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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
52/111

51. 男の事情①

 夏休み直前の週末金曜日。

 竣亮は大学の図書室近くにある中庭のベンチに座っていた。


「竣亮くん。8月の第二土曜って空いてる?」


 唐突にそう言い出すのは、大学の1学年上の先輩河野葉月(こうのはづき)だ。


 図書室で竣亮と出会ってから、竣亮を同じbuddyファンとして位置づけ、授業の空きコマなどを利用し、度々2人で(竣亮的には葉月から一方的に)buddy愛を語っている。

 もちろん葉月は、まさか竣亮がそのbuddyのメンバーであることなど知る由もない。


「第二土曜ですか?」


 言いながら竣亮は、スマホのスケジュール表を確認する。


「まぁ、空いてますけど。何かあるんですか?」


 竣亮の返事を聞くなり、葉月がバッと興奮気味にスマホの画面を見せてきた。


「今度buddyのファンクラブイベントがあるのよ‼ 一緒に行かない⁉」


 葉月は目をキラキラさせて竣亮に迫る。

 竣亮は一瞬(ゔっ・・・)と怯むが、猪突猛進な葉月は相変わらず聞く耳を持ち合わせていない。


「もちろんご本人たちはいないのだけど、buddyが今まで出した曲当てクイズとか、buddyのどんなところが好きか自慢したりとか、いろんなイベントがあるらしいのよ‼ それになんとっ、その会場でしか手に入らない限定グッズもあるらしいわっ! buddyがデビューして初めてこういうイベントをするみたいだし、竣亮くんも絶対に楽しめると思うから‼ ねっ⁉」


 葉月の熱量は凄い。

 それはとても嬉しいことなのだが、自分のグループのファンクラブイベントに自分が客として参加するなんて聞いたことがない。

 もういっそのこと葉月に打ち明けてしまおうかと考えたが、それはそれで大変そうだった。


 いま現在buddyの正体を知るのは、事務所関係者と家族以外では、誠の彼女の美里と、いまや全員と友達になった市木だけだ。

 この2人はデビュー前から自分たちのことを知っていたから、打ち明けたという側面もある。


 でも葉月は違う。彼女は完全に、buddyがデビューした後にファンになっている。だから竣亮も、葉月がどんなにbuddyの素晴らしさを語っても、自分がそのメンバーの一員であるとは言えずにいた。


