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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
75/111

74. 沖縄へGO!②

 8月9日。6人は那覇空港にいた。

 しかし、それは帰るためではなく、出迎えるため。

 撮影スタッフは昨日の夕方の便で帰っており、3人のマネージャーも他の仕事のため先に帰っている。


 正午になる直前、到着口から出てきた人波に向けて深尋が手を振り声を掛けた。


「光太郎くん!」


 その声に気づいた木南が6人の元へやってくる。


「深尋ちゃん、みんな。お仕事お疲れさま」

「光太郎くんも、沖縄までわざわざありがとう」


 深尋が木南との再会に胸を弾ませている一方で、また何やら揉めている人が・・・。


「明日香ちゃん、ただいま~!」

「近寄るな、触るな、市木っ」

「なんだよ葉山、邪魔するなよっ。俺と明日香ちゃんの感動的な再会なんだから」

「なにが感動的な再会だ! 先週も会っただろうがっ」

「先週は先週。今週は初めて会うんだから、いいじゃないか」

「いいわけ無いだろ! 離れろっ!」


 僚と市木が会うなり揉めている。それを明日香はうんざりするように見ていた。

 結局、沖縄に来れたのはこの2人だけのため、いつもと変わらないと言えば変わらない。

 そしてこの場にはなぜか元木もいた。休み返上で働いていた元木も、1日だけ休みをもらって沖縄に残ることに。


 そして6人から元木に、あらかじめ市木と木南のことを伝えていた。

 buddyのことを知っていることや、市木はデビュー前から全員と面識があることなどを説明。すべて聞いた元木は、「お前たちが信用している友達なら、大丈夫」と言ってもらえたので、こうして堂々と空港まで迎えに来たのだ。


「何だお前たち、彼女を呼んだんじゃなかったのか」


 市木と木南を見た元木は女の子も来ると思っていたのか、期待外れとばかりの顔を見せる。


「しょうがないじゃん。竣亮の彼女は大学院受験で、俺と誠の所は就活やら実習やらで忙しいからさ」

「まあ、そうか。大学3年生だもんな。それで? こちらが深尋の彼氏?」


 元木がなんでもないように尋ねる。深尋の恋愛事情を知る5人は少し気まずさを感じるが、深尋は案外さっぱりした様子で堂々と元木に木南を紹介した。


「うん。元木さん、こちらが彼氏の木南光太郎くんだよ」

「初めまして。深尋ちゃんとお付き合いしている、木南です」


 木南がこれまでの経緯を知っているかどうかわからないが、元木に対して丁寧に挨拶する。それに元木も同じく丁寧に返した。


「初めまして、僕はこの子たちのマネージャーの元木と言います。・・・それじゃあ、さっきから僚と揉めている彼は?」


 元木は次に、市木の方を見る。


「元木さん、こいつは・・・・・・」

「初めまして、俺は明日香ちゃんの《《2番目の男》》の、市木颯太と言いますっ!」

「え・・・・・・?」

「違うっ! 元木さん、こいつはただの友達で・・・」


 僚が慌てて否定するが、元木の疑問はそこではなかった。


「明日香、どういうこと? 彼が2番目なら1番がいるっていうこと?」


 元木はそう言いながら、ゆっくりと探るように明日香の顔を見る。


「あ、あの・・・その・・・」

「とりあえず、あとでゆっくり聞こうか」

「はい・・・・・・」


 明日香は若干の気まずさを残しつつ、全員でレンタカーで移動することにした。


 一行が向かったのは、本島南部の海沿いにある市木家の別荘。

 さすが、金持ち。別荘の1つや、2つや、3つくらい軽く持っているようで、市木自身も何度かここに訪れたことがある。


 そして市木からの提案で、今日はここで全員1泊することになっていた。

 元木はさすがに別のホテルをとっており、明日には帰る予定だ。

 僚と明日香、そして深尋と木南は、明日は同じホテルで別々に部屋を取っており、残りのメンバーはこの別荘でもう1泊することになっていた。


 市木家の別荘は大したもので、海に面して広い芝生の庭が広がっており、バーベキュー設備も充実している。屋上は広いテラスになっていて、この辺一帯は夜は明かりが少なく、星がきれいに見えるのが自慢らしい。


