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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
55/111

54. 仲直り

 隼斗、竣亮、誠が深尋の部屋に行くと、そこにはすでに僚と元木、そして女性マネージャーの清水がいた。


「あぁ、すまんな隼斗、竣亮、誠。同窓会だったんだろう?」

「いえ、大丈夫です。それより深尋は・・・・・・」

「いまは少し落ち着いたよ」

「そうですか・・・」


 普段は天真爛漫で明るい深尋が、いまは清水に肩を抱かれ、ソファーで小さくなっている。


「元木さん、俺の部屋に移動して話しませんか」


 僚は深尋に話を聞かせたくないと思い、元木に提案する。


「そうだな。僚、お前の部屋を使わせてもらうよ」


 そう言うと元木は深尋のそばに座り、深尋の背中にそっと手を置く。


「深尋、今日は清水がここに泊まるから、安心して。みんなも帰ってきたし、1人じゃないから大丈夫。僕はちょっと僚たちと話があるから行くけど、すぐ戻ってくるからね。清水、後は頼む」

「わかりました」


 清水が頷くのを見て元木が離れようとすると、深尋が元木の腕を掴んできた。


「元木さんっ、すぐ帰ってくる?」


 元木は、不安で不安でしょうがない様子の深尋の頭にポンと手をのせる。


「話が終わったらすぐ帰ってくるよ」


 安心させるように言うと、男子4人と元木は静かに部屋を出ていった。


 僚の部屋に集まると、元木が話を切り出す。


「お前たちには言ってなかったんだが、最近うちの事務所周辺で、週刊誌のカメラマンがうろついているのが確認されていたんだ」


 元木によると、6人のシルエットを公開した直後から、そういう連中がいるのがわかったらしい。そのため、事務所としてもきちんと対応をして警戒していたが、どこで分かったのか、深尋がGEMSTONEの所属だということが知られた上、なおかつ顔が公表されているGEMSTONE所属の歌手やタレントの中にも入っていないということで、尾行されていたのだろうと推測された。


「あくまでも僕の推測だけど、ほぼ間違いないと思ってる」


 やはりこの世界には、スクープのためなら犯罪ギリギリのことに手を出す連中も多く、今までひた隠しにしていたbuddyの素顔を撮ろうと躍起になったカメラマンが暴走したのだろう。


「まだ、お前たちは男だから対応はできるかもしれない。でも深尋は女性だ。見知らぬ男に暗い中で突然腕を掴まれるだけでも恐怖なのに、それ以上のことがあれば取り返しがつかない。今は明日香はいないが、深尋だけじゃなく明日香もそういう目に合うかもしれない」


 元木にそう言われて、僚は全身の血の気が引く。


(もし、明日香が危険な目にあったら・・・)


