表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
60/111

59. 修羅場からの新展開

「新井さんは、藤堂くんと幼馴染って言ってたけど、もしかして葉山のことも知っているの?」

「うん、知ってるよ。僚とも小学校からの幼馴染。あと、新井さんって呼ばれ慣れてないから、深尋でいいよ」

「ははっ、わかった。じゃあ、僕のことも光太郎って呼んでね」


 隼斗たちとは違いこちらは和やかな雰囲気だ。

 先ほどの修羅場を知らない深尋だから、というのもあるだろう。すると、木南が再び深尋に質問する。


「葉山の大切な子って、もしかして深尋ちゃんのこと?」


 いきなりド直球の質問に、さすがの市木もえっ? と目を丸くする。しかし、天真爛漫の申し子は、そんなことでは動揺しない。


「ううんー違うよー。それは、隼斗の双子のお姉ちゃんのことだよー」


 コイツいいやがった・・・と、隼斗は怒り心頭だ。


「へえ・・・藤堂くんって双子なんだ。しかも男女の。めずらしいね」

「そうだな。よく言われる」

「似てるの?」


 男女の双子に興味を示す木南に、今度はなぜか市木が警戒する。


「番犬くんと明日香ちゃんは、全く似てないよっ。似ても似つかないというか、他人なんじゃというくらい・・・」

「おいっ! 俺と明日香は昔っから美男美女の双子で有名なんだっ。いい加減なこと言うなっ!」


 自分で自分のことを美男と言ってるあたり、隼斗もなかなか図々しい性格をしている。


 一方で芽衣は、隼斗が双子であることは知っていたが、詳しい話は何も聞いたことがない。この場にいる深尋や、さっきから話題に上がっている僚のことも、全く知らなかった。


「深尋さん、もしかして崎元くんとか、国分くんのことも知ってるの?」


 芽衣に尋ねられると、深尋はなぜか少し警戒する。でも、知らないとは言えないので正直に答えた。


「うん、知ってるよ。みんな友達だから」

「・・・・・・そうなんだね」

「ああ、そっか芽衣ちゃん、番犬くんの高校時代の元カノだっけ。それなら竣くんとまこっちゃんのことも知ってるよね~?」


 しれっと市木がバラす。まぁ、さきほどの深尋の発言でほぼバレているようなものだが。


 深尋から「みんな友達」と聞いた芽衣は、自分が知らなかったからという疎外感からか、隼斗を取り巻く小学校からの幼馴染たちには、目に見えないもので繋がっているように感じた。


