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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
58/111

57. 行く年来る年 後編

「あけましておめでとうございます」


 年が明けた1月2日。

 誠は美里の家に招かれ、美里の両親に新年の挨拶をしていた。


「はい、おめでとう。崎元くん、いつも美里が世話になってるね」


 そう話すのは美里の父だ。

 誠はこの日初めて、美里の父親と顔を合わせて話をする。


「もう、お父さん。そんな怖い顔していたら、誠くんが緊張しちゃうでしょ」


 美里の母が気を遣って誠の緊張をほぐそうとしてくれる。

 自宅の和室に通され、そのテーブルの上にはおせち料理の他に、フライドチキンやピザなども置かれていた。


 テーブルを挟んで誠の正面に父親、その横に母親が座っている。

 誠の隣にはもちろん美里がいて、美里と母親の間には美里の兄京平(キョウヘイ)がいた。


「崎元くん、すまんな。職業柄こういう顔なんだ。気にするな」


 一応、父親も気を遣ってくれてるらしい。


「あ、いえ。おれ・・・僕も、いつも美里さんにはお世話に・・・・・・」

「プッ・・・誠、無理すんなって、いつも通りの話し方でいいって」


 いつもと様子が違う誠がおかしくて、京平がついついバラしてしまう。


「もうっお兄ちゃん、からかわないで。誠くんも、いつも通りで大丈夫だよ。食べられたりしないから」

「ああ、わかった」


 美里と京平にそう言われて、やっと緊張がほぐれてきた。


「崎元くんは、お酒は飲めるのか?」


 みんなで食事が始まると父親が聞いてきた。


「先月二十歳になったばかりで、まだそこまで飲めるわけではありません」

「そうか・・・京平は弱くてなぁ、話にならん。これから崎元くんに付き合ってもらおうと思ったんだがな・・・・・・」


 父親はわかりやすく落ち込む。


「ごめんな、誠。ふがいない長男で」

「いえ・・・まぁ、そうっすね・・・」


 いつもの誠らしい返事をすると、美里がクスッと笑った。


「しかし、崎元くんは身長も高いし、ガタイもいいが、何かスポーツでもやっているのか?」


 誠はこの質問をされて、ドキッとする。

 美里の父との対面が決まった時から、全て話そうと決めていたことがある。誠は覚悟を決めて返事をした。


「中学の時はバスケ部でした。でも、高校以降は部活動はしていません。あとは、小学5年から今もですが、ずっとダンスをしています」


 美里の家族は、ダンスをしていると聞いてキョトンとしている。


「ダンスっていうのは・・・」

「バレエとか、社交ダンスみたいな・・・?」


 母親と京平は思いつくことを言うが、どれも違う。父親は誠の話を黙って聞いていた。


「えっと、見せた方が早いと思うので、いいですか?」


 そう言って誠は自分のスマホを取り出し、みんなと共有しているレッスン動画を探す。最近のものは明日香がいなくて5人のものばかりなので、明日香を含めた6人の動画を見せることにした。


 誠は京平を父と母の間に来るようにお願いし、3人の真ん中にスマホを置いて、京平に再生ボタンを押すように言う。

 その動画は、グランピングの時に美里と市木に見せた時に大絶賛された『Sapphire』の動画だった。


「え・・・ここにいるのが誠?」

「あらぁ、すごいわね誠くん」


 母親と京平は第一印象の感想を述べた後、また動画に見入った。


「誠、これって結構有名なグループの曲だよな」

「はい。buddyというグループです」

「そうそう! なんかテレビとか、街中でもよく聞くんだよな、このグループの曲。ずっと耳に残るから覚えているよ」


 京平にそう言われて、誠は思わず、


「ありがとうございます。うれしいです」

 

 と答えた。


「え? ありがとうございます?」


 美里の家族は、誠がお礼を言う理由がわからなかった。

 そして誠の口から、正直に打ち明けられる。


「はい。その動画に映っている6人が、京平さんの言った『buddy』で、俺はそのメンバーの1人です。これは、美里さんも知っていることです」


 誠はまっすぐ前を向いて話す。すると、これまでずっと黙っていた美里が、補足してきた。


「あのね、誠くんとはデビュー前からお付き合いしてて、デビューしたあとbuddyは、情報のほとんどを非公開にしたの。それで、お父さんにも、お母さんにも、お兄ちゃんにもこれまで言えなかったの・・・」


 その後もしばらく沈黙が続く。誠はこの時間が途方もなく長く感じた。


「・・・ということは、誠は芸能人で歌手っていうこと?」


 ここでやっと京平が口を開く。


「はい、そうです。いまはまだ自分たちの顔や年齢などは公表されていませんが、正式にデビューしています」


 美里の母親は両手を口に当て、言葉が出ないようだ。対して父親は、誠の様子を鋭い眼光でじっと見ていた。


「でもさ、なんでそんなこといま打ち明けたの? まずくない?」


 京平は驚きもあるが、心配の方が勝ったようだ。そういうところは、美里にそっくりだった。


「まずくないとは言いません。事務所にバレたら問題になると思います。でも、それでも、美里さんの家族には知ってほしかったんです」


 誠は父親の目をまっすぐに見つめ、両手をぎゅっと握りしめて、己の気持ちを奮い立たせる。


「私たちに知ってほしかった理由を聞いてもいいか?」


 それまで黙って話を聞いていた父親が、誠に尋ねる。


「はい。俺は、これからも美里さんと将来を共にしたいと考えています。ですが、この歌手という仕事はとても不安定な仕事で、いまこの瞬間はよくても、明日にはどうなるかわからないような仕事です。そして、俺は美里さんと同じくらいbuddyのメンバーも大切なんです。彼らは小学校からの幼馴染で、とても大切な友人で仲間なんです」


