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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
71/111

70. 女子会と男子会

 ピンポーン。

 明日香の部屋のチャイムが鳴ると、明日香の代わりに深尋が玄関のドアを開ける。そこには竣亮と葉月が立っていた。


「あ、葉月さん、いらっしゃーい」


 深尋が笑顔で葉月を迎える。


「本日は、お招きくださり、誠に嬉しく・・・・・・」

「先輩、堅いですよ。大丈夫です」


 部屋に案内した竣亮が声を掛けるが、あまり緊張はほぐれていない。

 まあ、あのカラオケボックスから2週間しか経ってないし、しょうがないかと薄く笑う。


「それじゃあ深尋、先輩のことお願いね」

「わかったー任せて。竣亮たちは男同士で集まるんでしょ?」


 深尋にそう言われて、竣亮は浮かない顔をする。


「そうなんだけど、集まる名目が【市木颯太を慰める会】だから・・・」

「うわーーめんどくさそう・・・・・・」


 正直に顔を顰める深尋を見て、竣亮も苦笑いだ。


「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃーい」


 バタンッとドアが閉まると、葉月はいよいよ逃げられないと覚悟する。

 深尋に案内されて葉月が部屋に入ると、そこには明日香以外に美里と芽衣もいた。


「葉月さん、いらっしゃい」


 明日香がキッチンから出てきて挨拶する。


「はうっ、あ、あの、本日はお招きいただき・・・」

「やだなぁ葉月さん、そんな挨拶はなしなし。あと、2人紹介するね」


 明日香が葉月をキッチンに招き入れると、エプロン姿の美里と芽衣が立っていた。


「こちらは誠の彼女の立花美里さん。こちらは隼斗の彼女の長瀬芽衣さん。みんな葉月さんより1個下だし、気軽に名前で呼んでね」


 明日香に紹介された美里と芽衣も、葉月に初めましてと挨拶する。


 葉月はここに来る前に、竣亮からbuddyについていろいろ教えてもらっていた。

 まず、メンバーの名前から始まり、隼斗と明日香が双子の姉弟であることや、その明日香と僚が付き合っていること、みんなそれぞれ恋人がおり、その人たちとも仲良くしていることなど、葉月にとっては鼻血ものの情報ばかりだった。


 そして今日の女子会メニューは、ハンバーグカレーとポテトサラダ、そしてコンソメスープだった。


 ハンバーグは深尋、カレーは美里、そしてポテトサラダは明日香と芽衣が担当している。芽衣は隼斗のために明日香からポテトサラダを教えてもらうため、そばについて一生懸命メモを取っていた。


「葉月さん、実はもうほとんど出来上がっていて、あとスープだけなんです。お願いできますか?」


 明日香が葉月にお願いすると、葉月はラジャー! とばかりに早速手を洗い、準備に取り掛かる。


 コンソメスープにスライスした玉ねぎを入れるのが明日香のこだわりらしく、葉月はプルプル震える手で包丁を握った。


「葉月さん、大丈夫ですか? 私やりましょうか・・・・・・?」


 今から誰かを刺すのか? というくらい葉月は震えていて、このままでは指でも切ってしまいそうだ。


「だ、だ、大丈夫で・・・すっ」


 ダンっと振り下ろした包丁は、玉ねぎのスライスどころか、真っ二つにしただけだった。

 結局、葉月の様子から怪我をしたら大変だということで、カレーを作り終えていた美里がスープを作ることに。葉月は盛り付けの担当となった。


 そして出来上がった料理を次々と並べ、ガラステーブルを5人で囲む。

 今日は新生女子会の誕生ということで、甘めの飲みやすいワインも用意した。


「新しい女子会を祝して、かんぱーい!」


 女子だけのにぎやかな会が始まった。


「葉月さん、竣亮とはどうやって出会ったんですかー?」


 早速深尋が葉月に質問をぶつけてきた。


「学校の図書室で声を掛けられて・・・・・・」

「えぇ!? 竣亮が声を掛けたんですか!?」


 4人は予想もしていなかった事実に目を見開く。竣亮が見知らぬ女性に声を掛けるなんて考えられないからだ。


 それからのいきさつや、仲良くなったきっかけなどを聞くと、なるほどと納得する。そして、去年のファンクラブイベントに一緒に行ったことを話すと、さらに驚かれた。


「竣亮、よく行ったね」

「逆に楽しいかもね」


 などと、明日香と深尋は言ってくれたが、葉月はこればっかりは竣亮に対して申し訳ないと反省した。竣亮は、


「先輩は知らなかったんだし、気にしてないよ。行くことを決めたのは僕だから」


 と言ってくれたことが、唯一の救いだった。


 それが今では、異性として見るようになり、相手も自分を好いてくれている。どこにそんなきっかけがあったのか見当もつかないが、これまで生きてきた中で一番幸せなことには間違いなかった。


