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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
88/111

87. 熱愛発覚

11月に入り、誠の結婚式まであと1週間となった日。

buddyの6人は、打ち合わせのためにGEMSTONEに来ていた。

ある程度話がまとまり、元木と一緒に話をしていると、コンコンコンコンッと強めのノックがあり、慌てて林マネージャーが入ってきた。

「もっ、元木さんっ!大変です!これ見てくださいっ!」

林が原稿用紙のようなものをテーブルの上にバンッと、元木と6人に見えるように置く。その見出しは、


『衝撃‼人気グループbuddyの藤堂明日香が二股愛⁉相手はリーダーの葉山僚と、某大病院の御曹司 I氏‼』


というものだった。

「なに......これ......」

明日香は両手で口元を抑え、ショックで言葉が出てこない。

しかも隠し撮りされた写真も掲載されており、明日香と僚が2人でスーパーで買い物をしている写真と、もう1人の相手、市木との写真は、誠の結婚祝いの品を決めるために待ち合わせをした喫茶店での2人の写真と、タクシーに乗り込む写真、そしてそのタクシーを降りてマンションに入っていく写真と、事細かに掲載されていた。

しかし、市木は一般人のため、目に黒い線が入れられていたが、でも、市木を知っている人が見れば、それは誰かがわかってしまう。


そこで明日香は、パニックになりながらもふと疑問に思った。

タクシーの乗り降りを撮られるのは、外だからまだわかる。でも、喫茶店の写真は、明らかに店内で撮られた写真だ。

ということは、市木と2人でいた時に、盗撮した人があの場にいることになる。

明日香は自分の頭をフル回転して、あの時のことを思い出そうとする。


(そういえば......)

自分たちの斜め後ろの席で、グラスを落として割ってしまった男の人がいた。

いま考えたら、あまりにも不自然すぎる。テーブルの上にはたいして物が置かれている訳でもないのに、グラスが割れる?手が滑ったにしても、グラスが割れたのは男が座っていた向かい側の席だ。手が滑るのは考えにくい。


グラスを割って、自分たちの注意を引くか、顔を確認したかったのか、それとも別の意図があったのか.....

目の下に大きなほくろがあったので、明日香は顔を覚えていた。そして確信していた。あの男が撮ったんだと。


考えれば考えるほど恐ろしい。実際、市木とは何もないのに、喫茶店にいるところ、タクシーに乗り降りするところだけを切り取られると、そういう関係に見えなくもない。こうやって、スキャンダルは生み出されるのかと、身をもって痛感した。


「林、これはいつ発売になるんだ?」

「あ、明後日だそうです.....さっきそれがバイク便で届けられて......」

元木と林が何やら話しているが、明日香の耳には届いていない。

「明日香......」

深尋が不安そうに明日香の顔を見ると、その顔は真っ白になっていた。


そして、元木が明日香の方を振り向いて、わかってはいるが確認をする。

「明日香、この男性は市木くんだね?」

「........はい」

「市木くんとは、そういう関係なの?」

「ちっ、違いますっ!」

「うん、わかってる。それじゃあこの日、2人でいたことの説明をしてくれる?」

明日香は数週間前に、市木と会った時のことを正直に話す。


「あの日は、誠の結婚式のお祝いの品を贈る相談のために、僚と市木くんと3人で待ち合わせていました。でも、僚の仕事が押してて、時間も夕方だったので、家で夕飯を食べながら相談しようっていう流れになって......」

「それで、この写真か......」

明日香は、市木に対して申し訳なさで一杯だった。自分と僚は、そんな風に撮られても、本当のことだし否定しなければそれでいい。


しかし、市木は一般人で、研修医とはいえ医師として働いている身だ。社会的立場のある市木をこんな風に世間に晒すことになり、しかもそれが、写真週刊誌にあることないこと、面白おかしく書かれていて、申し訳ないのと許せなさで気持ちがぐちゃぐちゃだった。


そこで、明日香の様子を見ていた僚が、たまらず話に入り込む。

「元木さん、俺と明日香の関係を公表してください。そして、市木は友人の1人に過ぎないと言えば......」

「それを誰に言うの?」

「それは.......」

僚が言葉に詰まる。

週刊誌側に言ったところで、火に油を注ぎかねないし、ファンに向けて言うのも言い訳がましく見えて、イメージダウンは避けられない。

僚の言いたいこともわかる元木は、あくまでも冷静に対処する。

「僚も明日香も、いま一番心配なことは何?」

元木に尋ねられて、2人は少し悩む。そして、明日香が小さな声で答える。


「わたしは、僚との関係を知られても構いません。だけど、全く関係のない市木くんを巻き込むのは違うと思っています。市木くんはいま、研修医として必死に頑張っているのに、彼の今までの努力をこんなことで潰したくない。それがわたしが一番心配していることです」

明日香は元木の目を見て、力強く訴える。


「僚は?」

元木は僚にも同じように尋ねる。

「俺も明日香と同じです。俺たちの関係はいいんです。悪いことをしている訳じゃないし、明日香とずっと一緒にいたいのは変わりませんから。でも、市木は俺の大事な友人で、あいつが医者になるために努力していたのを、ずっとそばで見ていたから、俺たちのせいでそれを潰されるのだけは避けたいです。元木さん、お願いです。市木のためにも......」


