第五幕:クソッタレな蜘蛛の教育
「私を? 気持ち良く? あいにく、君の知っている連中と一緒にされるだけで、気分が悪くなる。触るなーー」
とある屋敷の居間。暖炉が部屋を温かくしているのに、効果がなかった。
安楽椅子に座って指を忙しなく動かしている蜘蛛は、冷たさを保ったまま続けた。
「最低限の言葉と、足さえあればいいーー」そして、彼は近くに置いてある鈴を鳴らした。執事を呼んだんだ。
「はい、旦那さまーー」と彼は部屋に優雅に入ってきた。
灰色の短髪にふくよかな顔に眼鏡をつけた小柄な老人だった。
「彼の足を診てやってくれーー」と蜘蛛は命じた。
執事は医者としての知識を持っていた。オレは足を触られた。折られた方の足だ。腫れは引いたが、捻れてるあしだ。
「ああ、この足は治りませんな。一生このままでしょうな」
ーーオレは泣きたくなった。
「歩けるならいいさ。急ぐんなら、走らせるよりも、馬車を使わせればいいか」蜘蛛はオレに言い聞かせるというよりも、自分に言い聞かせているみたいだった。
「どうせ、字も書けない。教育もない。言葉も下品な単語しか覚えさせられてないんだろ。クソめ。手間をかけさせる」
ーー彼は執事にオレの教育を任せた。
その日から学ぶことが、オレの価値の証明になった。
オレ以外の子と一緒になって学んだ。
でも互いに言葉を交わす、なんてない。ーーそれは許されない。
そして、ルールは変わる。
ーー感じ取らなきゃいけなかった。
最も大事なのは、話す時と話さない時だ。
ただのおしゃべりは、消された。
ーーある日いないものとされた。
さて......文字を覚えて、悪くない事があった。ーー本が読めるようになった事だ。
お袋のことなんざ、屁とも思わない。
だけど、本は別だ。感謝してる。
本を読む、ーー読んでいるフリさえしてたら、評価された。
(こうして、第五幕はドンキホーテで幕を閉じる。)