 ということで、別荘に寄る前にバーベキューの買い出しを済ませ、市木家の別荘へ向かった。

 運転は元木がワンボックスカーを借りていたため、それに全員で乗って移動する。


「今までさ、何度かバーベキューってしたけど、最初から最後まで自分たちで準備するのは初めてだな」

「そうだな。グランピングでは片付けもいらなかったし、この間はホテルのレストランだったからな」


 隼斗と僚がそんな話をしながら炭を並べていると、木南がやってきた。


「ねぇ、そのグランピング、楽しかった?」

「あぁ、まあな」

「そう・・・。僕も早く深尋ちゃんと知り合って、一緒に行きたかったな」


 木南が淋しげに呟くと、僚と隼斗が慰めるように声を張り上げる。


「なんだよ。そんなの、これからいくらでも行けるだろ」

「そうそう。冬の寒い日に行って、澄んだ空気の中星空観察とか、深尋だったら喜ぶんじゃねえか?」

「・・・そうかな?」

「絶対そうだって。逆に俺らがいたら邪魔だって言われるから、機会があれば2人で行ってこいよ」


 大好きな彼女の幼馴染からの提案に木南は、今後の予定を考えるだけですでに楽しみになっていた。


 一方、別荘の中のキッチンでは、明日香、深尋、竣亮が、野菜を切ったり、お肉を盛りつけたりと、食材の準備をテキパキと進める。そのそばでは市木がうろちょろしているが、その場には元木もいるため下手なことはしてこなかった。


 ついでに誠は「俺がやることはないな」と言って、庭のハンモックで大好きな天然日サロを楽しんでいる。相変わらずマイペースなところは健在だ。


 準備が整うと、まだ明るい時間だがバーベキューがスタートした。

 ベンチとテーブルが一体になっている、大きめのガーデンテーブルが2つ並んでいるので、9人で座っても十分な広さがある。


 元木は車の運転があるためウーロン茶だが、他の8人は自分が好きなアルコールをみんなそれぞれ飲んでいた。


「なんかさ、あんなに子供だった君たちと、こうしてお酒を飲むことが出来て、本当に嬉しいよ」


 一滴も飲んでいないのに、元木が感慨深そうに語り始める。

 それを見た隼斗は心配になり、元木のグラスを覗いた。


「そりゃあ、10年も経てばそうなるよ。てか、元木さん飲んでないよな?」

「10年か・・・早いね。そりゃ、みんな恋人もできるよなぁ・・・」


 その言葉で思い出したのか、元木はハッと目を見開き、唐突に明日香に向かって言い出す。


「ところで明日香、さっきの空港での話の続きだけど」

「えっと・・・さっきのって・・・?」

「市木くんが2番目なら、1番目の彼氏はどうしたのって話。まさか、僕に言えないような人なの?」


 元木がそう言うと、僚は明日香を庇うようにして力強く答えた。


「元木さん、俺です」

「え?」

「俺が、明日香と付き合っています。あと、1番とかではなく、俺だけです」


 僚が元木に対してまっすぐに宣言する。その様子を他のメンバーは固唾を飲んで見守っていた。


「え・・・と、僚と明日香が付き合ってるの? ・・・・・・いつから?」

「明日香が留学から帰ってきて、すぐです。元木さんにはずっと言おうと思ってたんですけど、なかなか言えずに遅くなってすいません・・・・・・」


 僚の話を聞いた元木は、今までの様子を思い出し納得する。


「そう・・・わかった。まあ、お前たち2人は昔から仲良かったし、そうなってもおかしくないとは思っていたけどさ、なんだか複雑な気分だなぁ・・・」


 元木はなぜ自分がこんなに戸惑っているのか、いまいちピンとこない。

 でもそれを隼斗が解決してくれた。


「この間さ、俺たちの両親に僚が挨拶に来たんだけど、父さんもだいぶショックだったみたい。子供の頃から知っている僚が明日香を奪いに来たって、酔っぱらって騒いでさー。元木さんの気持ちも、それに近いんじゃない?」


