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「お、行けた」


「わ!急にどうした?忘れ物でもしたか?」


部屋に『転移』したら寝っ転がって本を読んでいた魔王ちゃんがベッドの上から飛び上がった。だらけすぎでしょ…


なんかあれだ。保護猫がようやくへそ天したみたいな謎の達成感がある。


魔王ちゃんは完全に気を許したのか、俺の部屋に入り浸るようになっていた。本人は「あくまで監視だ」と言い張っているが、流石に無理がある。


「『転移』が進化したんだよ。地図なしで『転移』できるようになった」


「おー!やるじゃないか。お祝いだな」


俺の成長を我がことのように喜んでくれる魔王ちゃん。やっぱこの幼い感じが素なのかね。かわいい。


「じゃあ俺帰省するから」


「む…?」


何言ってんだコイツみたいな顔をしているが、別におかしなことではないだろ。


地図がなくても『転移』できるってことはつまり、もとの世界に『転移』できるようになったってわけだ。


何か悪いな、数々のキャラクターが必死こいて探し求めたりする帰還の手段を特に思い入れも執着もない俺があっさり手にしちゃって。


マァ、せっかく行けるようになったんだから帰るけど。ゲームしに行こ。漫画はどこまで進んでんだろな。


「帰る、とは、お前のもといた世界に帰るということか…?」


「それ以外なくない?」


「…!?ま、待て!戦争はどうする気だ!役割を放棄する気か?」


あぁ、気が抜けててもそこは忘れてないんだ。良かった、これで気持ち良く見送ってきたらどうしようかと思った。


「一時的な帰省だよ。もうこっちに帰ってこないわけじゃない」


こっちでやりたいこともやってないのに、中途半端すぎるでしょ。少なくともこの世界に戻ってくるつもりではあるよ。


「そうか、なら良い、のだが…その、」


魔王ちゃんがそわそわし出した。


「…魔王ちゃんも来る?」


「…!良いのか?」


俺は良いけど…向こうの世界ではスキル使えなくなる可能性もあるんだけど、魔王ちゃんは分かってるのかね。


別にいっか、じゃあ手繋いでっと。


「わっ、そんな急に…!」


そういや俺らって失踪扱いなんかな。それとも記憶消去系?死んでたりして。


マァ、どれにしろ家に直接『転移』は不味いな。昔旅行したとこに飛ぶか。


「じゃ、行くよー」


てなわけでやって参りました、久しぶりの日本。


「暗いが…昼か?」


「うん、路地裏に飛んだからね」


いきなり人間がテレポートしてくるなんて、見付かったら大騒ぎだ。マァ路地裏にも人がいる可能性はあったけど、目撃者が少なかったら最悪海か異世界の方に『転移』させたら良いし。


とりあえず、こっちでもスキル使えるかチェック…うん、俺の家からパーカーを『転移』できたな。


「はい、じゃあその服装目立つからこれ着て」


「貴様は良いのか?」


「あー、制服だし良いかと思ったけど、今平日の真っ昼間か…補導されるかな…」


めんどいし着替えとくか。テキトーにTシャツにジーパンで良いや。


「なんだか…イメージが変わるな」


「どういうイメージ?」


「曲がりなりにもマトモそうだったのが、途端にだらしなくなった」


「だるだるのパーカー着てる魔王ちゃんに言われたくなーい」


「貴様が着ろと言ったんだろうが」


魔王ちゃんが元々着てた黒を基調としたフリフリのお洋服はいわゆるゴスロリってヤツで、そこに俺の着古したパーカーを着てるもんだから違和感がすごい。これ逆に目立つか?


何はともあれ気温が涼しくて良かったね。夏だったら魔王ちゃん死んでたよ。


「じゃ、どっかカフェ入ってケーキでも食べ行く?」


せっかく魔王ちゃんも付いてきたから、ゲームと漫画は後で良いか。


「軽いな」


「そう?」


「念願の故郷だろう」


「実は念願ってほどでもないからね…」


そんな時間も経ってないし。帰ってこれた分、長めの旅行ぐらいの感覚。


「あ、お金の心配はしなくて良いよ。俺が出すから」


「う、確かに異世界の金銭は持っていないが…これではお祝いにならないではないか」


「あは、そんなこと気にしてたの?いーのいーの、かわいい女の子が一緒にケーキ食べてくれるだけでお祝いだよ」


「かわっ…!?う、その、あまり褒めるな、照れる…」


軽薄な、って怒らないんだね。もうちょい距離詰めても大丈夫かな?


もじもじしてる魔王ちゃんの手を繋いで、カフェに向かう。


「あ、」


わお、耳まで真っ赤。耐性ないね~。


着いたから手を離すと、名残惜しそうに視線を漂わせる。しょうがないなぁ、席に着くまでは握っててあげよう。


「食べたい物好きに選びなよ」


「写真付きのメニュー表か…これは良いな。我が国にも取り入れたい」


「魔王のお仕事ってそんなんもあるの?」


「いや、そういうわけでは…、………」


魔王ちゃんの表情に影が差す。これまた分っかりやすいねぇ。荒療治行っちゃうか。


「そういえば、魔王ちゃんがお仕事してるとこ見たことないな」


「っ…」


「いつも会うときは俺の部屋だもんねぇ。どんな仕事してるの?」


「…王としての仕事のほとんどは、父の代からの重鎮が回している」


あー、やっぱり。


その後長々と続いた魔王ちゃんの話をまとめると、


・魔王ちゃんは元々跡継ぎじゃなかった


・でも次期魔王だった一番目のお兄さんとその補佐になる予定だった二番目のお兄さんも父親と一緒に勇者に殺された


・血筋的にも強さ的にも魔王になれるのは魔王ちゃんしかいなくて、でもそういったことは兄に任せて自身はスキルの研究ばっかしてたから統治の仕方なんて分からない


・政務を勉強していってはいるものの、経験が必要な部分は任せてもらえず、当初期待されていた戦力的にも勇者の前では無力


・そのため、現在は微妙な立場に置かれている


「何かごめん」


「いや、事実なのだから仕方あるまい。現状の私は最早、玉座に座っているだけのただの小娘だ。さぞ扱いづらかろうよ」


まぁでも、ちょろいなりの理由があったのね、理解理解。王としての教育を施された上であのちょろさだったらお父上が草葉の陰で泣いてるよ。


「貴様には…感謝しているのだ。私が心を許せる家族は皆死んでしまった。友もいない。だから、気兼ねなく──貴様のは無遠慮と言う方が近いが、そういう風に接してくれるのは初めてだ」


魔王ちゃんは明るい笑顔を見せる。


「ありがとう、私の友になってくれて」


「こちらこそありがとう」


俺を友達だと認めてくれて。

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