「深尋ちゃんはいま、彼氏とかっているの?」

「いませんけど・・・・・・」


 木南も、市木に負けず劣らずグイグイくるタイプのようで、さっきから深尋を質問攻めにしている。

 深尋も深尋で、ここまで押しの強い男の人は初めてだったので、だんだん警戒心が出てきたのか、おどおどし始めた。


「木南、あんまりがっついてると深尋ちゃんがびっくりするよ~」


 隼斗は、まさか市木からそんな言葉が出てくるとは思わず、(お前が言うな!)と目を大きくさせる。


「それにさ、この番犬くん以外にも、あと3人番犬がいるから要注意だよ」

「なぁ、市木がさっきから言ってるその番犬って、何? 藤堂くんのあだ名じゃなかったの?」

「まあ簡単に言えば、深尋ちゃんや明日香ちゃんを守っている、4人の男たちのことだね~」


 そう言われて隼斗は少し顔が赤くなり、深尋はハァ? と首を傾げる。


「市木くん違うよー。番犬は明日香を守っている、隼斗と僚のことでしょう?」


 それに対して市木が、チッチッチッと人差し指を横に振る。


「わかってないな~深尋ちゃんは。君もしっかり葉山たちに守られてるよ。それもがっちりと。この間のことがそうでしょう?」


 この間のこと。深尋が暗い夜道で待ち伏せされていたカメラマンに腕を掴まれた時のことだ。市木も少し話を聞いていたので、そのことを指摘したのだ。

 市木に言われて初めて、そうだったんだと深尋は自覚する。


「深尋さんすごいね、守ってくれる人がたくさんいて」


 奈緒美は嫌味ではなく、本心からそう思った。しかし芽衣は違った。

 そんなに守ってくれる人がいるなら、隼斗くらい私に譲ってくれてもいいじゃないと、嫉妬してしまう。なんであの子ばっかり・・・・・・と。


「じゃあ、深尋ちゃんを口説こうと思ったら、藤堂くんの許可がいるの?」

「・・・・・・え?」

「・・・・・・は?」


 木南の直球すぎる質問に、深尋も隼斗も唖然とする。市木は何が面白いのか、ニコニコ笑っていた。


「あ、あの・・・・・・光太郎くん、今日会ったばっかりで何言ってるの?」

「別に、会ったばかりとか関係なくない? 僕は深尋ちゃんを気に入ったから、そう思っただけ」

「いや、でも・・・・・・」


 深尋は明日香の気持ちがいまこの時、ようやくわかった。男の人に迫られるのが、こんなにも恥ずかしいこととは思わなかったからだ。


「別に。俺にも、僚にも許可を取る必要はないよ。ただ、大切な友達だから傷つけることはするな」


 隼斗はそう言い切った。


「ということで、これからよろしくね。深尋ちゃん」

「なんか、光太郎くん・・・・・・市木くんみたい」


 深尋は思わず本音が出てしまう。


「深尋ちゃん、市木みたいな遊び人と一緒にしてほしくないかな」

「どういう意味かな木南?」

「そのまんまだよ。僕は少なくとも、女の子をとっかえひっかえしない」


 ゔっ・・・と市木は黙ってしまう。


「市木くん、明日香一筋じゃなかったの?」

「やだな、深尋ちゃん。俺はずーっと明日香ちゃんだけだよ?」

「嘘つけお前。僚にも言われてただろ」

「市木くんって、藤堂くんのお姉さんに手出してんの?」

「藤堂くんのお姉さんって、葉山の大切な子でしょ? 市木、葉山と争ってるの?」

「ううん、光太郎くん。市木くんはとっくにフラれ・・・・・・」

「あーーーっ!! UFOだーーーっ!!」


 なんだかんだいつもやり玉に挙がっている市木だが、それはそれで楽しそうだった。


 そのあと深尋は、木南と連絡先を交換した。

 ただの食事と聞いて来てみたら結局合コンのようになったし、でも楽しかったからまぁいいか、と心はウキウキしていた。


「深尋ちゃん、お家まで送るよ」


 店を出ると、木南からそう言われて固まってしまう。


「そうそう、深尋ちゃんは木南に送ってもらいな。番犬くんは、芽衣ちゃんと話があるみたいだし」

「はあ!? 俺は話なんか・・・!」


 隼斗は市木に反論したかったが、市木が隼斗の腕をグイっと引っ張り、みんなから距離を置く。


「あのさ番犬くん。芽衣ちゃんの話をちゃんと聞いてごらんよ。結局、ご飯を食べてる間、ほとんど話してないでしょ。芽衣ちゃんにも芽衣ちゃんの事情があるかもしれないんだからさ」


 めずらしく市木に説得されて、隼斗は芽衣を送っていくことになった。


 2年と数か月ぶりに隼斗は芽衣と肩を並べて歩く。

 しかし、2人の間に会話はない。

 高校生の時、何度か芽衣を送るために通ったことのある道を、こうして再び2人で歩いていた。


 すると、家へと続く道の街灯の下で芽衣が立ち止まる。それに気づいた隼斗も立ち止まって振り返る。


「長瀬・・・どうした?」


 隼斗が声を掛けると、芽衣が顔を上げて隼斗を見つめる。


「あの・・・もう、ここでいいよ・・・・・・」

「え・・・? でも、まだ家は・・・」

「だって藤堂くん、私のことキライでしょ? これ以上は迷惑になるから・・・」


 まるで明日香みたいなことを言うなと、隼斗は思い出し、溜息を吐く。


「だからって、女の子をこんな暗い中1人にできないだろ。それに・・・話があるんじゃなかったのか」


 そこで2人の間に沈黙が流れる。隼斗も、自分が言い出したものの、これ以上どうしたらいいのかわからない。


「・・・・・・・・・・・・きなの」

「・・・・・・え?」


 芽衣が何か言っているが、声が小さく聞こえない。そのため、隼斗が一歩近づくと、涙をためた芽衣の目と隼斗の目がぶつかった。


「私、高校卒業してからもずっと、藤堂くんのことが好きなの。ずっと忘れられなくて・・・今さらこんなこと言っても、藤堂くんを困らせるだけなのに・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」


 芽衣は両手で顔を覆うと、そのままそこで泣いてしまった。

 隼斗は女の子を泣かせてしまったと焦り、狼狽える。

 明日香に泣かれるのは慣れている隼斗だが、その他の女の子相手だと、どうしていいかわからなくなってしまう。


「な・・・長瀬、泣くなよ。ごめん。ちゃんと話聞くから・・・・・・」


 隼斗がそう言うと、芽衣はフルフルと首を振る。


「違う・・・藤堂くんは、何も悪くない・・・。私が藤堂くんを・・・傷つけたから・・・怒って当然だよ・・・・・・なのに、まだ・・・好きで・・・ごめ・・・・・・」


 芽衣はそれ以上言葉を続けられなかった。


 しばらくして、芽衣が落ち着いたのを見て、隼斗が話を切り出す。


「確かに、長瀬にあんなことをされて傷ついたよ。しかもその・・・理由が恥ずかしかったからって言われて、なんだよそれって思った。俺は、自分が悪いことをしたと思って、ずっと悩んで苦しんだのに、そんなことでって思った」

