表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
66/111

65.僚の決心

 月日は流れ、5月31日。

 僚たち5人と元木、そして藤堂姉弟の両親は、1年前と同じように空港に来ていた。


 しかし今日は別れのために来たのではない。

 明日香が1年間の留学を終え今日帰ってくる。

 一行は到着口から明日香が出てくるのを、いまか、いまかと待っていた。


「なんだよ、おっせーなー」

「隼斗、焦りすぎ。もうちょっと落ち着いたら?」


 なかなか出てこない明日香を待ちわびて、じりじりとした時間が過ぎていくのがもどかしい。


 僚と明日香は電話で仲直りをしたとはいえ、顔を合わせるのは1年ぶりだ。

 しかもいまは、自分の明日香への気持ちも自覚しているため、実際に明日香に会うとどんな気持ちになるのか、自分でも想像がつかない。


 そうして待つこと30分。到着口の自動ドアが開くたびに、違う、違う、とソワソワする。


 また自動ドアが開く。外国人観光客の家族連れだろうか、楽しそうに出てきた。そしてよく見るとその後ろにロングヘアの日本人がいる。


「・・・・・・!! 明日香ーーっ!!」


 明日香の姿を見つけるなり、深尋が駆け寄っていく。


「深尋っ・・・・・・!!」


 明日香が気づいて名前を呼んだ時には、深尋が抱きついていた。


「うぅーーっ明日香ぁ・・・・・・会いたかったーーっ」

「うん・・・うん・・・深尋、私も会いたかった・・・・・・」


 抱きあう2人の元に、みんなも集まる。


「おら、深尋。後ろの邪魔になるだろ」


 隼斗はそう言って、無理やり引き剥がした。


「もうっ、引っ張んないでよ」

「ふふっ、2人とも相変わらずだなぁ」


 明日香は、隼斗と深尋の小競り合いすら愛おしく感じる。それくらい寂しかった。


「おかえりなさい、明日香」

「ただいま、お父さん、お母さん」

「よく頑張ったな。今日は家に来るんだろう?」

「うん。そうさせてもらおうと思ってる」

「遠慮するな。好きなだけ居ていいんだぞ」


 藤堂父は、明日香と離れて暮らすのがよっぽど寂しかったのか、ついついそんなことを言いがちだ。


「明日香、おかえり」

「元木さん、ただいま。あと・・・ありがとうございました」


 明日香は元木に向かって、お辞儀をする。


「どうした? 急にあらたまって・・・・・・」

「私のわがままで、1年も留学させてもらって、本当に感謝しているんです」


 そう言われて元木はフッと笑う。


「わがままだなんて思わないし、思う必要もないよ。それにね、明日香にはこれから1年分のレッスンが待っているからね。頑張ってもらうのはこれからだよ」

「わかりました、がんばります・・・」


 不敵な笑いを浮かべる元木に対し、明日香はゴクッと息を飲む。

 1年のブランクを埋めるレッスンが待ち構えているんだなと、瞬時に悟った。


「明日香おかえり」

「元気そうだな」


 竣亮と誠も声を掛けてくる。


「うん、ただいまっ。寂しかったけど、風邪は引かなかったの。だから元気だけは有り余ってるよ。ただ時差ボケが・・・・・・」

「それは仕方ないよ。無理しないで」

「うん、ありがとう」


 そして竣亮の右側、明日香から見て左側に僚が立っている。

 1年ぶりに目を合わせた2人。


 元木と藤堂姉弟の両親は何やら話し込んでいて、こちらのことを気にしていない。僚と明日香以外の4人は、2人を緊張の面持ちで見守る。


「おかえり・・・明日香」


 僚は久しぶりに明日香の目を見て声を掛ける。


「た、ただいま・・・・・・」


 明日香はなぜか少し恥ずかしくて、すぐに目を逸らす。

 でも、すぐにまた僚を見てはっきりと言葉にした。


「僚、1年間グループを抜けてごめんね。また私、頑張るから」


 明日香は、サブリーダーの自分が抜けたことを負い目に感じ、僚に謝罪する。

 しかし僚は、その負い目を感じさせないよう、明日香に笑顔を見せた。


「別に気にしてないよ、大丈夫。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」


 僚は明日香を抱きしめたくてしょうがなかったが、我慢して明日香の頭をポンポンと撫でる。それに対して明日香は微笑み返すだけだった。


 それを見ていた他の4人に(はぁぁぁ・・・・・・じれっっったい!!)とむず痒さを感じさせているなんて思いもしない。


 明日香はこのあとマンションへは帰らず、ひとまず実家で2、3日過ごす予定になっている。

 留学の疲れや時差の調整など、誰かの手伝いが欲しいと思ったのもあるが、単純に家族と一緒にいたかったからだ。


 1週間後には大学も通常通り行かなくてはならないため、それまでにすべてのコンディションを整えようと思っていたら、そこになぜか隼斗まで実家に泊まると言い出したため、帰りは藤堂父の運転する車に家族4人で乗って帰ることになった。