元木は、僚と明日香の悲痛な顔を見て、ふぅーーーっと長めに息を吐く。

そして2人を見て言う。

「わかった。ここまできたら、記事に載ることは避けられないだろう。しかし、記事の差し替えを交渉することはできる。いまから連絡するけど、ここで待つ?」

元木にそう言われて、僚と明日香は頷く。ずっとそばで話を聞いてた隼斗、誠、竣亮、深尋も、心配で帰れず、結局みんなで待つことにした。


「ごめんみんな、巻き込んでしまって......」

元木が出て行った後、僚が4人に謝る。

「いーーって、気にすんなよ。もしかしたら、それが俺だった可能性もあるんだから、お互い様だよ」

「そうだよー。それに、わたしたちも市木くんのことが心配だからさー」

隼斗と深尋は明るく振舞うが、竣亮は浮かない顔をしている。


「市木くんのこともそうだけど、もし僕だったら、葉月さんのことをどう守ったらいいか、わかんなかったかもしれない.....僕にはまだ覚悟が足りなかったな.....」

みんな頭ではわかっていたはずなのに、いざ、こういうことが起こると、どう対処していいかわからなかった。


本当のことを言えばそれでいい、では済まされないことがある。理不尽かもしれないが、1度ついた悪いイメージは、たとえ本人に落ち度がなくとも、全てを払拭するには時間が掛かるものだ。

自分たちは、常にそういう状況と隣り合わせになっていることを、改めて自覚するきっかけにはなったのかもしれない。


「誠もごめんな。来週には結婚式なのに、ケチが付くみたいになって.....」

「ほんと、ごめん......」

僚と明日香が誠に謝罪する。

せっかくお祝い事でみんな楽しみにしていたのに、すっかり水を差された。

「いや、気にしてないよ。逆にさ、俺らの披露宴でそこにいる奴らに見せつけてやればいいんだよ」

誠は相変わらず、何でもないように言うが、僚も明日香もそこは思いっきり否定する。

「いや、いや、いや!結婚式で新郎新婦より目立ったらダメだろっ」

「そうだよ誠っ!結婚式の主役は新婦である美里なのっ!」

そこまで話を聞いていた隼斗が「そうだ!」と大きな声を出す。

「なんだよ隼斗?」

「別にさ、目立つ必要はなくて、いつも通りにしてたらいいんだよ。それでさ.........」

ごにょごにょごにょと、隼斗がある提案をする。

「そんなに上手くいくかな.....?」

「まあ、世間にバレるんなら、やってもいいかもね」

多少の不安はあるものの、元木の返答次第で、隼斗の提案に乗ることにした。


そして元木が出て行って2時間を超えた時、6人の元に元木が戻ってきた。

「どうだった⁉元木さんっ!」

僚は逸る気持ちを抑えきれずに、元木に詰め寄ってしまう。

「結果的には、市木くんの写真全てと大病院の御曹司、そして明日香の二股というのは載らないことになったよ。でも、僚との関係や同棲中であることは記事になる」

その元木の話を聞いて、ひとまず安心する。

「それで、僕からEvanさんとアースミュージックレコードには一報をいれておいた。その他のスポンサーさんには、いま林たちが手分けしてやってくれている」

「......はい。ありがとうございます」


その状況を聞いて、各方面に迷惑をかけたと、2人は反省する。しかし元木はそんな2人に、週刊誌が発売されて以降の対応を話す。

「いいか、こうなったら隠してもしょうがないんだ。だから、事実であることを認めて、お騒がせしましたと謝罪する。それ以外はしなくてもいい。お前たちのイメージはそこまで落ちることはないよ。大丈夫」

元木に大丈夫と言ってもらえただけで、僚も明日香も心が軽くなった。

ただし、数日間はマスコミがうるさいだろうから、それは覚悟しておくように言われた。


歌手デビューして初めてのスキャンダルに、2日後の週刊誌発売まで変な緊張感が6人の中に漂っていた。


そして、週刊誌発売当日。

朝から情報番組の芸能ニュースでは、僚と明日香の熱愛の話題で持ちきりだった。約束通り、市木のことは一切報道されず、明日香の二股というのもなくなっていた。

その報道を、僚と明日香は自宅のソファで並んで座って見ていた。

「僚.......どうなるのかな、わたしたち.......」

「どうもならないよ。俺はちゃんと明日香のそばにいるし、守るから」

そう言いながら、僚は明日香の肩を抱き寄せる。


その報道を受けて、2人は直筆のメッセージを発表した。

これは、元木と相談して決めたことだった。

内容は、交際と同棲が事実であること、それにより騒がせたことへの謝罪と、今後は見守っていてほしいことを記載したものだった。

ファンクラブサイトにも、同じようなメッセージを掲載した。


2人の住むマンション前には、何人かのマスコミ関係者が確認されたものの、他の住人の方がいるのでやめてほしいと事務所から言うと、それもいつの間にかいなくなったようだ。


そして、世間の反応は様々だった。

驚きながらも祝福する人が多い中、なかには心無い声もたくさんあった。

僚のファンからは明日香へ、明日香のファンからは僚へ、口汚い言葉が寄せられたりもした。

覚悟はしていても、実際に目の当たりにするととても辛かった。

「明日香、泣かないで」

「こんなもの気にするな」

「別に悪いことはしていないんだ。堂々としてろ」

「大丈夫だよ。僕たちがいるから」

深尋、隼斗、誠、竣亮が明日香を元気づけてくれる。そばには僚もいる。

「ありがとう、みんな.....」

報道後は不安な日々を送っていた僚と明日香は、頼れる仲間がそばにいてくれて、本当に良かったと改めて実感した。


そうして慌ただしい中、誠と美里の結婚式当日を迎えることになった。


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