝れないので大人しく身体を起こす。

 とりあえず何があったか思い返してみて僕は何もしていないかどうか振り返る。……うん、…大丈夫、ただ寝ていただけだ、問題ない。頭の方には問題はあったけれど変な行動は何一つ起こしていない。夢だと思っていてもはしゃがなかった僕の勝ちだ、どうだこの野郎。誰に勝ったのかは自分でも知らないけれど。

 まずは落ち着くために深呼吸をして脈を整えよう。…よし、もう大丈夫。

「なんでこんな起こし方するんだ?」

「こうやって起こすのが正しい起こし方って、手に入れた情報の中にあったから」

「ちゃんと情報を精査しろよ!」

 きっとアニメとかそこら辺の情報だろうけれど。

「でもちゃんと起きたよ」

「まあそうだけど」

 嬉しいか嬉しくないかで訊かれたら嬉しいけれど、何度もこんなことされたら絶対に身体が持ちません。

「もうそろそろ降りてくれないか? 重たい」

「うん」

 あれ、そう言えばなんでこんなに重たいんだ? 昨日持ち上げた時は一番重たく感じた時にでも10キロ程度だったけれど、今のはそれの何倍かの重さがあった。

「体重増えたか?」

 あ、やば、女の子に体重のこと訊いちゃいけないよな。前、二葉にしつこく訊いてみたら三図の川とご対面しかける程の目にあわされたんだった。

「ゆうあに掛る重力が戻ってきたからだと思うよ。昨日使った重力解放グラビティフリーの後、あっゆうあが浮いてた状態のことなんだけど、それの余韻でまだ身体に掛る重力が少なくなっていたの、それが大分元に戻ってきて今は体重も元通りだと思うよ」

「なるほど、なんとなくわかったような気がする」

「ほら、重たいでしょ?」

 確かめてご覧といった感じにまた揺れ出す。

「わ、わかったらいい加減降りてくれ」

「はーい」

 やっと降りてくれた。嬉しいような悲しいような複雑な気分です。

 一先ず起き上がって時計を確認する。9時丁度。休みに起きる時間としては丁度いいくらいかな。

「ねえ、それってこの星の基準時間と同じなの?」

 なんでそんなこと訊くんだろうか?

