表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
95/111

94. 市木くんのお引っ越し

その翌日の月曜日。

午後になりある程度時間が空いたのを見て、木南は市木と共に、内科部長に土曜に起こったことを相談することにした。

「なんてこった........」

部長先生は、頭を抱えてしまう。

それもそうだろう、研修医がとんでもない問題を起こしたんだから。

それを受けて病院側が牧を呼び出し、聞き取りをしたところ、やはり職員名簿の不要な閲覧があったようだ。


しかし、その情報を流出させるのではなく、個人的に使用したということで、減給6か月の処分となった。さらに牧が処分されたことは、病院内でも上層部のみに留められていた。その後、牧は、内科部長の勧めで心療内科を受診し「うつ病」と診断され、1年間休職することになった。

牧が1年後に復職する頃には、木南も市木も、専攻医となりこの病院から異動する予定だ。

牧が本当に「うつ病」なのかどうか、いまとなっては誰もわからない。


それから約2週間が経過した。

牧の問題が片付いて、仕事に集中できると思ったのも束の間、木南は別の問題に頭を悩ませていた。

「木南せんせ。彼女と同棲中ってホントですか?」

「写真あるなら見せてくださいよー」

ナースステーションの裏にある、薬剤などを置いている部屋に入ると、数人の看護師に囲まれた。

牧の件で部長先生に話した「彼女と同棲中」というのを、牧の処分を決める会議の際に看護部長が聞いていて、そこから一気に看護師の間で広まったようだ。

(おいっ、個人情報はどこいった⁉)

そう思いたいのは山々だが、個人情報とはあくまでも「特定の個人が識別できる情報」であるため、木南の彼女という情報は個人情報にはならない。


しかし木南は、ここでこの看護師たちに負けていたら、また深尋を傷つけかねないと思い、勇気を出してスマホを手に取る。

「いいですよ写真。見ますか?」

そして木南は、本当に深尋の1ショットの写真をスマホの画面に出し、看護師たちに見せる。その写真は、前の年のライブ終了後に、いつもの通り楽屋に行って撮った1枚だ。衣装が可愛くて似合っていたので撮らせてもらった、木南のお気に入りの写真だ。

「.....え?先生、この人って......」

「あ、なんだっけ......そうそう!buddyっていうグループの!」

「ああー!フワフワしてかわいい子だよね」

看護師たちに深尋を可愛いと言われ、木南が満足していると、次にとんでもないことを言ってきた。


「でも木南先生、それは彼女じゃなくてファンっていうんです」

「もう~~っ!そんな芸能人の写真より、本物の彼女の写真を見せてくださいっ!」

(だから、お望み通り見せましたけど⁉)

決して口には出さず、木南は笑顔を引きつらせている。

すると、その看護師の後ろで薬剤の準備をしていた芽衣が、肩を震わせて笑いをこらえているのが見えた。

それをじっと木南が見ていると、芽衣とバチッと目が合う。

(芽衣ちゃん.....君の彼氏もバラすよ?)

(わたしは関係ないよね、木南くん.....)