「明日香はさー、やっと想いが報われて良かったよー」

「本当、そうだよね。付き合うのかと思ったら、明日香が留学しちゃうし、こんなにやきもきしたの、生まれて初めてだった」


 明日香は、深尋と美里に詰められ肩を竦める。


「うぅ・・・ごめんなさい・・・」

「まぁ全部、僚が悪いんだけどね」


 深尋はグビッとワインを飲む。


「え、どうして葉山くんが悪いの? あんなに市木くんと取り合いしてたのに」


 芽衣は留学前の2人を知らないから疑問に思ったのだろう。

 なので、深尋がそれ以前の話を簡単に話すと、


「うわぁ・・・明日香、本当によかったね・・・・・・」


 と慰められた。


 確かに苦しい思いをしたが、いまはお互いの想いも通じたし、何よりも僚がとても大事にしてくれているのがわかる。

 だから、明日香も過去のつらいことを乗り越えることが出来た。


 美里も両親に誠を紹介したそのあとの話をしたり、芽衣は隼斗とのことを話す。それを明日香は聞いていられなかった。身内の恋バナほど恥ずかしいものはない。


「深尋は? 木南くん優しい?」

「うん・・・優しいよ」


 そういう割には声に元気がない。


「どうしたの? 深尋。何かあった?」


 深尋はここ最近、木南とのことで悩んでいることがあった。でも、それを言うべきかどうか悩んで、もじもじしている。


「深尋ちゃん、1人で悩んでいると、いろんなことを考えちゃって、結局悪い方へ進む場合もあるんだよ? だから、私たちに話してみて。ね?」


 美里に説得されて、深尋は思い切って悩みを打ち明けた。


「あのね、光太郎くんと付き合って4か月なんだけど、まだね・・・その・・・キスもしてないの・・・。やっぱり私が子供っぽいから、そんな気にならないのかなーとか考えちゃって・・・・・・」


 深尋が打ち明けた悩みが、思った以上に深刻で、みんな言葉が出ない。


 1か月くらいならわかるが、4か月ともなるとさすがに別のことを疑ってしまう。

 でもいま口を開いて憶測だけで何かを言って、逆に深尋を傷つけてしまうんじゃないかと考えてしまった。

 すると、一番付き合いの長い明日香が深尋にアドバイスする。


「深尋、それは私たちが今ここでどうこう言って解決する話じゃないよ。こういうことこそ、木南くん本人に言わないとダメだよ。深尋が不安に思ってること、木南くんに対する気持ち、全部素直に話しておいで。木南くんはちゃんと聞いてくれると思うよ」


 明日香に諭されて、深尋はうんと頷く。

 深尋だって木南との関係を進めたい。そのためには木南と本音でぶつからないといけないことはわかっている。その後押しが欲しかったんだ。


 そう自分に言い聞かせて、今度木南に話してみることにした。


「そういえば、芽衣。隼斗から聞いた?」

「ん? なにを?」


 明日香に聞かれても思い当たることがないので、聞き返す。


「いやぁ、うちのお母さんが、隼斗に彼女を紹介しなさいって言っててさ。なんか私も僚と付き合っていることがすぐバレちゃって。私と隼斗に今度連れてこいってうるさくてさ・・・」