「たぶん違うんじゃないのかな、基準になっている所はロンドンなのかな、ほら今丁度オリンピックがやっている場所」

「オリンピック?」

 ああわからないのか、これがわからないのになんであんな起こし方の情報は手に入っているんだよ、と心中で愚痴っておく。

「昨日テレビで見ていた奴だよ」

「わかった! あの男の人同士が絡みあっていたのね」

「柔道だ!! あれはちゃんとしたスポーツだ! そういう言い方は変な誤解を生むので止めましょうね!」

 またもや驚かされた、柔道をそんな風に表現するなんて。

「オリンピックってのは簡単に言うと、4年に一度開かれるスポーツの国際大会だ」

「なるほど」

「わかっていただけなら幸いです」

 ホント一体どんな情報を手に入れたのか不安でしょうがないです。

「とりあえず朝ごはん食べるか?」

「うん!」

「じゃあ下行くぞ」

「うん!」

 そして階段を下りて台所に向かう。

「はい、本日一回目のコウキッチン開催します」

 駄目だまだ寝起きだからテンションが上がり切ってくれない。

「開催しまーす!」

 僕よりも全然元気なゆうあが復唱する。

「はい、朝食ということなので、あまり手の込んでいないものを作りたいと思います。ちなみにいつも手なんか込んでいないだろ、という苦情は一切受け付けません」

「受け付けません!」

 また僕よりも元気よく復唱。

「で、今回作るのがトーストと目玉焼きです。ザ・朝食って感じですね、日本の朝を象徴してくれますね」

「くれますね!」

 本当はご飯じゃないのか、とか突っ込んで欲しかったけどまあいいや。

「それではゆうあ君、パンを二切れ取って下さい」

「どうぞ」

「はい、どうもありがとう。これをオーブンに入れて適当な時間にメモリを合わせて過熱をする。これでトーストは出来上がります」

「出来上がります!」

 こういう風に復唱してくれるとやり易いな。特に今みたいに寝起きでテンションの低い時とか。

「はい、では今度は目玉焼きを作りたいと思うので、卵を二つ取って下さい」

「はい、どうぞ」

 手際よく冷蔵庫の中から卵を取り出して渡された。

「これをフライパンで加熱すれば完成となります」

「なります!」

 フライパンを取り出して、ガステーブルの上に置く。

「じゃあ助手君油を取って下さい」

「はい、わかりました」

 油を探し出す。

「先生、油ないですよ」

「ん? そこにあるじゃないか」

 僕の指差す先にはサラダ油。

「だってこれオリーブオイルじゃないんだもん」

「なんでオリーブオイルにこだわる」

「だってキッチンで使う油ってオリーブオイルだけじゃないいんですか?」

「あ、うん、そうですね、でもね、コウキッチンでは使わないから大丈夫だよ」

 どこぞの、もこみち(オリーブ )キッチンとは違いますから。やっぱり知識が変な方向に偏っている気がするんだよな。

「はい、では普通にサラダ油を引いて温まったら卵を落として、白身がある程度固まったら火を止めて皿に移して完成です。非常にお手軽ですね」

「はい、先生、ゆうあもやってみたい」

 これくらいなら誰でもできるか。

「はい、じゃあどうぞ。やり方はわかるか?」

「うん!」

 フライパンの前にゆうあが立つ。スイッチに手を掛け、押して点火、使った直後だからフライパンは温める必要がないので、油をすぐさま投入。

 今の所特に問題はないな。こうやって傍から人が料理をしている姿を見守るのってなんかすごいもどかしいんだな、二葉や光輝が飯をせびりに来る時は作る気ゼロでだから、こんなことは言いださないから、新鮮な気分だった。

 卵も綺麗に二つに割って落とす、そして白身が固まり始めた頃に火を止めて余熱だけで温めてから適度なタイミングで皿に移す。

「どうだ!」

「おお、完璧です。文句無しです」

 てっきり失敗すると思っていたので予想外でした。

 いつの間にか焼けていたパンも皿に乗っけてから居間に持っていて朝食を食べ始める。

 そして何のハプニングもなく朝食を食べ終える。

「さて、飯も食べ終えたことなんだし、ゆうあが昨日落ちてきた所に行くか?」

「うん」

「じゃあまず着替えないとな、着替えはとりあえず姉ちゃんのを使ってくれ」

「いいよ、そんなことしてくれなくてもゆうあの持っている服でいいよ」

「いや、それはできれば止めてくれ」

「なんで?」

「正直に言うと悪い方向に浮くからだ。あの恰好はここらへんじゃ奇抜すぎて目立つ」

「じゃあしょうがないから、こうきのお姉さんの服借りるね」

「そうしてもらえると助かります。じゃあニ階に来てくれ、適当に取っていいから」

「うん」

 それでニ階に上って姉さんの部屋に入る。

「どれにする?」

 女の子の服のことはさっぱりわかりません。

「好きに選んでいいの?」

「ああ、構わないぞ」

「うん、選ぶね」

「了解! じゃあ僕も着替えるから、着替え終えたら下に降りてきて」

「うん」

「それじゃあ後で」

「うん!」

 姉の部屋をでて自分の部屋に戻る。

 さて、何着ようかな、まあ何でもいいかいつも通り適当に、目を瞑ってこれとこれに決定。

 手に取ったのは青いTシャツに青という文字が赤色でプリントされたよくわからないシャツ、下は何の飾り気もジーンズ。まぁ妥当でしょう。

 なので下まで行って縁側で寝転がる。

「お待たせ!」

 閉じていた瞼を開く。

 最初に見えたのはゆうあの顔、寝転んでいる僕のことを覗きこんでいたからだ。

「おお、終わったのか」

 起き上がって胡坐をかいて座る。

「よく似合っているぞ」

 二葉にこういう時は褒めろって言われたからな。けれどお世辞抜きに似合っている。

 赤色のミニスカートに淡いピンク色のひらひらしたのが付いているトップス、上のほうのやつ姉さん持ってたんだ。着ている所見たことがない奴だった。

「着替え終わったみたいだし行くか」

「うん!」

 立ち上がり玄関に向かう。

 今度はちゃんと家の鍵を閉めないとな。家の鍵を持って外に出る。ちゃんと鍵を閉めてからあの丘に向けて歩き出す。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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