第三幕:蜘蛛とクソッタレ
薄汚れた住宅街でも、貧乏人しか集まらないところ。そこに金を持ったヤツらは求める、代用品ってところさ。
クソッタレがいつもいる居間。
ちっちゃな暖炉の火がもえて、
部屋を照らして温めていた。
一つしかないソファには立派な紳士が座っていて、窓からは太陽が覗いてた。
黒い髪した男。灰色の瞳は冷たく世界を見つめてた。とても痩せてて、とても手足が長い、鼻の尖った男だ。
どことなく爬虫類、それか蜘蛛を思わせた。ヤツの目はオレを不安にさせた。
「その少年を借りたい。ふふふ、彼が一日で稼ぐ金を私が払おう。それでいいね?」と彼が口を開いた。冷たい嘲笑が込められてて、落ち着かない気分になった。
彼は話している間、ずっと指を動かしていた。まるでアヤトリをしてる女の子だ。夢中になって、まわりに気づかない。
クソッタレは、額に汗を滲ませてた。ふだん強がってるくせに、客となると下手にでやがる。
「紳士さま!この子は私の愛する妻が置いていった子の一人。大事にして育ててる子です。客にも大切に扱ってもらってますしーー評判は悪くないです。へへへ。試してみるのもかまいまーー」
「その不愉快な口を閉じてくれるなら、もう少し支払いに色をつけてやる」と彼は不愉快そうに顔をしかめた。マズいものでも口にしたかのように。
だけど、すぐに元に戻った。
「私なら、この子を君よりも上手く扱える。君はこの子が逃げるたびに手足を折るわけにはいかないだろう?
君が損したと感じるなら、ふふふ、投資だと思いたまえ。これはビジネスだ。」
クソッタレは押し黙ってた。
でも、震えながら口答えをした。
「こういう時、倍だすとは言わないのですか、紳士さま?」
「そんなの現実的ではない、そうだね?ーー誰が、そんなに支払うんだい?夢を見すぎるなーー」
クソッタレはビビりまくって、うなだれた。
彼は立ち上がると、影が伸びるほど身長が増したように見えた。まるで蜘蛛が獲物に覆いかぶさる瞬間だ。指をあやとりのように動かしながら冷ややかに言う。
「それでいいね?」
クソッタレは額に汗を滲ませ、答えを探すように口角を震わせた。だが蜘蛛の横顔を見ているうちに、その小さな抵抗は潰えていった。やがて、呟くように「わかりました」と折れる声が出る。蜘蛛は満足そうに笑った。オレの胸の中で、何かが冷たく裂けた。
「よろしいーー」蜘蛛は満足そうに言って、オレの方を見たんだ。
正直、気持ちがいいものじゃない。
一生、慣れない。
直接の暴力とは別。まるで、見えない前脚で挟まれて、掴み上げられ、奥まで見られる感覚だ。どこも隠せない。
でも、舐められるのはイヤだった。
まだ痛い目に遭わせられてない。
舐められたままでいられるか。
ヤツは糸をたどって、獲物に近づくように、素早く近寄ってくる。
近づくたびに、どこかいい香りがした。それは紅茶の香りだった。今なら分かる。これはダージリンの香りだった。
無遠慮に、顔を近づけてきた。
身体がこわばるのが止められなかった。
しばらく、そのまま時間が流れた。
蜘蛛はニヤリと笑った。
「おめでとう。この子に倍、支払おう。むしろ、君が望むなら買い取っていいーー」
ーークソッタレの目が輝いた。
ーー地獄におちろ。
全員、堕ちてしまえ。
(こうして、第三幕は蜘蛛の笑顔で幕を閉じる。)




