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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
92/112

90. 結婚式 二次会

いろんなことがありながらも、披露宴も無事に終了し、9人は控室に戻ってきた。

「すっごい良かったよねー」

「うん。花嫁でもないのに、まだ気持ちがフワフワしてるよ」

深尋と芽衣が興奮気味に話す中、明日香は女性3人に申し訳ない気持ちになっていた。

「なんか、ごめんね.....ブーケ、わたしが貰っちゃって.....」

美里から貰ったとはいえ、少し後ろめたい気持ちになる。

「何を言うの明日香さんっ。いまこのブーケを貰うのにふさわしいのは、あなたよっ!」

葉月が明日香の言葉を否定する。なんとも葉月らしい慰め方だ。

「葉月さんの言う通りだよ。ちゃんと幸せになるんだよ」

芽衣にも強く言われ、明日香も「うん。」と頷く。


そこへノックをして入ってきたのは元木と、buddyへ楽曲提供をしている音楽プロデューサーのEvanだった。

「やあみんな、今日もサイコーだったよ!」

Evanが入ってくるのを見て、深尋、隼斗、竣亮はヤバいと思った。さっきの話し、覚えていたんだな....と。

「さて深尋、さっきの約束覚えているよね?」

入るなり深尋を見つめて迫るEvan。

「うっ......」

深尋はEvanに言われて、しぶしぶ木南を連れてきた。

「彼が、深尋の彼氏?」

「はい......」

2人のやり取りを見て、木南は慌てて自己紹介する。

「初めまして。木南光太郎と言います」

「ふうん.....木南くんね。........深尋、いい男捕まえたな」

木南をじぃーーっと見た後にそんなこと言われても、深尋は全然嬉しくなかった。木南には目だけで「どういうこと?」と聞かれているような気がしたが、とりあえず後で説明することにした。


「あと、隼斗と竣亮は?」

元木もそうだが、このEvanもなかなかの曲者で、自分がこうと決めたことは絶対に曲げない人だ。だから、交際相手を見せろと言われれば、絶対に見せるまで帰らないことを知っていた。

なので隼斗も竣亮も、素直にその言葉に従う。

「芽衣、葉月さん」

隼斗が2人を呼んで、Evanに紹介する。

そしてここでもEvanはじぃーーっと2人を見つめ、なぜか突然、

「よしっ!決めたっ!」

と、大きな声を出す。


「Evanさん、どうしました?」

「元木くん、今度の新曲はウェディングソングに決まりね。誠の結婚式を見て、いまこの子たちを見て、ピーンッと閃いたよっ!そういうことで、また引きこもりになるからっ!よろしくっ!」

