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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
62/111

61. 深尋の初デート 前編

 2月になったばかりのとある日。

 僚と隼斗は、市木に居酒屋に呼び出されていた。

 店に入るとそこには、市木以外に木南も一緒にいた。


「葉山、久しぶり。藤堂くんも、先日はどうも」

「ああ、久しぶり」

「隼斗でいいよ。それで、なんで俺まで呼ばれたんだ?」


 隼斗は、高校も大学も違う自分が呼ばれるのは違和感しかない。


「俺さ、番犬くんに月イチで会わないと、寂しいんだよね。だから呼んだ」

「気色ワルイからヤメロ」


 隼斗は顔を顰めてそっぽを向く。


「というのは冗談で、番犬くん、俺に報告することがあるだろ?」


 早く言えとニヤニヤしている市木に、隼斗は嫌々ながらも報告する。


「・・・・・・長瀬と付き合ってるよ」


 それを聞いた瞬間、市木は顔を綻ばせて隼斗に顔を近づけた。


「ねぇ、ねぇ、それは誰のおかげかな~?」

「はあ?」

「あの合コンに誘ったのは誰?」

「・・・・・・市木」

「芽衣ちゃんと席を向かい合わせにしたのは?」

「・・・・・・市木」

「一緒に帰るようにしたのは?」

「・・・・・・お前」


 隼斗は本当のことだから我慢しているものの、市木のどや顔にだいぶイラついていた。


「お前じゃなくて、将来の君のお兄さんだよ。隼斗くん」


 その一言に素早く反応するのはやっぱり僚だった。


「おいっ! 市木、調子に乗るなよっ」

「誰がお兄さんだっ。お前なんかに明日香を嫁に出すわけ無いだろっ!」


 相変わらず市木は、この2人にケンカを売ることが楽しいらしい。

 隼斗と僚に睨まれても、ケラケラ笑っていた。

 その様子を見ていた木南は、きょとんとした顔をしている。


「葉山と市木って、本当に女の子の取り合いしてるんだね。そんな葉山を見たことがなかったから、なんか新鮮だな」

「木南、市木が深尋を狙ってなくてよかったな。こいつだいぶしつこいから、牽制するのも、追っ払うのも大変だよ」


 僚は市木がきっぱりと明日香を諦めない限り、いつまで経っても安心できないでいる。そのため、市木が何か言うたびについつい反応してしまっていた。


「葉山が大変なのはよくわかったよ。それじゃあ僕は、誰にも遠慮せずに深尋ちゃんを落としに行ける、ってことでいいんだよね?」


 木南は僚と隼斗に改めて確認する。


「まあ、お前が本気なら、俺たちは別に反対しないよ」

「そうだな。前にも言ったけど、傷つけることだけはしないでくれ。ただそれだけだ」


 僚も隼斗も、深尋が元木にずっと恋をして傷ついてきたことを見てきたから心配するし、前に進もうとしている深尋を応援している。

 みんなにとって深尋は、同い年だけど手の掛かる妹のような存在だった。


「うん、わかってる。傷つけることはしないよ」

「あとあいつ、俺ら以外の男と出掛けるのなんて初めてだし、手加減してほしいというか、その心づもりでいてほしい・・・・・・」


 隼斗がそう告げると、木南は目を丸くする。


「え? でも、今までの彼氏とか・・・・・・」


 僚も隼斗も、そうだよな・・・そう思うよなと思ったが、木南には知らせておくべきだと思い、正直に話すことにした。


「深尋は誰とも付き合ったことないよ。今まで1度も。つまり、人生初デートだな」


 まさかのことに木南だけでなく、市木も一緒に目をこれ以上なく大きく見開いた。


「それ・・・・・・本当?」

「こんなこと嘘つかないよ」

「あまり急に距離を詰めると、あいつびっくりして固まるかもしれん。だから、手加減してほしいって言ったんだ」


 僚と隼斗からその話を聞いた木南は、初めて深尋に会った時のことを思い出す。

