三
「陛下!自分はこの者を信用できません!」
俺の扱いとこれからの作戦を決める会議的なのに引っ張り出され、魔王ちゃんの対面に座らされた。それを見て、俺がどっかに飛ばしていたのを戻してあげた配下くんが吠える。
「城に侵入し、軍の者を死の極寒地帯に飛ばした挙げ句、我らを脅迫した人物!しかも勇者ですよ!」
「…信用と利用は別だ。彼が我が軍にとって有用なのは、お前も身に染みているだろう」
「…ッ!」
不承不承といった感じで引き下がる部下くん。すまんね、俺がチート勇者なばかりに。
「他に異議のある者はいるか?いないのであれば、会議を始めよう。議題は王国への進攻についてだ」
「やはり、勇者が力を付ける前に攻め込むべきでしょう」
「待て、そこの勇者殿に壊滅させられかけたのをもう忘れたか?慎重になるべきだ」
「慎重になったところでこちらにこれ以上の軍拡の当てはないだろう!一気に片を付けにいかねば我々に未来はない!」
「我らを破滅へと向かわせているのは貴様らだろう!考えなしの策は徒に兵を消耗させるだけだとなぜ分からん!!」
「何だと!?」
魔王ちゃんをほったらかしにしていかにもお偉いさんってヤツらが騒いでる。良いねー、こういうのも好きよ俺。
「貴様はどう思う」
成り行き任せでニコニコしてたら魔王ちゃんに話を振られた。えー?男子高校生に作戦立案は荷が重いよー。
「言うことがあるとしたら、俺の『転移』には距離も重量も制限がないことかな。兵站の心配はなくなるよ。良かったね~」
会議室がざわめいた。お偉いさん方から見てもやっぱこれチートだよなぁ。
「な、ならば!あなたが王国一帯に爆弾を『転移』させれば…!」
「おお!そうか!」
「その手があった!」
絨毯爆撃かぁ…
「ダメ」
シンと静まり返る。警戒と疑念ってとこかな。こういう一言で注目を集めるやつ憧れだったんだよねぇ。夢が叶った!
「ダメだよ、ダメだ!そんなことしちゃあ面白くないだろ!?俺が見たいのは絶望顔!勇者が寝返った絶望!かつての学友が殺しに来るという絶望!強大な力の象徴である勇者が敵側にいる不安だとかそれでも他にも勇者はいるのだという慢心だとか!クラスメイトが裏切って敵対してその上で俺を殺さなきゃいけない葛藤だとか俺に殺される恐怖だとか!そういうのをひっくるめて俺は愛してるんだよ!!それが生きがいなんだから!!俺の生きがいを奪うなよ!!!」
ア!魔王ちゃんに配下くん、それにお偉いさん方みんなドン引き顔だぁ!おもしろーい!キャッキャ!
「俺が君たちに協力するのは"面白いから"なんだから、もうちょっと考えて発言してよ」
「…相分かった。肝に命じる」
おお、物分かりが良い。魔王ちゃんって適応力あるよな~。
「ちな、王城の間取り図持ってるよ俺」
「は?」
世界地図と一緒にパチって来ちゃった。
「あと、俺にできるのは~…『転移』で勇者の分断かな。後はハメ方も教えたげるよ。例えば『不老不死』は火山の火口にでも叩き落とすのが最適、とか。マァ、直接『転移』はさせたらつまんないから、近場に送ってあげるだけだけど」
「『不老不死』だと…!?そんな能力者がいるのか…!?」
「どいつもこいつも興奮してスキル見せびらかしまくってたからね。全員分把握してるよ。全く、危機管理がなってないね!」
マァあの盛り上がってる雰囲気に水を差すのは無理ゲーか。俺はクラスで陰キャの空気やってたから何も聞かれなかったけど。
「それと、分断前のネタバラシは絶対やりたい!彼らには俺の目の前で絶望してくれないと困る!どうせ人殺す覚悟もできてないだろうし、そんくらいの舐めプは許容範囲内でしょ」
「貴様が異常なだけだろう…」
「貴殿の話は楽観論でしかない。人を殺す覚悟ができている者がいたらどうするのです」
「そんときはそんとき、大人しく死ぬよ。マ、死ぬ前に『転移』の力はちゃんと使うからさ。後は勝手にやって」
って感じで、俺が飽きたから会議は終了した。細かい詰めは後日やって、作戦決行までは自由にしてて良いんだとさ。いえ~い、いっぱい遊ぼ。