 元木は隼斗にそう言われて納得する。

 明日香や深尋に対して寂しいと思うのは、親心からくるものなんだと。同性である僚、隼斗、竣亮、誠に対する思いとは全く別のものだった。


 もし自分が結婚して家庭を持ち、娘が生まれたとしたら、こんな気持になるんだろうなと容易に自分の中で想像できた。


「そうか、隼斗。なかなか鋭いこと言うな。そうだよ、僕はいつの間にか娘を奪われた父親の気持ちになっていたんだなぁ。ということで僚、明日香を大事にしないと外歩けなくなるぞ。あと、木南くんだっけ? 君も深尋のことよろしくね。みんな僕の大事な子たちだから」


 元木が僚と木南にそう忠告する。


「大丈夫です。もう傷つけないって約束したので」

「もちろん。僕も大切にしますよ」

 

 それを聞いた元木は安心からか、ホッとした表情を浮かべながら僚と明日香をからかってきた。


「それにしても僚と明日香は、中3くらいの時はお互い全然意識していなかったのに、いつの間に気持ちが芽生えたんだかねぇ」

「中3の時? なにかあったっけ?」


 明日香はすぐに思い出すことが出来ず、僚に顔を向ける。


「あー・・・たぶんあれだよ。みんなで夏休みに海に行って、俺と明日香でイチゴのかき氷食べたろ? そのことだと思うよ」


 僚はその時の事をよく覚えていた。なぜなら、自分が最初に明日香を意識したのがあの日だったと気づいたから。

 そして僚の話に元木もそう、それ! と興奮する。


「あの時、お互いに意識しないのかって聞いたら、2人とも全然そんなこと思ってなさそうだったし、そういうものかぁって思ってたんだけど、そのあとちゃんといろいろあったんだねぇ・・・」


 と言いながらニヤニヤ笑う。


「まぁ、はい。そうですね・・・」


 その辺にはあまり触れてほしくないなと、僚と明日香、そして市木は思い返す。しかしそうはいかないのが元木だ。


「ところで、市木くんが2番目って言うのはどういうこと?」


 触れてほしくないのに触れてくるよなぁと、僚は心の中で溜息を吐きながらも、あの発言をそのままにしておくわけにはいかないため、結局説明することにした。


 僚は元木に、市木がしつこく明日香に言い寄っている状況を伝えると、市木が突然、初対面の元木にお願いがあると言い出す。


「マネージャーさん、明日香ちゃんが葉山と付き合っても、2番目は俺であることは変わりないので、どうかお許しくださいっ!」


 少しほろ酔いだからか、市木はまたしょうもないことを元木に頼み込む。

 元木は、まだ若い男女のことを応援したい気持ちが込み上げてきて、しまいには市木の存在を許すことにした。


「まあ、人を好きになるのは自由だから止めないけど、僕たちの仕事の邪魔はしないでくれよ?」

「はいっ! ありがとうございますっ!」


 そうしてなぜか、2番目の男として市木は元木に認められる形となる。

 僚としては納得いかないが、市木が勝手に2番目だと言っているだけなので、自分が明日香を守っていけばいいと心に固く誓った。


「じゃあ、若者たち。おじさんはこれで失礼するよ」


 日もとっぷりと暮れ、元木は1人ホテルへ帰ることに。


「元木さんは、明日帰るんですよね」

「そうだよー。やること山積みだからね。お前たちもここで息抜きしないと、帰ったらレコーディングも始まるし、新しい振り付けも覚えないといけないし、MVの撮影もあるからね。覚悟しておくように」