なぜか2人は目だけで会話が成り立っていた。


「おつかれさま~。木南先生、もう終わり?」

隣の病棟からやってきたのは、いま最も来てほしくない市木だ。

「あっ、市木先生!木南先生と友達なんですよね⁉木南先生の彼女ってどんな人ですか⁉」

「え⁉木南の彼女⁉......えぇ~っと.....」

木南は市木に目配せして、スマホの画面を見せる。

それを見た市木は、すぐさま、

「あっ、そうそうこの子!深尋ちゃん!」

と、名前まで呼んでくれた。もうこれで引いてくれるだろうと思ったが、

「ほんっと、市木先生までそんなことばっかり言って」

「嘘をつくならもっとマシな嘘をついてくださいっ!」

「今度こそ本物の写真、見せてくださいねっ!」

そう言って、看護師たちはプリプリと怒りながら出ていった。

部屋に残ったのは、木南と市木と、黙々と作業している芽衣だけだ。


「芽衣ちゃんひどいよね。笑ってないで助けてよ」

「木南、全然信用してくれなかったな」

「だって、わたしが入ったらおかしいでしょう?」

「でもさ、芽衣ちゃんが番犬くんの写真見せても、同じ反応かな?」

「今度試してみる?」

「や、やめてよ!わかった、今度からフォローするから...」

「でもさ木南、いませっかく人生最高のモテ期到来中だし、ちょっとくらいおイタしても......」

「はぁ?(怒)」

「デビルマン、深尋ちゃんにチクるわよ」

「ああっ、ごめんなさいっ!最近やっと許してもらえたのにっ!」

「デビルマン、これ以上自慢の資産を減らされたくなかったら、下手なことは言わない方がいいぞ」

「ううっ、ごめんなさい......」

デビルマン改め市木が深尋にした謝罪の数々は、市木の資産にダメージを与えたらしく、市木は今後数年間は逆らえなくなっていた。

一体何をしたのかは想像にお任せする。


そして季節は少し進み、3月中旬。

市木が本当に、僚と明日香が住むマンションに引っ越してくることが決まった。しかも、同じ25階の3つ隣の部屋だ。

「他の階も空いているだろ⁉なんで25階なんだ!」

と、僚に言われていたが、市木は僚のことが大好きだからしょうがない。

木南は、こっちに来なくてよかったと、ホッと胸を撫で下ろす。


そんなことを言いながらも、やっぱり友達。忙しい合間を縫って、市木の引越しの手伝いをすることになった。

僚、隼斗、市木で、市木の実家に行き、荷物を車に乗せる。

家具や家電は新しく全部揃えたものを誠、竣亮、木南で設置していく。家具は、組み立てサービスを利用したので、ゴミもなく楽ちんだった。

軽いものは明日香、深尋、美里、芽衣、葉月の女性たちですることにした。

しかし、人気グループのbuddyを引っ越しに使うとは、なんとも贅沢な男だ。


市木たちが戻ってくる頃には、家の中も普通に生活できるように整えられていて、あとは市木が書斎として使う部屋に、自宅から持ってきたパソコンを設置したり、医学書や参考書などの本を並べるくらいだった。

「いやぁ、みんな助かったよ~。こんなに短時間で終わるとは思わなかったぁ。ありがとう」

そう言って、市木はみんなに大量のピザやポテトフライなどを振舞った。

でも、明日香がこんなジャンクなものばかりはダメと言って、自宅で野菜サラダを作って持ってきた。

「でもさ市木くん。鍋とかフライパンとか、調理器具が一切ないんだけど、明日にでも買いに行くの?」

キッチンを整理しようと荷物を見たら、お皿が数枚とグラスが2個、マグカップ1個という、いくら一人暮らしでもあまりの少なさに驚いて、明日香は市木に聞いてみた。


「え?だって俺、料理できないし。というか、したことない」

「!!!!!!!」

あまりにも当たり前に言うので、全員言葉が出てこなかった。

そして、僚が恐る恐る聞いてみる。

「お前さ、普段の食事はどうするつもりだ?」

「まあ、なんか、適当にしたらいいかなって......」

「市木くん、野菜嫌い克服できてないでしょ?」

「ゔっ........」

明日香は市木の野菜嫌いを知っている。だから今日も、野菜サラダを作ってきたのだ。そして、畳みかけるように僚も市木に言い放つ。

「今までは家政婦さんたちに甘やかされて、好きなものばっか食べてきたんだろうけど、1人で暮らすんだから、食事の用意も全部自分でしないといけないの、わかってるよな?」

「それに、偏った食事をして体を壊すと、それこそ医者の不養生って言われるのよ?それでもいいの?」

僚と明日香が市木に詰め寄っている姿を見て、他のメンバーは、まるで2人の子供を叱っているようにしか見えないなと、思ったのは内緒だ。


するとそこに、救世主が現れた。

「市木くん、竣亮くんにお料理を教えてもらったらいいじゃない」

葉月がパンっと手を叩き、嬉しそうに提案してきた。

「.......え?僕......?」

突然指名された竣亮は、びっくりしている。

「だって、竣亮くんのお料理は美味しいし、無駄がないし、経済的だわ。何よりわたし......竣亮くんのご飯じゃないと、何を食べても味がしないのっ!」

((........なんだ。ただの惚気か))