そう言い残すと、嵐のように去っていった。

「はは.....天才の考えることはわからんな」

「あの人、音楽が無かったら生活力ゼロだしね」

可愛い教え子たちからもこの言われようだ。とにもかくにも、今度の新曲はウェディングソングらしいので、その話を聞いていた市木たちには、しっかり口止めをした。


それから僚、明日香、隼斗、市木は二次会に行くためタクシーに乗り込んだ。

深尋は木南と一緒に帰ってしまった。木南は行っておいでと言ってくれたのだが、深尋がなぜか甘えん坊モードで、今日は帰ると言ったらしい。

お酒が得意でない竣亮も、遠慮すると言って葉月と自宅が近い芽衣と一緒に帰っていった。


「でも隼斗、本当に大丈夫なのか?突然参加して」

二次会には行かないと言っていた僚と明日香が、当日になって参加することになったので、その辺のことを幹事に確認したのか聞いてみる。

「大丈夫!心配すんなって。二次会の幹事は高校の同級生で、俺も知ってる奴だったからちゃんと聞いたよ」

隼斗がそう言うなら....ということで、僚も明日香も二次会へ行くこととなった。


会場は貸し切りのパーティーホールで、こういう結婚式の二次会や、会社の忘年会・新年会などに使われるそうだ。

なので、大画面のモニターや映像機器、カラオケにステージと、何でも揃っていた。

僚たちが会場に着いた頃には、大勢の人が集まっていて、受付に行くとホントに来た!という顔で出迎えてくれた。

「藤堂!マジで連れて来てるじゃん......」

隼斗の高校の同級生が、後ろにいる僚と明日香を見て言ってきた。

「なんだよ。そんな風にジロジロ見るな」

「だってさ.....藤堂明日香が目の前にいるんだぜ?」

「あ?お前、明日香は俺の姉ちゃんだってことわかってる?」

「うっ.....わかってるよ.....」

「その隣に僚がいるのもわかってる?」

「わかってるってっ!」

友人はブツブツ言いながら、4人分の受付と会費を集めていく。

「隼斗、これ俺と明日香の分」

僚がそばからお金を出してくるので、素直にそれを受け取る。こういうところでお金の遠慮をしていると、後々大変なことになったりするので、6人は昔からなんでもきっちり割り勘にしていた。


