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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
76/111

75. 沖縄へGO!③

翌日。8人は予約していたジャンボタクシーで、空港近くのレンタカー店に来ていた。

今日はここから4人ずつに別れての別行動になる。

「う、う、明日香ちゃぁ~ん.....いかないでぇ~」

僚と木南がレンタカーの手続きをしている間、市木はここぞとばかりに明日香に縋りつく。

「あの市木くん、明日は一緒に帰るから、今日一日ガマンして?」

明日香は、まるで子供をあやすように市木に言い聞かせる。

するとそこに、先に手続きを終わらせた隼斗、誠、竣亮が戻ってきた。

「おいお前、昨日あれほど邪魔すんなって言っただろ?免許証も出さんと、明日香の邪魔ばっかしやがって」

隼斗がブツブツ文句を言うと、市木は明日香の後ろに隠れて、

「番犬くん、ヒドイっ!傷心の俺を慰めてくれるって言ったのにっ!」

と、目をウルウルさせる。するとお店のスタッフに、

「では、ご案内しますねー」

と言われたので、隼斗たちはそのスタッフについて出ていく。

「じゃあな、明日香」

「うん、また明日。空港でね」

「みんな気を付けてねー」

と言って、送り出した。もちろん市木も、隼斗と誠に引きずられて行った。


隼斗たちが出て行ったのと同時に、僚と木南も手続きを終えて、明日香と深尋の元へ帰ってきた。

「あいつ、ずっとうるさかったな」

「ははっ、そうだね」

「葉山、4:4に別れること言ってなかったの?」

「言ってない。じゃないと、あいつなにしでかすかわからんだろ?」

「市木って、よっぽど信用ないんだね。よく友達続けていられるね」

木南からすれば、僚と市木の関係が不思議らしい。

「まぁ、明日香が絡んでこなければ、普通にいい奴だし、ああみえて頭はいいしな。ただ、明日香が絡むと、わがままというか、なんというか.....」

「なんか、ごめん.....」

明日香は申し訳なくなり、つい謝ってしまう。

「いや、明日香が悪いんじゃなくて、明日香に執着している市木が悪いんであって......」

と、必死に弁解する僚が面白くて、明日香はクスっと笑ってしまった。

そうしてようやく、こちらのグループも出発することになった。


僚たちは、明日香と深尋の強い希望で、美ら海水族館へ向かうことにした。

那覇市内から車で約2時間半。本島北部の海洋博記念公園の駐車場に到着した。駐車場から坂道を下っていくと、おなじみのジンベエザメのモニュメントが見えてきた。

「明日香見てっ!ジンベエザメ!」

「待って、深尋っ!走ったら転ぶよ」

はしゃぐ2人を、僚と木南は後ろから笑ってみていた。

「ねーー!写真撮ろーー!」

そう言って、モニュメントの前で他の観光客にお願いし、4人で記念撮影をする。それからやっと、水族館の入り口までやってきた。


中に入ると、タッチプールと呼ばれるものがあり、海の生物を直に触れるように展示されていた。

そのあとはどんどん水槽が続いていき、ゆらゆらと泳ぐ魚たちに心が癒されていった。

「深尋ちゃん、はぐれるよ」

木南はそう言って、深尋の手を握る。

明日香も僚もいるのに恥ずかしいなと思って2人を見ると、2人は腕を組んで歩いていた。水族館の通路は薄暗く、雰囲気もあるので、お互いあまり干渉しないようにした。

「光太郎くんは、ここ来たことあるの?」

深尋は気になって聞いてみた。

「うん。中学の修学旅行で1度だけ。でも、あまり覚えてないんだよね」

木南は、僚と市木とは高校からの同級生で、中学校は別だった。

「そっかー。わたしは沖縄自体が初めてだから、ずっとドキドキしちゃって、明日帰るのが寂しいなーって、思ってるんだー」

口では寂しいと言いながらも、いまこの場を楽しんでいる深尋を見て、木南は相変わらずかわいいな、と思っていた。


そのとき僚と明日香は、チンアナゴの水槽に張り付いていた。

「ねぇ、この人達、めっちゃケンカしてるね」

「隣人が気に入らないんだろ」

「なんかさ、見てたら僚と市木くんの関係に見えてきた」

自分で言って、ププッと吹き出す明日香を見て、

「こんな時まで市木の話はしないで」

と、子供っぽいことを言ってしまう。そんな僚を見て、明日香はちょっと意地悪したくなってきた。

「僚、ヤキモチ焼いてるの?」

「...........教えない」

「ねぇ、焼いてるんでしょ?」

僚は、なおもしつこく言ってくる明日香の腰をぎゅっと抱いて、耳元で、

「そうだよ。俺はずっと、ヤキモチ焼いてるの。だからダメ」

というと、今度は明日香が降参した。やっぱり翻弄されるのは明日香の方だった。


それから4人は合流し、メインの大水槽へ行く。

「うわぁ.........」

言葉を失うとはこういうことを言うんだろうな、というほど、圧倒的なスケールで4人はその水槽に釘付けになった。もはや水槽というよりも、自分たちがその水槽の中に入り込んでしまったように感じる。

