【短編】寿命オークション
画家を夢見る青年・桐生は、才能に恵まれながらも日の目を見なかった。ある日、彼は噂を聞きつける。
「寿命オークション」
そこでは、己の寿命を対価に、望むものを手に入れられるという。
桐生は迷わず参加した。会場は異様な熱気に満ち、参加者たちは健康、才能、財宝と引き換えに寿命を賭けていた。桐生の目当ては「魔法の筆」。その筆で描いた絵は、見る者の心を掴み、時代を超えて愛されると噂されていた。
競り合いの末、桐生は30年の寿命を差し出し、ついに筆を手に入れた。帰宅後、彼は震える手でキャンバスに向かった。筆を握った瞬間、まるで命そのものが絵の具となり、鮮烈な色彩と魂を揺さぶる線が生まれた。初めて描いた作品は瞬く間に評判を呼び、彼は一躍有名画家となった。
しかし、評価されればされるほど、桐生の心は重くなった。これは本当に自分の才能なのか。普通の筆では、もう何も描けない。称賛の声が虚ろに響く中、彼は気づいた――自分は画家ではなく、筆の奴隷になってしまったのだと。
ある夜、桐生は最後の絵を描いた。砕け散る筆の絵、解放への願いを込めた作品だった。そして彼は魔法の筆を折り、画壇から姿を消した。
数年後、桐生は人知れず息を引き取った。享年28歳。誰も彼の死を知る者はいなかった。
そして今夜、あの寿命オークション会場。中央に掲げられたのは「消えた伝説の画家」桐生の最後の作品。砕ける筆の絵は、まるで彼の魂の叫びのように輝いていた。競り合いは白熱し、記録的な寿命で落札された。拍手喝采の観客たちは知る由もなかった――この美しい絵が、次の犠牲者への招待状だということを。