 結局その後、葉月の押しに負け、渋々イベントに行くことに。

 竣亮は頭を切り替え、どんなファンがいるのか、ファンの方々がどんなことを考えているのか聞いてみようと思うようにした。

 葉月の怒涛の攻撃が終わったその時、竣亮のスマホが着信を告げる。画面を見ると、相手は隼斗だった。


 竣亮は隣にいる葉月に断りを入れ、通話ボタンを押す。


「もしもし?」

『あっ竣亮。今大丈夫か?』

「うん、どうしたの?」

『急なんだけどさ、今夜、時間あるか?』

「今夜? うん、別に何も無いし大丈夫だよ」

『じゃあさ、飯行かねえ?』

「いいよ。6時半くらいになるけどいいかな」

『おう、大丈夫。それじゃ、また連絡するな』

「わかった。またあとで」


 手短に話を済ませ電話を切る。すると、そばでその様子を見ていた葉月が唐突に言い出した。


「竣亮くんって、友達いたんだね」

「・・・・・・葉月先輩、何気に失礼ですね。僕にも友達はいますよ」


 竣亮は葉月を横目でじろりと見る。


「だってきみ、大学ではいつも一人じゃない。誰かと一緒にいるところを見たことがないわ」


 図星を言われ、竣亮は言葉に詰まる。しかし、その様子にすぐ葉月が気づいた。


「あ、ごめんなさい・・・私、こういうことを言っちゃうからダメなのよね・・・」


 葉月の過去のイジメの原因が何だったのかはわからないが、本人もいろいろと思うことがあるのだろう。時々こうやって、反省を口にすることがある。


「僕はたしかにこの大学の友達は少ないですけど、小学校からの大切な幼馴染たちはいますよ」

「・・・・・・たち?」

「はい。男3人に女の子2人。僕を合わせて6人で、ずっと仲良しなんです」


 竣亮は、グランピングに行った時の最後の集合写真をスマホの待ち受けにしている。その写真を見ながら、大切そうに語った。


「いいわね、そういう友達。私もできるかしら」


 その言葉を不思議に思った竣亮は、素直に疑問を投げかける。


「何言ってるんですか? 葉月先輩には、もう僕がいるじゃないですか。僕は、葉月先輩は友達だと思っていたんですが、違うんですか?」

「え?」


 竣亮は曇りのない目で葉月を見る。その視線を受けて、葉月はなぜか恥ずかしくなった。


「私と・・・友達でいいの?」

「僕は割と前からそう思ってたんですが・・・迷惑ですか?」

「そんなことないわ‼ うれしいっ! 友達になってくれてありがとうっ」


 大学3年生にも関わらず、葉月は久しぶりにできた友達に、胸を躍らせる。

 もう成人した大人だが、葉月にとって友達という存在は憧れであり、ずっと欲しくてたまらないものの一つだった。


 その日の夜。

 竣亮は隼斗に指定された店に行くと、そこは居酒屋で、竣亮にとって初めての居酒屋でもある。

 隼斗と明日香は5月生まれ、次に僚が7月。竣亮と深尋が10月、一番最後が誠の12月の順になっており、隼斗と明日香と僚は20歳になっていた。


 恐る恐る店に入ると「いらっしゃっせー‼」という店員の大きな掛け声に驚きつつ、隼斗がいる席を探す。


「竣亮! こっち!」


 一番奥のテーブル席から隼斗が手招きするのが見える。そこにいくと、隼斗の他に僚と市木も座っていた。


「ごめんね遅くなって。居酒屋さんに初めて入ったから、びっくりしちゃった」


 初めて入る居酒屋に緊張気味の竣亮に、市木が声を掛ける。


「竣くんは飲めるの?」

「僕はまだ20歳になっていないからウーロン茶で」

「そっか~残念だね~」

「市木くんは4月だっけ?」

「そう、もう大人だよ。何もかも君たちより先に経験しちゃってるからね」


 そう言われて何のことか察しが付くと、竣亮は顔が赤くなる。


「お前はただ単に女好きなだけだろ」

「そのうち刺されろ」


 隼斗と僚が竣亮の代わりに反撃する。

 不思議なもので、会えばこうして口ゲンカするのに、それを引きずることなくさっぱり終わらせてまた会う。仲がいいのか、悪いのか、そんな関係だ。


「でもさ、明日香ちゃん一筋の葉山は置いといて、番犬くんはそれなりに経験してるでしょ?」


 隼斗は飲んでいたチューハイを吹き出しそうになる。


「うっ・・・俺のことはいいだろっ」


 隼斗はそう言うが、僚も竣亮も隼斗のそういう話を聞いたことがなかった。

 なので、2人ともちょっとだけ興味が湧く。


「確かに、隼斗って意外と人気があるのに女の影がないな」

「高校の時、何度か告白されてたよね? 僕、一緒にいるとき遭遇したし」

「番犬くん、白状しちゃいなよ~。楽になるからさ~」


 いつの間にか3対1の構図になっており、隼斗は逃げ場がなくなっていた。  そして仕方なく白状するハメになる。


「高校3年の時、半年間だけ付き合った子がいる」

「え⁉ そうなの⁉ 初耳なんだけど」


 僚と竣亮は目を大きくして驚く。これまで隼斗には、そんな気配がなかったからだ。


「半年っていっても、だいたいそれくらいだろうて感じだし、あまりデートとかもしてなかったし・・・」

「ふんふん。それで? なんで別れたの?」

「う・・・・・・誰にも言うなよ」

「言わない、言わない」


 3人とも耳をかっぽじって、隼斗の話を聞きたくてウズウズしている。


「その・・・いい雰囲気になって・・・最後まで・・・したんだ・・・・・・」

「わお! それで? それで?」

「その翌日から、学校で会っても目を合わせてくれなくなって、電話もメールも出てくれなくて、話も出来なくなって、そのまま・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・え?」