受付を済ませホールに入ると、案の定一斉に注目を浴びる。

披露宴会場よりせまいので、その視線は先ほどのものと違っていた。

隼斗が来るのは聞いていたが、そこに僚と明日香まで来たので、ホール中が色めき立つ。

「よお、二次会までありがとな」

披露宴の時とは違い、幾分カジュアルな衣装に着替えた誠が、4人の元へやってきた。

「誠、お疲れ」

「披露宴良かったよ」

「まこっちゃん、想像より人多いね」

市木がぐるっと見回すと、披露宴に来ていた友人よりも多い気がする。

「ああ、二次会から参加するって人も結構いたしな。竣亮と深尋は?」

2人がいないことに気づいた誠に、僚が説明すると「なるほどな」と、あっさり納得していた。

「とりあえずここは目立つし、飲み物とかつまめるものを取って座ろっか」

そう言って市木が先頭になり、一番奥のソファ席に行く。その移動もすべて目で追われていた。


ソファに落ち着いたのも束の間、今度は美里が4人の元へとやってきた。

「明日香、葉山くん、藤堂くん、市木くん、今日はありがとうね」

「美里も、遅くまでお疲れさま」

「美里ちゃん、ダンス良かったよ」

「やだっ、市木くん。恥ずかしいから言わないでっ」

まあ、人前でダンスを踊ったことのない美里にしたら、恥ずかしい以外何もないだろう。

「明日香、疲れているところ悪いんだけど、友達が明日香を紹介してほしいって言ってて.....」

「.........え?」

その言葉に、明日香はもちろん僚も「え?」となる。


「あっ、安心して葉山くんっ!友達って言っても、みんな女性で、高校の同級生なの。だから、ちょっとだけ明日香を借りてもいいかな......?」

美里は明日香の了承よりも、僚の了承を取りに来たようだった。

「ははっ、別にいいよ。明日香、行っといでよ」

「うん......じゃあ、これ預かっててくれる?」

明日香はそう言うと、披露宴の時に美里から貰ったブーケを僚に渡す。僚がそれを受け取ると、明日香は美里についていってしまった。


「葉山、顔に思いっきり心配って書いてるぞ」

「僚、大丈夫だよ。立花さんの友達に変な子はいないから」

市木と隼斗がなぜか慰めてくる。

そこへまた誠がやってきた。

「なんだ、こんなとこにいたのか」

「あんまり目立つのもなと思って来たんだけど、どこに行っても一緒だった」

市木がポリポリと頭を掻きながら言う。

「立花さんなら、明日香と一緒に友達のとこに行ったぞ」

「立花さんじゃない」

隼斗が美里のことを『立花さん』と呼ぶのに、誠がピシッと訂正する。

「あーーーっと.......美里.....さん?」

誠に恐る恐る尋ねると、コクンと首を縦に1回だけ下げる。ご納得いただけたようだ。


それから、スマホをいじっていた市木が、突然大きな声を出す。

「ねぇねぇ、これ見てっ!」

市木に見せられたのは、SNSの中に投稿されたもの。それは動画になっており、その場面は美里が明日香にブーケを渡している動画だった。

あの披露宴で撮影していた誰かが投稿したのだろう。

しかし驚くべきなのはそれだけではない。投稿からたった数時間で、その動画が瞬く間に拡散されていたのだ。


あの報道からまだ1週間も経っていない。なのに、またこんな形で注目を浴びてしまうと、明日香が傷つく。僚は直感でそう思ってしまった。

しかし、予想に反することを市木が言ってきた。

「なんかさ、みんなおめでとうって書いてるよ」

市木のその言葉をすぐに信じられなかった。数日前まで、口汚い言葉が並べられていたのに、そんな数日で変わるものかと。

「隼斗の作戦が上手くいったみたいだな、僚」

誠にそう言われて、僚は思い出す。


1週間前の会議室で、隼斗はこんなことを言ってきた。

「もうバレるもんはしょうがないんだから、誠が言うように世間に仲良しアピールしたらいいんだよ。隠そうとしておかしくなるなら、素直になった方が案外受け入れてくれるかもよ?SNSで拡散するとかさ」

そう、隼斗はSNSに対抗するには、SNSを使うしかないと考え、数人の友人に「結婚式でミニライブをするから、それをSNSに投稿してもいいよ」と伝えていた。

自分たちで投稿すると作為的なものを感じるが、そこに居た人たちが投稿するとそういうことを感じることなく、素直に受け取ってくれると思ったようだ。

最初に聞いたときは、そんな上手くいくわけないと思ってたが、実際には.....


「ほら、見て見ろよ葉山。お似合いとか、素敵とか、憧れるとかそんなんばっかだよ。それに否定的なことを書いている奴は、袋叩きにあってるぞ。嫉妬するなとか、モテない僻みだろとか」

市木は画面をスクロールしながら、その状況を事細かに説明してくる。


僚と明日香はあの報道以降、SNSやネットニュースなどを見ないようにしていた。1度見た時に、ありえない言葉が並んでいて、とてもショックだったからだ。

もちろん、そんな人ばかりじゃないことはわかっている。だけど、自分の目で見てしまったことが、世間の反応だと思ってしまうのも無理はなかった。

だけど、風向きが変わってくれるなら......そんな期待を寄せる自分がいるのも事実だった。


その頃明日香は、美里の女友達4人に囲まれていた。

「初めまして、藤堂明日香です.....」

その一言を言っただけなのに、

「いやぁ!かわいいーっ!」

「実物は半端ないね......化粧品は何を使っているのか教えてほしいわぁ」

「藤堂くんも整った顔してたし、さすが双子なだけある」

「どうしたら、そんな美人になれるの⁉」

予想もしてない反応に、明日香は困って美里を見る。

「ほら、みんな。明日香が困ってるから。ごめんね明日香、この人達、悪気はないから」

「う、うん.....」

明日香の周りにはいないタイプの人達ばかりだったので、最初こそ戸惑ったが、話してみると意外と楽しい人たちだということがわかった。


しばらくすると、会場の大画面のモニターでは、披露宴に参加できなかった人たちのために、披露宴会場で流した、誠と美里の生まれてから出会い、結婚までのあの映像が流れていた。ということは、また、あの恥ずかしい写真と下手なダンスの映像が流れるということだ。

