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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
70/111

69. 告白の報酬

「竣亮くん!!」


 6人は突然掛けられた大きな声に驚く。声のする方を見ると、葉月が立っていた。


「葉月先輩・・・・・・」


 3か月前とほとんど同じシチュエーションだ。しかし、違うことが一つある。

 それは、buddy全員が揃っていることだ。


 明日香と深尋は、竣亮が口に出した葉月の存在を知らない。失恋した相手だなんて、思いもしないだろう。

 しかし男子4人は竣亮から話を聞いていたので、葉月先輩という名前にすぐ誰のことだかわかってしまった。


「話があるんだけど・・・」


 猪突猛進の葉月らしく、竣亮の姿を確認したとたんに声を掛けたはいいものの、周りをよく見ると、竣亮に見せてもらった動画の人達が一緒にいることに気づく。


(つまり、この人達がbuddy・・・!?)


 それを自覚した瞬間、どうしようっ!? と焦りだす。

 そんな1人で赤くなったり、青くなったりしている葉月を見て、僚が竣亮に声を掛けた。


「竣、話があるみたいだし、行って来たら?」

「でも僚くん、僕まだ心の準備が・・・」

「なんだよ竣亮、いつでも行けるように準備しとけよ」

「うぅ、隼斗くん無理だよ・・・」


 竣亮はすっかり怖気づいてしまっていた。


 葉月に一度フラれたあと、もう一度アタックすると決めていたのに、こんなに突然本人が現れると、やっぱり躊躇してしまう。

 その様子を見ていた葉月が、とんでもない提案をしてきた。


「竣亮くんが私と2人でイヤなら、皆さんもご一緒にいかがですか?」


 そう言われて竣亮以外の5人は「え・・・?」と戸惑い、肝心の竣亮までもが

「おねがいっ! みんな来てっ!」と懇願してきた。


 GEMSTONEの最寄り駅の反対側の出入り口にあるカラオケボックスに、buddyの6人と葉月はやってきた。

 別に歌いに来たわけではない。葉月と竣亮の話に、なぜか5人が巻き込まれただけだ。

 しかもこのカラオケボックスは、僚と明日香にも因縁のある店だった。


 部屋に入り、竣亮と葉月は向かい合わせに座る。そして、2人から少し距離をあけるようにして5人が座った。


「私、カラオケって初めてー」


 状況をよくわかっていない深尋は、初めて入るカラオケボックスに興味津々だ。


「しっ! 深尋。いまはそんな雰囲気でもないでしょ」


 明日香が深尋を制止する。

 しーんとなったところで、葉月が話を切り出した。


「竣亮くん、私ねこの3か月間ずっと考えていたの・・・」

「・・・・・・はい」

「まず、あなたを傷つけたことを謝るわ。本当にごめんなさい」


 そう言って葉月は竣亮に深々と頭を下げる。


「そんなっ! 先輩っ、頭を上げてくださいっ!」


 竣亮は立ち上がって葉月の肩を掴み、頭を上げさせる。

 久しぶりに葉月と正面から向き合った竣亮は、その顔を見て息を呑む。

 そこにはこれまで見たことのない、憔悴しきった葉月がいたからだ。