 あの時の態度や反応は、本当にどうしていいかわからなくて、ああいう態度だったんだといまさら理解する。


 木南はてっきり、深尋は初対面の男の前でかまととぶっているのかと思っていたが、そうではなかった。


「葉山、隼斗、ありがとう。デートに行く前に2人の話を聞いていて良かったよ。危うく違う対応をするところだった」


 違う対応と言われて、2人ともえっ? となる。


「おい、まさか1回目のデートで手を出そうと・・・?」

「まさか、そんなわけないでしょ。市木じゃあるまいし」

「うおいっ! 俺だってそんなことしないわっ!」


 しかし、市木のその言葉を信じる者は、この場には誰もいない。

 すると、僚が真剣な顔で木南に告げる。


「あのさ・・・もし、木南がそういうのが重いって思うんなら、変に期待させずに友達で終わってほしいんだ・・・」


 深尋の恋愛経験値の低さが木南にとって重荷になるなら、今のうちに手を引けと僚は言いたかった。

 それを木南も汲み取ったのだろう。僚にきちんと返事をする。


「大丈夫だよ葉山。別に重いとは思わないし、それなりに時間をかけていくよ。深尋ちゃんのペースでね」


 それを聞いて、僚も隼斗も安心した。

 あとは、深尋の気持ち次第だ。



 そして約束の土曜日。

 深尋は木南と駅で待ち合わせをしていた。

 今日は深尋にとっても思い出深い、高校生の頃みんなでよく行ったショッピングモールの映画館に行くことになっている。

 深尋が駅の改札を出ると、1か月ぶりに見る木南が立っていた。


「あ、あの、お待たせしました・・・」

「おはよ、深尋ちゃん。大丈夫、僕もいま来たところだよ」


 合コンの時よりも爽やかな笑顔を見せる木南に、深尋は思わず見惚れてしまう。

 人生初デートの深尋は昨夜、緊張でなかなか眠れなかった。

 しかし、その緊張を吹き飛ばすほどの笑顔を木南が見せてくれたことで、深尋も自然と笑顔が溢れる。その笑顔に木南も一瞬で心を奪われた。


 映画は午後3時の回を観ることになったため、その前に軽めのランチをする。

 高校生の時はいつもフードコートで集まるのが定番だったが、今日はレストラン街のパスタ屋に入ることにした。


「深尋ちゃんは何にする?」


 木南がメニューを見ながら尋ねる。


「んーー私、カルボナーラにする。光太郎くんは?」

「僕はボンゴレにしようかな。飲み物は?」

「ホットココアで」

「うん、わかった」


 それから注文をし終えて、一息つく。

 すると、木南がじーーっと深尋の顔を見ているのに気付き、深尋は恥ずかしくて目を逸らしてしまう。


「深尋ちゃん、昨日寝てないの? 目が充血しているよ」

「あー・・・うん。緊張して、あまり眠れなかったの・・・」

「どうして緊張するの?」

「あの・・・笑わない?」

「笑わないよ。教えて」

「あのね私、この年になってデートするのが初めてなの。いつも僚とか隼斗たちとばっかりだったから、だから緊張して眠れなくて・・・・・・」


 葉山の言ってたことは本当だったんだと思うのと同時に、緊張するほど自分のことを意識してくれているんだと思うと、嬉しくてつい頬が緩みそうになる。


「葉山たちと出掛けるのは緊張しないの?」

「うん、全然。小学校の時から一緒だから、兄妹みたいだし。私が一人っ子だから、余計にそう思うのかも」

「じゃあ、なんで僕とは緊張するの?」


 木南はどこまで踏み込むか模索中のため、あえて聞いてみることにした。

 すると深尋は困った顔をし、口をもごもごさせながら答える。


「・・・・・・男の人だから・・・・・・緊張する」


 深尋にそう言われた木南は、女の子に初めてノックアウトされた。


(なんなんだこの子。なんでこんなカワイイ子に今まで彼氏がいなかったんだ!? 周りの男は一体何をしていたんだ!?)