 レコーディングと聞いた6人は一気に憂鬱な気分になる。buddyの音楽プロデューサーであるEvanのレコーディングは、長くて厳しくてそしてねちっこいからだ。


 だけど、そのEvanの指導のお陰でここまでヒットしたのは間違いがないし、いまさら他の人に楽曲を提供してもらおうとは思わない。


 それをわかっている6人は、これから忙しくなる前にこの楽しい時間を心ゆくまで楽しむことにする。


 そうして元木は、言うだけ言って一足先に帰って行った。


 お腹も満たされたころ、みんなで買ってきた花火をすることに。

 バケツに水を用意し、着火ライターで火をつける。


 深尋の花火に木南が火をつけると、


「ふわあああっ!」


 と、筒から飛び出す色とりどりの火花に興奮気味だ。

 その顔が見れただけで、木南は嬉しかった。


「光太郎くんにも、火、あげる」


 そういって深尋が近づいてきたので、木南も深尋に近づき、花火の火を貰う。木南は花火の光に照らされている深尋の顔を見て、思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、今日はまだ我慢だと自分に言い聞かせる。


 明日は2人だけで過ごせるのだからと、これまで我慢してきたことを無駄にしないようにぐっとこらえていた。


 その頃、隼斗、誠、竣亮は噴出花火に火をつけようとしていた。


「来るぞっ!」


 導火線に火をつけ、全員で一斉に後ろへ下がると、シャーーーッと色とりどりの炎が噴出し、それは1メートルほどまで上がるとすぅっと儚く消えていった。


「・・・なんか、あっけないな」

「もっとドンパチするのかと思った」

「いや、それはもう花火じゃないよ」


 そこへ市木がやってきた。


「番犬くんたち、楽しんでるねぇ」

「ああ? 当たり前だろ。沖縄まで来て楽しまないでどうするんだよ」

「彼女がいたらもっと楽しめたのにね~」


 市木が地雷を踏むと、めずらしく誠が市木に詰め寄ってきた。


「市木・・・・・・俺はな、美里にかれこれ10日以上会えていないんだ。だから次そんなこと言ったら、何するかわからんぞ・・・・・・」


 市木は誠の背後にゴオオオオオと、花火以上の炎が上がっているように錯覚する。完全に美里不足の禁断症状が出ていた。


「ご、ごめんね? まこっちゃん・・・」


 さすがの市木も誠の迫力にたじたじだ。


「ところでさ、明日はどうするの?」


 竣亮が3人に明日の予定を尋ねてきた。


「とりあえずレンタカーを借りに行って、それからだな」

「市木は沖縄に何度も来てるんだろ? どこかおすすめスポットとかないの?」


 隼斗にそう聞かれて、市木はキョトンとする。


「え? 俺、明日は明日香ちゃんと・・・」

「バカかお前。お前は俺たちとずっと一緒に行動するんだよ」

「市木くん、聞いてなかったの? 明日はあそこのカップルたちとは別に行動するんだよ」

「ちなみに、あいつらはホテルも予約済みだぞ」


 その誠の一言を聞いた市木は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受け、真っ青な顔になる。


「う、う、嘘だ‼ 嘘だと言ってくれ‼」

「嘘じゃねえよ。もういい加減諦めろ」


 隼斗はもう何度となくやってきたこのやりとりも久しぶりだな、なんてことを思いながら市木に最終通告をする。


「いいか、明日であの2人はようやく、身も心も結ばれる予定だ。そのためには誰にも邪魔はさせない。特にお前。わかったな?」


 涙目の市木は、がっくりとうなだれる。


「・・・・・・じゃあ、明日の夜、3人で俺のこと慰めてね」


 小声でぼそぼそと市木が言うと、


「ああ、付き合ってやるよ」


 と隼斗が返事をする。

 やっぱり、なんだかんだ仲がいい2人だった。

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