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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
73/111

72. 夏の計画

 7月1日。この日、GEMSTONEはbuddyに関する新たな情報を公開。

 12月1日にbuddyのメンバー全員の名前、顔をすべて公表するとともに、メディア出演を解禁するというものだった。


 この情報はファンクラブの公式サイトをはじめ、動画配信サービス、SNSを通じてテレビなどのマスコミなどで大きく報道され、瞬く間に拡散。

 そして2週間後には第3弾の重大発表があると告知し、ファンのみならず、若者を中心とする世代の関心を一気に集めた。


 buddyに興味があるのは同業者であるアーティストや、芸能界の関係者も同様だった。


「ここまで隠しておいたのに、いまさら出してくるなんて」

「どうせ大したことない奴らだろ」

「いま騒いでいるだけで、そのうち飽きるだろ」


 と、心無いものもあれば、


「どんな人たちか楽しみ」

「共演したい」


 など、歓迎するものまで、様々な反応があった。


 この発表を受け、GEMSTONEにはbuddyへのオファーが一気に増加。

 音楽番組を始め、バラエティーやCMなど数多くのオファーがあり、元木はその一つ一つを吟味し、受けるもの、受けないものを選択していった。


 レッスン日のこの日。

 6人はダンスレッスンを終え、次のボイトレが始まるまで休憩していた。


 パシャッ、パシャッ


 6人は休憩中、水を飲みながらレッスン室の床に座り込んで、みんなでくだらない話をしていることが多いのだが、今日はいつもと様子が違う。


 パシャッ、パシャッ


 6人が集まっている場所よりも少し離れたところに、カメラマンとその助手がおり、ひたすら6人を撮り続けている。

 しかも休憩中だけではなく、レッスン中からずっと撮られていた。


「なんか・・・慣れてなくて、居心地が悪すぎる」

「盗撮? ではないけど、ちょっとね・・・」


 隼斗と明日香が苦笑いをする。


 このカメラマンは、12月1日に最新曲と一緒に発売されるbuddyの素顔を撮った写真集のために撮影をしているのであって、決して盗撮ではない。


「buddyのみなさん、表情が硬いですよ。もっと自然体で、普段通りにお願いしまーす」


 そんなことを言われても、撮られてるのをわかっているのに、自然体なんかムリムリ! と、6人は目だけで会話する。こんな特殊な状況は初めてなので、戸惑うのも無理はない。


 するとレッスン室に元木が入ってきた。

 常に笑顔の元木だが、今日はいつにも増して楽しげで、それが逆に怪しく感じる。


「あ、みんなお疲れさま。休憩中だけど、ちょっといいかな?」

「なにかありましたか?」


 怪訝な顔で僚が尋ねると、元木はフッフッフッと笑い、


「8月5日から11日まで、沖縄に行くぞ‼」


 と叫ぶ。当然6人の頭の上には???が並んだ。


「元木さん、旅行にでも行くの?」

「なんだよ自慢か?」

「え・・・わざわざ自慢したくて来たの?」

「そうだよー。私たちは夏休みに入ったらレッスン漬けになるのにぃ」


 ブーブー文句を言う6人に元木が、


「違うよっ! 僕も行くけど、君たちも行くのっ! いまやっている写真集の撮影と、プロモーションビデオの撮影だよ。あと、最後の3日間は自由行動していいよ。事務所からのプレゼントだ。ただし、ハメを外さないようにな」


 そう説明された瞬間、6人は大きな声で喜んだ。


「え⁉ ほんと⁉」

「やったー‼ 沖縄‼」

「初めて行くよー! 明日香どうする? どうする?」

「ど、ど、どうしよう・・・?」

「久しぶりに焼けるな」

「でたよ、誠の天然日サロ」


 など、思い思いに喜び興奮が隠せない。もちろん、その様子もカメラマンにしっかり撮られていた。


 そんな中、僚が少し冷静になって元木に質問する。


「元木さん、最後の3日間って、どうしたらいいんですか? 例えば宿泊先とか」

「ああ、別に事務所で用意してもいいけど、お前たちがどこに行きたいかだよな。自分たちで予約するならそれでもいいけど、ただ、夏の沖縄は人気だからな。早めに取らないとダメだぞ」


 それを聞いて頭に浮かんだのは、美里を、芽衣を、木南を、葉月を呼べるかも・・・ということだった。そしてその表情を元木は見逃さなかった。


「はっはーん・・・さてはお前たち、最近妙に色気づいていると思ったら、そういうことか」


 子供の頃から知っている元木には、隠してもいろいろと感づかれていたらしい。


「まぁ僕もさ、鬼じゃないし年頃の君たちに恋愛するなとは言わないよ。そりゃあ、沖縄で3日間1人で寂しく過ごすよりは、恋人を呼んで一緒に過ごしたい気持ちもわかる。そこは目をつぶってあげる。た・だ・し!」


 6人は元木の次の言葉を待つ。そして元木は6人にだけ聞こえるように、小声でひとこと。


「ちゃんと、避妊はするように」


 と言った。


 突然出された強烈なワードに、誠以外の5人は唖然とする。


「なんだい? 当たり前のことだよ。もしそんなことが表沙汰になったら、いま決まっている仕事も、全てパーになる可能性だってあるんだ。自分だけじゃなく、自分以外の仲間、事務所のスタッフ、レコード会社やEvan先生、迷惑をかける人を挙げたらキリがないくらい、いま君たちに関わっている人間が多いんだ。それを頭に置いた上で、ちゃんとするようにって言ったんだよ」


