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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
小学生編
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8. 元木の願い

 ダンスレッスン室を出ると、時刻はすでに12時を大きく超えていた。


 元木の計らいで、ビル内にあるカフェテリアで昼食をとることにした一行は、エレベーターの到着を待っていた。

 エレベーターを待っている間の6人は、初めてダンスレッスンをみた興奮と高揚感で、どこかふわふわと地に足がついていない感覚に陥っていた。


 迫力のある音楽とそれに負けない練習生のメリハリのある動き。さっき見た光景が、6人の脳裏に焼き付いて離れない。このことが何を意味するのか、6人はまだ気づいていなかった。


 カフェテリアは2階にあり、いわゆる社員専用の休憩所でもある。

 小規模ながらもランチメニューが充実しており、どれもおいしそうだった。


「社長の奢りですから、なんでも好きなものを選んでください」


 券売機にお金を入れた元木が、どうぞと手を差し出す。


「え、元木さん。見学に来ただけなのに、そんなにしていただかなくても」

「そうそう、私は雄一郎先輩に会いに来たようなものですから」

「そうですよ。これ以上お世話になるのは・・・・・・」


 親たちは一斉に元木の申し出を断ろうとするが、こういった大人たちの押し問答が始まると活躍するのが深尋である。


「ねーお兄さーん。深尋サンドイッチとポテトフライのセットがいいー」


 さすが天真爛漫の申し子。空気の読めなさにおいては、右に出る者はいない。


「おまえ、この状況ですごいな」


 隼斗はすでにあきれていた。まあ、他の4人も同じだが。


「あーごめんごめん。おなかすいちゃったよね」


 そう言うと元木は素早く深尋の希望した、サンドイッチとポテトフライのセットのボタンを押し、出てきた食券を深尋に渡す。


「ありがとうございます。お兄さん」


 食券を受け取った深尋は、きちんとお礼を言う。

 そして元木は後ろを振り返り、それに続けとばかりに他の5人にも声をかけた。


「ほら、もう買っちゃいましたし。深尋ちゃんだけだと不公平になるので皆さんもどうぞ」


 満面の笑みを浮かべる元木に、隙など全く無かった。

 さすが統括本部長の肩書をもつ御曹司。やることがいちいちスマートだ。


 結局、深尋以外のみんなも、元木にごちそうになることで、話は丸く収まった。

 元木も、カフェテリアの食事くらいで入所してもらおうなどとは思っていないが、少しでも良い印象を与えるためには、なんだってするつもりだ。


 それほど、この6人の子どもたちに惚れ込んでいた。


 子供6人、大人4人でぞろぞろとカフェテリアに入ると、さすがに目立つ。

 なんだ、なんだと他の社員に見られているが、その理由の一つには、元木の存在もあるだろう。

 元木の統括本部長という肩書は、歌手やタレントに同行しているマネージャーを束ねる立場であり、普段、現場にいることが多い。ここ最近はスカウト活動もしていたので、会社にいることがかえって珍しかった。


 その元木が6人の子どもを連れているんだから、それは目立つに決まっている。


 元木は、大きめのテーブルに座った6人に、事務所に来てから、ダンスレッスンを見学しての感想を聞いてみた。


「みんな、ダンスレッスン見てどうだった?」

「なんか、胸がドキドキした」


 竣亮が自分の胸を押さえながら言う。


「ダン先生に教えてもらったら、あんな風に踊れるのー?」

「うん。ダン先生は優秀な先生だからね。最初はできなくても、必ず上手くなるよ」

「俺、ダンスっていうのを目の前で初めて見たけど、迫力があってかっこよかった」

「誠くん、ずっと目を離さずに見ていたからね」

「私は、やってみたいなって思ったけど、あんなにできる自信がないです」

「誰だって最初はできなかったんだよ。だけどみんな頑張ってできるようになったんだ。だから心配しなくても大丈夫」

「僕たち、あまり目立つのは好きじゃないんです」

「今はそうかもしれないね。でもいろんなことに自信がついたら、その考え方も変わってくるかもしれないよ」

「結局兄ちゃんは、俺たちにどうしてほしいの?」


 隼斗の質問に、少し間を開けて元木がゆっくりと答える。


「お父様、お母様方、そしてみんな。僕はね、あの河川敷で君たち6人を初めて見た時、ずっと探していた原石を見つけたと思ったんだ。それはもの凄い衝撃だった。君たちには人を惹きつける魅力がある。今はまだ小さいけれど、磨けば磨くほど大きく輝くと僕は信じている。だから、この事務所の練習生として入所して、歌とダンスのレッスンを受けてほしい。そして、ゆくゆくは君たちと一緒に仕事がしたいんだ。もちろん決して粗末な扱いはしない。昨日も言ったとおり、僕は君たちを大切にしたいんだ。いや、大切にすると約束する。だからどうかお願いします」


 思いの丈を語り、6人の子どもたちに頭を下げる元木。周りにいた社員も、その様子を見て驚いている。

 子供たちは、ここ数日で初めて見る元木の姿に目を見開いていた。


「元木さん、顔をあげてください」


 僚の父が元木の肩にポンと手を置く。


「あなたのお気持ちはわかりました。ですが、この子たちもまだ決めかねているようですし、深尋ちゃんと誠くんの親御さんにも説明が必要でしょう。もう一度改めて話し合いの場を設けるのはいかがですか?」

「それはもう、是非そうさせていただきたいです」

「では、日程などは私たち保護者で話し合って、追って連絡するということでよろしいですか」

「はい。お待ちいたしております」


 大人同士で話がまとまると、お昼ご飯は終了となった。


 昼食後はボイスレッスンを見学させてもらうことになっている。

 ここで、僚の父は元木社長が出先から戻ってきたらしく、久しぶりの再会のため5階にある社長室へと別で通される。


 他のみんなは、4階にあるボイスレッスン室へと向かうことになった。

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