 隼斗の恋の終わりに、3人とも言葉が出ない。半年くらいと濁したのは、自然消滅したから。実際にはもっと短いのだろう。


 そんな中、市木がとどめを刺す。


「つまりそれって、番犬くんが下手だったってことでしょ?」

「!!!」


 隼斗は恥ずかしさと悲しさと悔しさで、両手で顔を覆いテーブルに突っ伏した。


「市木、いくらなんでもそれは言い過ぎだ」

「隼斗くん・・・・・・」

「でもさ、本当のことでしょ。じゃないと、そんなことにならないよ」

「・・・・・・・・・だからお前にだけは言いたくなかったんだ」


 隼斗はすでに涙目だ。


「要するに番犬くんは、そのことがトラウマで、女の子と付き合っても先に進めないでいるか、もしくは女の子が苦手になっちゃったってこと?」


 市木にノックアウト寸前の隼斗は、こくんと首だけで返事をする。


「んもうっしょうがないな~。未来のかわいい弟のために、僕がレクチャーしてあげよう‼」


 意気揚々と語る市木に対してすかさず、


「ふざけんなっ誰が弟だ‼」

「明日香は渡さんって言っただろっ‼」


 とまたも隼斗と僚が市木に口撃する。

 隼斗の悲しいトラウマは克服できるのだろうか・・・・・・。


「そういえば僚くん、明日香への気持ちをもう隠さなくなったね」

「ん? ああ・・・・・・」


 あれから僚は、明日香への気持ちを素直に表すようになっていた。

 それは隼斗や深尋だけでなく、竣亮や誠に対してもだ。


「あれだけ好き好きオーラ出しといて、気づくのが遅いんだよ」

「葉山なんかフラれてしまえ」

「黙れ市木。お前と一緒にするな。それに、隠してたっていいことなんてないからな。ちゃんと言葉にしないといけないって思ったんだ」


 竣亮は、そんな僚を見ていると応援したくなってきた。市木には悪いけど。


「明日香に伝わるといいね」

「うん、頑張るよ」

「そう言う竣くんはどうなの~?」


 竣亮は今度は自分に回ってきたっと、内心焦ってしまう。


「ぼ、僕は・・・・・・」

「仲良くしている子とかっていないの?」


 僚も隼斗も、竣亮の女の子がらみの話は聞いたことがなかったので、先ほどの隼斗と立場が逆転してしまった。

 竣亮はまだ誰にも葉月のことを言ってなかったが、この機会にと、おずおずと話し始める。


「最近、仲良くしているのは・・・1個上の先輩が、その・・・僕らのファンで、よく、話を聞かされてるよ」

「同じ大学?」

「うん。同じ文学部の葉月先輩って言うんだけど、僕らのデビュー当時からのファンで・・・」

「え・・・竣、まさか言ってないよな?」

「言ってない! それはちゃんと隠してるよ!」


 竣亮は顔の前で両手をぶんぶん振って否定する。


「葉月先輩には僕もbuddyのファンだと思われてて・・・それで今度、ファンクラブイベントに行こうって誘われちゃった」

「えぇ⁉ 自分たちのイベントなのに⁉」


 これには3人とも驚く。それはそうだろう。


「うん。葉月先輩って、猪突猛進というか、1人で突っ走っていくタイプで断り切れなくて」


 それを聞いて、3人は竣亮らしいなと思った。


「なんか竣亮の周りの女の人って、そういうタイプが多いよな」


 隼斗がボソッと口にする。それに対してめずらしく僚も賛同する。


「そうだな。その先輩の話聞いていると、美乃梨(ミノリ)さんに似ているというか・・・」

「ん? 美乃梨さんって、竣くんの元カノ?」


 市木が僚に聞き返した時、


「おやおや~? 竣ちゃん! 何してんのっ」


