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バンヤルーベン王国とは違い贅をこらされた玉座に、一人の少女が座っていた。可憐さと美しさを兼ね備えたその少女の胸中は、きっと不安に包まれていることだろう。


じゃ、緊張解してあげよか。


「ちわー、勇者でーす」


「──ッッ!?」


背後から話し掛けてあげると、少女は猫のようなしなやかさで玉座から飛び上がり、俺から距離を取る。


「あはは、ゴキが出たときの反応するじゃん。傷付くわー」


「貴様、何者だっ!!」


「言っただろ?勇者だよ」


「…クソ、成功したのか。勇者召喚に」


「うん、昨日ね」


「──は…?」


敵が目の前にいるにもかかわらず呆ける魔王様。かわいいな、愚かで。


「たわけたことを言うな!ここまで侵入できる者が、昨日にスキルを手に入れたと…!?」


「でも、今日の今日まで勇者が現れたって報告は来なかったろ?まさかスパイを送り込んでないなんてこともあるまいし」


「…!?どこまで、知って…!?」


カマ掛けに弱いんだなぁ、この魔王様。魔王ちゃんって感じ。


とりあえず、魔王ちゃんの問い掛けは無視して言いたいこと言っちゃおう。


「気になったんだよ、俺たちが召喚されたときのあの喜びよう」


「…は?」


「最初はうちの世界にありがちな"勇者召喚を利用して国に都合の良いように動かす"系だと思ったんだよ。でもまぁ、これはないと見て良い。王国が見るからに貧しそうだったんだよなぁ。本当に後がないんだな~感?それに俺らの歓待は欠かさないくせに、身分が上にいくほど最低限の…国の威厳を保てる程度の金遣いでさ。根の良い人さが透けてた。演技だったらなんとなく分かるから、あれは演技じゃない」


一日ちょっと王城で過ごしただけで善良の権化みたいな精神が伝わってきた。あれは一朝一夕で身に付くもんじゃないぜ。


「次は、"魔王がクソ強くて勝ち目がないと分かっていても、王国を少しでも延命させるために勇者を召喚して生け贄にしようとしてる説"」


創作としてはあんまないパターンだが、まぁ現実としてはなくもない。捨て駒なんてなるべく自国から遠いところから用意したいだろうし、それが別世界の人間ともなれば最良だろ。


「だが、バンヤルーベン王国の歴史を知って、どうも違いそうだと気付いた」


見たいって言ったら文献をアホほど用意してくれた。しかも、やたらめったら持ってくるんじゃなくて、ちゃんと要点を整理した上で順序立てて。ここら辺の誠実さからもう王国は白としか思えないんだよな。


「歴代勇者は勝利してた。だから歴史がある。飽きるほどの重厚な歴史がな。俺がこの国出身だったら、歴史の授業やりたくないね」


文献には勇者たちの名前と、スキルを明かしていた場合はその詳細まで記されてあった。


「それに、歴代勇者は一人か二人、多くても三人だった。それが一気に四十人だぜ?そりゃ勝ちを確信するだろ」


しかも、人数が増えたからって力が分散して弱くなるなんて記述もなかった。


「…やつらが勝てない戦に挑ませるため、文書を改竄した可能性だってあるだろう」


「そうかもな。でも、現に俺は単騎でここまで来れた」


「それが…っ!一番理解不能なのだ!!勇者スキルがあるからと言って、易々と下される配下たちではないぞ!?まだレベルも低いだろうに、なぜここまで…!?」


「それって手段の方を聞いてる?動機の方を聞いてる?」


「両方だ!」


「手段なら簡単だよ。俺のスキルは『転移』で、地図を指し示せばどこにでも瞬間移動できる。それで魔王城までひとっ飛びして来て、逆にここに来るまでに邪魔してきた配下?は何か知らん辺境に飛ばしといた」


「なっ…!」


愕然としてんね。マァ、そらそうか。あまりにもチートすぎる。初期でこれなら成長したらどうなるんだよって話だ。


「…では、動機は?」


「だって、気になるじゃん」


「は…?」


「気になったんだよ、本当に俺の考えが正しいのか。だから来ちゃった♡」


もし、魔王が誰にも打ち倒せない最強無敵の化け物なら、俺がノコノコ『転移』してきた瞬間にぶっ殺されるだろうし。俺が今生きてるってことは、"勇者"という存在そのものが魔王にとって驚異で、警戒すべき者ってわけだ。


「本当に、本当に、それだけのことで…?」


それだけとは失礼な。好奇心って大事だぜ?好奇心は猫をも殺すけど、好奇心なくしてヒトじゃなし!


「まだ自分の能力も十分に把握していなかったのだろう!?死んだらどうする気だ!!?」


「俺が死んだらそこまでだったってだけだろ?」


「な、にを…」


あーこれこれ!この「こいつイカれてる!」って顔が二番目に好きなんだよ!一番好きなのは絶望顔な。


「で、逆にさぁ、魔王ちゃんは何で人類ぶっ殺してるわけ?」


「…なぜ、そんなことを聞く」


「気になるじゃん!人類側の事情は大体分かったからさ、今度は魔族側の事情が知りたいなって」


「…」


「君も部下たちみたいになりたい?」


「…っ!分かった、言う、言うから」


躊躇っていた魔王ちゃんは、俺が脅してようやく重々しく口を開いた。


「…私の父上は、勇者どもに殺された」


「そういや先代勇者の記録にあったね。じゃあ、親の仇的な?」


「端的に言えば、そうだ。…分かっている。先に同盟を裏切り、侵攻を始めたのは父上だ。向こうの事情も、心情も、信念も、理解はできる」


そこで区切って、俯いていた魔王ちゃんは俺の目を真っ直ぐ見た。



「だがな、理解と納得は別だ」



きれいな目だなぁ。


「私は父を尊敬していた、愛していた。そんな父が殺された。なれば、殺し返すしかあるまいよ」


過去の愛情と今の憎悪に彩られた目は、人生でトップ10に入るくらい好きだった。


じゃあ、そうしよう。


「良し、協力してあげるよ!」


「…何?」


「クラスメイトと、ついでに王国の人間!ブチ殺すの一緒にやってあげるって言ってんの」



「……………は?」

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