いくじなし
しばらく、俺は真里菜が消えて行った方を見ていた。
どうしたらいいんだ・・・俺、そう迷っているうちに真里菜が戻ってきた。
俺を見つけた真里菜は、立ち止まって俺の方をじっと見た。そして、口元に少し笑みを浮べ近づいてきた。
「待ってくれたの?」
真里菜の一言目に無言になる俺・・・なんて答えたらいいんだ。
「あ・・・ああ・・」
「そう・・・」
真里菜は俺の言葉を聞くと口元からの笑みは消えていた。その目は悲しげだった。
「帰ろうか」
「うん」
やがて俺達は黙って歩き出した。
何とか・・・しないと・・・焦る俺・・・
「そう言えば・・・何・・・忘れたの?」
ビクッとなる真里菜・・・
「あ・・・宿題よ・・・」
「宿題ってひょっとして、」
「そう・・ムロ先の」
「ああ・・ムロ先ねぇ~あいつ容赦ねぇからなぁ~」
歩きながら俺の方を見つめる真里菜・・・
「先生の言ってたことって本当なの?」
「ああ・・」
「本当なの?」
「俺がそのひどい目にあった一人だ」
「えっ~うそじゃないんだ・・」
「マジでやってないとまずいぞ」
「どうしよう・・」
そう言うと真里菜は立ち止まった。真里菜を見ると彼女は視線を下に向け不安な表情を浮かべていた。そして、その表情を見た俺も足を止めた。
「どうした・・・」
「だって・・・できないよ・・あんなむずかしい宿題・・」
俺とは視線を合わそうとしない真里菜、明らかにその目は泳いでいた。
「陽太のノート写したらいいんだよ。」
「そんなことできないよ・・・」
首を横に振る真里菜、どう見ても陽太には、仮を作りたくないらしい。弱ったなぁ~そう思いながら・・・仕方がない・・
「ちょっと遠回りだけど俺の家まで来るか?」
「えっ?」
「この間も来ただろう?」
俺は後悔した。それは目の前の真里菜が顔を真っ赤にして俯いていたからだった。
「あ・・・」
言葉を失った俺・・・この間って・・・キスしたんだそう思うと俺もだんだん顔が熱くなってきた。そして、しばらく、二人の間に沈黙が続いた。
ど・・・どうしたら・・・焦る俺・・・そうだ・・
「ま・・真里菜、ここで待ってろ。」
あっ・・と言う真里菜は声を上げ右手上げ俺に行くなというそぶりを見せたが、それを無視して俺は、家に向かって走っていった。ダッシュで家についた俺は、例のノートを探した。そして、それを手にして、真里菜が待っているところまで走っていった。
さっきの場所まで戻ると不安そうに一人俯いて待っていた真里菜・・・俺を見つけると少し表情が明るくなった。
「あきらさん・・」
く・・苦しい・・俺はゼエゼエ言いながら真里菜にノートを渡した。
「これ・・・」
そのノートをジーッと見ている真里菜・・
「問題はほとんど一緒だから写せばいいよ・・」
俺の言葉を聞いて、視線を上げた真里菜・・・俺の方と見つめていた。
息を切らせながら真里菜を見た俺・・・真里菜の口が少し動いた。
「あきらさん・・・ありがとう・・」
そう言って、再び真里菜はじっと俺のノートを見つめ、そのノートをぎゅっと胸に抱え込んだ。
目を潤まして俺の方をじっと見つめた。か・・かわいい・・俺はただ真里菜に見とれていた。そして、俺と視線が合うと真里菜は、嬉しそうに目を閉じ頷いて、俺を見つめ返し近づいてきた。やがて、真里菜は目を閉じた。その光景を見て、俺はただ戸惑った。
どうしたらいいんだ!!そう心で叫びつつ思わず
「ま・・真里菜・・じゃぁ・・・これで・・」
俺の声に目を大きく開けキョトンとする真里菜、その顔は真っ赤だった。そして、再び俯いてしまった。
「お・・俺帰るから・・・・」
真里菜は俯いたまま何も言わなかった。俺は真里菜を残し、家に向かった。
しばらくして、真里菜からメールが入ってきた。
いくじなし・・・