 そう考えるだけで、頭がくらくらした。


「元木さん、明日からどうしたらいい?」


 僚が何も言えないでいると、隼斗が元木に質問した。


「とりあえず、そのカメラマンについてはこちらで対応する。これまでレッスン後は各自で帰っていたけど、当分事務所の車で送迎する。それ以外は・・・」


 元木はふむ・・・と少し考える。


「隼斗と誠は深尋と大学が一緒だったな?」

「ああ、うん。学部は違うけど」

「問題ない。なるべく深尋と行動を共にしてほしい。とりあえず、うちの方でそのカメラマンへの対応が終わるまででいいから、お願いできないか?」


 元木にそうお願いをされて、誠が先に了承する。


「それくらい大丈夫。俺の彼女とも仲がいいし、深尋も安心すると思う」

「ああ、悪いな。というか誠、お前は一途な男だな」

「そうですか?」


 まるでこれが普通だと言わんばかりだ。


「元木さん、俺もそばにいるよ」

「うん、頼むよ。ところで隼斗は、そういう人はいないのか?」

「残念ながらいません」

「そ、そうか・・・ごめん、変なこと聞いて・・・・・・」


 隼斗は自分で言ってて悲しくなってきた。


「元木さん、俺も竣も深尋のことを気にかけときます」

「うん、そうだな。よろしく頼むよ」

「だから、早く解決してください」


 僚は元木に力強くお願いをする。


「ああ、もちろんそのつもりだ。GEMSTONEの、僕の大切な子たちを傷つけたんだから容赦しないよ。こちらから徹底的に潰しに行くさ」


 このとき4人は、元木が思った以上に怒っていることを肌で感じた。


 それから元木は僚たちとの話が終わると、約束通り深尋の部屋へと戻る。

 元木が戻るのと入れ替えに、清水は深尋の部屋に泊まる準備のために出て行ってしまった。

 その間に、元木から深尋へ僚たちと話し合ったことを説明する。


「深尋、明日から大学への行き帰りは隼斗と誠、どちらかと行動するようにね。事務所への行き帰りは、送迎車を出すから」

「うん。ありがとう」


 元木は、清水が淹れたココアを飲む深尋を見て、少し落ち着いたかとホッと胸を撫で下ろす。


「不安だろうけど、心配することはない。必ず解決するから。僕を信じて」


 元木は深尋をまっすぐ見て言い切った。


 これまで元木が自分たちとの約束を破ったことなど1度もない。自分たちをあの河川敷でスカウトした時から、常に自分たちを大切にしてくれた。

 深尋は、元木がただ単にかっこいいだけで好きになったわけではない。

 自分たちを守り、約束を破ることもなく、いつも自分たちのことを考えてくれる。そんな元木だから、こんなに長い間恋焦がれているのだ。


 そんな思いが溢れた深尋は、自分のそばで膝をつく元木の首に両手をまわして抱きついた。そして元木の耳元で囁く。


「元木さんありがとう・・・・・・大好き」


 元木はその言葉に応えることはなかった。

 ただ、深尋の背中を優しくトントンと叩くだけで、抱きしめ返すこともしない。

 それが元木の出した答えだった。


 元木が僚の部屋を出て行った後、4人は先ほど元木から聞いた話をまとめた。


「隼斗、俺はとりあえず美里に電話して説明してくる。たぶん今頃気にしているだろうから」

「あ、うん、わかった。立花さんにもよろしく伝えておいて」

「おう」


 そう言うと誠は自分の部屋に帰っていった。


「僕も、なるべく一緒にいてあげられるようにするよ」

「竣は大学も違うし、できる範囲でいいからな」

「うん。隼斗くんや誠が無理な時は、僕が行くよ」

「ありがとうな」


 その時、僚がはぁ・・・とため息を吐き、ぽつりと呟く。


「俺たちはただ、みんなで歌って、ダンスが楽しいだけなのに、それだけでなんでこんな思いをするんだって、悔しくてしょうがないよ」

「うん・・・そうだな」

「それに、さっき元木さんが言ってたように、深尋だけじゃなく明日香も同じ目に遭ったらって思うと、俺、頭がおかしくなりそうでっ・・・」


 僚は唇をわなわなと震えさせている。

 その様子を見ていた隼斗が、僚と竣亮に今日あった出来事を話し始めた。


「あのさ、今日の同窓会で前に話した、俺が高校3年の時に半年くらい付き合ってた彼女が来てたんだ」

「・・・・・・うん」

「それで、目も合わせなくて、話も出来ないまま終わったことを謝りたいって言われてさ。どんな理由だったと思う?」


 僚も竣亮も首を傾げる。


「恥ずかしかったからって言われたんだ」

「え・・・・・・」

「俺さ、その・・・あのあと、本気で悩んでたんだ。俺の何かが悪くて彼女を傷つけたんだとか、やり方が悪かったんだとか、みんなには言えない程悩んでたんだ。彼女と話そうにも話も出来なかったし・・・。それなのにあれから2年経って、謝りたいって突然言われて、その理由が恥ずかしかったって言われてさ・・・一気に冷めたよ」


 隼斗がこんなにも自分のことを赤裸々に語ることはめずらしく、僚も竣亮も黙って話を聞いていた。


「僚さ、前にちゃんと言葉にしないといけないって言ってたよな?」


 夏休み前、僚と隼斗、竣亮、市木の4人で居酒屋に行った時のことを思い出す。


「ああ。覚えているよ」

「まさに、そうなんだよな。恥ずかしかろうが、なんだろうが、その時にそう言ってくれないとわからないんだよ。2年後にあの時はこうでした、ごめんなさいって言われても、遅すぎるんだよ・・・」


 隼斗は当時、心の底から悲しくて、苦しかった。それを思い出すと今でも悔しい。芽衣のことを本当に好きだったから、その思いはなおさらだ。


 今度は隼斗の唇がわなわなと震えている。


「だからさ僚、明日香のことをそんなに大切に思うなら、今すぐ電話しろ」

「・・・・・・え?」


 僚は隼斗に突然そんなことを言われ、目を見開く。


「どうせお前のことだから、明日香が帰ってくるまで待って、それから告白してって思ってるだろ? でもな、それじゃ遅いんだよ。お前と明日香は出発前にほとんど話をしていなかっただろ。俺たちはお前の気持ちを理解したからわかるけど、明日香は違う。お前の気持ちなんてわからないし、それどころかお前に対する気持ちにケリをつけようとしているんだ」


 僚と竣亮は、ここまできてやっと隼斗が言いたいことがわかった。


「言葉にしないといけないって自分で言っただろ? 俺は言葉にしてくれなかったせいで、悩んだし、苦しんだ。だから、明日香のことを思うなら今すぐ電話して、まずは出発前に避けていたことを謝るんだ」

「隼斗・・・・・・」


 僚は本当にその通りだと思った。1人で留学する明日香に対して、ひどい態度を取ったことは自覚している。それはずっと心に引っかかっていたことだ。


「それにあいつ、今日電話があってさ、ホームシックで眠れないって言ってたんだ。早くみんなに会いたいって。たぶんまた泣いてると思う。だから、少しでも安心させてやってくれ。手遅れになる前に」