 大きな声がしたと思ったら、足がおぼつかない、完全に酔っぱらっているであろう女性が竣亮の肩をガシッと掴んできた。これにはその場にいた全員が固まってしまう。


「なんだ、僚も隼斗も一緒かー。ん? 君は・・・初めましてだね」


 その女性は座った目で市木を見ている。

 さすがの市木も、泥酔した女性の扱い方はわからないらしい。


「み、美乃梨さん、どうしてここに?」

「取引先との接待だよー。君たちみたいにね、遊んでるんじゃなくてお仕事だよ。お・し・ご・と」


 僚に美乃梨といわれたこの女性は、相当酔っ払っているのか、呂律があまり回っていない。そして依然として竣亮の肩を掴んだままだ。


 市木は突然の乱入者に、たまらず隣に座っている僚に聞いてみる。


「なぁ、この人誰?」

「この人は・・・・・・」


 僚が市木に説明しようとしたその時、竣亮がめずらしく大声を出す。


「もうっお姉ちゃんっ! しっかりしなよっ!」


 竣亮は美乃梨の腕を掴み、酔っぱらってぐらんぐらんになっていた足元をしっかりと立たせようとする。


「やだっ、かわいい竣ちゃんが怒ってるっ」

「お店の中で騒がないでっ」

「わかったから竣ちゃん、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よっ」

「絶対やだ。酒臭いお姉ちゃんとなんて寝たくない」

「そんなこと言わないでぇ」

「とにかくうるさいから、もう黙って!」


 竣亮から明らかに拒絶されているにもかかわらず、美乃梨は嬉しそうに竣亮の頭を撫で回す。

 竣亮は必死に美乃梨を黙らせようとするも、酔っぱらって制御不能の美乃梨には無駄なことだった。


 すると突然、竣亮に向けられていた矛先が僚と隼斗に向けられる。


「ちょっとっ! 僚! 隼斗! それと、そこの見知らぬイケメン! あんたたちばっかり竣ちゃんと遊んでひどいじゃないっ」

「いやっ、あの、美乃梨さん・・・・・・」

「小さい頃からいっつも、いっつも!」

「えぇーー・・・・・・、そんな昔のこと言われても・・・」

「言い訳は結構っ! 私もここにいるっ!」


 すると、美乃梨は立ったまま竣亮の胸の中でコテンッと眠ってしまった。


「ああっ! チーフ! 他のお客様にご迷惑をっ・・・・・・!」


 そう言いながらシャツにネクタイ姿の男性2人が、慌てて駆けつけてきた。


「申し訳ございませんっ」


 平謝りで美乃梨を連れて行こうとする男性に、竣亮が逆に頭を下げる。


「あ、あの、僕、国分美乃梨の弟の、国分竣亮といいます。姉は僕が連れて帰ります。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「え? あ、チーフの弟さんですか⁉ そうですか助か・・・いえ、それではお願いしてもよろしいですか・・・?」


 それから男性たちは、美乃梨のカバンとスーツのジャケットを預けて、さっさと帰ってしまった。


「ごめん、みんな。今日は先に帰るね。明日、ここのお金払うから・・・」


 竣亮は3人に謝罪すると、美乃梨を抱えて店を出て行った。

 嵐のような美乃梨に初めて対面した市木はボソッと呟く。

 

「竣くんの姉ちゃん、すげ〜な・・・」

「ははは・・・・・・美乃梨さんは鋼の女って呼ばれてるらしいからな」

「お前も命が惜しかったら、言うこと聞いとけ」


 市木はこの日初めて、僚と隼斗の注意を聞こうと思った。

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