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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
48/111

47. 初めての旅行③

 お腹も満たされ、みんなでバーベキューの片づけをする。といっても、火がちゃんと消えたか確認したり、ごみをまとめたりするくらいで、洗い物などはしなくてもいいので、8人でやるとあっという間に終わった。


 それから全員バーベキューの煙をたくさん浴びたため、隣の温泉に行くことにした。


「じゃーねー」

「ごゆっくりー」


 そう言って男湯と女湯に分かれる。


「ちょっと、君たち。なんだよそのイケナイボディは・・・‼」


 温泉施設の脱衣所で、上半身裸で騒いでいるのは市木だ。

 お風呂に入るんだから当然裸になる。4人が服を脱ぎ上半身を露にすると、ダンスで鍛え抜かれ引き締まった体に、バランスよくついた筋肉がなんとも美しい。かわいらしい顔の竣亮でさえも、他の3人に負けていない美ボディだ。


「まぁ、高校の頃から筋力トレーニングしているからな」

「市木羨ましいだろー」

「クッソー・・・・・・」


 ぐぬぬ・・・と本気で悔しがる市木。

 市木も決して太っている訳でも、お腹が出ている訳でもない。きちんと締めるところは締まっているし、筋肉もある。だけど本格的なトレーニングをしている4人に比べると、やっぱり見劣りしてしまう。


「こうなったら・・・・・・男の大事なところで勝負だ‼」

「しねーよ。さっさと風呂入れ」


 僚が市木に早くいけと足蹴にする。


「さては葉山、自信がないんだな?」

「うるさい、騒ぐな。迷惑だろ」


 今日の男風呂はいつも以上にやかましい。


 美里は明日香と深尋の裸体にうっとりしていた。心の中で、


(こんなに美しいものを見せていただき、ありがとうございます・・・!)


 と涙を流すほどに。


「美里? どうしたの?」

「美里ちゃん行くよー」


 2人に声を掛けられて慌ててついていく。

 バーベキューで髪の毛や体にたくさん煙がついたので、先に洗い場で頭と体を洗うことにした。


 美里を真ん中にして、3人で洗い場に並ぶ。


「はーっ、頭洗えてスッキリするー」

「寒いから汗はかかないけど、煙がねぇ」


 そういう2人を美里は交互に見てしまう。そして、どうしても自分と比べてしまう。


「明日香も深尋ちゃんも、胸が大きくて羨ましい・・・・・・」

「え?」

「そんなことないよ」


 明日香も深尋も形がよく張りのある胸をしており、こちらもダンスで鍛えているのでウェストラインが引き締まっている。手足もスラっと長く、肌も白いので、スタイルの良さがよけいに際立って見える。


「私たちは私たち。美里は美里。人と比べることないよ」


 洗った髪をキュッと後ろでまとめ、ゴムで結びながら明日香が言う。


「誠に何か言われたのー?」

「言われてない・・・けど・・・」

「じゃあ、いいじゃん。大丈夫ー」


 それでも美里は、2人に対して劣等感を感じずにはいられない。

 日頃から鍛えている2人と比べるなんて、烏滸がましい・・・そう思うのに、美しい裸体の2人を目にすると、自分の身体が貧相に思えて仕方がなかった。


 内湯にザブンッと隼斗が入ると、その左隣に僚と竣亮も入ってきた。


「あー・・・・・・っ、大きい風呂はいいねぇ」

「隼斗くんオジサンみたい」

「だってさー春休みに入った瞬間、なんだよあれ。あのスケジュールっ。鬼か⁉ 鬼なのか⁉ さすがに疲れた・・・・・・」


 隼斗が湯船の中でぐったりしていると、右隣に市木が入ってきた。


「君たち顔出してないのに、そんなに忙しいの?」

「しーっ大きい声出すなっ」


 隼斗は慌てて市木を黙らせようとする。


「大丈夫だよ。いま人少ないし」


 周りを見渡すと、男子5人の他にいたのは中年の男性2人と、おじいちゃんが1人だけだった。


「顔は出さなくても、曲は出すからな。レコーディングもあるし、レッスンもある」

「そのレコーディングが大変なんだよ・・・・・・」


 僚が力なく言うと、思い出したのか今度は3人でぐったりする。


「え? そんなに大変なの? 録音するだけでしょ?」


 市木のこの言葉を聞いて、隼斗が吠えた。


「聞いてる方はそうかもしれないけど、こっちはこっちで大変なんだよ‼ Evan先生がどんだけ厳しいか・・・‼ 最初のメロディだけで3、4時間かかるのはザラだし、あの1曲録るのにどれだけ血と汗と涙を流していると思う⁉」