 木南は深尋にどっぷりハマってしまいそうな予感がして、これ以上自分が暴走しないようにと、心の中で己に言い聞かせる。


 食事が済み、映画まで時間があるため、2人はモール内でショッピングをすることにした。

 洋服を見たり、雑貨を見たりしている中、CDショップの前にやってきた。


「深尋ちゃん、ちょっとここ寄っていい?」


 木南がCDショップに寄りたいというので、そのまま入ることにする。

 店内には所狭しとCDが並べられており、木南は洋楽コーナーへ歩いて行った。


「光太郎くんは洋楽をよく聴くの?」

「そうだね。でも、J-POPもよく聴くよ。深尋ちゃんは?」


 逆に質問をされるとは思っておらず、どうしようか考えていると、事務所の先輩のRainのCDが目に留まった。


「このRainとかかな」

「そうなんだ。僕はそのグループのことあまり詳しくないな」

「結構ね、歌詞がいいんだよ。高校生の頃、アルバムを何度も聴いてた」

「アルバムも持っているんだね」

「うん、もしよかったら借りる? あ、でも押しつけがましいかな」


 木南は深尋の方から、次に会うチャンスをくれたと喜んでしまった。


「深尋ちゃんが良ければ、貸してもらおうかな」

「わかった。また、連絡するね」


 そんな話をしながら店内を歩いていると、店の一角にbuddyのコーナーが設置されており、これまで出したシングルCDやアルバムなどがまとめて陳列されており、店員さんが書いた手作りのPOPなどと一緒に紹介されていた。


 そこにはファンクラブイベントで公表された、6人のシルエット姿も切り抜かれており、店側の売りたい気持ちが伝わってくるようだった。

 深尋は、自分たちの出したCDが販売されているのをいままで見てこなかったので、こういう風にしてくれてるんだと感動する。

 しかし、いま木南に何か言われては困るので、あえてそこを避けて店を出ることにした。


「そろそろ時間だね。行こうか」


 2人で映画館へのエスカレーターに向かっている途中、深尋はかわいいアクセサリーショップが目に入る。


(あれ、かわいい・・・見たいけど、時間ないよね)


 深尋はショップを目で追いながらもエスカレーターに乗り、3階の映画館へ向かう。


 館内の席に着くと、これから映画が始まる緊張なのか、木南がすぐ隣にいる緊張なのか、深尋はカチコチに固まってしまった。


(思ったより近い・・・・・・)


 ちょっとでも動くと、左腕が木南に当たるので、動きたくても動けない。


「深尋ちゃん、どうしたの?」


 もぞもぞしている深尋に気づき、木南が声を掛ける。


「ううんっ。何でもない・・・」

「本当? 遠慮しないで言ってごらん」


 上映前ではあるが、映画館の中なので自然と小声になる。そうなると、自然と顔も近くなる。

 それに気づいた深尋は、一気に恥ずかしさで顔が赤くなってしまい、つい本音が出てしまった。


「・・・・・・光太郎くんが思ったより近くて・・・・・・どうしていいかわかんないの・・・・・・」


 深尋に上目遣いで言われた木南は全身が固まった。そして、本日2回目のノックアウトをいただく。


(ヤバイ。1回目のデートで、手を出すわけないと言った自分を殴ってやりたい。これから2時間耐えられるのか?)


 先週、僚たちの前で宣言した言葉をすぐにでも撤回したかった。

 でもそんな自分を何とか落ち着かせる。

 深尋を傷つけることだけは絶対にしてはいけない。とにかく深尋のペースに合わせて進もう。

 第一に、まだ付き合ってもいないんだから。話はそれからだ。


 木南は映画の冒頭が始まっても、1人で悶々としており、そのあとのあらすじを理解するのが大変だった。

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