そしてその反応は、披露宴会場よりも大きく、そして温かいものだった。

「この並んでシャーベット食べてる写真、サイコーだな。みんな小さいし」

市木は2回目だというのに、涙を流して笑っている。

僚と隼斗は、久しぶりに市木を殴ってやりたいと思った。


そして今度は、ウェディングプランナーが作成した、今日の披露宴のダイジェスト映像だった。いまは、こういうプランもあるらしい。

入場から始まり、元木の挨拶、友人たちによる余興、そしてbuddyのミニライブの映像になると、二次会からの参加者から、

「生で歌が聞けたのか!」「うらやましい!」

などの声が上がっていた。

そして、いまSNSで拡散されている、美里から明日香へブーケを渡す場面になると、シーンと静まり返り、その場にいた人たちは、固唾を飲んで見守っていた。


その映像が終わると、また大きな拍手が沸いた。

それが落ち着いたとき、明日香の隣にいる子が尋ねてきた。

「ねぇ、変なこと聞いてもいい?」

改めて何だろうと思いながら、明日香も返事をする。

「うん、なに?」

「葉山僚のどこが好き?」

その質問を聞いて、その場にいる人だけでなく、周りの人も聞き耳を立てる。

「どこって......」


うーん....と考えながら、明日香は過去のことをいろいろ思い出す。

小学校の時、中学校の時、高校の時、そして、大学入学して留学に行く前まで。とにかくいろんなことがあった。

市木の一言で、失恋したこともあった。自分の気持ちをずっと隠し続けた。

そのせいでたくさん泣いた。隼斗にも深尋にも、迷惑をかけた。

でも、明日香は迷うことなく答える。


「そうだね、僚は真面目で、優しくて、頼りがいのある頼もしいリーダーだけど......常にまっすぐで嘘をつかないところかな。そこが一番好き」

明日香のその答えを聞いて、友人たちも、周りで聞き耳を立てていた人たちも、そして美里までもが、なぜかポーっとなっている。

明日香はみんなの反応がいまいちなので、変なこと言ったかな?と焦ってしまった。

「て、てっきり、顔がタイプなのかと思ったら.....」

「まさかの答えで、思いっきり惚気られたね......」

明日香は正直、僚の顔なんて意識したことがない。笑顔にドキッとしたことは何度もあるが、僚の顔がタイプかと言われれば、それは違う気がする。

「たしかに、僚は昔からモテてたけど、顔は意識したことがないというか....僚よりかっこいい人なんて、まだいるでしょう?」

「!!!!」

その言葉に、今度は全員が驚愕する。

あの国宝級のイケメンをそんな風に言うのは、藤堂明日香ぐらいだろう。


「おい、もうそのくらいにしておけよ」

そう声を掛けてきたのは隼斗だった。そばには僚と誠と市木もいた。

「明日香、そろそろ帰ろうか」

僚がそう言って明日香に手を差し出すと、明日香もその手を自然に取る。

その一連の行動があまりにも美しすぎて、みんな呆然と見ていた。

「誠、美里さん、今日はもう帰るな」

「美里、今度またみんなでパーティーするから。あと、わたしは先に失礼しますね。みなさんはまだ楽しんでくださいね」

明日香が美里と、その友達に挨拶すると、4人ともぎこちなく手を振ってくれた。


「あ、それとさ、俺らは帰るけど、代わりにコイツ置いていくから、相手してあげて。一応医者だし、実家は金持ちだし、好物件だぞ」

隼斗はそう言って、女性たちの前に市木を差し出す。

すると市木の顔を見た女性たちは、一気にキュピーンっと目の色を変えた。

「あははは......ど~も~.......」

市木は女の子は大好きだが、肉食系は苦手だ。というよりも苦手になった。

大学時代、看護科のみなさんに散々な目にあわされたので、看護師とは絶対に付き合わないと心に決めた。

自分が医者だと知って、目の色を変える子もちょっと苦手。


新しい出会いがあればと思って来たものの、やっぱりそんな簡単に行くわけもなく、僚たちが帰って1時間もしないうちに、早々に帰ることにした。

明日香に恋したことによって高くなってしまった市木の理想は、今後どうなっていくのかまだ誰も知らない。


そして、その二次会のこともSNSに投稿され、いつの間にか2人はお似合いのカップルとして認知されていき、それを悪く言う人もいなくなった。


自宅に帰ってきた僚は、リビングで明日香がブーケを花瓶に移し替えているのを見て、後ろから抱きしめる。

「今日、本当に良かったね、結婚式」

「そうだな......」

僚は、二次会での明日香の話を聞いていた。

明日香は外見じゃなく、ちゃんと中身を見てくれた。それがとても嬉しかった。もし、外見が好きだと言われたら、100が99に減ったかもしれない。

だけど、今日のあの言葉で、100が1000にも10000にもなった。


そして今日、僚はある一つの決心をする。

明日香にプロポーズすることを。

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