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門灯

 門灯は8時に消す習慣がついている。

 その日も確かにルーティンの消灯をした。その晩はなぜかひどい眠気があり、毎晩楽しみにしているウィスキーのロックも一杯飲んでもう寝ることにした。何を見ていたか覚えていないが夢見が悪かった気がする。そのせいか、意識が覚えて何度も寝返りを打ってあの眠気のままに深い眠りにつくことを願った。

ようやくうつらうつらとしていた時、外で物音がする気がした。もう真夜中になっている。自動車はもう通るなんてのは珍しいほどだ。物音はそう。歩くリズムの音だと思った。不揃いなテンポだったが、歩く音が一番納得できた。それにしては良く聞こえる。何が響く履物で履いているのだろうか。スパイク付きのスポーツのシューズの鋭利さではない。カランコロンと言ったような音。何だろう。例えるとした。ああ、アニメで見たことがあるのだ。下駄だ。下駄の足音が家の前まで、そうちょうど門灯の前まで来て止まった。なんだか、動悸がしてきて落ち着かない。布団をかぶって、がっちり目をつぶって気のせいと何度も繰り返した。直後眠りに落ちた。次に目が覚めたのは三時間が経った頃だった。白い外が淡く広がっていた。尿意があった。こらえきれないほどの。意を決して布団から出た。寝室のドア閉め、内玄関を横切ろうとしてふと何か明るいことに気が付いた。目が悪いので近づくと門灯が点いているのが若田。門灯のスイッチもオンになっていた。昨晩確かに消したはずなのに。急に下駄の音が聞こえた気がしたことを思い出して。スイッチをオフにすると、そそくさとトイレをすまし、また布団に潜った。ほどなくしてまた寝入り、アラームと共に起床した。  

 朝食時、両親に話しをしてみた。就寝前の歯磨きの時、確かに門灯は消えていたと証言をしてくれた。遅れて居間に来た妹にも話しをした。「朝から奇怪な話しないでよ」とふてくされて母が作った朝食を進めた。ただ、両親も下駄の音は聞いていなかった。妹曰く、奇怪なこと。例えば、一杯のウィスキーに眠気で酔ってしまってふらりとしてしまった拍子に門灯をつけてしまった、なんていう記憶がない以上、可能性として排除することもできなかった。が、あの下駄のような音は何だったのだろう。

 出勤しほどなくしてメールが来た。小中高とつるんでいた悪友の一人が昨晩遅く事故にあったとのことだった。下駄の音を聞いたのは彼が病院で緊急手術を受けていた頃だった。彼は意識不明が一週間ほど続いたが、どうにか回復した。そこでお見舞に行くことにした。

「災難だったな」

「ああ、やばかったよ」

「でも回復してなによりだ」

 彼はまだ全快ではないので、ゆっくりと口を動かしていた。

「そういや、三途の川を見たよ」

 ニヤリとする余裕がどこにあるのだろうか。

「今はいいって、そういうの。早く退院できるよう大人しくしてろよ」

「そういうなよ。そういや、お前の家の玄関も見たような気がする」

 彼の言葉に、どう答えることもできなかった。

「退院祝いで飲むのを待ってるからな」

 どうにか出てきたのはそんなとりとめのないことだった。私は鳥肌の立っていることを彼に知られないように、早々に病室を出た。


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