「特に隼斗くん、この間はこってり指導だったからね」


 華々しい見かけとは裏腹に、生々しい現実を突きつけてきた3人に対し、市木は初めて同情した。


「ところで誠は?」

「まこっちゃんならあそこ」


 市木が指を差す方をみると、洗い場の隅の方で素っ裸の誠が腕立て伏せをしているのが見えた。


「うん・・・見なかったことにしよう」


 4人は誠に背を向けて、お風呂で温まることにした。


 女子3人も内風呂でくつろいでいた。女子3人でのお風呂トークと言えば、やっぱり恋バナだろう。


「深尋ちゃんは、いい人とかいないの?」


 美里に唐突に聞かれた深尋は、一瞬ビクっとなる。


「んーーいるんだけど・・・・・・全然望みないんだーー」

「そうなの? 告白とかしないの?」

「はっきり言ったことはないけど、それとなーくアピールはしてるよ。でも、全然相手にしてくれないの」


 深尋は両手でお湯を掬い、パシャっと落とす。


「どんな人か聞いてもいい?」

「年上の人。しかも一回り以上も上の大人の人。だから子供っぽい私は相手にされないの」

「深尋の片思い歴は長いよ」

「そうなんだね・・・・・・」


 こんなに可愛くて、スタイルもいいのに、振り向いてくれないなんて、そんなこともあるのかと美里は思った。


「明日香は? 市木くんとか、葉山くんとかどうなの?」

「ぐっ・・・・・・」


 明日香は言葉に詰まる。正直、あまり言葉にしたくなかった。また自分の気持ちを自覚してしまうから。


「市木くんは・・・その、いろいろあったけど、いまは友達だし・・・」

「え? 付き合ってたの?」

「ち、ち、違うっ・・・」

「明日香が振ったんだよー」

「深尋っ」


 お風呂に入っててもわかるくらい、明日香の顔は赤くなっていた。


「高校1年の時、告白されたけど、ごめんなさいしたの」

「そうだったんだ・・・」

「美里も知ってるかと思ったよー。市木くんあからさまだしー」

「そうかなとは思っていたけど、まさかそんなに前からとは思わなくて」

「だから隼斗にいつも言われてるじゃん。諦めが悪いって」


 確かに・・・と美里は納得する。


「じゃあ、やっぱり明日香は葉山くんと・・・?」


 言われた瞬間、明日香の顔はますます赤くなった。


「な、なんで、僚が・・・・・・」

「だって、葉山くんと明日香の雰囲気ってなんというか、お互いを信頼して寄り添っている恋人同士に見えるから、そうなのかなって・・・・・・」


 まずい。これは絶対にまずい。明日香は焦り出す。


「美里ちゃん、前にもそんなこと言ってたねー」

「あ、うん。2人を見た第一印象からそうだったから」


 落ち着け、落ち着け私。平常心、平常心。

 明日香は自分に言い聞かせ、ひとつ息を吐きやっと口を開く。


「僚はグループのリーダーだし、私はサブリーダーだから、何かと協力しないといけない関係なの。だから、そう見えるんじゃないかな」


 明日香は美里に言い聞かせるというより、自分に言い聞かせるように言った。

 望みのない恋を早く終わりにしたい。そのためにも早く・・・。

 明日香はその言葉を自分の心に深く刻みつけていく。


 それから着替えて髪の毛を乾かして待合ロビーに行くと、すでに男性陣が待っていた。


「おまたせー」

「おう。戻るか」


 こうして8人は温泉施設をあとにする。

 歩いている途中、僚は明日香の顔が真っ赤になっているのを見て、昼に道の駅でも赤くなっているのを思い出した。


「明日香、また顔赤いけどのぼせた?」


 僚は自然と明日香の右頬を指でなぞる。その行動に明日香は体が震え、涙が滲んできた。


「ううん。大丈夫っ」

「そうか・・・? 体調悪いならちゃんと言えよ?」


 僚はただ心配で言ってくれただけ。

 いまさら勘違いなんかしない。

 明日香は精一杯の笑顔を貼り付けて、この時もなんとかやり過ごした。


 夜9時。8人は男子部屋に集合し、美里がかねてより見たがっていたデビュー後の動画をプロジェクターで映して、鑑賞会をすることにした。

 全員でベッドの上に座ったり、寝転んだりして、映像が投影される天井を見上げる。


 美里はデビュー前のものは見たことあるが、デビュー後のものは初めてで、市木に至っては完全に初見となるため、2人とも楽しみにしていた。

 僚が説明書を読みながら、スマホとプロジェクターを操作する。


「接続できたぞ」

「じゃあ、電気消すね」


 準備が出来、部屋の明かりを一斉に落とす。

 映像が投影されている天井に、レッスン室の鏡の前に立つbuddyが正面に映し出される。

 曲はbuddyが今まで出した曲の中でも、一番振り付けが難しい『Sapphire』だった。


「これ仕上げんのに時間かかったな」

「サビの振り付けがねー」


 曲が流れ始めると、おしゃべりを止めてしんっとなる。


 歌詞の内容は、新しい道を歩み始める友人を応援する応援歌になっており、曲調はアップテンポのダンスミュージックで、1人1人が激しく歌っている曲だ。

