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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
67/111

66. 全員集合

 明日香が留学から帰ってきた2日後。みんなで食事会をする日を迎えた。


「明日香ー。俺、彼女迎えに行くから先に出るな」


 隼斗が明日香の部屋の前でそう言うと、部屋の中から明日香が顔を出す。


「いいけど、私お店の詳しい場所聞いてないよ?」

「大丈夫だよ。6時になったらちゃんと迎えが来るから。じゃあな」


 隼斗は言うだけ言って、トントントンと階段を降りて家を出てしまった。


(隼斗のやつ、彼女が出来た途端これ?)


 明日香は内心で不満を漏らす。そうならそうと、前もって言ってほしかったのにと。


 とりあえず、残りの4人のうち誰かが来てくれるんだろうと思い、明日香は仕上げのメイクに取り掛かる。


 隼斗が出て行った30分後、玄関のチャイムが鳴り、母が対応する声が聞こえてきた。


(あ、来た!)


 明日香はバッグを持ち、すぐに1階に降りていく。


「明日香。僚くんが迎えに来たわよ」

「・・・・・・え?」

「明日香、準備できた?」


 玄関を見ると、黒のテーラードジャケットに白のTシャツ、黒のパンツというシンプルな装いの僚がひとりで立っていた。


「あ、うん。・・・僚ひとり?」

「そう。竣亮は学校終わりに直行するって言ってたし、あとはほら、それぞれ・・・・・・」


 そう言われて納得する。隼斗は彼女と、深尋は彼氏と、誠はもちろん美里と。


「俺ひとりじゃ、ご不満でしたか?」

「まさかっ、そんなっ」


 僚が意地悪っぽく言ってきたため、明日香は両手をブンブン振って否定する。

 その2人のやり取りを藤堂母は側でずっと、ニヤニヤしながら見ていた。


「はい、いってらっしゃい!」


 母に送り出されて、僚と2人で駅へ向かう。

 それはなんだかとても新鮮な気持ちだった。


 今日のお店は和食料理の居酒屋で、人数も多いため掘りごたつの個室が用意されていた。

 僚と明日香が到着した時には、すでに他の全員が2人の到着を待っていたようで、個室のふすまを開けた瞬間、深尋と市木の声が響く。


「あーっ! やっと主役が来たー!」

「明日香ちゃ~ん!! 会いたかったよ~!!」

「ご、ごめん、お待たせ。市木くん、久しぶり」


 僚と明日香は靴を脱ぎながら、みんなに挨拶をする。


「明日香ちゃんは、俺の隣ねっ」


 そう言って、市木が自分の隣の座布団をポンポン叩く。するとそこにすかさず僚が座った。


「明日香、ここ」


 僚はそのさらに隣に明日香を座らせる。位置的には、木南、深尋、明日香、僚、市木の並びだ。その向かい側に、隼斗、芽衣、美里、誠、竣亮と座っている。


「ちょっと、葉山。早速邪魔してくれるね」

「当たり前だろ。お前の隣にだけは絶対にしない」


 僚と市木がバチバチにやり合っているのを見て、向かい側に座っている誠と竣亮がやれやれと首を振る。


「かんぱーーい!」


 総勢10名の「明日香お帰りなさい会」が始まった。


「明日香、紹介する。俺の彼女の長瀬」


 隼斗に紹介された芽衣は、慌てて居住まいを正す。


「あ、あのっ、初めまして。長瀬芽衣です」

「こちらこそ初めまして。隼斗の姉の明日香です。同級生だし気軽に名前で呼んでね。私も芽衣って呼ぶから」

「えっ・・・いいんですか?」

「うん、もちろん! これからも隼斗ともどもよろしくねっ」

「・・・はいっ」


 気さくな明日香の言葉に芽衣はホッと一安心する。

 双子とはいえ明日香は隼斗の姉だ。第一印象を悪くするわけにはいかなかった。


「明日香ぁ、私も紹介するね・・・・・・」


 今度は深尋がモジモジしながら、初めてできた彼氏を明日香に紹介する。


「初めまして、木南光太郎です。葉山と市木とは高校と大学が一緒で、市木とは同じ医学部なんだ。よろしくね」

「初めまして、藤堂明日香です。あの、深尋のこと、よろしくお願いします」


 明日香はお母さんみたいだったかな? と思いながら、木南にペコっと頭を下げる。

 深尋の性格やこれまでの元木への想いがわかっているからこそ、深尋には幸せになってもらいたいという親友としてのお願いだった。


「うん、心配しなくても大丈夫だよ。ね? 深尋ちゃん」


 深尋の顔を覗き込むように木南が同意を求めると、深尋の顔が一瞬で赤くなる。明日香はなぜか、見てはいけないものを見た気がしたが、木南に大事にされている姿を微笑ましく見ていた。