 6人は至極真っ当なことを言われて、納得する。

 そして、言うだけ言って元木はレッスン室を出て行ってしまった。


 この後6人の空気がぎこちなくなったのは言うまでもない。


 その日のレッスン終了後、今日元木に言われたことを相談するため、急遽いつもの個室創作ビストロへやってきた。

 夕飯をそこで取りつつ、作戦会議だ。


「みんな、それぞれ呼ぶのか?」


 僚が、隼斗、深尋、誠、竣亮に尋ねる。


「来れるかどうかわからんけど、声は掛けるよ」

「俺も」


 隼斗と誠は誘うつもりらしいが、竣亮は違うようだ。


「僕は、葉月先輩が大学院の受験を控えているから、邪魔しないでおこうかなって思ってる」

「あ、そうか。そうだったな」


 竣亮には気の毒な話だったなと反省する。

 浮かれてしまって周りが見えていなかった。


「でも、それが終わったら、どこかへ連れて行ってあげようかなって思ってるよ。だから気にしないで」

「うん。葉月さんも、きっと喜んでくれるよ」


 明日香がうまくフォローする。本当こういうのが上手いよなと、僚は改めて思った。


「深尋は? 木南くん誘うの?」

「うーーーん」


 明日香に聞かれた深尋は悩む。なぜなら、まだ何の進展もないからだ。

 それなのに旅行に誘うのはおかしいんじゃないかと思ってしまった。


「なに、深尋。木南に何かされたのか?」


 僚が心配して聞いてくる。


「ううんっ! 何も、ないよ」


 そう、何かされるどころか、何もないのだ。だからこんなに悩んでる。


「深尋、木南くん誘ったら? 喜ぶと思うよ」

「・・・え?」

「だって、好きな子から旅行に誘われて、嬉しくないわけないじゃない」


 そういうと明日香は、ねえ? と男4人に同意を求める。


「ん、まぁ、誘われたら嬉しいよな」

「そうだな。普通に深尋が言ったら喜ぶと思うぞ。あいつ重いし」


 誠がそういうと、僚と隼斗がしっ! と誠を窘める。

 しかしそれに気づいていない深尋は、木南を誘ってみることにした。


「僚と明日香はどうすんの?」


 隼斗に聞かれて、2人で顔を合わす。


「どうすんのって、まだ、なにも決まってないけど・・・・・・」

「ならさ、2人だけでゆっくりしたらいいじゃん。いつも俺らといて、2人っきりになることなんてないだろう?」


 隼斗がそういうと、竣亮と誠も乗ってきた。


「そうだよ。向こうで思いっきりデートしたらいいんだよ。12月になったら、それも出来なくなるし」

「そうそう。僚の限界も近いみたいだしな」


 そういう誠に今度は竣亮まで加わって、しぃーっ! とする。

 明日香と深尋は「何してんの?」という顔で、男たちを見ていた。


 その日の夜。深尋は家に帰った後、木南に電話を掛ける。


『もしもし、深尋ちゃん。お疲れさま』

「あ、光太郎くん。お疲れさま。いま、大丈夫?」

『うん、大丈夫だよ。どうしたの?』

「実は・・・」


 それから深尋は、写真集の撮影で沖縄に行くこと、最後の3日間は自由行動だということを説明する。


「それで、もし光太郎くんが良ければ、遊びに来ないかなぁって」

『深尋ちゃんは、どうしたい?』

「どう、って・・・」

『僕に来てほしい?』


 そこで深尋は言葉に詰まる。自分が誘ってるのに、木南はなんでこんなことを言うんだろうと思ったからだ。

 でも、聞かれているからには、答えないといけない。


「私は・・・光太郎くんが来てくれたら、うれしい・・・・・・」


 すると、電話越しにふふっという木南の笑う声が聞こえてきた。


『わかった。せっかくの深尋ちゃんのお誘いだし、行くよ』

「・・・ホントに⁉ 来てくれるの⁉」

『うん、行くよ。深尋ちゃんが誘ったんでしょ?』

「そうだけど、嬉しくて・・・」

『そのかわり深尋ちゃん、ちゃんと心の準備はしておくんだよ』

「心の準備?」

『そう。2人だけで旅行するっていうことが、どういうことかわかってるよね?』


 木南に言われて、深尋はハッと気づく。

 みんな、それぞれ恋人がいて、竣亮以外はその恋人と沖縄で過ごそうとしている。ということは、必然的に自分も木南と2人だけになる。


 しかも、ホテルは自分たちで予約するって言ってたし、ホテルの部屋も木南と同じ部屋・・・?


「あ、あ、あのっ、光太郎くん・・・」

『やっぱり無しは無しだからね? 深尋ちゃんが僕を誘ったんだから、ちゃんと最後まで責任を取ってくれなきゃ、ね?』


 電話越しにもわかるほど深尋は動揺し、木南はそれを楽しんでる。

 深尋にとって、写真集撮影どころの話ではなくなってきた。

 早く明日香に相談したい。そればっかりが脳内を駆け巡っていた。


 結局、美里はインターン参加のため、芽衣は夏休み明けの実習の準備と、病院へのインターンのため、沖縄に行くことが出来ないという返事だった。

 隼斗と誠は2人が来れないことは残念がっていたが、竣亮を1人にすることにならなかったので、これはこれで良かったと納得する。


 7月14日。GEMSTONEからbuddyに関する追加情報、第3弾が発表された。


 12月1日に最新曲と本人たちが登場するMVの公開、そしてbuddyの素顔やレッスン風景などを載せた写真集を発売するというものだ。

 それと同時に、デビュー曲からまた注目されるようになり、人々の関心の高さが窺える。


 そしていよいよ、沖縄へ行く日がやってきた。

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