 それを見た美里は、誠と付き合い始めたころに見せてもらった動画と、いまの動画があまりにも違い過ぎて言葉が出てこなかった。


 市木も、スマホに入れたアルバムを繰り返し聞いていたが、それが6人のダンスと合わさるのを初めて目にして、プロジェクターの画面から目が離せない。


「す、すごい・・・みんな、かっこよかった・・・別人みたい・・・」

「なあ、なんで隠してるんだよっ。早く全公開しろよ‼」


 市木と美里からは大絶賛。

 そのあとも2人からリクエストがあり、何曲か見せ、その度に2人からスゴイスゴイと喜びと感動の声が上がる。


「明日香ちゃん、俺ますますファンになっちゃった♡」

「あ、ありがとう・・・」

「市木、それ以上明日香に近づくなっ」

「番犬くんがいないときに、また見せてね」


 明日香は返事に困った。その傍では隼斗と市木がまた言い合っている。

 その後もプロジェクターには次々と動画が再生されていた。


 しばらくして、喉が渇いた明日香は、コートを羽織り財布を持つ。


「深尋、ちょっと自販機に行ってくるね」

「え・・・明日香1人で?」

「うん、すぐそこだし、まだ電気も点いているし・・・」

「明日香、俺も行くよ」


 その声に振り向くと、僚が立っていた。


「でも・・・」

「いいから、行くよ」

「うん・・・」


 そこまで言われては強くイヤだと言えず、僚と明日香は2人で出ていく。

 他のみんなはそれを横目で見ているだけで深尋だけが「気を付けてねー」

と送り出す。


 2人が出ていくのを見届けたあと、誠がボソッと呟く。


「あの2人も時間の問題だな」


 その言葉を聞いた隼斗、竣亮、深尋、市木が一斉に誠に詰め寄る。


「誠、知ってたのか⁉」

「誠、知ってたの⁉」

「誠、知ってるの⁉」

「まこっちゃん気づいてたの⁉」


 美里以外の4人が僚と明日香の微妙な関係に、誠が気づいていることに驚いた。


「お前ら・・・俺を何だと思ってるんだ?」

「立花さんにしか興味がないのかなって・・・・・・」

「間違ってはいないけど。見てたらわかるだろ」


 美里以外の人に無関心な誠が気づくくらい、いまの僚と明日香の雰囲気は恋人そのものだった。

 しかし、当の本人たちにはそのことに気がついていない。周りの人間はやきもきするばかりだ。


 明日香はちょっとそこまで行くつもりでいたのに、まさか僚がついてくるとは思わなかった。


「ごめんね、付き合わせて・・・」

「もう暗いし、女の子1人じゃ危ないだろ」


 時刻は夜10時になろうとしている。


 このグランピング施設は、夜10時が消灯時間となっているため、10時以降はサイトの中で過ごすように言われていた。

 男子部屋から自販機があるところまで、2人で肩を並べて歩く。

 辺りは真っ暗で、地面に置いてあるランタンが2人を照らしていた。


 自販機でミネラルウォーターを1本買い、サイトに戻ろうとした時、突然、それまで光っていた照明やランタンが一斉に消灯する。


「きゃっ」


 明日香は急に暗闇が訪れたことに驚き、思わずそばにいる僚の腕にしがみついてしまった。


「大丈夫だよ。消灯で電気が消えただけ」


 僚が明日香に優しく声をかける。そして、


「明日香、上見て」


 僚に言われた明日香は空を見る。そこには、これまで見たこともないような満天の星が広がっていた。


「うわぁ・・・・・・」


 消灯で周囲の明かりが消えたことで、星々が肉眼ではっきりと見える。

 さっきまで僚と2人だけでいることに緊張していたのに、それさえも忘れるくらい見入っていた。


 僚はその明日香の顔を見て、無意識にきれいだなと思う。

 明日香は昔からきれいな顔立ちをしていて、美人だった。しかし本人は、そんなことをおくびにも出さず、控えめで真面目な女の子だ。


 そんな明日香が常に隣りにいることは、僚にとって当たり前であり、普通のことだった。

 だから僚は気づくのがあまりにも遅かった。


「すごいね・・・・・・」

「そうだな。家からはこんなに見えないしな」


 周りのサイトにいる人に気を遣い、小声でしゃべる。


「そうだ。明日香、これ。ホワイトデーのプレゼント」


 僚はそう言って小さな瓶を渡す。


「え、いいのに・・・いつもありがとう」

「こっちこそ」


 僚が渡したのは、通常より大きめのパステルカラーのラムネだった。

 それから2人は暫く、天然のプラネタリウムを楽しんだ。


 翌朝、軽めの朝食を取りチェックアウトの準備をする。


「うーーっ帰りたくないよーー」

「楽しかったね」

「私も楽しかった。またみんなで来れるといいね」

「そうだねーー」


 最後に全員で記念写真を撮ろうと、男子部屋のサイトの前で記念写真を撮る。

 初めての旅行はこうして幕を閉じた。

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