そして、その大水槽のそばにはカフェがあり、お金を少し出すと、大水槽のそばの席に座れるらしい。

早速4人が行ってみると、ちょうど1席空いたところで、待ち時間なく入ることが出来た。

コーヒーやオレンジジュースを注文し席に着くと、目の前はすぐ水槽で、ジンベエザメはもちろん、マンタやサメなど、様々な種類の魚が気持ちよさそうに泳いでいた。

「なんか、この空間もの凄く癒されるね」

「そうだな。こんな間近で見ることが出来て、サイコーだな」

「疲れが取れるーー」

「ははっ、みんなよっぽど疲れたんだね」

僚、明日香、深尋は、最初の撮影スケジュールを思い出して、またぐったりする。

「そうだな.....慣れないことをしたし、知らない人もいっぱいいたし、それでだいぶ疲れたよ.....」

「そうなんだ。でも、その写真集だっけ?僕も早く見たいな」

木南がそう言うと、深尋ががばっと木南を見る。

「光太郎くん、本当に見たいの?」

「え.....うん、当たり前じゃない。深尋ちゃんがどんな風に撮ってもらったか見たいよ。なんで?見せられないものでもあるの?」

木南が深尋の顔を覗き込む。

「.......見せられないというか.....なんか恥ずかしい.....だけ」

小声で小さく答える。そんな深尋を見て、

「大丈夫。どんな深尋ちゃんも可愛いよ」

と、深尋に囁く。

僚と明日香は、いたたまれない気持ちになった。

それから30分ほどカフェでゆっくりした後、水族館のショップでお土産を買い、この日の最大目的地を十分堪能した4人は、ホテルに向けて車を走らせた。


ホテルまでは、高速道路を使わず、国道58号線を南下していく。

場所は沖縄本島中部にある、北谷町(チャタンチョウ)というところで、米軍基地の返還後、街づくりが開始された場所で、町の周囲にはまだ多くの米軍基地がある影響か、なんとも異国情緒漂う街となっている。