 傷ついたのは、傷つけられたのは竣亮の方だったはずなのに、自分よりも傷ついた顔の葉月を見て、竣亮は泣きたくなる気持ちがせり上がってくるのをぐっと堪える。


「私のあの言い方は本当にダメだったと思うわ。急に言われて驚いたとしても、あれはダメね・・・」

「そんなっ・・・」


 葉月は自分の気持ちを整理して、反省したのだろう。竣亮はそんな葉月だからこそ、好意を抱いたのだ。その部分がまた見れたことが内心嬉しかった。


「僕の方こそ、その、buddyのことを隠していてごめんなさい・・・」


 竣亮のその言葉を、5人も黙って聞いていた。


「竣亮くん、私はそれに関しては全然怒ってないわ。むしろ嬉しかったのよ。憧れのbuddyが、ずっとそばにいてくれたことが」

「・・・・・・本当ですか? 僕が、葉月先輩がファンだと知ってて近づいたんじゃないって、信じてくれますか?」

「ええ、信じているわ。あなたはそういう人じゃないもの。私も人が信じられないからって、あんなにひどいことを言ってしまって、本当にごめんなさいね・・・」


 葉月からの謝罪で、2人の間のわだかまりが1つ解消される。


「私ね、あなたがbuddyの一員だと知った時、本当にこれ以上近づいてはいけないと思ったのよ」

「・・・・・・はい」


 葉月はbuddyの熱狂的なファンであるが故、自分の信念を貫こうと、竣亮にわざと突き放すような言い方をした。

 いまはそれをとても後悔していて、悔やんでも悔やみきれないでいる。一度口から出た言葉は、簡単には取り消すことが出来ないから。


「でも結局、それはあなたを傷つけただけだった。buddyが好きだから、そのために自分の信念を貫き通したはずなのに、そのbuddyの1人であるあなたを傷つけてしまったのよ・・・・・・」


 葉月はbuddyを愛する気持ちと、自分の信念と、どちらが大切なのかずっと考えていた。

 そうしてやっと、一つの答えに辿り着く。


「buddyに救われて、buddyに生かされた私が、buddyを傷つけるなんて、浅はかな考えでしかなかったわ・・・。そんな信念、捨ててしまおうって」

「先輩・・・・・・」


 あの時、竣亮は確かに傷ついた。葉月にはっきりと線引きされて、拒絶されたのだから。


「竣亮くん、私はね、あのつらい経験をしてから人を信じることが出来ないし、ましてや、恋愛なんか縁がないと思ってきたの。でもね、あなたに好きだと言われたあの日から、あなたに近づいてはいけないと思うのに、あなたのことばかり考えるようになって、あなたのことを傷つけた私がこんなことを言う資格がないのはわかっているけど、どうしてもあなたのことばかり考えてしまうのよ・・・。それも、buddyのメンバーではなく、国分竣亮としてのあなたのことを・・・・・・」


 口調はいつも通りの葉月の口調で、言いたいことをつらつらしゃべっている。でもその内容は、竣亮にとって嬉しくて鳥肌が立つ様な内容だった。


 竣亮は再び立ち上がり、葉月のそばへ膝をついて座り込む。そして葉月の両手を握り、下から葉月を見上げた。


「葉月先輩、僕は確かに傷ついてつらかったけど、いまの先輩の言葉で、つらかったことがすべて吹き飛んでいきました。今度は僕が、先輩のつらさを少しずつでも吹き飛ばしていきたいです。だから、これからもずっと僕のそばにいてくれませんか?」


