店名のない料理店で
街の喧騒から外れた裏路地には、迷い込んだ者にしか見つけられない店があるという。
そこは、人生の終わりを迎えた者だけが辿り着く場所。
差し出されるのは、絶品と噂される極上の肉料理。
しかし――その店を訪れる者が全員、哀れな「被害者」とは限らない。
『天命のない料理店』へ、ようこそ。
どうぞ、最後の晩餐をお楽しみください。
「こんなところに料理店があったかしら」
マユミは不気味な路地裏で灯る看板を見上げた。店名は『天命のない料理店』。妙な名だと思いつつ扉を開けると、黒服のシェフが出迎えた。「当店は、寿命という命の期限……すなわち『天命』をすべて使い切ったお客様だけが辿り着く特別なお店でございます」
不気味な冗談だと思いながらも、出された肉料理のあまりの美味さにマユミは舌鼓を打った。「美味しい! 私、寿命が延びちゃいそう」
シェフは静かに微笑んだ。「ええ、その通りです。天命のない方に他人の命を分け与え、延命していただくのが当店の趣旨。今夜の食材は、つい先ほどまでその席で食事を楽しんでいた『前のお客様』でございます」
マユミが絶句した瞬間、身体が金縛りのように動かなくなった。シェフは穏やかな声で続けた。
「そしてあなた様の天命も、たった今この料理を食べ終えたことで『ゼロ』になりました。……次のお客様をお迎えする準備を始めましょう」
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
「怪しい店に囚われる恐怖」から一転して「最悪の客がやってきた絶望」へとひっくり返る、立場逆転の恐怖を描いてみました。シェフの思惑を超えた『天命を奪う者』の登場、楽しんでいただけたでしょうか?
また次のお話でお会いしましょう。