「明日香、だし巻き卵食べる?」


 一通り自己紹介が終わったところで、隣の僚が明日香に声を掛ける。


「食べたいっ! 私ちょうど、ダシに飢えていたのっ」


 明日香が食い気味に言うと、僚はフッと微笑んで「わかった」と、小皿にだし巻き卵をのせて明日香に渡す。


「明日香、よっぽど日本食に飢えてたんだね」


 向かい側に座る美里が、だし巻き卵を美味しそうに食べる明日香を見ながら言ってくる。


「もうね、和食全般だけど、特にお米のない生活が辛くて辛くて・・・!」

「向こうはお米って流通してないの?」

「してるけど圧倒的に量が少ないし、それに、日本のお米の方がおいしいに決まってるじゃないっ!」

「だからお前、朝も昼もおにぎりばっか食べてたのか?」

「うん。お母さんのおにぎりサイコーだからね」


 明日香は隼斗に向かって、親指を立ててグッとする。

 そのやり取りがおかしくて、芽衣がクスクス笑う。


「長瀬なにがおかしいんだ?」

「ふふふっ。明日香って、美人なのに気取ってなくて優しくて、癒されるなぁって思ったの。藤堂くん、いいお姉さんだね」


 隼斗は明日香を褒められて喜び、逆に明日香は恥ずかしくて下を向いてしまった。


「ね~ね~明日香ちゃ~ん。俺のことも忘れないで~」


 僚を挟んだ向こう側から、市木がひょこっと顔を出す。


「ごめん市木くん、忘れてたわけじゃないんだけど・・・」

「こんな奴、忘れていいのに」

「いまの聞いた!? 明日香ちゃんっ。葉山ってひどいよねっ」

「はははっ・・・・・・」


 この感じ久しぶりだなぁと、変なところで感慨深くなっていると、今度は木南が声を殺すように笑っていた。


「光太郎くんまで、どうしたの?」

「あははっいや、話には聞いていたけど、実際に葉山と市木がバチバチしているのを見るとおかしくてつい・・・」


 木南からしたら高校時代、遡ると中学から、学校では有名なモテ男の2人で1人の女性を取り合っていることが、不思議で楽しくてしょうがない。

 それが、よく知っている2人だからなおさらだった。


 そんなことに構うことなく僚はメニューを開き、明日香が好きそうなもの、食べたいものを選んでいく。


「あ、明日香。おにぎりあるけど、注文する?」

「え!? ホント?」


 今日は、僚が妙にかいがいしく世話を焼いてくれるなぁと思いながらも、いまの明日香がおにぎりの誘惑に勝てるわけもなく、僚が開いていたメニューを一緒に覗き込む。


「シャケと、おかかと、梅かぁ」

「でも、明日香が一番好きなものは・・・」

「「梅!」」


 2人でメニューの梅を指さししてクスっと笑顔になる。

 以前の明日香だと、こんな風に笑い合うことなんて出来なかっただろう。それが普通の友達のように出来るようになったのが、とても嬉しかった。

 その様子を見ていた芽衣は、隣にいる美里にこそっと尋ねる。


「ねえ、あの2人ホントに付き合ってないの?」

「うん、そうなんだよね。私もずっと付き合ってるんだとばかり思ってたんだけど・・・」

「お似合いなのにもったいない」


 それは芽衣と美里以外の全員(市木を除く)が思っていることだった。


「ところで明日香ちゃんっ! 深尋ちゃんに見せてもらった写真の、青い目の王子様とはどういう関係!? 俺、ずっと気になって、気になって、しょうがないんだけどっ」


 唐突に市木に言われて、明日香は誰のこと? とポカンとする。


「ほら、明日香。この写真だよ」


 深尋が見せたのは、留学中の校外学習で訪れた、カナダプレイスというフェリーターミナルやホテル、商業施設が立ち並ぶエリアで撮影された1枚の写真だった。


「ああ! これね。この人はルカっていう友達だよ?」

「友達!? 向こうでは、その距離が友達の距離なの!?」


 明日香には市木がなぜ驚いているのか、全くわからない。その様子を見て、深尋が手助けをする。


「ほら、日本では異性の友達と肩を抱き合って、頬まで合わせて写真なんて撮らないでしょ? 市木くんはそれを言ってるんだよ」


 そこまで言われて、なるほど! と理解した。


「やだな市木くん。そもそもこれを撮ってくれたのは、ルカの恋人のハリスだったから、私は何とも思わなかったんだ。ごめんね、説明不足で」


 そこで市木は、ん? となる。


「その王子様の名前がルカくんで、恋人がハリス?」

「そうだよ。ほら」


 そう言って明日香が見せたのは、先ほどと同じ場所で撮られた写真だが、写っていたのはあの青い目の王子様と、少し色黒の東洋系の男性が写っている写真だった。しかも、ハリスがルカの頬にキスをしている。