「じゃあ元木さん、事務所には後日、ご挨拶に伺いますね」


 車にキャリーケースを積み込み、出発する直前、明日香が元木に言ってきた。


「ああ、みんな会いたがっていたから、顔を見せにおいで」

「はい。みんなも、今日はわざわざ来てくれてありがとう」


 明日香はここで別れる僚、竣亮、深尋、誠にも声を掛ける。


「明日香、また明後日な」


 僚にそう言われた明日香は、ああっと思い出す。

 帰国する前に貰ったメールで、帰国後に久しぶりにみんなで集まってご飯を食べに行くことになり、その時にまだ会ったことのない隼斗の彼女と、深尋の彼氏に会うことになっていた。


「うん、楽しみにしてる。それじゃあね」


 そうして藤堂一家の車は先に出発し、空港をあとにした。


 明日香は久しぶりに実家の自分の部屋へ入る。

 部屋のベッドは明日香が帰るために、母親が新しく整えてくれたようだ。そのベッドに座り、空港でみんなと再会した時のことを思い出す。

 空港で両親や元木、深尋、隼斗、誠、竣亮、そして久しぶりに僚と目を合わせた。


 僚を見た瞬間の自分の気持ちは、思っていたより落ち着いていて、以前のように胸が締め付けられたり、苦しくなることはなかった。

 やっぱりこの1年、距離をあけたことは無駄じゃなかったと思った。自分の中で確実に、僚への想いが浄化していることを実感した。


 だからといって他に恋人を作ろうとか、すぐに恋をしようとは思わない。

 想いの届かない恋ほどつらく、苦しいものはなく、あんな思いをするくらいなら恋なんかしなくてもいいと考えていた。


「大丈夫・・・・・・大丈夫・・・・・・」


 明日香は必死に自分にそう言い聞かせる。僚のことは友達だとまるで自分に暗示をかけるように。


 夜7時に風呂から出ると、時差のせいで眠くてしょうがない。

 リビングでは隼斗がテレビを見ており、明日香も起きるためにそこへ座るが、強烈な眠気に襲われる。


「明日香、眠いのか?」

「うん・・・だって、この時間向こうは深夜だし・・・・・・」


 あくびをしながら目をこする。


「寝るか?」


 隼斗がクッションをポンポンと叩く。


「ううん、いい。起きてる・・・」


 口では起きてると言いながら、明日香は隼斗が準備したクッションに頭をうずめて眠ってしまった。


 その頃、空港の帰りにみんなでご飯を食べ、マンションの部屋に帰ってきた僚は、部屋の明かりをつけ、冷蔵庫から缶ビールを1本取り出して、ゴクリと一口飲む。

 スマホを見ながらソファーに座ると、隼斗からメールが届いていた。


 それを開くと画面に現れたのは、自宅のソファーで眠る、明日香の寝顔の写真だった。

 しかも風呂上がりなのか顔はスッピンで、頬は少し赤く上気している。


 突然、好きな女の子の寝顔を見せられ、僚は飲んだビールでむせてしまう。

 その写真には、隼斗からひと言添えられていた。


『早くしないと、取られるぞ』


「はぁ・・・・・・言われなくてもわかってるよ・・・・・・」


 そう言いながら、また寝顔の写真を見る。

 

 愛おしい。


 僚は生まれて初めて、明日香に対してそんな感情を抱いた。


 空港で明日香に再会した時、深尋がしたように抱きしめたかった。

 その顔、唇、手、頭の先から足の先まで、全てに触れたかった。

 もう二度と離れていかないように、どこかへ閉じ込めてしまいたかった。


 これまで女性に対しどこか嫌悪感を持っていた自分が、本気で恋をしてこんなにも独占欲を抱くなんて想像もしていなかった。


 早くこの想いを伝えないと、自分の中で想いが溢れて、溺れてしまいそうになる。


 それくらい僚の中では、明日香に対する想いが募っていた。


 とにかく早く伝えよう。自分の口で、自分の言葉で明日香に告白する。

 僚はそう決心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