眠りの神・ネムの物語
買ったアボカドが不味すぎた悲しみで、なぜか神話が出来ました
かつて、神が言葉や光を生み出した頃、「眠り」は專ら、神・ネムのものでした。
ネムは燦々と降り続く陽射しの中、日がな一日眠って過ごしました。
他の神々は「ほら、あいつをご覧。なんという怠け者なのだろう。」などと嘲りましたが、ネムはどこ吹く風。
まんまるに丸まって、あたたかい太陽の中で微睡むのでした。
だって、眠いものは眠いのだから。
言い返すより、少しでも長く、深く、気持ちよく眠ることのほうがネムにはずっと大切でした。
そんなネムも一応は神でしたし、何より世界中のどんな生き物よりも可愛らしかったので、人々は38あるうちの一つの月をネムの為の月とし、歌い踊り、たくさんの生贄を捧げ、祀り上げたのでした。
ネムはその月だけは時折目覚め、人々と共に「ネムの月」を楽しみました。ネムは溶けかけのバターのように柔らかなアボカドと、舌が蕩けそうに甘く、酒神さえも一口で酔い潰す、最上級の蜂蜜酒を大層好んだので、人々はそれらを盛大に献じました。
しかしある年のこと。
長い長い眠りから醒めたネムは、眠気眼でアボカドを食べました。
なんだこれは!!
ネムは悶絶しました。
硬い。硬すぎる!苦い!!青臭い!!!
目利きの未熟な若者が、うっかり硬いアボカドをネムに捧げてしまったのです。
青臭く苦い口内を、一刻も早く洗い流してしまいたい!!
ネムは川を一つと湖を三つ、飲み干しました。
それでもネムは足りません。
ネムはお気に入りのナイフで太陽を2つに切り裂き、半分を食べました。
すると、なんということでしょう。
地球は初めて、真っ暗闇に包まれました。
世界は太陽の半分を永久に失ったのです。
しかしその代わりに、世界には夜が生まれました。
ネムの口に残った未熟なアボカドの苦味は、太陽に熱され甘く柔らかく変化して、ネムはようやく満足しました。
ネムはカックン、カックンと奇妙に痙攣し、何か丸いものを吐き出しました。
それは、静謐に輝く丸い光の玉でした。
光の玉はゆっくりと天まで浮かび、真っ暗な空を柔らかく照らしました。
人々はそれを「月」と呼びました。
それでもネムは、カックン、カックン、
また何かを吐き出しました。
それは今までネムが独り占めしていた「眠り」の半分でした。
こうして、人々は夜と月と、そして眠りを手に入れ、夜には眠るようになったのでした。
ちゃんちゃん!
お察しの通り、ネムは猫神です。
超おおきい猫です。
ご利益は特にありません。
かわいいだけ。