「あ・・・そういうこと・・・・・・」


 市木はそこで全て理解した。


 いまは自由に恋愛が出来る時代だ。日本でも少しずつ浸透してきているものの、海外に比べるとまだまだその理解度は低い。

 留学中に様々な国の人達と交流を持った明日香にしてみれば、それは当たり前の光景であった。


「ほんと、お前は騒ぎ過ぎだよ」

「葉山、知ってて黙ってただろ」

「それがどうした。お前に教えてやる義理はないだろ」

「明日香ちゃんっ! 葉山ってちょ~性格悪くない!?」

「はははは・・・・・・はぁ・・・」


 明日香の乾いた笑い声を聞いて、周りのみんなは「かわいそうに・・・」と、同情する。


 夜9時をまわり、そろそろお開きにしようかという頃、深尋が思い出したように言い出した。


「そうだ! 明日香、もうちょっと落ち着いたら、今度は女子会しようよー」


 女子会と聞いて、明日香も目をキラキラさせる。


「いいねっ、やろう!」

「新しく芽衣ちゃんも加わったしねっ」

「え・・・でも、ホントに私が参加してもいいの?」

「当たり前じゃない! 美里もそう思うよね?」

「もちろん。それにね、明日香の手料理めちゃ美味しいよ」

「そうそう。ポテトサラダなんか絶品だよー」

「隼斗の好物だしね」


 芽衣はせっかく3人に誘われて参加しないわけにはいかないと、喜んで参加することにした。


「ありがとうっ! 私にもポテトサラダ教えて?」

「いいよっ! 藤堂家直伝の味を教えてあげる」


 そうして次回の女子会から、4人になることが決定した。


「いいなぁ~女子会。俺も混ぜて~?」

「市木くんは絶対にダメ」

「なんで、俺も、誠も、木南も参加しないのにお前が参加するんだよ。そもそもお前、女子じゃねーだろ」


 とんでもないことを言う市木を深尋は断固拒否し、隼斗は正論をぶつける。

 他の男子も「そりゃそうだ」と、呆れていた。


「だってさ、普段は野郎ばっかで飲んでるからさ、たまにはさ・・・」

「あれ? お前、この間看護科の先輩と・・・・・・」

「わーーっ! わーーっ! 木南っ!! お前はいつからそっちの味方になったんだ!?」


 市木は木南の口を塞いでしまいたいのに、反対側にいるためそれが出来ない。


「僕は、いつでも深尋ちゃんの味方だよ」


 そう言って笑う木南と、


「看護科の先輩って・・・・・・」


 と、同じ看護科の芽衣の冷たい視線にさらされる市木だった。


 店を出ると、時刻はもうすでに夜9時半になっていた。


「みんな、ほんとに今日はわざわざありがとう」


 明日香は、自分のために来てくれた友達にお礼をする。


「私が、明日香に早く会いたかったから来ただけだよ」

「うん。ありがとう美里」

「じゃ俺、美里を送っていくから」


 そう言って誠と美里は帰っていった。


「明日香、俺も長瀬を送っていくから」

「うん、わかった。芽衣も女子会よろしくねっ」

「楽しみにしてる。おやすみなさい」


 そうして隼斗と芽衣も行ってしまった。


「じゃあ、深尋ちゃん帰ろうか。送っていくよ」

「いいの?」

「もちろん。イヤ?」

「イ、イヤじゃないよっ」


 暗い中でもわかるくらい、深尋の顔は赤くなっていた。


「明日香、明日にはマンションに帰ってくるんだよね?」

「うん、午後からだけどね。掃除しないといけないし」

「わかった! 明日、学校終わったら手伝いにいくよー」

「ありがとう。木南くん、深尋、お願いね?」

「うん、任せて」


 そうして深尋と木南も帰っていく。


 すると、その姿を見送ったのとほぼ同時に、突然竣亮が普段出さないような大きな声で市木を誘ってきた。


「市木くんっ、僕ともう1軒いかないっ?」

「・・・・・・竣くん、何を企んでるの?」


 じとーっと竣亮を見る市木。一方嘘が吐けない竣亮は、完全に目が泳いでいた。

 それに気づかない明日香は心配で声を掛ける。


「竣亮も明日、授業があるんじゃないの?」

「明日は午後からだし、それに、市木くんに相談したいことがあるから・・・」


 最後の方は自信がないのか、だんだん声が小さくなっていく。

 勘の鋭い市木は、竣亮のその様子に企みを感じながらも乗ることにした。


「わかった。俺でいいなら付き合うよ」

「ありがとう、市木くん」

「明日香ちゃん、またね。おやすみ」

「うん、市木くんおやすみなさい・・・」


 そう言って歩き出そうとする。しかし、くるっと振り返って、


「葉山、これは貸しだからな」


 と、僚に言い捨てて、竣亮と共に行ってしまった。


 最後に僚と明日香だけが残る。

 今の貸しってどう意味なんだろうかと考えていると、すぐそばに立っていた僚から声を掛けられた。


「明日香、帰ろうか」

「う、うん・・・まさか僚、送ってくれるの?」

「ん? そうだよ」

「行くときも、お迎えに来てくれたのに?」


 明日香はなんだか申し訳ないと思い、僚に尋ねる。


「俺がしたいからしているだけだよ。気にしないで」


 そう言うと、明日香を歩道の内側に寄せて歩き出す。


「まだ電車あるけど、どうする?」

「あ、うん。電車でいいよ・・・」


 明日香は一瞬、留学に出発する前の気持ちに戻ってしまうような気がした。

 でも本当にそれは一瞬で、すぐに綿あめのように溶けて消える。


 そして2人は駅へと向かった。

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