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3束目

「まったく何なのよ、もう!この山のようなポインセチア! 在庫の赤が目に刺さって、レジの赤字と混ざって見えるわよ!」

 一花が、店内の半分を埋め尽くさんばかりの赤い鉢植えを指して叫んだ。


「だってお姉ちゃん、今日はクリスマスイブだよ? 街中が赤を求めてるんだもん。これぞ『季節の正解』でしょ?」


「正解なのは売れてからよ! うちの今のキャッシュ、この鉢植えに全部化けてるんだからね! あと1時間で閉店だっていうのに……! 今日中に掃けなかったら、あんた明日からポインセチアの葉っぱをおかずにしてもらうわよ!」


それから三十分。結局、客足は途絶えたまま、店内の「赤」は一向に減る気配を見せない。一花がいよいよ最後の通告をしようと口を開きかけた、その時だった。


 カランコロンと、どこか重々しいドアベルの音がした。

 入ってきたのは、仕立てのいいコートに身を包んだ、恰幅のいい紳士だった。手には高級そうな革の鞄。見るからに「太っ腹な成金」……いや、成功した実業家といった風情だ。


「……すまん。今夜、長年連れ添った妻とディナーなんだが、毎年贈っているバラがどうしても手に入らなくてね。どこも予約でいっぱいだと言うんだ」  紳士は困り果てたように、店内の赤い山を見渡した。


「バラでなくてはなりませんか?」  

二葉が、一花の制止を振り切るようにして一歩前に出た。彼女は、ポインセチアの中でも一際深く、情熱的な赤を持つ一鉢を手に取る。


「ポインセチアの花言葉は『聖夜』。そして、その鮮やかな赤は『私の心は燃えている』という意味もあるんです。長年連れ添った奥様に、今さらバラなんて気取ったものではなく、『今も変わらず、君に夢中だ』という熱いメッセージを込めて、このポインセチアを贈るのはいかがでしょう?」

 二葉は、鉢を豪華なゴールドのラッピングペーパーで包み、深緑のリボンを魔法のように結びつけた。


「ほう……私の心は燃えている、か。……いいじゃないか。バラよりずっと、今の私の気恥ずかしい本音に近い」

紳士は満足そうに目を細めると、財布から厚い束を取り出した。

「これ、全部持っていこう。家の各部屋に飾る。ああ、この一鉢だけ持って行くが、残りは後でうちの者に車で取りに来させるから。……お釣りはいい。君のその『解釈』に、感動したからね」


「まいどあり!!」

一花のレジ打ちの指が、歓喜のダンスを踊った。


その後、約束通りにやってきた黒塗りのワゴン車へ、二人は協力してポインセチアの鉢を積み込んだ。あんなに店を圧迫していた赤い山が次々と運び出され、最後の一鉢が積み終わる頃には、店内は驚くほど広く、静かになっていた。


「……ふぅ。これで本当におしまい。完売御礼ね」 一花が額の汗を拭い、ようやくレジの集計ボタンを力強く押し下げた。


「二葉。あんたの『右脳』、たまには役に立つわね。ポインセチア、完売どころか、あの紳士のおかげで単価が三倍に跳ね上がったわ。今日の収支報告は……文句なし、今月最大の黒字よ!」

 一花はニヤリと勝利の笑みを浮かべ、二葉がパッと顔を輝かせた。


「やったぁ! じゃあお姉ちゃん、今日の夕飯、何にする?」

 一花はここでようやくエプロンを脱ぎ捨て、意気揚々と財布を掴んだ。

「今日は『ちくわ』の出番なんてないわよ! デパ地下の一番高い『ローストビーフ』。それから、トリュフ入りの贅沢なオードブルセットも買っちゃいましょう! もちろん、シャンパンも一番いいやつね!」

「やったー! さすが店長、太っ腹!」

 姉妹は、真っ赤なポインセチアがもたらした黄金の利益を胸に、賑わうクリスマスの街へと繰り出した。

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