「わかった。向こうが朝になったら、電話するよ」

「おお、頼むな。それじゃあ、帰るわ」


 そう言って隼斗が立ち上がると、竣亮も一緒に立ち上がった。


「僚くん、頑張ってね」

「うん・・・・・・隼斗、ありがとうな」


 玄関で隼斗はくるっと振り返り、


「リーダーとサブリーダーには仲良くしてほしいからな」


 そう言い残して僚の部屋を後にした。


 深夜、午前2時。

 僚は隼斗との約束を果たすため、スマホを手にする。

 そして緊張しながらも、久しぶりに明日香の電話番号を表示し、発信マークを押す。

 ゴクッと喉が鳴る。もし、明日香が怒っていて、電話に出てくれなかったらどうしよう・・・・・・そんな思いが頭を過った。


 数回コール音が鳴った後、音が途切れる。そしてこの半年間、聞きたかった声が聞こえてきた。


『・・・・・・もしもし?』

「あ、明日香・・・ごめん急に電話して・・・。いま、少しいいか?」

『うん、大丈夫・・・・・・』


 僚は隼斗と話した後、この時間になるまでずっと何を話そうか考えていた。

 出発前のひどい態度の謝罪はもちろんだが、自分の気持ちをどこまで話すべきか、たくさん考え、悩み、結局まとまらないまま勢いで電話をかけた。


「その・・・明日香、出発前に無視したりして、ひどい態度をとってごめん。本当はずっと謝りたかったんだけど、なかなか言い出せなくて・・・」

『ううん。僚あの時、怒ってたんでしょう?』

「え・・・? 怒ってないよ? 俺が怒ってると思ってたの?」

『うん。留学することを勝手に決めて、怒ってるのかと思ったの』


 僚は改めて言葉で伝えることの大切さを感じた。明日香がそんな考えでいるとは思わなかったからだ。


「それは違う。明日香は何も悪くないよ。留学を決めたのは明日香の夢だって言ってたから、それは応援したいと思った。勝手に決めたなんて思ってないよ」

『そうなんだ。私、嫌われたと思ってた・・・』

「そんなことないっ・・・あんな態度を取ったのは、全部俺が悪いんだ。言い訳になるかもしれないけど、聞いてほしい」

『うん・・・・・・』

「俺、明日香はずっと俺のそばにいてくれると勝手に思ってたんだ。それが、1年間も離れ離れになるって聞いて、頭が真っ白になった。応援したい自分と、そうじゃない自分がいて、ぐちゃぐちゃになったんだ」


 明日香は黙って僚の話に耳を傾ける。


「本当はちゃんと応援しているって、頑張れって言いたかった。なのに、あの時言ってあげられなくて、本当にごめん・・・・・・」

『うん、ありがとう僚。そう言ってくれてうれしい・・・・・・』


 明日香は泣いているのか、グスッと鼻を啜るような音が聞こえた。その音を聞いた僚は、心臓をギュッと握りつぶされるような痛みを覚える。


「あと、明日香が帰ってきたら大切な話があるんだ。聞いてくれるか?」

『それは、今話せないこと・・・?』

「うん。明日香の顔を見て、直接伝えたい」

『・・・・・・わかった。帰ったら聞かせてね』

「ああ、必ず伝える。それと、俺もみんなも、いつでも明日香を応援している。だから残り半年間、悔いのないように頑張れ」

『うん、頑張る。ありがとう・・・僚』


 僚は電話を切りたくなかったが、これ以上明日香と話していると、ポロっと自分の気持ちを言ってしまいそうになる。

 名残惜しいけれど、仲直りが出来た今、これからは頻繁に連絡を入れることにした。


「明日香、また連絡してもいい?」

『いいよ。わたしの愚痴を聞いてくれるなら』

「愚痴でも弱音でも何でも聞くよ」

『ありがとう。そっちは夜中でしょ? ゆっくり休んでね』

「ああ。じゃあ、おやすみ」

『うん、おやすみなさい』


 そうして、明日香との電話を終えた。

 決して長くない通話だったが、僚は仲直りが出来たこと、明日香が勘違いしていたことを訂正できたことに安堵する。


 隼斗に言われなければ、本当に手遅れになっていたかもしれない。

 そう思うと、今回ばかりは隼斗には感謝しかない。今度、何か奢ってやろうと僚は笑みを浮かべる。


 明日香の帰国まであと半年。

 周りは不穏な動きがあるが、そこは元木さんを信じてやってもらうしかない。

 自分たちは、明日香が帰ってきた後のことを考えるだけだ。


 その日僚は、久しぶりに明日香と言葉を交わしたせいか、深夜にも関わらず、なかなか寝付けない夜を過ごすことになった。

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