全員一致でそう思った。


竣亮に胃袋を掴まれている葉月は、もうすっかり(竣亮が作る料理に)ハマってしまっていた。

そして、葉月はなぜか市木の肩に手をポンと置いて、最後の演説をする。

「市木くん、女が男の胃袋を掴む時代はもう終わったのよ。これからは、男が女の胃袋を掴むのよ!お料理を勉強すれば、あなたにもきっと、いいご縁があるわっ!私を信じてっ!」

葉月にそう言われた市木には、葉月の後ろから後光が差しているように、キラキラと光って見えていた。

「は....葉月さん....いえ、葉月様っ!わかりましたっ、俺、頑張ってお料理をマスターして、未来のお嫁さんの胃袋を掴めるようになりますっ!」

「ええ、ええ、あなたならできるわ......」

「はいっ‼」

ここにきて、市木と葉月という謎のペアに、竣亮という生贄が捧げられ、料理レッスンを行うことになった。


隼斗「なにこれ?新たな宗教か?」

深尋「葉月教でしょ」

 誠「入信したら抜け出せそうにないな」

美里「今のところ犠牲者は竣亮くん1人だけど......」

芽衣「これ以上増えたらヤバいよ」

明日香「とりあえずここは、市木くんのためにも竣亮に頑張ってもらおう」

 僚「木南、臨床心理士って催眠術も出来るのか?」

木南「そんな話聞いたことないよ」

他のメンバーがそんな話をしている間にも、葉月教の計画は進行していて、市木は翌日、早速、調理器具を買いに行くことにした。


そうやって、久しぶりに全員集合して楽しんでいた。その時、

「うぅっ......気持ち.....わるっ.....」

そう言って美里が両手で口を押え、トイレに駆け込んでいく。

「えぇ⁉美里ちゃんっ、大丈夫⁉」

深尋が言っている間に、何かに感づいた市木と木南、そして芽衣は、すぐそのあとを追う。誠も心配で3人の後を追った。

残された6人は心配でどうするべきかわからず、だたオロオロするだけだった。


トイレでは美里がえづいていて、それを芽衣が介抱している。

それがやっと治まって落ち着くと、市木が誠と美里、そして木南と芽衣を書斎に案内する。

「美里ちゃん、誠、これから質問することは、医者として質問するから、恥ずかしがらずに正直に答えてね」

市木は2人にそう説明して、美里に質問する。

それを聞いた市木と木南は、1つの答えを出す。


「美里ちゃん、妊娠している可能性が高いと思う。だから明日にでもクリニックに行って検査してほしい。俺たちも嬉しい報告待ってるから、ね?」


それを聞いて、誠が市木に迫ってくる。

「ホ、ホントか⁉市木!」

「検査をしたわけじゃないから確実じゃないけど、月経の周期から考えて、その可能性が高いと思うよ。木南も同じ意見だろ?」

「うん、そうだね。僕も市木と一緒だよ。でも、あくまでも可能性だから、違っていてもがっかりする必要はないよ?それだけは覚えていてね」

市木と木南にそう言われて、少し落ち着いた誠は、美里と静かに喜んだ。


そして書斎から戻ってきた誠と美里が、僚たちに報告すると、みんな一斉に喜んでくれた。

「うわー!マジか⁉」

「誠がパパだよー」

「なに、もう.....わたし、心の準備できてないよ」

「誠が.....お父さんに.....」

「すごい!すごいよ誠!」

今日は市木の引越しで集まったのに、それとは別の明るい話題に包まれていた。


そして翌日。

市木に言われた通り、美里は誠に付き添ってもらい、クリニックを受診した。

その結果を、全員一斉にメッセージを送信する。

『妊娠6週でした!私と誠くん、パパとママになります!』

そのメッセージを、事務所で打ち合わせ中に受け取った誠以外の5人は、昨日以上に大喜びだ。

元木に至っては、先のスケジュールは大丈夫だろうかと、その心配をしていた。理由は、出産に立ち会ってほしいからだ。

出産予定日は11月中旬だ。

またひとつ、楽しみが増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