第四幕:クソッタレ!キレイを知った!
ロンドンの都の街道は昼だった。
太陽の下にでたオレたちは、場違いな気分を共有してた。
特にオレの目の前で歩く男ほど、昼間をうろつき回る違和感はーー場違いどころじゃない。
もしも許されたなら、「なんでここにいるの?巣に戻れ」と言いたかった。
人間のふりして歩く蜘蛛の化け物。
二本足で歩くことすら冒涜だった。
紳士服を着ているが、歩き方も節足動物だ。気持ちが悪い。
だけど、気にすることはなかった。
オレたちは闇に向かって歩いていた。
太陽は傾き、霧が濃くなっていく。
空はどんよりと不機嫌になり、周りは闇の世界を見せた。
「雨が降る前には、屋敷につく。
馬車に乗っても、良かったがねーー君を歩かせたかったーーふふふ」と彼は笑った。
変態だと分かっていたさ。
屋敷に入ると、オレはすぐに使用人たちに囲まれて、キレイに磨かれた。
「触るな!やめてくれ!」と叫んでも、ヤツらは、ヤツらはオレの身体を産まれたての赤ちゃんみたいにこすりあげた。
お湯も気持ちよかった。
でも、もう少し優しくしてほしかった。
服ももらえた。オレは何をされるか不安になった。
ここまでされて、何もされないなんて事はない。
オレは、オレは蜘蛛を睨んだ。
「あ、アンタは、オレに、何を、するんだ?何を、させたいんだ?」
そこは居心地のいい居間で、今まで見たことのない豪華な暖炉と家具が置かれてた。
絨毯もふわふわで、ここに四つん這いになっても、痛くない。
「オレ、オレは、こんなの知らなきゃ良かった!アンタは、オレを殺した!殺したんだ!!」
オレは知らずに、
自分の両腕を抱いていた。
涙も出てきそうになる。
息が出来なくなる。
だってそうだろ?
こんなの間違えてた。
神さまが現れて、
「ごめん、君の生まれてくる場所を間違えてた。ほんとは、ここが君の居場所だ。おかえり。ほんとの家にーー」
ーーなんて悪夢だ。
オレは、これからアソコに帰ったら自分で自分をーー始末しちまうんだ。
ヤツは黙って安楽椅子に座っていた。
「ーー別に」
オレは身震いした。
なぜかって?
ヤツはオレをいつでも切り捨てられるんだ。気に入らない事があれば、あのゴミタメに叩き返す。ーーまっぴらだ。
「それじゃ、困るーーオレはーー何をすれば?アンタを気持ちよくさせればいいのか?」
そして、オレは近くにある鏡を見た。
赤い髪は整えられ、金持ちの坊ちゃんの着そうな白シャツ、レースのフリフリまでついてた。ズボンはベージュで裾は膝のあたりまで。新品の靴下や黒い靴までももらえた。
何もかもが気持ち悪い。こんなのオレじゃなかった。
(こうして、第四幕は鏡によって幕を閉じる。)