 竣亮のその言葉を聞いた葉月の目が潤む。

 イジメられている時でさえ人前で涙を見せなかった葉月は、初めて人前で涙を流した。


「私、邪魔にならないかしら・・・」

「邪魔ではありません。僕には先輩が必要なんです」

「でも、あなたを独り占めするのは・・・」

「buddyはみんなのものでも、国分竣亮は先輩だけのものです」

「本当に私なんかでいいの?」

「葉月先輩がいいんです。あと、なんかって言わないでください」

「私・・・・・・」


 竣亮は、まだ言い訳をしようとする葉月の唇に人差し指を当てて制止する。


「先輩、さっきの返事は?」


 葉月は少し目を泳がせた後、


「・・・・・・あなたの・・・そばに、いたい・・・・・・」


 と小さな声で返事をした。


 その瞬間、それを見守っていた明日香と深尋がなぜか号泣する。


「ゔぅぅ・・・・・・じゅん・・・ずけぇ・・・よがっ・・・たねぇ・・・・・・」

「やだ、もう竣亮、いつの間にこんなに男らしくなったの・・・?」


 号泣する深尋に「ほらよ」と、誠がティッシュを差し出す。

 一方僚は、明日香の涙を親指の腹でくいっと拭い、優しく見つめていた。


「はぁぁぁ・・・あっちでも、こっちでもイチャイチャしやがって・・・!」


 隼斗は右側に竣亮と葉月、左側に僚と明日香がおり、目のやり場に困っていた。そこで葉月が気づく。


「はわわわわっ! 私ってば、buddyのみなさんの前で、とんでもない失態を犯してしまったわ・・・!」

「大丈夫ですよ先輩。みんな僕の友達なので、先輩もこれから仲良くしましょう?」


 竣亮は当たり前のように言うが、葉月はそうもいかない。


「な、な、仲良く!? 私が!? バ、バ、buddyと!?」


 明らかに動揺して震える葉月に、竣亮はなおも続ける。


「先輩、buddyではなく、僕らと仲良くするんです。いまここにいる僕らはbuddyではなく、幼馴染の集まりですから」


 しかし、葉月の耳にはあまり届いていないようだ。

 そこで隼斗が口を出してきた。


「なぁ、竣亮。その先輩には荒療治が必要かもな」

「荒療治?」

「そう。例えば、1週間に1度は俺らと飯を食べるとか、とにかく積極的に俺らと関わってもらわねえと、いつまでたってもそんな調子だぜ?」


 それを聞いて深尋も便乗してきた。


「そしたらさー、今度の女子会に先輩もご招待するよー」

「あっ、それいいね深尋。竣亮との話も聞きたいしねー?」

「だそうです、先輩。いいですよね?」

「ふぇ? なにが・・・?」

「明日香と深尋が、先輩と友達になって、女子会にご招待するそうです。時間と場所が決まったら、僕が迎えに行きますね」


 竣亮は葉月の返事も聞かず、女子会への参加を決定する。

 いつも葉月のペースで付き合ってきたから、たまにはこういうことがあってもいいだろうと、竣亮は楽しくなっていた。


 そしてそのあとは、せっかくカラオケに来たんだから、歌わないと損だよねと誰かが言い出し、みんなで歌って、騒いで楽しんだ。

 自分たちの曲は誰も歌わず、自分の好きな曲をたくさん歌う。

 レッスンともレコーディングとも違い、何も気にすることなく歌うことは、いいストレス発散になった。


「先輩、楽しいですか?」

「ハイ、トッテモ・・・・・・」


 葉月は、目の前でbuddyが歌っているのがいまだに信じられない。

 そして気づけばもう終わりの時間。最後は葉月のリクエストで締めることにした。


「先輩、みんな先輩と仲良くなりたくて、リクエストしてくれたら何でも歌ってくれるそうですよ。何がいいですか?」


 竣亮にそう言われて葉月は迷わず、『さよならいつか』が聞きたいと言った。

 すると、先ほどまでわぁわぁ盛り上がっていた6人は、イントロが始まると急に真剣な顔をみせた。


 Aメロの歌い出しは僚のソロからだ。そのあとは隼斗、Bメロになると、明日香、深尋となっていく。そしてサビを6人全員で歌う。

 2番のAメロは誠からだ。そのあと竣亮、Bメロを僚と隼斗。サビを全員で歌っていく。Cメロを明日香と深尋で歌った後、大サビで竣亮が歌う。


『今は離れたあなたの心も 今は感じないぬくもりも 生きていればまた巡り合う あなたという奇跡に』


 葉月はその瞬間、涙が溢れて止まらない。

 ああ、本当に奇跡って起きるんだと、生きててよかったと、心の底から思った。国分竣亮という人と出会えて、私はなんて幸せ者だと、初めて抱く感情に心を震わせる。


 最後に6人が歌い終わると、言葉にはできないほどの多幸感で胸がいっぱいだった。


「みなさん、ありがとう。私のために・・・本当にありがとう」


 葉月がお礼を言うと、僚が葉月に話しかける。


「あの、葉月さん。これから竣亮のことよろしくお願いします。そして、buddyのことも」

「葉月さん、女子会、絶対来てくださいね」


 明日香も最後まで葉月を誘う。これから交流する気マンマンだ。


 こうして葉月は、大学4年生にして友達が一気に5人増えた。

 葉月の友達の人数としては、過去最高の人数となったのは間違いない。

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