その中でも、アメリカンビレッジは以前から明日香も興味があった場所で、沖縄に行った時には、絶対に行きたいと思っていた場所の1つだった。

そして、僚と木南が頑張って、そのアメリカンビレッジにほど近いタワー型のホテルを予約してくれたのだ。


ホテルに着くと、時刻はすでに午後5時になっていた。

4人はとりあえずチェックインし、荷物を置いてくることにした。

部屋はもちろん、僚と明日香、深尋と木南で別れる。

とりあえず、明日香も深尋もそこは考えないようにした。でないと、意識してしまっては身が持たないからだ。

よかったのか、どうかわからないが、部屋は隣同士ではなく、別々の階のそれぞれ角部屋にアサインされた。


荷物を持って、僚と明日香は21階の部屋に入る。するとその部屋はバルコニーが2面になっており、海側が見えるのと、もう一方はアメリカンビレッジを眺めることが出来た。

「うわぁ、すごい僚っ見て!一面海だー!」

部屋のバルコニーに出るなり、明日香は興奮する。もうこの数日、幾度となく海を見てきたのに、上から眺める海はまた格別なんだろう。

明日香の横に並んで僚も、

「きれいだな」

といい、しばらく2人で眺めていた。

海風が優しく、心地よい風が吹いている。それを好きな人と分かち合えるだけでとても幸せだった。


午後6時になり、4人は夕食のためアメリカンビレッジに行くことにした。

そこへ向かって4人で歩いていると、深尋が、

「明日香、ちょっと来て」

といって、僚と木南から離れるようにする。

「どうしたの?」

明日香が尋ねると、深尋はなぜか顔が赤くなっている。

「明日香、どうしよう......部屋のベッドがひとつしかなかったの......わたし、光太郎くんと寝れるかなあ......」

実は明日香も、部屋に入ってバルコニーの次に目に入ったのが、大きなダブルベッドだった。明日香もそんな経験がないので、こればっかりは深尋になにも言ってあげられない。

「ごめん、深尋。わたしもどうしたらいいかわかんないし、とりあえず、頑張れとしか言えない......」

2人で話していると、後ろから木南が、

「ねぇ、彼女たち。なにをコソコソしてるの?」

とわざとらしく聞いてくる。

「ううん、なんでもないよ。それより何食べる?」

アメリカンビレッジ内は、飲食店も数多くあり、4人はどこに入ろうか悩んでしまう。すると、海に面してテラス席のあるレストランを見つけ、4人はその店に入ることにした。


あいにく、4人掛けのテーブルは全て埋まっていたが、海を向いて作られた2人掛けのカウンター席が空いていたので、そちらに座ることにする。

「見て見て光太郎くん。夕日がきれいだねー」

4人が席に座ると、夕日が水平線の向こう側に近づいていた。

空の色と夕日の色が混ざることなく、きれいなグラデーションになっていて、4人はしばらくその景色を眺めていた。

「はい、深尋ちゃん。カンパイ」

木南はビール片手に、深尋はシークヮーサーサワー片手に乾杯する。

「あの、光太郎くん。本当にわざわざ来てくれて、ありがとうね」

「どうしたの、急に。あらたまって」

木南は、深尋がそんなことを言いだして、不思議に思った。

「だってよく考えたらさ、わたしの都合で沖縄に来たのに、時間があるから来てって誘って、ホントに来てくれる人なんて、めったにいないよなぁって思ったの」

それを聞いて木南はフッと笑う。

「それで、深尋ちゃんは、僕が来てどう思った?」

「.......嬉しかった......」

深尋は木南に顔を見せないように答える。

「それを聞いて、僕も嬉しいよ。言ったでしょう?全部、受け止めるって」

木南は深尋の右頬を、親指でスッと撫でる。

「それにね、僕も市木もそうだけど、来年は大事な試験があるんだ。それに合格した後には病院での実習とかも始まって、いまみたいに時間が取れなくなってくると思う。だから、時間がとれるうちは、深尋ちゃんのやりたいこと、やってみたいことを叶えたいと思ったんだ」

医学部に在籍する木南は、大学4年からは今よりもっと多忙になるため、同じく芸能活動を続ける深尋と、時間が合わなくなってくる可能性もある。だから木南は無理してでも、今回沖縄にやって来た。全ては深尋のために。


「光太郎くん、わたし、会う時間が減っても、ずっと光太郎くんのこと応援してるから。お医者さんになれるように応援してるっ」

深尋は自分の頬にある木南の手をぎゅっと握って伝える。

「ありがとう。僕も深尋ちゃんのこと応援してるよ。だけど....ホントはあまり見せたくないな....」

「.......誰に?」

「これから深尋ちゃんたちを見る、全国の人に。なんなら僕、葉山たちにすら見せたくないと思ってるから」

木南にそう言われて、深尋は心臓をギューッと掴まれたような感覚になる。

明日香同様、深尋も木南に翻弄されっぱなしだった。


一方、僚と明日香は、カウンター席に座ったことで、思い出話をしていた。

「昨日、元木さんに言われて思い出したけど、イチゴのかき氷を食べた時も、こんなカウンター席だったね」

「ああ、そうだったな。あのかき氷が、今まで食べた中で一番おいしかったよ」

「しかも、めちゃ大きかったし!僚の顔がほとんど隠れてたよ?」

明日香はその日のことを思い出して、クスクス笑っている。

「実はさあの時、スプーンを2つ持たせてくれたのは、店員さんだったんだ」

僚が少し恥ずかしそうに、明日香に話し始めた。

「どういうこと?僚が貰って来てくれたのかと思ってた」

僚の話によると、実は売店でこういうやり取りがあったらしい。


「すいません。このイチゴのかき氷ください」

僚は、30代半ばの女性の店員さんに、イチゴのかき氷を注文する。

「はーい。おひとつでよろしいですか?」

「あ....はい」

「少々お待ちくださーい」

そう言って店員さんが奥の方へ行くと、奥から氷を削るような音が聞こえてきた。そのあいだ僚は、明日香がどこに座ったか後ろを振り返って探すと、すぐ近くのカウンター席に座っているのが見えた。

「はーい、お待たせしましたー。スプーンはいくついりますかー?」

「........あ、1つで」

僚がそう言うと、店員さんは少し不思議そうな顔をする。

「お兄さん、これ1人で食べるんですか?」

「あ、いや、僕じゃなくて、友達が......」

僚はそう言って、無意識に明日香の方を振り返る。すると、それを見た店員さんが、

「あーーーたぶん、女の子1人では食べきれないかもしれないから、スプーン2つつけておきますねー。それとも、1つで2人で食べますかー?」

と、冗談半分で言われ、僚は、

「2つでおねがいしますっ」

と言って、スプーンを2つ貰って来たそうだ。


「へぇ....そんなことがあったんだ」

「うん。思えばたぶん、あの時に初めて、明日香を意識したのかもしれない」

思ってもみなかったことを言われて、明日香はびっくりする。

「あの時、そんなこと何もなかったと思うんだけど.....」

「明日香はね。だけど俺は、明日香との思い出を思い出そうとすると、必ずあのイチゴのかき氷を、おいしそうに食べている明日香が出てくるんだよ。だからたぶん自分が知らないうちに、あの時から明日香を意識していたんだろうなって、思ったんだ」

始まりは思っていたよりもずっと前から始まっていたんだと思うと、そのあと苦しんだのは何だったのかと思うが、でも、あの時間にも意味があったと思いたい。明日香はそう思った。


そうして語り合っているうちに、夕日はとっくに水平線の向こう側へ消えてしまい、辺りはすっかり暗くなっていた。

食事を終えた4人は、腹ごなしにアメリカンビレッジ内の雑貨屋さんなどを巡り、ホテルへ戻る。

2組のカップルの夜は、まだ始まったばかりだった。

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