 誠は緊張しながらも、自分の気持ちを正直に伝える。


「その仲間と一緒に歌って、踊って、俺たちが楽しんでいる姿を見てもらいたい。そして、美里さんも一緒に幸せにしたいと考えています。これから俺たちは顔も名前も公表していきます。そうなると、美里さんのこともいろいろ言われるかもしれません。ですが、俺が必ず美里さんを守ります。なので、そうなる前に、俺の口から美里さんの家族へ伝えたかったんです」


 誠は、自分の気持ちを自分の言葉で精一杯伝えた。これで、これから先の交際を反対されたときには、許してもらうまでとことん話そうと覚悟していた。


 誠の話を聞いて、ふぅ・・・・・・と父親が一つ息を吐く。


「崎元くん、君が美里との交際に真剣なことも、歌手活動を本気でやっていることもよくわかった。しかし・・・・・・」


 何を言われるんだろう・・・と、誠はゴクッと息をのむ。


「しかし、さっき自分でも言ってたように、君たちの仕事は人気商売だ。人気がなくなっても食っていかなきゃならん。その時にどうやって美里を幸せにするんだ?」


 それは、子を持つ親としては当然心配することだろう。

 それをわかっているから、誠も自分がどうするべきなのか、どうしたいのか考えた。


「もし、歌手活動が出来なくなっても、ダンス講師や振付師などで生計を立てるつもりです。いま、事務所でお世話になっているダンスの先生にも相談して、そういう道もあることを教えていただきました。美里さんを守る準備は、もう始めています」


 誠がそう話すそばで、美里は静かに涙を流す。こんなに真剣に自分のことを考えてくれていたのかと、その気持ちがとても嬉しかった。

 母親や京平に至っては、そんな誠に笑顔を向けている。

 その様子を見て父親も、口の端を上げて少し笑みが零れた。


「崎元くんの気持ちは分かった。だがしかし、2人ともまだ学生だ。ちゃんと大学を卒業して、その時になったらまた、挨拶に来るといい。それなら、私はもう何も言わんよ」

「・・・・・・はいっ。ありがとうございます」


 誠は3人に向かって深く頭を下げる。

 誠の話が終わった後は、母親と京平から質問攻めにされていた。


「まさか、誠が歌手だなんて思わなかったよ。そんなに不愛想で大丈夫なのか?」

「まあ、他のメンバーがおしゃべりなので、そっちに任せています」


 やっぱりなーと、京平が笑う。


「美里は他の人に会ったことあるの?」


 母親に聞かれて、美里はグランピングで撮った写真をほら、と家族に見せる。


「あらぁ、みんな仲良さそうねぇ」

「うん、みんな仲良くしてくれてるよ。この隼斗くんと竣亮くんは、高校1年の時に同じクラスだったし、葉山くんはしっかり者で頼りがいがあって、この隣の市木くんは、buddyじゃないけど私と同じようにみんなを応援してるよ。明日香と深尋ちゃんとは、たまに女子会とかしてるんだけど、いま明日香が留学中で最近はやってないんだ」

「へぇっ留学。すごいわね」

「うん、誠くんもそうだけど、本当にみんなスゴイの。歌もダンスも上手くて、かっこいいし、かわいいし。誠くんのおかげでみんなと仲良くできて、私にとっても大切な人たちなの。だから私は全力でbuddyを応援するんだ。これからもずっと」


 美里のその言葉を聞いて、誠は嬉しさが込み上げてくる。こんな時はいつも美里を抱きしめるのだが、いまは家族がいるので出来ない。

 なので、あとでたくさん抱きしめようと思った。


「あと、そのすみません。今日お話ししたことは、12月1日まで誰にも話さないでいただけますか?」


 誠にそう言われて、家族はなぜ? と誠に問う。


「今年の12月1日に、僕らの情報を全て公開する予定なんです。なのでそれまでは・・・・・・」

「そうかわかった。今日のこの話は誰にも言わない。約束する。私は警察官であり、刑事だ。秘密は必ず守る。もちろん、お母さんも京平もだ」


 そう言ってくれて誠は安心した。


 とりあえず、今言える全てのことを伝えられたと思う。今後の交際を反対されることもなかったし、大学を卒業したらすぐにでも挨拶に来たいぐらいだ。

 それほど誠にとって、美里の存在は大きいものになっていた。


 こうして、誠がこれまで生きてきた中で一番長くて、緊張した正月が終わった。

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