 隼斗の母親がそんなことを言っているとは思わず、芽衣はわかりやすく動揺した。


「え・・・明日香、おばさんが気づいたってことは、おじさんも・・・?」

「あ、うん。お父さんも知ってるよ」


 それを聞いた深尋は、明日香の父親に同情する。溺愛する娘に彼氏が出来て、しかもそれが子供の時からよく知る人物だったと思うと、同情するしかなかった。


「おじさんショックだっただろうなー」

「まあ、少し固まってはいたけど。お父さん、僚のこと子供の時から知ってるし、大丈夫じゃないかな。問題は芽衣だよ。うちのお母さん、何言いだすかわからないから」


 それを想像するだけで辟易する。


「明日香たちのお母さんって、そんなに怖いの・・・・・・?」


 まだ見ぬ母親の姿を想像して、芽衣は不安になった。


「あははっ、芽衣大丈夫だよ。怖くないよ」

「そうそう。ただ、おばさんの方はちょーっとミーハーというか・・・ねぇ?」


 我が母のことながら、反論できないのが悔しい。


「もし不安なら私と僚も日にちを合わせて一緒に行こうか?」


 そう明日香から提案されると、芽衣は目を輝かせて、


「ぜひ! 一緒に! お願いっ!」


 と、逆に懇願された。


「わかった。実家にも聞いて、隼斗から連絡させるね」


 そうして芽衣にとって初めての、藤堂家訪問が決まった。


 その後も、女子会らしく終始恋バナに花が咲く。

 葉月はほとんど聞き役になっていたが、それでも初めて同性の友達と過ごす夜は、自分が思っていた以上に楽しかった。


 一方、男子の方はというと―――


「うぅっ・・・、明日香ちゃん・・・・・・」


 市木がバカな飲み方をして、早い時間には完全に酔っぱらっていた。


「おい、人の彼女の名前を気安く呼ぶな」


 僚に言われて、市木はとろんとした目で睨む。


「なんだよ葉山。お前はただ、ぐずぐずぐずぐずしていただけのくせに、横から取りやがって・・・・・・」


 さっきからこの調子で、ずっと僚に絡んでいる。

 隼斗、誠、竣亮、木南はほとんど放置していた。


「こんなことならあの時、明日香ちゃんのファーストキスを貰っておけばよかった・・・・・・」


 そう言った瞬間、僚がいつかの隼斗のように般若の顔になる。


「俺はな市木、未遂とはいえ、あの行為を許してないぞ。本当にしてたら、俺はお前に何するかわからんからな」


 そんな風に凄んでも、相手は酔っぱらった市木だ。そんなこと何とも思わず、ふんっとそっぽを向く。それがまた僚をイラっとさせた。


「でもさ市木、お前女の子には困ってないだろう? なんでそんなに、彼女に執着しているんだ?」


 木南が市木に素朴な疑問を投げかける。

 それは僚もずっと思っていたことだ。特に大学入学以降は、明日香にアプローチをしたかと思えば、次の日には別の女の子とデートをしたりしていた。


 高校の時に、カラオケボックスで真剣な顔で明日香のことを本気だと言っていたのに、気づけばまた以前のような軟派野郎に戻っていた。


 あの頃はまだ明日香に対しての誠実さが見えたのに、いまはアプローチをしている裏では遊んでいる。だから市木にだけは明日香を渡したくなかった。


 すると酔っぱらっているからだろうか、市木が普段は見せない本音をポツポツと話し出した。


「だってさ、高校1年の時に明日香ちゃんに出会って、ほとんど一目惚れだったんだ。それまではいい加減な付き合いしかしてこなかったけど、俺の胸を鷲掴みにしたのは明日香ちゃんが初めてだった。だから必死だったし、葉山に負けたくないと思った。初めて女の子に自分から告白して、フラれて、だけど諦めきれなくて・・・・・・」


 市木はテーブルに顔を突っ伏したまま、なおも話を続ける。


「明日香ちゃんはあの頃から葉山が好きだったし、葉山と付き合うのも時間の問題だと思っていたけど、肝心の葉山がぐずぐずしているから、まだチャンスがあるって思ったんだ」


 そこで、それまで黙って市木の話を聞いていた隼斗が口を挟む。


「でも、いまはお前、遊びまくってるじゃん。言ってることとやってることが矛盾してるぞ」


 隼斗にそう言われて、市木はガバッと顔を上げる。

 その顔は酔っぱらってなのか、それとも別の理由があるのか、真っ赤だった。


「俺は別に遊んでなんかいない。確かに女の子に誘われて2人になることはあったけど、それは別にそうしたくてした訳じゃない。気づいたらそうなってた、っていうシチュエーションがほとんどだ。あと、その子たちとキスしたこともなければ、体の関係を持ったこともない!」


 市木は顔だけではなく、目も赤くしながら自分の本音をぶつける。


「それにさ、番犬くん達もわかってただろう? 明日香ちゃんと葉山がお互いに想い合っていることがさ。俺の入る隙なんかこれっぽっちもなかったんだ。あのグランピングに行った時、イヤというほど痛感させられた。それでも好きなものは好きで、どうしようもなかったんだ・・・・・・!」


 普段チャラチャラしている市木が、ここまで本音で話すことは今まで一度もなかった。だからなおさら真剣さが窺えた。


「お前の気持ちはわかったよ市木。明日香に真剣なことも」


 僚は向かい側に座る市木の気持ちを本当の意味で認めようと思い、歩み寄る態度を見せる。


「・・・・・・じゃあ、明日香ちゃん俺にちょうだい?」


 前言撤回。こいつはやっぱりクズだ。


「はぁ? お前にはやらんって、何度も何度も言ってるだろ!? お前、医者になる頭はあるのに、そんな簡単なことも覚えられんのか!?」


 再び般若が現れる。結局はコレの繰り返しだ。


 でも市木にとって明日香を忘れるためには、こんな風にふざけるのが丁度良かったのかもしれない。

 僚と市木の攻防が始まると、隼斗、誠、竣亮、木南は我関せずで、4人で飲み始めた。


「君たち、あの2人のあれをずっと見てきたんでしょう? 大変だね」


 木南が3人を憐れむ。


「でも、あの2人に隼斗くんも入っていたよね」

「隼斗は生粋のシスコンだから」

「おいっ! 誠っ! 俺も久しぶりに言われたわ、それっ」

「まあ、隼斗がシスコンなのは気づいてたよ」


 木南はゴクンと、ビールを飲む。


「え!? いつから・・・?」

「割と最初から。もしかして、あれでバレてないと思ってたの?」


 木南と最初に会ったのはあの忌々しい合コンの時だ。

 でも裏を返せば、あれがなければ芽衣とよりを戻すこともなかっただろう。


「市木のあれは、俺らの風物詩だと思ってるよ」

「そんな、花火じゃあるまいし」

「慣れればある意味花火より楽しいよ」


 それから4人で横を見ると、今度は市木が僚にキスさせろと迫っている。

 明日香と直接キスできないなら、僚とキスして間接キスをしたいと言っているようだ。


「木南、お前んとこの医学部大丈夫か?」

「ははっ、たぶん大丈夫だよ」


 木南の乾いた笑いが何とも切ない。

 そうして男たちの夜も更けていった。

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