「ふ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」


 芽衣はまた涙があふれてくる。すると隼斗が、左手の親指で芽衣の涙をグイっと拭う。


「俺の方こそごめん。あの時、もっと長瀬の様子を気にかけるべきだった。自分が長瀬と話をすることだけに固執して、結局遠ざけてしまっていたんだと思う。もう少し、余裕を持って接することが出来たらよかったのに、小さい男でごめんな」


 そんなことを言われると、余計に涙があふれる。


 あの時、お互い確かに好きだったのに。だから体を重ねたのに。なんでこうなってしまったんだろう。過去に戻ってやり直したいと、何度も思った。

 そして芽衣は、自分の涙を拭ってくれている隼斗の左手に、自分の手を重ねて言った。


「藤堂くん、私、あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、これだけは言わせてほしいの・・・・・・」

「なにを・・・・・・?」


 芽衣は大きく息を吸い、隼斗を真っ直ぐ見つめる。


「私、藤堂くんとの初めての時、本当に気持ちよくて、幸せだったよ。ありがとう」


 そう言って、まだ涙の残る目を細めてニコッと笑った。

 その瞬間隼斗は、ぶわっと体中が熱くなり、一瞬で顔を赤くする。


「なっ・・・・・・な・・・・・・なんでっ、そんなことっ・・・・・・」

「だって本当のことだし、ちゃんと伝えないとって思って・・・・・・」

「だからって、そんなっ・・・・・・直球は・・・キツイ・・・」


 今度は隼斗が両手で顔を覆う。

 『気持ちよかった』という言葉が、隼斗の頭の中を駆け巡る。

 市木に「下手」と言われたことも、この一言ですべて吹き飛んだ。


「だけど、藤堂くんいいの?」


 芽衣にそう言われると、隼斗はいったん落ち着きを取り戻し、何が? と聞き返す。


「深尋さん、木南くんに狙われてるけど、大丈夫?」

「ん? ああ、別にそれはいいと思うけど・・・・・・なんで?」


 隼斗は、芽衣がなぜ急に深尋のことを言うのかと不思議に思った。


「だって、藤堂くんは深尋さんが好きなんだと思ったから・・・・・・」

「はあ!? 俺が深尋を!?」


 冗談だろ!? と、今度は顔を真っ青にして否定する。


「俺は深尋に、そんな感情を持ったことなんか1ミリもない。もちろん、幼馴染として、友達としては大事な存在ではあるけど、それ以上の気持ちは断じてない。それは深尋も同じだ」

「そうなの・・・・・・?」

「そう!! というか、それを深尋に言ったら、逆に俺がひどい目に合うと思うから、言わないでくれ・・・」

「え・・・ひどい目って・・・・・・?」


 芽衣は恐る恐る隼斗に聞いてみる。


「高級な焼肉とか、寿司を奢れだとか、欲しいものを買えとかそういうことだよ」


 答えを聞いた芽衣はふふっと笑ってしまう。その笑顔は隼斗が芽衣を好きだった時の笑顔と、何も変わらない笑顔だった。


「わかった、言わない」


 芽衣は安心したのか、目は赤いままだが自然な笑みが零れている。

 隼斗はその顔を見て、過去の恋心が戻ってくる感覚に陥った。


 芽衣の笑った時にできる右頬のえくぼ、少したれ目な優しい目、フワフワと柔らかい唇の感触などが一気に頭の中に蘇る。

 そして衝動的に、でも自然に、隼斗は芽衣を自分の腕の中に閉じ込めた。


「あ・・・あの、藤堂くん・・・?」


 芽衣は何が起こったのかわからないまま動揺した。すると隼斗は芽衣の右頬に自分の手を添えて、芽衣と目を合わせて告白する。


「長瀬・・・・・・俺たちもう一度やり直せるかな?」

「え・・・・・・」

「なんか、いろいろ誤解があったし、行き違っていたから、やり直せたらと思ったんだけど・・・」


 そう言い終わらないうちに、また芽衣の目から涙があふれる。


「ご、ごめんっ・・・泣かせるつもりじゃ・・・」

「違うの、これは・・・嬉しくて・・・でも、私でいいの?」

「・・・うん。俺も心の中ではずっと長瀬のことが引っ掛かっていて・・・だけど、再会した時にあんなことを言われて、意地を張ったんだ。だから、おあいこってことで・・・」


 隼斗はここに来てやっと、素直な気持ちを告白できた。

 芽衣はクスッと笑い、隼斗の広い胸板に両手をそっと添えて返事をする。


「ありがとう藤堂くん・・・。こんな私だけど・・・もう一度、私と恋してくれますか」


 芽衣にまっすぐ見つめられた隼斗は、


「うん、こちらこそよろしく」


 そう言って芽衣にキスをした。

 最初は触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく。


 それは隼斗と芽衣のわだかまりなど、一瞬で溶かすくらいに甘いキスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